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アニメ『機動警察パトレイバー』鑑賞録(4)【NEW OVA 編】

【これまでのパトレイバー】
ぐりふぉんがすっごくつよかった。つぎはかちたい。

 89年から全47話にて放送されたTVシリーズ。その続編となる『NEW OVA』は全16話で構成され、放送枠の都合ではみ出したエピソードが映像化された、完結編と番外編を兼ねたタイトルです。

 その先陣となったのは、TVシリーズ後半で第二小隊と激戦を繰り広げた黒いレイバー「グリフォン」との決着の物語。TVシリーズではどこか消化不足に終わったエピソードの続きが、ようやく明るみになります。

 TVシリーズ後に逃亡した内海とバドは、レイバーデッキを内包する船に潜み、次なるパフォーマンスに向けてグリフォンの整備を進めさせていました。時を同じくして、世界のレイバー技術者や兵器ディーラーが東京に集結している事実を掴んだ松井刑事は後藤にその事実を告げるも、程なくグリフォンが再び現れ、第一小隊の新型レイバー「ピースメーカー」をも容易く行動不能に追い込みます。グリフォンの復活に、再び激動の予感を覚える野明。新世紀の到来を目前に控えた99年の大晦日、最終決戦がついに始まります。

 前回、内海を「利潤の追求に捕らわれない趣味の男」と評したわけですが、実際は「趣味と利益確保の両立」に秀でた手腕こそが本質であった模様。「会社に損をさせたことはない」とまで断言してしまうその背景には、これだけ過激な犯罪行為を重ねながらも、シャフト社からは完全に追放されていない事実が後ろ盾にあります。警察機を凌ぐ性能のレイバーを売り込むための最善のパフォーマンスとは、イングラムを打倒すること。採算度外視に見えたグリフォン建造ですら、いずれペイできる算段を付けた上で、会社を説得したのでしょう。ただし、内海自身には愛社精神など欠片も無く、金と自由を与えてくれる場所ならどこでもいいとさえ発言します。世界のレイバー関係者に向けたグリフォンの売り込みのはずの一連の行為は、その実内海本人によるセルフプロモーションなのではないでしょうか。自分の享楽を叶えるためなら手段を選ばない度胸と実力に、優れた人心掌握術を兼ね備えた、無邪気な悪のサラリーマン。改めて、希少な悪役像に目が離せません。

 対する第二小隊も、前回の激突同様に太田の二号機は早々に敗れ、野明の1号機“アルフォンス”とのタイマン勝負に持ち込まれます。その裏で、指揮する機体を失った熊耳は内海本人の逮捕を狙いマスコミとの共同戦線を実行。グリフォンと内海、シャフト社の関係を明らかにすることで事態の収拾を図る彼女ですが、その最中、かつて内海と熊耳が男女の関係にあったことが示唆されます。お互いの香港時代にどのような逢瀬が重ねられていたのかは明かされぬままですが、その過去が内海を追い詰める一歩となります。

 レイバー同士の戦いも佳境を迎える中、ついに野明はグリフォンのパイロットがかつて出会った天才ゲーマーの少年のバドであることを知ります。バドは野明との決着を付けることだけを目的にグリフォンを操る“ゲーム”に興じているだけに過ぎない。ですが、警察官として、あるいは大人として、野明は少年が犯した罪を取り締まります。同時期に日本を訪れていた香貫花の協力もあり、ついにグリフォンを倒した野明は、自らの過ちに気づいたバドを優しく抱きしめます。その裏で、内海は熊耳の女の弱みに付け込み脱走。新たなパトロンを見つければいいやと言わんばかりに、グリフォンに仕掛けた爆弾を起動し証拠を隠滅します。諸悪の根源が潰えることのないまま、グリフォン編は完結を迎えました。

 その後は再び一話完結編へとシフトし、TV放送という縛りから解放された影響か、作家の個性が炸裂した非常に自由度の高いエピソードが乱立するも、これがどれも面白い。銭湯に逃亡した爆弾魔を探すための裸の捜査を描く『黒い三連星』、風紀の弛みから生じた第二小隊整備班の内乱劇『火の七日間』、第二小隊の慰安旅行の楽しい飲み会で勃発した熊耳VS香貫花の口論激『VS』、台風の影響で東京に戻れなくなった後藤と南雲がラブホテルで休息をとる『二人の軽井沢』、製作協力:円谷プロダクションによって実現したウルトラマン&ウルトラセブンのパロディ『星から来た女』。全エピソードにおいても度を越した不条理ギャグの質はどれもTVシリーズ以上で、レイバーの出動が一切にもかかわらず「これぞパトレイバー」なる貫録さえ感じさせます。

 最終話『第二小隊異常なし』では、TVシリーズ終盤で示唆された特車二課の変化が主題となります。第三小隊の設立に伴い隊長のオファーを受ける熊耳に、コンピューターに四苦八苦する榊班長など、時の流れや技術の進歩に従い変化を余儀なくされる現実が描かれる中、TVシリーズでそれを克服した野明に代わり決心を固めるのは遊馬でした。篠原重工の跡取りでありながら、父親にハメられて警察官になった遊馬には、自殺した兄がいました。父親への反抗心から起こった悲しい悲劇に、篠原家の複雑な事情が見え隠れします。その詳細もアニメ版の描写では不十分ではあるものの、いずれ特車二課を離れなくてはならないこと、その決意を、パートナーの野明に語ります。特車二課第二小隊も永遠ではいられないことを物語る、TV版と呼応したもう一つの最終回として、優れた一編です。

【THE DAY AFTER】

 DVD最終巻に収録された音声ドラマ『THE DAY AFTER』では、第二小隊解散の数カ月後の再会が描かれます。後藤、南雲、山崎、シバを除く全員がそれぞれ異なる部署に異動となり、特車二課には新たな隊員が配属されるいつかの未来。進士の第二子の誕生に太田と香貫花の意外な進展など、明示はされてはいないもののOVA最終話より数年後を舞台としていることが推察されます。

 興味深いことに、遊馬がこれまでの第二小隊の日々を「やるべきことはやり終えた」と評します。数多の事件を解決する中で、パトレイバーによるレイバー犯罪対策に様々なノウハウを残したことや、経験と技術を後進に継承すること。同時に、作り手にとって描きたいエピソードは全て語り終えた、というメタな宣言。それらの多重的意味を込めたであろう一言に、野明の脳裏にはアルフォンスとの別れの日が甦ります。かつてはアルフォンスと名付けた愛犬の死に涙を流した彼女も成長し、パトレイバー“アルフォンス”との別れには涙を見せませんでした。レイバーとの別れを受け入れ、ピアスを着けるなど大人の女性への成長を感じさせる本作は、TVシリーズ最終回のアンサーとして申し分ない結末を見せてくれます。

 今回のNEW OVAを持って、TVシリーズは真に完結します。グリフォンという大きな壁にぶつかり、時には警察官らしからぬ日常を送りながらも、第二小隊はそれぞれの道に向かって歩み始め、次世代の第二小隊がその伝統を受け継いでいくのでしょう。全47話+16話の計63話、長い旅路の果てに成長したキャラクターの姿は、とても眩しく写ります。

この物語はフィクションである。

……が、

10年後においては定かではない。

 次回は名作と評判の劇場版2と3を取り上げて、パトレイバー鑑賞記もクライマックスになります。解散した第二小隊はいかにして集結するのか、あるいはまったく関係のない世界線なのか、今から楽しみです。……TSUTAYA行ってきます。


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