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後付けの作品で宇宙世紀の治安が狂う!!『機動戦士ガンダムF91』

 ガンダムを履修するのが流行っていたので、流れにノってみることにしました。最短でも2クールのTVシリーズが体力的にも厳しかったので、劇場作品やOVAなどをピックアップし、宇宙世紀シリーズでも『UC』『NT』以降が舞台となる『F91』をチョイス。結果、どエラいことになりました。人の情緒だけを殺す映画かよ!

著者紹介:
ガンダムについてはUC(ep1で挫折)⇒1st劇場三部作⇒逆シャア⇒UC(完走)⇒Z⇒NTの順番で履修したため、ガンダム知識が偏っていたり穴抜けしている。ネオジオングはダサくない派。近頃はSEEDとWが気になっている。詳しくは下記の記事を読むといいらしい。

ようしゃなく人が死ぬ

 人々がスペースコロニーで生活する時代。シーブック・アノーやセシリー・フェアチャイルドはどこにでもいるような普通の少年少女で、今日は楽しい学園祭の真っ最中。そんな中、コロニーには謎のモビルスーツが侵入し、1stガンダムのセルフオマージュで日常が壊されていく。突如始まった連邦と敵組織のMS戦。重火器から排出された薬莢が人々の頭上に落ち、戦火に巻き込まれた子どもたちが死体となって道路に転がっていく。ミスコンの場面から早3分で、コロニーは地獄へと変貌。テンションの高低差がエグすぎる。

 突如コロニーを襲撃したのは「クロスボーンバンガード」を名乗る集団。彼らは一般市民に危害を加えるつもりはないとは言うものの、人口密集地で戦端を開けば当然建物は壊れ人は死ぬ。対する連邦軍も長すぎる平和がそうさせたのか、まるで素人のようにただ戦火を広げる立ち回りしか出来やしない。シーブックは友人の一人であるアーサーを失い、彼の遺体を埋める暇すら与えられずに、ただひたすら後退するしかなかった。

 アーサーがただのモノになった描写、背景で死体が横たわるなど、戦場描写に容赦がないF91冒頭。当時の子どもたち、トラウマになったんじゃないでしょうか。

そこだけは踏襲するんじゃあない

 命からがら逃げきったシーブックたちは、避難船があるという24桟橋を目指し戦火の中をガンダンク的な何かで駆け抜けるが、道中に連邦軍人に見つかってしまう。軍人はシーブックらを捕らえ、子どもたちを盾にすることで敵の攻撃を防ごうと、民間人であるシーブックたちに襲い掛かる。連邦政府、気を抜いたらすぐにこうして腐っていくので、定期的な粛清がマジで必要。シャアさん何やってるんでしょうね。

 ちょうど通りかかったシーブックのお父さんの活躍(連邦パイロットを慈悲なく殺す)で無事逃げ切ったシーブックたち。だが今度は、気になってるセシリーが誰かとモメている。しかも相手はお父さんで、実の娘(前フリ)に銃を向ける始末。当然キレるシーブック先生だが、それも虚しくセシリーは狂パパに連れ去らわれてしまう。なんとセシリーは、クロスボーン・バンガードを指揮するロナ家の長女で、発起のための神輿として担がれる時が来たらしい。繰り返されるミネバ様の系譜。女子の脱走は連邦の腐敗に続くガンダムのお約束らしいと理解る。

自分、お気持ちイイっすか?

 お察しの通り、この辺りでテンションがお通夜モードになっていく著者。連邦政府は一部の軍人が幅を利かせ、特権階級は未だに地球の重力を権力の賜物とし、棄民政策は終わらない。ニュータイプは「なんかわからんが強いパイロット」の認識から一向にアップデートされやしない。人々は宇宙移民に希望を託し、人の革新はそれを後押しするはずだった。ニュータイプは祈りのような概念だった。箱が開かれ、あるべき姿に人の世を戻そうとしたミネバ様の想いは、バナージが背負ったたくさんの人の生と死は、報われたのか。

 いやまぁコレ、仕方がないことでもあるんですよ。作品内時系列と制作順があべこべになってしまい、『UC』の方が後付けなのだから、『逆シャア』⇒『F91』の時の流れで物事を見極めるのが少なくとも公開当時の正しい見方なのですから…。『UC』の頑張りがムダじゃん!と私一人が怒ったとて、人の在り方が低きに流れるのなら、差別と戦争が繰り返されるのもまた当然の理…。

それはそれ!!これはこれ!!

出典:島本和彦『逆境ナイン』より

 うっかり漫画のコマを貼って著作権を犯しそうになりながらも言わせてもらうなら、ガンダムファンって後にこうなると知って「UC泣けた!」とか言ってんの…?こわ…。ラプラスの箱の中身が広く知れ渡っても、あるいは知れ渡ったことで既得権益にしがみつく悪い輩が増えて、お偉いさんは地球で呑気に暮らし宇宙に住む人々から搾取を続けている。それに反抗する組織も過激化してモビルスーツによる武力抵抗から抜け出せず、「偉くなったら仮面をつける」ところだけ踏襲しちゃってる!!!バカか!!!!!!!!!

 シャアの情熱も感じさせないこのクロスボーン・バンガードとやらは貴族主義を基調としているらしく、貴族の家名とノブレスオブリージュ(持てる者の義務)を誇りに社会革命を正義とし、その志が資金力によって過剰に暴走していく、トンデモねぇ奴ら。セシリーもまたその複雑な家庭環境に嫌気が差し出ていった?ものの、いつの間にかその思想に則り、モビルスーツの乗って戦線に出るように。この辺りの心情の変化が唐突で読めないのだけれど、私何か見落とした??と不安にさせられる。

仮面のアイツ

 F91の仮面枠をチェックしてみましょうか。名をカロッゾ・ロナ。クロスボーン・バンガードを指揮するロナ家の入り婿で、宇宙貴族思想(口に出して言いたい日本語第3位)に取りつかれた結果嫁に逃げられ、娘セシリーにも距離を置かれる、婿として最低最悪の状況下で、自身を強化人間に改造し仮面をつけ私情と表情を押し殺す、思想を実行する機械として振舞うことに。なんだか可哀そうでヤケクソ感漂うこの男が、倒すべき敵のF91。先ほどまで萎え切ったメンタルが持ち直してきました。こういう男、嫌いじゃない。

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 ネタバレになりますが、この鉄仮面ことカロッゾはラストバトルでは口を開けば名言マシーン、貴族思想に取りつかれすぎて後戻りできなくなった哀れな振る舞いは笑いを誘うという、作中屈指の名愛すべきキャラクターとして観る者の心に楔を打ち込んでいく。大いなる野望を抱えながら、しかし心の弱さを打ち払えず家族とは不和のまま、仮面で押し殺したはずの感情をむき出しにムダにイイ声で喚き散らすカロッゾの暴走は、一周してチャーミングに思えるほど。人口調整のためにドローンを使うなど、自分の手を汚す度胸がないことが示される、小者臭たっぷりなのがたまらない。

マトモな家庭がない

 婿だの腹違いの兄(ガルマ似)だの、何かと入り組んだ事情のロナ家。一方のシーブックのご家庭も、バイオコンピューターの研究がしたいと家を出ていった母親がガンダムF91の開発に関わっていたと発覚、不貞腐れながらも無理やりに連邦軍兵士として闘うことになり、疲弊していく。セシリーを奪還しようとするも彼女が髪を切ったことにショックを受け(語弊)失敗し、父を撃ち殺されてしまう。なんだこれ。踏んだり蹴ったりがカミーユくらいの濃度なのにものの10数分で処理されていく。

 どうやらガンダムF91のテーマは「家族」らしい。カロッゾは婿に入った家の貴族主義に乗っ取られ妻子に逃げられるし、当の娘であるセシリーも家族と状況に流され真にやりたいことと向き合えなくなっている。

 対するシーブックの家庭も決して良好とは言えなかったが、父はまだマトモな方の軍人で、母も仕事にのめりこむあまり子どもとの絆を無くしてしまった人物だが、物語後半でようやくそれを取り戻す。

 セシリーは状況に流されてしまったこと、カロッゾが非道な手段に乗り出したことを踏まえ家を離反し、シーブックと共にしがらみの大本であるカロッゾ打倒のため闘うと決意。弱い部分女のズルい部分を使い分け振舞っていたセシリーも、帰るべき場所がロナ家ではないことを悟り、ラストバトルが幕を開ける。

サイコお父さんからの卒業

 後がないことを悟った鉄仮面さんは、虎の子のMAラフレシアを出撃させる。ラフレシア、鉄仮面の脳との有線接続によるコントロールで、宇宙を漂う赤い花の見た目と光ファイバーじみた触手を漂わせるビジュアルが大変アレ。貴族は薔薇モチーフじゃないとダメっしょ!という発注からなぜこんなモノが納品されたのか。開発担当を問い詰めたくもなる。

 肥大化したエゴの象徴としてのお花モビルアーマーに、わずか2機で挑むシーブックとセシリー。さすがはラスボスだけあってラフレシアも手ごわく、セシリーは搭乗機を破壊され宇宙に投げ出されることに。この「投げ出し」を一番観ていただきたいですね。そんな力業があったかと。

 それにキレたシーブックさんはF91の謎機能を開放し、腰のビーム砲で対抗。さらに高機動必殺を発動しラフレシアの触手を翻弄。カロッゾ曰く「質量を持った残像」らしいのですが、それはもう分身ですよね?????

 かくして、ニンジャ能力に目覚めたF91によってラフレシアは大破、カロッゾパパは散りセシリーもお家の事情から解放。「受け止めなさい、バナージ!」してハッピーエンドに収まりました。やったね!たくさん人死んだけど、最後に愛は勝つ!!!!

完走した感想

 尺足りてへんやろこれ。セシリーがロナ家の思想に取り込まれる描写、シーブックが実戦経験もないままにエースパイロット化していく流れ、アンナマリーの嫉妬と寝返りなどなど、一つ一つは面白くなりそうな要素が駆け足に消化されていって、印象に残るのは哀しき仮面の男だけ。鑑賞後にwikipedia読んで納得したのですが、本作はまだ「序章」に過ぎず、さらなる映像展開も予定されていたが頓挫して、今のような歯抜けの状態になっているとか。

 家族の問題、連邦政府の腐敗、貴族主義。個人の主義主張やエゴが折り重なり最終的に大勢を巻き込みながら収束していく流れはガンダム観てるなー!!と思わされるも、カロッゾを除くキャラクターたちの描き込みが薄く「事情は察せられるが感情移入できない」が続くし、よってカタルシスもなく平坦な印象が映画全体を支配する。加えて、人死に描写がわりと容赦ない(直接的なゴア映像ではなく、イヤなものを想起させる殺し方が多い)し相関図も入り乱れていて、二時間で気軽に観られるという当初の想定からもやや外れていた、胃もたれするような作品でした。1stガンダムのセフルオマージュとか、急にセルフ批判ぶっこんでくるセシリーさんとかは面白かったんだけどね。

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シンプルに罵倒

 ちなみに、7月公開の『閃光のハサウェイ』はUCとF91の間の作品らしい。もう「UCの後なのに人類がまた腐敗している!!」と怒るのはもう止めるか、自分がシャアになるしかないようです。穏やかになりましょう、隕石落としも控えましょう。人は争いを止められない哀れな生き物…。

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