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【特別支援教育関係者向け】暴力行為のある自閉症(ASD)の子の対応

昨今、社会に「発達障害」という言葉が浸透してきたように感じています。一方で、言葉が独り歩きし、結局は社会的障壁(障害)を作り上げてしまっている側面もあるとも感じています。
今回は、私自身も再度ASDについてしっかりと学び、今後の活動につなげていければと考えました。そんな学びをみなさんと共有したいと思います。

自閉症スペクトラム(ASD)とは?

ASDと聞いてみなさんはどんな印象をお持ちですか?
発達障害?こだわりがある人?コミュケーションをとるのが難しい?

自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)は、「対人関係や社会的なやりとりの障害」「こだわり行動」という2つの基本特性がある発達障害です。ASDとは自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の英語表記である、「Autism Spectrum Disorder=ASD」の頭文字をとったものです。

LITALICO LIFE:自閉スペクトラム症(ASD)とは?診断や特徴、子どもへの対応について

「スペクトラム」という言葉は、「ある現象や行動の連続体」や「現象のグデーション」と言った意味合いがあります。
また、ASDは3つの障害種の総称として言われています。

引用:NHK 
子どもの発達障害 「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?アスペルガー症候群などとの違い

コミュニケーション能力の困難、こだわりが強いなどの特徴がある「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」を総称して自閉スペクトラム症と呼びます。

NHK:子どもの発達障害 「自閉スペクトラム症(ASD)」とは?アスペルガー症候群などとの違い

今回は、私自身も多く関わってきた重度知的障害と自閉症を重複してもっている子にフォーカスしていこうと思います。

2.知的障害を伴う自閉症児に多く見られる特性

 自閉症の子は、いくつか共通した特性が見られます。あくまで総合的かつ一般的な話であり、実際は個々によって変わってきます。また、今回は社会生活を送る観点に絞って、支援者の困り感に視点を置いて記入していきます。

  • エコラリア(相手が言ったことをオウム返しする。以前言われた言葉や聞 いたコマーシャルの歌などを繰り返し言う。)

  • こだわり行動(動画の一部や決まった歌、音を繰り返し視聴する。決まった服装など)

  • 偏食、異食(カレーやわかめごはんなど混ぜてある食べ物が苦手。特定のものしか食べられない。草、紙などを食べるなど)

  • 視覚や聴覚の過敏性(キラキラしたもの、人混みが苦手。泣き声、放送の音などが苦手など)

  • ジャンプ(感情の高まりや感覚刺激を取り入れたいとき)

  • 記憶のフラッシュバック(過去の体験を今しているような感覚が起きることで、パニックにたなるなど)

  • 自傷、他害、破壊(気持ちが不安になった時に不適切に発散する。感覚鈍麻など)

これらは、ほんの一部分です。また、サヴァン症候群のように驚異的な記憶力や計算力など桁外れな能力を備えている子もいます。

3.なぜ、暴力を振るうのか?

幼少期の頃、子どもはよく叩くという行動をとることがあります。この行動にはいろいろな要因があります。
したいことを止められたり、自分のものを取られたり、順番を抜かれされたりなどなど。
しかし、叩いたことで大人から怒られたり、やり返されたりなどを経験して、言葉で伝えて解決していこうとします。これが社会性の発達です。

一方で、知的障害を伴う自閉症の子は(語弊を恐れずに言うと)この経験が足りていない場合が多いです。
理由は様々であり、複数が重複している可能性があります。
【自閉症の子が暴力を振る理由】※これ以外にも多数考えられます。

  • 周りからの働き掛けを受け取りにくい

  • 抽象的な理解が難しい

  • 感覚の鈍麻又は過敏

  • 伝える方法が少ない、もしくは分からない

  • 叩くことで、気持ちが伝わった思う誤学習

  • 脳の原始的反応

などなどが挙げられます。大切なことは、原因を見極めて支援方針を決めて実行すること。また、支援の実践と改善を常にし続けることです。もちろん、他人や自分、周りのものに対する暴力は絶対にしてはいけないという前提です。

4.強度行動障害について

強度行動障害とは、自分の体を叩いたり食べられないものを口に入れる、危険につながる飛び出しなど本人の健康を損ねる行動、他人を叩いたり物を壊す、大泣きが何時間も続くなど周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを言います。

国立障害者リハビリテーションセンター

その子の暴力行為について、原因の見極めを誤ると誤学習が習慣となり、怒られたり、押さえつけられたりすることで周りの大人への不信感に繋がります。

本人としては、自分の持っているコミュニケーション手段のどれを使っても伝わらない。その上、怒鳴られたり、押さえつけられたりする。その繰り返しのなかで叩いたり、暴れたりしたときに要求が通る時がある。

あっこうすればいい(伝わる)んだ!

と思うのです。その間適切な支援を受けられず、これら一連の積み重ねを継続していくと、二次障害である『強度行動障害』となる場合があるのです。
繰り返しになりますが、その子一人一人の暴力行為の原因を見極めることが非常に重要になります。

5.事例 突発的な他害をする子への対応

私が過去に支援に関わった子で、通りすがりの人や物、お気に入りであるはずのものなどを何の前触れもなく叩いたり、投げたりする子がいました。今回はその子(Aさん)の事例を取り上げて、強度行動障害の子への具体的な対応を話していきます。

Aさんは、エレベーターの扉やクラシック音楽の一つのフレーズが好きで繰り返しタブレットや音楽デッキで視聴しています。

一見、落ち着いて過ごしているように思っていましたが、突然、使っていたタブレットを投げたり、音楽デッキを机から払い退けたりすることがありました。さらに、進級するにつれて突然、近くにいる子を叩いたり、机を倒して大きな音を立てるようになりました。日に日にエスカレートしていくなかで、彼の支援を担当することになりました。

◆行動面
 
•求められれば「はい」「いいえ」「あっち」の意思表示ができる。
 •複数の選択肢から自分で選ぶことができる。
 •簡単な単語を読むことができる。
 •エレベーターの開閉、クラシック音楽の一部のフレーズを繰り返し見聞きする。
 •クラシック音楽を聴いているときに、突然音楽プレイヤーを机から落としたり、投げ飛ばしたりする。
 •建物内や屋外を歩き回る。
 •特定の人をつねったり、叩いたりする。

対応
 Aさんの根本的な原因を探るのはとても難しいものでしたが、この子の実態を探っていくなかで、「自分の気持ちの表現方法の未熟さ」に焦点をあてて取り組みました。また、簡単な単語は読んだり、言葉で伝えたりできるため発語は少ないですがある程度言葉のやり取りをすることができました。
そこで『いつ』『どんなときに』『どうやって伝えるか』を繰り返し取り組みました。
 それぞれ、写真やイラストと言葉のカードを使って実際の場面や個別に練習して日々の生活のなかで実践していきました。

◎変容
 
今まで伝えたいことがあった時に、人や物を叩いたり、大声をあげたりしていましたが、次第に上記のカードを自分で持ってくるようになりました。またしばらく続けていると、今度は自分から言葉で伝えるようになりました。加えて驚いたのが、そのカードや言葉を使って交渉するようになりました。そのくらい伝えたい気持ちが強かったり、伝えることに嬉しさを感じるようになったりしているように見えました。
また、友達とのコミュニケーションも取れるようになり、今まで怖がられていた存在が一緒にサッカーやキャッチボールをするようになりました。

6.将来の就職について

 上記Aさんの場合、知的障害を伴ったASDだったので、18歳になった時点で、最終的な進路は自閉症•知的障害の方の為の施設に入所が決まりました。一方で、あのまま、他害や破壊行為が続いていたら入所は難しかっただろうと言われました。改めて、支援の方向性を繰り返し考え、実行することを繰り返し、粘り強く取り組んで良かったと安心しました。
 
 Aさんの事例の他にも、ASDという大枠で考えると、進路先は多岐にわたります。
 特性として「こだわり」がある点が挙げられます。また、一概に言えませんが人と常にコミュニケーションを取っていくことより、1人で淡々と取り組んでいく内容が合っています。 さらに、年間スケージュールがある程度見通すことができたり、騒がしくない職場環境であるとより向いているように思います。

例えば

  • 経理事務

  • 会計士

  • 法務

  • 専門事務

  • 設備点検

  • トラック運転手

  • プログラマー

  • ソフトウェアなどのテスター

  • デバッガー

  • ゲームクリエーター

  • 校正・校閲

  • 研究者

  • 数学者

  • 設計技術者

  • 工学系デザイナー

  • CADオペレーター

  • フリーランスのデザイナーやライター

  • アニメーター

  • カメラマン

  • 動物の調教師

  • その他、ルーティンワークが可能な仕事(ライン作業、軽作業、清掃員など)

上記に無いもので言えば、検品作業なども合っているように思います。

また、部門や団体で言えば、

  • 管理部門

  • 研究・開発部門

  • 学術・芸術系団体

  • 学校関連

  • 在宅ワーク

などが向いている場合が多いです。
今あげたことは、あくまで一般的なもの。本質は個別具体的に変わっていきます。まずは、ご本人のしたいことや合っていると思われることを学校や相談支援員など関係者と話し合って定めていくことが重要です。

いかがでしょうか?今回改めてASDの特性のある子についての支援や対応について深めることが出来ました。皆さんの日々の実践に役立てますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回の更新を楽しみに!


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