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アニメ『機動警察パトレイバー』鑑賞録(1)【旧OVA/劇場版1】

 名前は知っているけれど観たことない名作が沢山ありまして、その一つが『機動警察パトレイバー』です。いや、全くの未見と言うと語弊がありまして、実写版『THE NEXT GENERATION』シリーズは履修済みなのです。作中に登場する巨大ロボ・レイバーの等身大模型を実際に製作した、という触れ込みを知り、「ガンヘッドだ!!」と東宝特撮ファン特有の病気を発症し鑑賞したものの、どうやら元となったアニメの直接の続編らしいと気付いたのは全7話中6話を観てから。期待していた等身大レイバーもさほど活躍せず、残尿感と徒労感だけが後に残る鑑賞体験でした。

 後日、そのことを知人に話すと大層驚かれました。『パトレイバー』にはいわゆる「正しい鑑賞法」があり、アニメ版を踏まえず実写版を語るなど言語道断、との厳しいご指摘が。何でも、まずはOVAと劇場版、その後にTVシリーズと新しい方(!?)のOVAを経て劇場版2と実写版が王道…とのこと。うーんわからん。『スター・ウォーズ』の方がシンプルだぞこりゃ。

 ということで重い腰を上げてのパトレイバー鑑賞、早速TS〇TAYAのアニメコーナーで迷ったのでGoogle先生にご登壇いただいたところ、某知恵袋でも同じ質問が何十件も挙がっています。何やらトンデモナイ魔境に足を踏み入れたのでは、という予感が正しいものだったと悟るのは、ずっと先の話でした―。

【アーリーデイズ(旧OVA)】

ハイパーテクノロジーの急速な発展とともに、あらゆる分野に進出した汎用人間型作業機械「レイバー」。しかしそれは、レイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出すこととなった。続発するレイバー犯罪に、警視庁は本庁警備部内に特殊車両2課を創設してこれに対抗した。通称、特車2課パトロールレイバー中隊…パトレイバーの誕生である。

 本作『アーリーデイズ』はパトレイバー最初の映像作品にして、1988年にVHS/LDにてリリースされた全7話のOVAシリーズ。レンタル店で流通しているDVD版ではわずか2巻で全7話が収録されていて、気軽にパトレイバーの世界に触れることが出来ます。

 舞台は1998年の東京。国家主導による東京湾埋め立て計画「バビロンプロジェクト」により需要を伸ばした作業用重機械「レイバー」。そのレイバーを用いた犯罪に対抗すべく結成された、警察内のレイバー部隊「特車2課」。その第二小隊の隊員が配属されるところから、物語が始まります。

 レイバーを動かすために警視庁入りし、担当する1号機を「アルフォンス」と名付ける女性隊員の泉野明、レイバー製造最大手「篠原重工」の跡取りであり野明のパートナーとなる篠原遊馬、2号機担当で銃をぶっ放すことしか頭にない太田功、太田のバックアップ担当にして唯一の妻帯者である進士幹泰、その巨体に似合わず繊細でトマトを育てる優男の山崎ひろみ。彼らをまとめ上げる第二小隊隊長の後藤喜一はキレ者の予感を醸し出すも基本は無気力な中年男。エリートで構成された第一小隊や整備班と共に、東京湾岸の埋め立て地にて第二小隊は顔合わせを果たすのでした。

 その第二小隊の華々しいデビューとなるはずの第1話ですが、何とレイバーの納品が遅れ、高速自動車道にて初出動という有様で、その巨体ゆえに小回りが利かず、太田のリボルバーの誤射によりパトカー隊が壊滅、という失態を犯してしまいます。ロボットアニメの1話にして、そのロボットの不便さが際立つ展開が用意されています。

 後に第二小隊配属になる香貫花・クランシーが登場する第2話のお題はなんと爆弾処理。レイバーはセレモニーの見世物として配置されるだけで、後は爆弾物を搭載したトレーラーの外壁をはがすだけで出番は終了。続く3話に至っては怪獣映画パロディ全開の筋書きながら、肝心のレイバー対怪獣は描かれない、という衝撃の展開が待ち受けています。

 全7話、それぞれジャンルの異なる物語と、キャラクターたちのコミカルなやり取りで楽しませるも、その本質はSFロボットを格好よく描くことよりも、警察官の日常を描くドラマにあった、ということでしょう。唯一の前後編である「二課の一番長い日」では陸上自衛隊員がクーデターを起こし首都を制圧するというハードな内容ですが、首謀者側が用いるのは巡航核ミサイルで、レイバーはそのミサイル発射を阻止するだけの出番しかなく、あくまで地道な捜査と後藤の鋭い勘によって事態は収拾します。パトレイバーは犯罪抑止力にもならず、その優位性が全面に出たエピソードは現状皆無であり、最後は人の力が事件を解決するよう徹底されています。

 あるいは、2足歩行の巨大なロボットが現実と地続きの世界で活躍することの難しさ、その非現実性を味わうシニカルな一面も漂います。取り回しの利かなさや出動の度に道路や車両への巻き込み被害が多数、整備や維持のコストを考えると、レイバー犯罪対策とはいえリスクの大きいパトレイバー運用。前述の実写版におけるレイバーの活躍の少なさは、その取扱いの難しさによるものであり、『パトレイバー』シリーズが当初から描いてきた等身大ロボット批評の現れでもある、と納得に至ります。

 ロボットアニメなのにその扱いづらさが際立つ不思議なアニメ『パトレイバー』の、その題材に似合わない地に足の着いた警察ドラマに、全7話を観終えたころはすっかり魅了されました。ここから、長い『パトレイバー』マラソンは激化します。

【THE MOVIE(劇場版)】

自衛隊の無人レイバー暴走事件を皮切りに都内各所でのレイバー連続暴走事件が発生。原因がレイバーに搭載されたOSに仕組まれたコンピューターウイルスであると踏んだ特車2課だが、OSの設計に係わったプログラマーの帆場暎一はすでに自殺しており、その目的は不明のまま、レイバー暴走を促す大型台風が接近していた―。

 OVAの好評により89年に公開された劇場版。まず目につくのは映像の質感の変化で、アニメ的なデフォルメを抑えた写実的なキャラクターデザインにより、見慣れたキャラクターたちも劇場版クオリティにお色直しが施されます。

 そして、OVA版にあったコメディタッチな演出や物語は鳴りを潜め、描かれるのはこの世にいない男からの不気味な挑戦状。自然を破壊し大地を人工物で埋め尽くさんとする傲慢な人類への警鐘を鳴らす、一級品のサスペンスです。

 冒頭、不穏な笑みを浮かべて巨大建造物「箱舟」から飛び降りた謎の男・帆場暎一。彼は時限式のウイルスを東京都内のレイバーのOSに仕掛け、その成果を見届ける間もなくこの世から姿を消してしまいます。その動機は何なのか、OVA版から引き続き登場となった松井刑事が彼の生家を追う中で、首都・東京の歪な姿が浮かび上がります。

 都市開発によって様変わりする東京と、そこから置き去りにされた者の逆襲。その知性的な犯行はシステムによる一括管理の危うさとフットワークの重たい警察組織の有事対応を露わにし、その勝敗は帆場の死の時点で決していたのです。その読み解きのヒントとして、「エホバ」「バベル」などの旧約聖書のモチーフが登場し、後藤が帆場の動機を推理するシーンもあるものの、あくまで観客に解釈とその是非を委ねる結末であり、不気味さは映画が終わっても拭い去れるものではありません。

 死しておりながらも事件の中心に居座り続ける謎の存在、という犯人像は、『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフである『交渉人 真下正義』に物語のプロットごと流用され、2016年の『シン・ゴジラ』における牧五郎元教授が該当します。常に状況を神の視点から、見下ろすように我々を試すような視線に、背筋が凍るようなおぞましさを感じずにはいられません。

 89年公開にして「コンピューターウイルス」の概念を登場させるなど、その問題意識の先見性には驚く他ありません。レイバー対レイバーのロボットアクションの拡充や、野明と遊馬のロマンス未満の微笑ましい関係性にも着目すべきですが、鑑賞後のビターな余韻が何より印象に残る名作です。

 というわけで、パトレイバー、まんまとハマってしまったわけで、このマラソンもしばらく続きます。次回はTVアニメシリーズ、次いで新OVAと劇場版2本を観て、感想を垂れ流す予定なので、気が向いたら読んであげてください。…え、TVアニメって1年放送だから40話以上あるの…?これは当分先だなぁ。

[終]


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