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Unknown を求めて

フィクションに限って言えば、病的というか猟奇的なくらいに一途な激重キャラに弱い傾向にある自分。
ドラマ「ずっとあなたが好きだった」の冬彦さん然り、ジョン・ゴールズワージーのフォーサイト・サガ(ほとんどはドラマ「フォーサイト家」で観たのだが)のソームズ然り、どんなに嫌われようが気持ち悪がられようが、逆に「私だけは味方だよ!」と応援したくなるのだ。

そんな自分がいま心を掴まれているのが、ハイライトでしか観ていないのだが、Unknown という台湾ドラマの Yuan である。あ、Yuan は気持ち悪くないので、念のため。

孤児だった彼は幼くしてひとり路上生活をしていたが、通りすがりの少年に家族として迎え入られる。それ以来、血のつながらない兄をひたすら慕い、拒絶され家を離れても一途に想いつづけ、やがて兄のもとに帰ってくる。
中国のBL作家、Priestの『大哥』の実写化作品とのこと。

我這一生的軌跡用魏謙兩個字就能貫徹始終了
The trajectory of my life can be summed up with his name, Wei Qian.
僕のこれまでの人生は「魏謙」の二文字で表せる (脳内翻訳)

Yuan のこういう台詞とかめっちゃ好きなんやけど~魏謙はお兄ちゃんのフルネームですね。

エンディングテーマもこの Yuan 視点で書かれていました。しかし、うっとりしていて気づかなかったが、この台詞ってあの名作そのものじゃないか?

Nelly, I am Heathcliff!
あたしはヒースクリフなのよ、ネリ!

※原文では am はイタリック

そう、Unknown の設定がエミリ・ブロンテ作『嵐が丘』の一部と重なるのです。べつに剽窃だとか責めてるわけではないですよ。名作とは多大な影響力をおよぼしてしまうものなので。

わが家は阿部知二訳『嵐が丘』

ある日キャサリンの父親が、旅先で拾った孤児ヒースクリフを土産がわりに連れて帰る。
え、そんな軽い感じでいいの?と驚く読者をよそに、いきなり家族とひとつ屋根の下で暮らしはじめるヒースクリフ。父に気に入られ、キャサリンともすぐに仲良くなるが、キャサリンの兄はそれがおもしろくない。父の死後、ヒースクリフは馬小屋行きを命じられ、ますます虐げられながら、キャサリンと家族愛も恋愛も超えた執念あるいは怨念ともいうべきもので固く結びつく。

二世代にわたって暗く激しく荒れ狂う、まさに嵐のようなドラマの核となっているのが、上のキャサリンの台詞だ。それだけにこの一行を読むとき万感胸に迫るものがある。

「嵐が丘」を検索すると映画にドラマにさまざまな映像化作品が出てくるが、やはりこのバージョンのハイライトを貼っておこう。キャサリンの告白シーンは開始6分あたりから。

案内役のエミリ・ブロンテとしてちらりと登場するのはシンニード・オコナ―。坂本龍一の音楽がよすぎる。

『嵐が丘』の魅力を知る材料として、こちらもどうぞ。
字幕がないので説明しておくと、オースティン vs. ブロンテの陣営に分かれて専門家(=ファン)が推しのポイントを解説し、文芸物で活躍する俳優たちによって名場面の数々が朗読されるという、ぜいたくなイベントの記録である。

『嵐が丘』の登場人物の台詞にどれだけ熱い思いがのっかっているか、言ってる内容がわからなくても、感じられることと思う。前半のオースティン作品のときの軽妙さとは大違い! それを演じ分けられるのがまたすごいのだが。

エミリ・ブロンテ? 英文学? と敬遠しがちな人もぜひ、小説でも映像化作品からでも、いちど『嵐が丘』にふれて、Unknown な激重感情を発見してみてほしい。


◆おまけ◆
Yuan(の中の人)がテーマ曲を歌ってる動画があったので貼っときます。自然とお兄ちゃんとふたりの世界に✨

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