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モンハン老害、ライズを捨ててダブルクロスにテントを張る。

 近頃、とあるモンハン実況者の動画を観ていたら、久しぶりに狩猟欲求がぶり返してきて、『ライズ』を再ダウンロードした。ところが、およそ1年半ぶりに帰還したエルガドの街は、エンドコンテンツが積み重なった結果見たことのないバベルと化しており、無知な私はこの弱肉強食の世界で、ただただ無力であった。

 Nintendo Switchで発売された現状のモンハン最新作『ライズ』と、その大型アップデートにあたる『サンブレイク』については、それぞれ発売当時に購入し、100時間ずつプレイした覚えはある。サンブレイクは発売後もモンスターの追加アップデートが盛況で息の長いタイトルではあったが、追加されるモンスターの強さと、その素材を用いた武器や防具が従来のそれを遥かに超える性能であることのいたちごっこに疲れ、いつの間にかハンターを休業していたのが、およそ1年半前。

 私が狩りを退いた後も、『サンブレイク』はアップデートを重ね、実に発売一周年近くまで増築を進めていたらしい。つまり、私にとっては半年分の追加要素が初めましての状態での職場復帰。磨き上げた自慢のハンマーとチャージアックスに砥石をあて、着古した防具を磨き、装備する。2〜3回身体を動かせば(操作すれば)、勘も戻って来るだろう。その目算が甘すぎることを知ったのは、ベースキャンプで転がされる回数が30を超えたころだった。

当時のお気持ち

 アップデートで追加されたモンスターたちは、どれも強敵揃いだった。ハンター側が翔蟲による驚異的な機動力とカウンター攻撃を手に入れた代わりに、それを掻い潜るような連続攻撃や広範囲攻撃を繰り出してくる竜たち。サンブレイクを半年遊んで、ストーリー上のラスボスを倒した程度の自分のスキルでは、到底敵わない。モンスターの攻撃を覚えることが最優先であると過去作で学んできたのに、今度は記憶力がそれに間に合わない。老いが、狩人としての自分の力を鈍らせている。

 ならばせめて、武器防具だけでも現行の水準に追いつこうとすると、今度は傀異錬成なる新システムが立ちはだかってくる。傀異化したモンスターの素材を武器と防具に注ぎ込んで、武器なら攻撃力や属性力を拡張、防具なら防御力やスロット、スキルを変化させていくこの要素は、お守りだけでも膨大な時間を費やす羽目になった厳選作業が、もう二項目追加されたことになる。それぞれの武器種にあった理想的なスキルを完備するならこの厳選からは逃れられないし、武器の傀異錬成によるステータスの伸び率は、決して無視できない。ならばと傀異化モンスターに挑むも、今の自分にはそれすら重たく、何度も地面を舐めることとなった。

 この問題に対するソリューションはただ一つ。自分がもっと強くなれば良い。武器や防具の錬成が理想に届かないのなら、自分のプレイヤースキルでそれを埋めればいい。モンスターの行動を把握し、最適な防御/回避行動を取り、その合間を縫って攻撃を加えれば良い。それさえ守れれば、どんなモンスターだって狩れないことはない。

 だが、そんなこと、頭ではわかっている。わかっているが、出来ないのだ。若い頃は湯水のように時間を注げたのに、そもそもゲームにうつつを抜かしていられる年齢でもないのだから、練習量は少なくなる。そうなれば必然、失敗は増える。ガード不可攻撃の前に盾を構え棒立ちになったり、緊急回避のタイミングを誤ってスタミナが切れた瞬間を狩られる。そうしてクエスト失敗を重ねて、戦意喪失して電源を切る。その繰り返しで、上手くなろうものか。

 それでもモンハン欲が尽きない、不可思議な自分を納得させるため、ちょうどセールだった『モンスターハンターダブルクロス Nintendo Switch Ver.』を購入した。すでに7年前のタイトルで、金額も千円未満。たとえ合わなかったとしても、昼食のグレードを数日下げれば問題ない。それくらいの弱い覚悟で、別のモンハンに手を出した。その賭けは、今のところ上手くいっている。

 『ダブルクロス(以下、XX)』は、PS2時代から継ぎ足しを繰り返してきた(あくまでこう言うが)旧世代のモンハンタイトルの、集大成的な一作であった。過去作のフィールド、過去作のモンスターが総登場し、過去作の拠点に足を運ぶこともできる。スタイルや狩技といった新要素もあるが、従来の操作体系も用意されていて、PSPを酷使して遊びまくった“あの頃”のモンハンの延長線として遊ぶことのできる、おじいちゃんと化した自分にはとても優しくて、懐かしいタイトルだ。そうそう、こうだったよね!を、ずっと感じながら、寝る前の楽しみとして今や『XX』が習慣化している。

「森丘」に帰ってきたとき、ちょっと泣けた。

 “あの頃”のモンハンが何を意味するかといえば、それはひたすらに「不便」の一言に尽きるだろう。

 ハンターは今すぐにでも回復をしないと死ぬ状況にもかかわらずガッツポーズをするし、クーラードリンクやホットドリンクがないと環境に適応できず泣く泣く帰還する羽目になる。常時自動マーキング&捕獲の見極めだった『ライズ』とは異なり、フィールドに降り立ったらまずはモンスターを探して、ペイントボールをぶつけるのが開幕の合図だ。モンスターがエリア移動して、その道中にペイントボールの効果が切れる「あるある」に遭遇して、5分ほど広大なエリアを彷徨うことも、一度や二度ではない。アイテムの採取が大切なのに、ピッケルや虫あみがアイテムポーチの一枠を占め、せっかく手に入れた貴重な素材も持ち帰りきれずその場に捨てなければならない。

 あぁ不便。不便すぎる。『ライズ』の快適性に慣れた身体では、この時代のモンハンは窮屈で世知辛い。来年発売が予定される最新作『ワイルズ』がこれに戻ったら、全世界で高まったモンハン人気は一気に失墜するだろう。その不便さを、不思議にも私は「楽しい」と感じている。

 その楽しさの正体は「回顧」に他ならないし、例えばこのゲームのG級(この頃はまだマスターランク表記ではない)が異常攻撃を繰り出す強敵ばかりの魔境であるとしたら、私はまた武器をアイテムBOXに仕舞い込み隠居することを選ぶだろう。そうなる前の一時の楽しみだとしても、やはり自分には“あの頃”のモンハンのルーティンが染み付いている。敵が軸を合わせてくるのなら、それに合わせて貯め攻撃を置いておく。あるいは、回避性能と防御を高めた装備を組んで、生存に特化した防具で立ち回る。

 そういうイロハを頭と身体が覚えていて、装備の厳選に苦しむ必要もない。苦労して作った武器や防具が、一線級になるにはさらに素材と時間を費やさねばならない『サンブレイク』は、私はどうにも辛かった。

もちろん、初めましてのモンスターもいる。

 思えば、ここで言う楽しさの実態は、モンハンが世界に羽ばたくきっかけとなった『ワールド』に改装するに際して、切り捨てた要素がそれに該当するのだろう。大型モンスターと連続して闘うことに特化し、それに伴うストレスを可能な限り撤廃して、従来のモンハンの当たり前にメスを入れた『ワールド』と、その成功を活かし改良を重ねた『ライズ』。全世界で評価され、愛されるタイトルになったことを踏まえれば、この改善は正しい。『ワールド』以降のモンハンが現行水準であり、『XX』は今や古びた化石ということを、カプコンや全国のハンターはそう認識しているはず。

 ならば今の自分は、その化石に価値を感じている変わり者で、「昔はこうだった……」と過去の武勇伝を語り、若者が好むものを腐す時点で、言い逃れ不可なほどに老害そのものになってしまった。まさか、日頃忌み嫌っているはずのそれに自分がなっているなんて、嫌気が差すどころの表現では物足りない。ゲームが下手であることを棚に上げ、今のモンハンはけしからん!などという身勝手な怒りを一度でも持ってしまったことに、恥ずかしさと情けなさでおかしくなりそうだ。

まさか運搬クエストすら「懐かしい」になるなんて。

 しかし、そんな老害こと私に対しても、モンハンは優しいゲームだった。村クエストはスキマ時間に遊ぶにちょうどいい敵の体力設定が施されているし、無料で手に入るアイテムパック類を駆使すれば序盤で金欠やアイテム不足に悩むことも無くなる。段差による理不尽な被弾はこちらを苛立たせるが、3DS時代のモンハンを知らなかった世代なので「乗り」も慣れれば案外楽しいし、狩技の一つ「絶対回避」はもはや手放せない生命線だ。

 これらの補助輪に助けられている内に、なんだか自分が上手くなったな、と感じる瞬間が増えてきた。あくまで武器防具での強化は補助的なもので、モンハンの醍醐味といえばプレイングスキルの向上を実感できる瞬間にあるのは一作目から変わらない。被弾の数や狩猟時間などで可視化されるハンターとしての成長の実感は、再び私を狩りに熱中させる、危険な中毒性を孕んでいる。あれだけ苦労したティガレックスを、ディノバルドを、いつの間にか5分針で倒せるようになっていたことに気づいた瞬間の、あの感動よ!

現時点で一番苦戦したのは下位シャガル・マガラ。
2乙した後の接戦で倒した時は、安堵と興奮がヤバかった。

 重ね重ね、モンハンというタイトルは姿形を変え、全世界で愛されるタイトルとなった。そうなった以上、『XX』以前の設計には、もう戻らないだろう。不便であることをリアルだと受け止めていた時代は、終わりを迎えた。

 それでも、面白さの土台だけは、変わらず受け継がれている。レベルを上げて突破するのではなく、ハンターとして自分自身が強くなる(上手くなる)。この過酷で残酷な世界を生き延びるには、それしかない。全ては、自分との闘いなのだ。

 モンハンはあの頃の中学生を、そして今の社会人を、もう一度ビデオゲームのプリミティブな喜びへと回帰させる、偉大なタイトルだ。『ライズ』からメソメソ逃げ帰った先にこういう感慨が待っているなんて、人生とは不思議なものだと、switchのコントローラー片手にボンヤリ思うのである。

 願わくば『XX』との蜜月が長く続くことを祈りつつ、私はこっちの化石をしゃぶり尽くして生き永らえ、皆は“今の”モンハンを楽しんでほしい。老害と仲良くしても碌な事にならないので、お互いそれぞれの森で暮らすのが平穏である。

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