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『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』が描く未来への希望

西暦2740年。宇宙の平和を守る連邦捜査官のヴァレリアンとローレリーヌは、ある任務のため千の惑星が集い様々な種族が共存する惑星都市“アルファ”に降り立った。アルファの最深部では謎の放射線汚染が発生し、広大な惑星都市は崩壊の危機に瀕していたのだ。汚染の原因究明の任務を託された二人だが、ヴァレリアンにはかつて滅びたとある種族の最期が脳裏に浮かぶ。捜査を進めていく中で明らかになる陰謀と絶滅の真相。果たして二人は、アルファの危機を救うことができるのか—!?



 『フィフス・エレメント』のリュック・ベッソン監督による、『スター・ウォーズ』にも影響を与えたフランスの古典コミックの映画化。かねてより映画化を熱望するも映像技術が追いつくまで温められていたという本作は、製作に4年を費やすほどの渾身の企画。本国での賛否両論のレビューが届く度に、日本の映画ファンとしては待ちきれない日々が続いたのではないでしょうか。

 冒頭、デヴィッド・ボウイの名曲に合せて、人類の宇宙進出をポップでコミカルに描く。このシーンは問答無用に素晴らしく、肌の色や性別を超え、さらには種族の壁を越えて文字通り“手を取り合う”ことでつながっていく。多様性が叫ばれる現代社会において、この数分間の映像はとても象徴的に、観客の心に残ります。

 その一方で、多様性の実現の裏で掬いきれなかった、影の部分も描き出します。中盤に登場するリアーナ演じるバブルというキャラクターは、風俗街を彷彿とさせる場所で、その変幻自在の能力を活かした見世物として働かされていました。様々な種族が共存する世界の片隅で、奴隷のように虐げられるか弱き者。直接的な描写こそないものの、映像や台詞では断言されていない裏の部分まで想像してしまう、これまた示唆的なキャラクターです。中盤のコメディリリーフ的存在でありながら、地に足の着いた社会問題を炙り出す彼女の存在は、本作の白眉と言ってもいいでしょう。



 そうした現実とのリンクも興味深いものの、やはり一番の魅力は目に楽しい宇宙描写の数々。千の惑星が集う都市アルファは、文字通り惑星の球体が寄り集まって出来たメガストラクチャーであり、見た目のインパクトはかなりのもの。序盤の任務の舞台となるのは百万の店が並ぶ巨大マーケットだが、その実態はゴーグルごしに知覚したVRの世界!ゴーグルをつけた人々が砂漠をウロウロする珍妙な場面の面白さと、今後の技術革新を見据えたアイデアを活かしたアクションシーンは必見です。

 本作『ヴァレリアン』は、奇想天外な宇宙世界を描くように見えて、その実はしっかりと現実社会と地続きの世界を創造しています。技術の進化が実現させる居住空間や市場の拡大。多様性を目指す世界の理想と、その中で埋もれてしまったとある個人の切実な問題。未来への期待と現実社会の風刺が混ざった作中世界は、その極彩色の見た目も相まって飽きさせないものになっています。そのディティールを描こうとするあまり、物語にやたらと寄り道が多いことが気がかりですが、それを補って余りある魅力が本作には詰まっています。

 何でもアリのごちゃまぜ惑星と、そこを激しく飛び交うスペースオペラ。映像の情報量が多く、大スクリーンで映えるタイプの作品なのは間違いありません。特に、IMAXとの相性もきっと良いはず。監督の名前がどうしても報じられがちなタイトルですが、予備知識無しで飛び込んでもある程度の満足度が得られる、間口の広い一作です。全世界の評価的に続編は厳しいとの声多数なため、『ヴァレリアン』の今後は日本の応援にかかっている…かもしれません。









以下、ネタバレが含まれ、かつ苦言を呈する内容になります。ご注意ください。




 現実の社会問題が物語の根底にある『ヴァレリアン』にて、パール人の動機の裏に隠されていたのは、軍事スキャンダルでした。パール人が済む惑星ミュールの近辺で行われていた大規模な戦争。ミュールが無人の惑星であるとして、敵軍隊の戦艦が惑星に落ちることを省みずに、司令官は核融合爆弾の使用を承認。しかし、惑星にいたパール人はその被害を受け、多大な犠牲者を出す結果となりました。

 その悲劇を生き延びたパール人はアルファの最深部に逃げ込み、様々な文化を学びながら新たな母艦を建造。その事実が明るみになることを恐れた司令官は、事実を隠ぺいするためにパール人の隠れ家の捜索を捜査官に命じたのです。



 その事実を知ったヴァレリアンとローレリーヌは、司令官を厳しく追及します。ここでどうしてもノイズになってしまうのが、先だってのローレリーヌ救出シーンにて、ヴァレリアン自身も異星人を殺している描写があること。コミカルな描写でそこまで気にならないとはいえ、捜査官の救出(しかも原因は捜査官自身のミス)のために大勢の異種族を殺した事実は変わりません。

 ヴァレリアンは自分が連邦捜査官であることを宣言する台詞が多いため、上記の行動が何かしらの外交問題に発展するのではないか、心配で仕方ありません。また、原因となった異星人が実は極悪非道な犯罪者であるといった描写もなく、作中で言及されているのは「彼らのコミュニティは彼ら(同種族)でしか入れない」程度に止まっています。

 少し穿った見方をするのなら、他国(他種族/民族)と交流をしない閉じこもった国の民衆は、殺されても構わない、というメッセージに受け取られかねないでしょうか。壁を無くそうというメッセージは今やポジティブなものとして評価されやすいムードが高まる中で、製作者にそういった意図があったかはさておき、他者を寄せ付けない壁を維持する者への仕打ちがアレでは、多様性を賛歌した本作において大きなノイズ足りえます。

 そんなイジワルな視点が入ると、前述の司令官追及シーンに、どこか居心地の悪さを覚えてしまったのも事実です。もちろん、この文章は製作者の意図や思想を保証するものではないことを断言しつつ、本作のメッセージの一貫性に関わる大きな問題を孕んでいることを、言及せずにはいられません。

 その点で、“惜しい”という一言が頭から離れない『ヴァレリアン』ですが、ユニークな映像と示唆に富んだ設定や世界観が織りなす、愉快な娯楽作であることは変わりありません。評判のいい吹替えやIMAX版も気になりつつ、愛を確かめ合ったヴァレリアン&ローレリーヌのコンビにまた会える日を夢見ております。

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