傘を貸した日の話
昨日は雨降りでした。
帰りのバス停。私の前に並んでいた人は傘を差していませんでした。
傘を忘れたのかな。
なかなかバスも来ません。
その人は手持ち無沙汰な感じで、ただバスを待っていました。
たまたま私は自分の差している傘のほかにもう1つ、折りたたみ傘を持っていました。リュックの中に入れっぱなしだったのです。
「これ使いますか?」
私は折りたたみ傘を渡しながら、その人に声をかけました。
「いや、いいです。大丈夫です。折りたたみ傘だと持って帰るの大変じゃないですか。」
どうやら私が持ち帰るときの心配をしてくれているみたい。まあね。確かにね。濡れた傘を2本も持ち帰るのは、大変です。
「でも、濡れちゃうので、使ってください。」
「(傘を使うのが)このバス停の時間だけなので、大丈夫です。」
いらないお世話だったみたい。私余計なことしちゃったかな?
「俺、使わないと、ずっと(私が)傘差し出したままですよね。じゃあ、借ります。ありがとうございます。」
「いえいえ。」
結局、私の傘を受け取ってくれました。
よかったよかった。
またバスを待つ、時間だけが過ぎていきます。
そのうちに雨は強くなっていきました。個人的には傘を貸すことができて大満足。でもその人の気持ちは分かりません。
5分か、10分か、しばらくしたら、バスはやってきました。
「ありがとうございました」
傘を返してくれました。
「いえいえ」
そうして、バスに乗り、私は2本の傘を持って帰りました。
善意のつもりだった。
人の傘使いたくなかったのかな。私は悪いことをしたのかな。それともいいことをしたのかな。
その人との会話は、これだけだったので分かりません。
2本の濡れた傘を持ちながら、満員電車に乗るのはやっぱり大変で、なんとなく心も晴れない、傘を貸した日の話でした。
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