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よりによって会社で、夏の恋と出会っちまった話

 ドーモ、伝書鳩Pだ。なんだか素敵な夏の到来を予感させるタイトルに惹かれてクリックした皆さんには大変申し訳ない。この出だしで大体想像がついたと思うが、アイドルの話をする。悪いが、地獄まで付き合ってもらうぞ。

 話は変わるが、「ガシャ」ってすごいとおもわないか???元来、ゲームとは経験と努力がモノをいう遊びだった。どんなに不可能に思えたチャレンジでも、トライ&エラーでコツを掴んでは出来るまで繰り返し挑み、学習を重ねてついに難関を突破する。そういう快感こそゲームを遊ぶ初期衝動だったはずだ。だが、ソーシャルゲームの到来によって「金と運」という全く新しい価値観が導入され、スマッホの普及によってそれは瞬く間に浸透。

 強いキャラが欲しければ課金、推しが欲しければ課金。遊ぶだけならタダだったはずが、いつの間にかクレジット明細がダイヤだとかジュエルだとか触れられもしない宝石で埋め尽くされてしまい、過去の自分に殺意を抱いた者もいるかもしれない。仮に推しが手に入れば収支は黒字で脳内では「UNICORN」が流れるが、そうでなければもやしとパスタの反復横跳びで次の給料日までサバイヴするしかない。そういう戦場こそが、現代のゲームの実態だ。

 前置きはさておき、7月31日はガシャの更新日だった。ガシャ更新、それはシャニマスにおいてもビックイベントだ。メンテナンスが終わる15時ごろ、いつもおれはソワソワしながら、手元のスマホが気になってしかたがなくなってしまう社会不適合者にジョブチェンジするのだが、今回はそれどころではなかった。動悸は激しくなり、心臓が痛いほどに鼓動する。目は血走り、うめき声を上げそうになる口元を必死に抑えながら、ただただ恍惚の笑みを浮かべていた。なぜなら、自分の担当がほとんど服を着ていない状態で現れたからだ。  

 ふーん、えっちじゃん。この伝書鳩P、決して下半身で物事を判断するような生き方を良しとはせず、知性と理性だけでこのアイドル戦国時代を生き抜いてきた。だが、しかし、もう、本当に、これはアカンやつだ。きれいなおねえさんが水着、はっきり言って鬼に金棒、ドウェイン・ジョンソンに丸太だ。前日の予告ツイートで何となく予感はしていたが、いざ公式から発表された途端、全ての思考が止まり、眩しい肌に釘づけだったのだ。ゲーム内最大レアに相当するSSRとして、水着姿の担当が追加された瞬間だった。

 この時、太陽が照りつけ地面を焼く平日の15時、すなわち勤務時間中だ。だが、ガシャを引きたい。今すぐこの千雪を手に入れて、安心したい。でなければ業務中おれは爆発する。そう悟ったおれは、必殺のワードを口にした。

「昼飯くってきまーす」

 決まった。通常13時からの昼休みに来客応対の予定を入れていたおれは、あえて15時になったこのタイミングで「遅れて休憩を取るためにオフィスを離れる」という完璧なアリバイを用意し、心置きなくガシャを引ける体制を整えていたのだ。孔明の生まれ変わりを思わせる、完璧な作戦だ。食事も忘れ仕事に没頭する様をアピールしながら、適切なタイミングでシャニマスをプレイできる。事前のアポイントメントと周到な準備が功を奏し、おれは自然な流れで休憩室を独占することに成功したのだ。

 もちろん、飯を食うなどという野暮な真似はしない。運否天賦に身を任せようってときに、ハングリー精神を捨て去るような奴に成功は得られない。あとの業務など知ったことか。おれは新規データダウンロードのパケット通信にも臆することなく、シャニマスを起動し、準備を整えた。

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 この通り、軍資金もたんまりある。このシャニマス、難易度はそこそこ高いが金回りは実にスウィートで、SR以上のアイドルのトゥルーエンドを解禁すると初回に限り10連一回相当のお石様が貰えるし、最高レアのSSRなら10連2回分ももらえてしまう。そうやってトゥルーエンド回収がてら溜めこんだ石で、豪遊してしまおうというのだ。気分は札束風呂に美女と浸かったIT社長、圧倒的財力でねじ伏せてやろうと、ガシャを回し始めた。

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 至福の時間を過ごしていた。目的もなく溜めこんでいた石を、ためらいもなく放出していく。いつもは更新のたびにせいぜい一回、あるいはイベント報酬のチケットでせせこましくガシャを回しているような心の貧しさを露呈していたが、今日のおれは一味違う。湯水の如くガシャを回し、お目当てが出なければ即座に「もう一回引く」をタップ!タップ!あの叶姉妹はお買いものをなさる際は値札を見ない(なぜならファビュラスではないから)というが、それに近いゴージャスをおれは発揮していた。際限なくガシャを引きたいという淡い夢を疑似的に体感し、あれはもうエクスタシーとしか言いようが無かった。

 だが、次第に雲行きが怪しくなっていく。出ないのだ、千雪が。

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 おかしい、おれのシャニマスには千雪が入っていないんじゃないか。疑心暗鬼が生じ、回す指も焦りで震えはじめる。ガシャを回す人間というのは、始まりこそ強気なのだ。この俺様に限って引けないはずはないと、後々思い返せば何の根拠もない自信に突き動かされ、時間と財力を失った結果「なんの成果も!!得られませんでした!!!!!」と調査兵団顔で己の不運を呪うだけの負け犬になるのだ。

 慢心、驕り、楽観。それらに支配された者は、たいてい失敗する。よもや、一枚も引けないなど予想もしていないのだ。むしろ「いうて3枚取りワンチャンあるっしょwwwwwwww」くらいに思っているので、たかが50連のわりと序盤で引けなくなっただけで、動揺が止まらなくなるのだ。

 気づけば、休憩室を訪れて40分が経過していた。時間はまだある。だが、心に住み着いた恐怖が、おれの思考と勇気を鈍らせる。このままお目当てを引けずにむざむざ仕事できるのか?担当ギャンブルに負け意気消沈したおれは、仕事でもミスを連発し、得意先に頭を下げ、上司に呆れられ、昇給考課はただの紙切れになって帰ってくる…。そうした幻視が見えるほど衰弱したおれは、「撤退」を選んだ。ガシャが怖いというだけで、残り20分の休憩時間を手放し、仕事に埋没することで現実逃避をしたのである。

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 だが、そんな状態で仕事に打ち込んだところで、集中できるわけがないのだ。人生において、メリハリは重要だ。働くときは働き、遊ぶときは遊ぶ。どちらも中途半端なおれは、どっちも手につかないまま無駄な時間を過ごしていた。たかが2、3枚の領収書を処理した時点で、手が止まってしまった。

 ガシャの究極的な攻略法は、「出るまで回す」ことだ。いつかは出るのだから、出るまで回せばいい。自明の理だ。むしろそれ以外に方法がない以上、最もシンプルな勝負の世界だ。だからこそ、出るまで回せないとしたら、わざわざ必勝法がわかっているギャンブルを降りたことになり、むざむざと無様な姿を晒すことになるのだ。たとえばカイジなら、こんな千載一遇のチャンスで降りるだろうか?有り得ない。勝ちが見えているのに、それを放り投げる道理がどこにある。そうだ、闘え、闘えと、心のカイジが叫んでいる。

たとえどんなに……
不運…不幸…
不ヅキに見舞われようと…

オレは決して諦めない……!
捩じ伏せる……..!

最悪の運命….
境遇….ありとあらゆる障害……
不平…不正…

すべてを捩じ伏せ……..
オレは勝つ……..!

 勝利を手にするために、まずは仕事だ。奇しくも7月最終日、諸々の売り上げを〆たり、勤怠を確定しなければならないが、まずはToDoリストを簡易的に作成し優先順位を明確化。納期が差し迫ったものから順に片づけ、取引先の終業までに連絡事項を済ませる。依頼事項を簡潔に文章化してメールを飛ばし、売上計算書をまとめあげ、チェックリストの確認は明日にまわす。最大効率、最速化によってToDoリストは徐々に減っていき、なんとかゴールが見えてきた。担当に会いたいがばかりに、仕事の質まで向上させてしまうのだから、プロデューサーには無限の可能性が秘められている。

 そして頃合いに流れる、終業時刻を告げるチャイム。事務所全体が一息つき、まばらに帰り出す社員に挨拶しながら、もう一つの必殺ワードを口にした。

「夜食買ってきまーす」

 これだ。残った仕事を片付けるために、まずは食糧の確保、と見せかけてオフィスを離れる、またしても策士の本領発揮だ。誰にも怪しまれることなく、休憩室に辿り着く。すぐさまスマホを取りだしシャニマスを起動、まだ明るい夏の夜空をバックに、孤独の休憩室を舞台とした第2ラウンドの幕が下りた。

 もう逃げたりしない、躊躇わない。淀みのない操作でガシャを回し、出なければもう一回回す。手持ちが尽きるまで、回せばいい。周囲の足音に注意を払いながらも、流れるような指捌きでタップしていく。傍から見れば職場でスマホゲーに興じる完全なる社会不適合者だったが、とうの本人はいたって真剣だし、謎の爽やかさを感じていた。スマホには引っ切り無しに、先ほど送ったメールの返信が届いていたが、その通知を一閃、横に薙ぐような指先テクニックで彼方へと飛ばし、ただひたすらに「回す」を押す。

 押す、出ない、押す、出ない、押す、出ない…すでに回数を数えなくなり、バッテリーが熱を持ち始めて端末の処理が重たくなったころ、突然画面が暗転し、固まったままの状態で、女性の声が聴こえた。その声から遅れて1秒、処理落ちした画面がパッと明るくなって、おれの夏がはじまった。

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 Dreams Come True. 苦節2時間半強、ついに担当と出会えた。この時の心境をどう表せばいいだろうか、正直に申し上げて「なんか出た」かと思った。ここまでの強烈な反応、エンドルフィンがトッバドバで何かしらの薬物をキメたに等しいエクスタシーだったと思う。知らんけど。

 というわけで、pSSR【サマーハニー・シーズン】桑山 千雪を無事手に入れました。2枚も

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 メシマズ展開を期待してここまで読み進めた諸氏には、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。何せ仕事を頑張ったらガシャで推しが出たという進研ゼミの広告マンガみたいな展開になってしまい、もはや読者の笑いを取るのではなく筆者が一人で高笑いしているだけの自慢に他ならない。しかもこの伝書鳩P、結果として一銭も身銭を切らず、無償のお石様だけでこの大勝利を収めるという、エンターテイメントにも欠ける残尿のような結果報告に4,000字(執筆に2時間)を費やしていることに若干引いている。画面のみんなもそうだろうから、せめて千雪のカワイイを網膜に焼き付けていってほしい。

 最高ですね。千雪は283プロの中でも唯一の成人アイドルで、年長者という立場や持前の包容力や優しさも相まってみんなの「お姉さん」なワケですが、時にはオトナカッコいいアイドルにも、そして今回のようにお花の似合う「女の子」にもなれてしまう。いろんな魅力を兼ね備えた、無限の可能性を秘めたアイドル、それが桑山千雪なのです。

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 初めての担当のプレゼンがこれでいいのかは全くわからないが、とにかくおれの幸福論は完成した。みんなも仕事をいっぱいがんばって、ガシャを回そう!!間違っても就業時間内にシャニマスを起動するような大人にはなるな、伝書鳩Pとの約束だぞ!!

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