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きょうだいがいる人に絶対観て欲しい『レゴ® ムービー2』

 春休みの定番ことクレヨンしんちゃん劇場版の中でも特に名作と名高い『オトナ帝国の逆襲』は、その実子どもを連れてきた親世代に刺さる内容が話題を呼び、「子ども向けだと侮っていた」がゆえの不意打ちがもたらす驚きと感動が、本作の評価をゆるぎないものとしている。

 それと近いインパクトを残したのが、2014年公開の『レゴ® ムービー』である。誰もが一度は遊んだことがあるあのブロック玩具の世界を舞台に、何者でもないがゆえに世界を救う役割を担うことになった、ごく普通の建設作業員エメットの冒険を通して、観客は多くを学んだ。自由に作ってもいいし、マニュアルに従ってもいい。レゴブロックで遊ぶということ、ひいては「想像性」とは何か、という深いテーマを盛り込みつつ、随所に挟まれる毒っ気と悪意に満ちたキャッチーなギャグと音楽のセンスに、映画ファンは夢中になった。

 そんな偉大な前作から5年。率直に言えば、前作の革新性を超えることはなかったが、それを土台に新たな物語を紡いでいこうという作り手の意思表示と、今作が示すとある対立とその顛末に、またしても爆笑&涙してしまった。

エメットらがおしごと大王の野望を打ち砕いてから5年後、彼らが住む街ブロックシティはボロボロシティへと変貌し、世界は荒廃していく一方。それでも能天気に毎日を送るエメットだったが、突如宇宙船に乗って現れたメイヘム将軍によってワイルドガールやバットマンたちがさらわれてしまう。エメットは誘拐された仲間を救うため、わがまま女王が支配する惑星に単身で乗り込むのだが、その道中でレックス・デンジャーベストと名乗る謎の男と出会う。

 この『レゴ® ムービー2』という作品、作品世界や物語に秘められたとある仕掛けを明かさずして、内容を説明するのがとても難しい。また、実際の本編も一作目の鑑賞を前提で物語が進むため、前作のネタバレを否応が無く目にしてしまう。そのため、まずは前作を予習してからの鑑賞は必須、と言い切ってしまいたい。事の真相を知ってから前作を後で見返しても、面白さが半減するからだ。騙されたと思って、すべてはサイコー!な『レゴ® ムービー』を観て欲しい。

以下、『レゴ® ムービー』『2』のネタバレが含まれます。

 前作のラスト、妹の来訪=幼児向けブロックの登場を受け、エメットらが住まうブロックシティは崩壊し、荒廃した世紀末へとその姿を変えていた。そんな世界でもこれまでと変わらぬ生活を続けていたエメットの姿は、その世界の創造主たる少年フィンの心情の投影だろうか。本作で繰り広げられるレゴブロックの愉快な冒険は一貫して、このフィン少年の成長物語を暗示している。

 冒頭、初めは妹を受け入れようとしたフィンだったが、まだ幼い妹ビアンカの遊び方はフィンにとって侵略そのもの。結果としてフィンが造り上げた世界は崩壊し、彼は妹の幼さゆえの悪意なき暴力を受け入れきれない。それから5年が経った今も、兄妹は互いにレゴという共通項を持ちながら、まだ和解してはいなかった。兄と一緒に遊びたいという妹の子供らしい願いを、兄は快く受け止められない。それはまるで、前作における父子の想像性の相違ゆえの対立を彷彿とさせる。兄フィンは成長の通過儀礼として、妹の価値観を向き合う時期を迎えていた。

 しかしその溝は埋まらず、結果として母親の怒りを買い、アルママゲドン=ブロックたちの倉庫行きを招いてしまう。兄妹の断絶という大きな現実問題でもありながら、レゴブロック当人たちにとってもこれは由々しき事態だ。『トイ・ストーリー3』のテーマを引用するのなら、おもちゃである彼らは持ち主に遊ばれることがなくなった時、死を意味する。カラフルで情報量過多な冒険譚は、兄妹の不仲の象徴でもあり、同時におもちゃにとって死の危険性と隣り合わせでもある、実に切実なものであることが明かされる。

 そんな中、エメットはルーシーに「もっと大人になって」と諭され、その後まさしく理想の大人像を体現するレックスと出会う。タフで決断力があり、頼れる大人の男。レックスはエメットを「憧れ」と称賛し、わがまま女王の野望を阻止せよと彼を鼓舞し続けた。おそらくレックスは、フィンにとっての強さの象徴であり、妹の侵略を跳ね除けようとする心情の投影が生み出したキャラクター。フィンの胸中で妹への接し方に対する葛藤が燻り、それを乗り越えるために「もう一人のエメット」というペルソナを、自分の物語世界に用意した。

 エメットとレックスの対峙は、「タフであること」「大人になること」の意味を問うフィンの心理的成長のメタファーとして語られていく。タフで大人の男の象徴たるレックスを追い求めた結果、エメット=フィンは妹に取り返しの付かないことをしてしまう。その時初めて、エメットはわがまま女王の真意を知り、フィンはビアンカに歩み寄ろうとした5年前の気持ちを取り戻す。力でねじ伏せることを男らしさであると認識していた兄は、妹の気持ちを汲み取ってあげることで、人間として大きな成長を遂げる。レックスの消失は、フィンの成長と不可避に訪れる別れだった。

 ラストは、和解した兄妹が仲良く遊ぶ風景で、物語は幕を閉じる。この時浮かび上がるのは、LEGOブロックという玩具の素晴らしさ。組み合わせることで何でも創れるLEGOブロックの特性があってこそ、兄妹の和平という本筋とリンクして、何倍も感動が増す。そうしたテーマを補強するように、エンドロールでは一般から募集したであろう「二人で作ったレゴブロック」の写真が挿入される。製作スタッフのLEGOに対する深い理解と愛があってこそ、サイコー!な映画が生まれたのは言うまでもない。

 物語の奥深さもさることながら、悪意のこもったジョークのセンス、キャッチーな楽曲の魅力が前作以上に炸裂しており、肩の力を抜いて気軽に楽しめるのも懐の広い『レゴ® ムービー』らしい。子ども向けの皮を被った深イイ大人向け映画の期待通り、親世代のすすり泣きが劇場に鳴り響く一本で、とくにきょうだいとの接し方に悩んだ経験のある方、あるいは現在進行形で悩んでいる方にこそ、深く刺さる作品になっている。字幕版が都内3館のみと冷遇気味だが、日本語歌詞がストレートに頭に入ってくる分中毒性を増した楽曲を味わえる吹替え版も、文句なしでサイコー!だ。

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