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TCG未経験だけど、TVアニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』を全部観る(KCグランプ編)

コブラ「3クールのドーマ編が終わる」

ぼく「ドーマ編が終わるとどうなる?」

コブラ「知らんのか」









コブラ「アニオリがはじまる」

あらすじ

デュエルって楽しむモンなんだよ

 一向に原作通りの展開が進まないまま、放送週で換算すると一年以上続いた『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』のアニオリ展開。個人の魂や世界の命運をかけたドーマ編の激闘を経た遊戯たちに降りかかる新たな問題。それは「日本に帰る手段がない」ということ。

 そこに手を差し伸べたのは出来る弟のモクバ。彼は海馬コーポレーションの自家用ジェットで遊戯たちを日本に送り返してくれるという。だが、それには海馬が主催する「KCグランプリ」なる大会への出場をに出場する、という条件があった。

 これまでのドーマ編にて、海馬コーポレーションは買収されるという憂き目にあっており、社長の座に復帰した海馬は社の信用を取り戻す必要があった。そこで彼はアメリカの海馬ランドでの大規模なデュエル大会を企画し、優勝者への賞品として初代デュエリストキングの武藤遊戯との対決を提示した。誰よりも遊戯(闇遊戯)との決着にこだわっていたはずの海馬が、その権利を他者に差し出すという。個人の希望よりも経営者としての判断を優先するあたり、「社長」の肩書は伊達じゃない。

 かくして始まったKCグランプリなんですが、これがいい意味で牧歌的。なにせこれまでのドーマ編が「負けたら魂を奪われる」という重たい土台の元に進行していたため、負けても何も奪われないデュエルは、本当に久しぶり。また、ドーマ編では初出カードの強さのインフレが極まっていた印象があり、原作漫画の醍醐味の一つであった「カードゲームにおける駆け引き」の公平さが失われていた反動からか、今回のKCグランプリは真っ当なホビーアニメの雰囲気に回帰する。既存のカードを組み合わせたコンボこそ、遊戯王(というより高橋先生の漫画)の面白さだと思うんですよね。

 そして今回やたらと繰り返される「楽しむ」ということは、ドーマ編のカウンターだけでなく、すぐそこまで近づいているもう一人の遊戯との別れにも紐づいていく。ドーマ編がその後の展開を暗示して終結したこともあり、アニメ視聴勢にもこの物語のゴールがインプットされた段階で、今一度仲間たちとのデュエルを楽しむ時間が与えられる。

 それはささやかな思い出づくりのようであり、無邪気に学友たちとカードゲームに興じていられる時間の終わりを薄っすらと予感させる。話数が多く、鈍重にも思えたアニメ版だが、しっかりと「終わり」が迫りつつあることを、こうして忍ばせているのだ。

もうお前二度とデュエルするな

 「楽しむこと」をテーマにしたKCグランプリ編の敵は、当然それを阻む者となる。たとえそれが、血を分けた肉親のそれであっても……。

 というわけで、ジーク・ロイドである。私本編観ながらずっと容姿のイメージだけでカスのウテナって呼んでたんですけど、どんどん目的と手段が明かされていく内に「何一つ気高くない」「恥を知れ」「二度とその髪型でバラを持ち出すな」とか勝手にキレてました。

 ジーク・ロイド、女神を模したモンスターばかりを取り揃えたワルキューレデッキの使い手で、こいつのターンが始まる度に「ワルキューレの騎行」が流れるという遊戯王初の演出が演出のテンポを削ぎ、そのわりに完膚なきまで海馬に敗れて撤退、と思いきや海馬コーポレーションのネットワークにウイルスを仕込み困らせるという諦めの悪さがみっともない、最高に低いキャラクターがこの度爆誕した。というか、事あるごとに株価を操作される海馬コーポレーション、ちゃんとセキュリティソフトとか更新したほうがいいと思います。

 そんな彼の動機は、なんと逆恨み。兵器産業に軸足を置くシュレイダー家は、しかし後発であるはずの海馬コーポレーション(剛三郎時代)に劣る二番手の扱いを受けており、ジークは天才と称されながらも同じくその呼び名に相応しかった幼き海馬瀬人に対し、焦燥感を抱いていた。父が倒れ、会社の代表の座を次ぐことになったジークは会社を兵器事業からエンタメへと転換させるも、またしても海馬コーポレーション(今度は瀬人時代)に敗北し、永遠の二番手という烙印を押されてしまう。

 自社で開発したソリッドビジョンすらも海馬コーポレーションに先を越され、屈辱を味わい続けてきたジーク。彼は復讐として(ドーマ編の騒乱で失った)海馬コーポレーション社長としての信頼回復に奔走する海馬を妨害し、全世界が見守る大会で彼に醜態を演じさせ、失墜させることを企む。……要はこれ、自分の商才の無さ、運の悪さをすべて海馬に転嫁し、イチャモンをつけてるようなもの。当の海馬からすれば「自社を盛り上げるために企画したイベントにライバル会社の社長が参加して、ウイルスで妨害してきた」ようなもので、迷惑にも程がある有り様だ。

 もうこれ、デュエルで決着をつける云々よりも先に警察呼んだほうがいい案件なのだけれど、会社の威信をかけたイベントを実施中の海馬はそういうわけにもいかない。というかコイツ、海馬が身分詐称や株価操作などを理由に参加資格を剥奪すると宣言すると「海馬社長ともあろう人がなんと了見の狭い」とかぬけぬけ言い出すので、どうしたって好感度が上がる余地がない。目的も手段も最低の外道、それがジーク・ロイドという男なのだ。

 そんな身勝手な理想のために「憧れの人とのサシのデュエル」を台無しにされたレオン少年はコイツを二三発殴っても司法は見逃すだろうけれど、心優しいデュエル大好き青少年のレオンはコイツを排斥したりしないし、遊戯は正々堂々とデュエルを最後までやり遂げることを諦めない。さすがは毎話冒頭に「ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!」と呼びかけるアニメである。聴いてるかバンデット・キース

 全体的にキャラクターの濃い作品である遊戯王だが、ここにきて一切の同情の余地すらなく、ただひたすら「低い」と言うしかない敵キャラクターの登場に、まだこんな外道がいたのか、という変な楽しみ方をするしかなかったKCグランプリ編。これが遊戯たちに少しでもデュエルの喜びや相手と競うことを楽しむ気持ちを思い出させてくれたら、いいな、と思う。

 なにせ、次回予告で明かされた通り、いよいよ次がエジプト編に突入する。このアニメもようやく最終章に向けて原作のストックが溜まった漕ぎ出すことになったのだ。長い旅の果て、最終決戦が映像化され、それを観るというのは、こちらも背筋を正す想いがある。演技力がみるみる向上していく風間俊介氏が、二人の別れにどのような演技で応えるのか。

 ここまで来たらもう、後は走り抜けるしかない。

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