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例えばさ、この俺が月岡恋鐘の実家の定食屋を継ぐとするじゃん????

 昼食を食べたことでお腹も満たされ、外から差し込む日差しも暖かく、ついつい瞼が重くなる昼下がり。なんとか意識を保とうと窓の外を眺めながら、ぼんやり妄想することは誰にも経験あると思う。「学校にテロリストが侵入してこないかな」「メカゴジラとガンダムが闘ったらどっちが強いかな」などなど、取り留めもない空想を頭の中で繰り広げることは、無駄だとわかっていても楽しい。ただ、今回議題に挙げたいのはその中でも最もリアリティがあり、人生設計にも関わる重要な案件、クオリティ・オブ・ライフのお話です。どうか心して聞いてください。

月岡恋鐘が結婚しておれが店主を継ぐことになるであろう長崎の大衆食堂「定食屋つきおか」の明日の日替わり定食を何にすべきか、という検討

 まず大前提として、アイドルプロデューサーであるこのおれと、アイドルを引退した月岡恋鐘が結婚することは自明の理であり(古事記にもそう書かれている)、後任のPに全ての業務を引き継いだ後にお世話になった283プロダクションを円満退職し(天井社長が泣きつくので大変だった)(はづきさんは正社員登用された)、恋鐘の故郷である長崎に移り住み恋鐘の父親が経営していた定食屋を夫婦で継ぐ、という未来が待ち受けている。

 人気絶頂を極めたそのタイミングで突然の引退を表明した「L’Antica(アンティーカ)」は、日本アイドル史に新たな伝説を刻み込んだ。初の武道館単独ライブ、二日間で3万人強を動員したその公演のラスト、センターである月岡恋鐘は「今日は会場のみんなと、ライブビューイングに来てくれたみんなに話があるばい」と語り掛けた。アイドルを目指して上京したがオーディションに落ち続けたこと、283プロに所属してユニットのメンバーと出会えたこと、W.I.N.G.での初優勝をみんなで祝った闇鍋のこと、自分を見つめ直したG.R.A.D.オーディションのこと……。それら全てがファンの応援の賜物であり、ユニットの仲間たちと築いてきた思い出であることを、涙を浮かべながら振り返り、そして最後にこう宣言した。「L’Anticaは、運命の歯車は、未来永劫、錆びつくことはなか!」と。その言葉の真意は、L’Anticaに集いし5人の少女の総意だったのだろう。翌月、彼女たちは記者会見で解散を発表した。その日の日経平均は直角に等しい暴落ぶりを見せ、後に「恋鐘ショック」とワイドショーを連日騒がせた、令和アイドルシーンでも最も鮮烈な出来事であった。

善村良子 著,『ツバサを与えられた少女たち ~コロナ世代アイドルの光と影~』 ,2023, p412より引用

 「あの人は今!」と言わんばかりに連日お客や取材が押し寄せ、歩道を埋め尽くす大行列が週末の風物詩になった人気店。アンティーカ元センターが振舞う料理の味と、気のいいおしどり夫婦の明るい接客に魅了され、地元からも愛されるであろう「定食屋つきおか」は、長崎旅行や出張の際は必ず訪れるべき名店として、SNSやガイドブックに必ずその名が載る☆5つレビューの飯屋となるのは確定的に明らか。かつての看板娘が「元トップアイドル」の看板を背負っての凱旋という話題性もさることながら、時折283プロのアイドルたちもお忍びで訪れるため、あわよくばの遭遇目当てに県外からの来客も絶えないとか。

 そんな長崎の名物店を切り盛りしなければならないこのおれだが、困ったことに料理の腕は甘く見積もっても人様からお金をとってもよい代物とは言えないだろう。都内で一人暮らしする上で困らない程度の自炊スキルしか持ち合わせなかった一般男性が、飲食店のトップに立つ。その重圧に一度は怯んでしまったおれだが、「料理はうちに任せとき!プロデューサーはお店の経営と品出しとメニュー作りたい!ウチがおれば100人力やけんね!!」という説得に負け、長崎の保健所に食品衛生責任者の変更届を提出するに至ったのであった。まったく、うちのカミさんときたら、メンタル上限突破してやがるぜ。それとな、もう結婚したから「プロデューサー」呼びは止めてくれって言ったよな、恋鐘?

長崎の旨かもんを紹介するばい!

 さて、いざ長崎で飯屋を営むのなら、どんなメニューが取り揃えてあるべきなのだろうか。

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 なんといっても、「ちゃんぽん」は外せないだろう。リンガーハットのおかげで全国に名の知れた長崎ちゃんぽんだが、やっぱり本場のそれは格別旨い。豚骨スープと魚介出汁の組み合わせからなる食欲を誘う香りと味、野菜と麺をバランス良く食べられるちゃんぽんは、お腹いっぱい食べたい世の男性陣からヘルシー志向の女性まで、幅広く支持されている。もちもちした太麺もいいが、あえてうどん麺を入れる「ちゃんどん」や、ウスターソースを少量かけるなどのバリエーションがあり、その奥は深い。魚介の具材だとかまぼこが一般的だが、かにかまを贅沢に入れるとコクが増してオススメだ。

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 次に「皿うどん」だ。これまたちゃんぽん同様に魚介と野菜をふんだんに使った料理で、パリパリ食感の揚げ麺にあんを絡めて、しっとりモチモチに変化する皿うどんは、一皿で二度美味しいお得飯。長崎市内であっても太麺と細麺の店が混在しており、どちらも甲乙つけがたい美味しさで、地元の人でも派閥に分かれるという。県外から来た人にとってのオーソドックスは細麺だが、地元民には「太麺じゃないと認めない」という人もいるらしい。こちらも地元ではソースやお酢をかけて味を引き締めるアレンジが一般的なのだとか。

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 上二つの麺料理ほどメジャーではないが、長崎を訪れたらぜひ食べてほしい「レモンステーキ」というものがある。鉄板の上で焼かれたステーキに、醤油の効いた和風ソースとレモンを上乗せした名物。県外の人にはなかなか信じられないかもしれないが、これがもうべらぼうに旨い。レモンの酸味が牛肉の脂のしつこさを打ち消し、さっぱりした味わいと薄切りゆえの噛みやすい歯ごたえでご飯が進む。土地性ゆえにカキフライとのセットメニューをお出ししているお店も多く、ボリュームにも満足いただける品が出せるだろう。

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 そして忘れはならないのが、長崎は魚の街ということ。かつて貿易の窓口として栄えた歴史を持ち、漁港を有する街としてその漁獲量は日本を代表するものである。

■魚種別漁獲量
全国1位:くろまぐろ、いさき、さざえ、あじ類、ぶり類、たい類
全国2位:そうだがつお類、いわし類、さば類、あなご類、あまだい類
全国3位:いか類
■養殖収穫量
全国1位:ふぐ類

■魚種は250種を超え、全国1位と言われています!
長崎県の魚種は250種を超え、全国1位といわれています。日本の最西端に位置し、三方を海で囲まれる長崎県では、年間を通じて、四季折々の旬な魚を数多く食べることができます。

出典:長崎市ホームページより

 春はアジ、夏はイサキで冬はフグ。身が引き締まった刺身は海鮮丼にしても酒のツマミとして出しても、とにかく旨い。この辺りはマストと言っていいだろう。

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 そうこう言っていたら、うちの料理長から指摘を受けてしまった。とくに佐世保バーガーは見た目のインパクトも強く、ロケ番組などでの食べっぷりが好評の恋鐘にぴったりの一品だ。……作れるかは不安だが、うちの台所主なら大丈夫だろう。

 その他、定食屋なら唐揚げだとか生姜焼きだとかコロッケといった定番の定食を揃えたり、お酒に合うツマミも何点かは欲しい。イカやエイヒレを軽く炙って出すのもいいだろう。あとは焼酎と日本酒を卸してくれる業者さんも探して、甘味ものはいっそ取り寄せで済ませてもいいかもしれない。ここまでメニューを充実させたら、後は味と接客が見せどころだ。定食屋つきおか、今日も元気にオープンだ。

娘さんをぼくにくださいの回

 メニューうんぬんで悩む前に、最難関の壁を突破する方法を考えなくてはならないのを忘れていた。そう、恋鐘のお父さんである。

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 月岡恋鐘を語る上で重要となるのが、父との確執である。詳細は不明だが、アイドルを志す恋鐘は父の説得に失敗し、家を出るような形で上京してきたのだろう。その父は恋鐘からの電話にも出てくれず、相当頑固な性格であることが伺える。

 お父様の心境を想うと、一概に否定するのもためらわれる。ゆくゆくは店を継いでくれるであろうという期待に背かれたこと、娘に芸能界という未知の世界飛び込んで欲しくないという不安な気持ち。そして何より、手塩に掛けて育てた一人娘が家を出るということへの、父親としての拒絶反応。その垣根に自分が割って入ることは、アイドルを売り込むどの営業よりも難しく、厳しい闘いになるはずだ。何度も追い返され、激しい言葉を浴びせられるかもしれない。

 ここまで不安に苛まれたのは、いつ以来だろうか。オーディションの結果通知を待つとき、シーズン1なのに甜花がお休みを3週連続で要求してきたとき、浅倉たちが海に飛び込んで衣装を台無しにしたと聞いたとき……。そんな時、おれの手の震えに気づいた恋鐘が、優しくおれの手を包み込んでくれた。おいおい、おれがビビってどうするよ。どんなステージも度胸と笑顔で乗り切ってきた恋鐘に相応しい旦那様になると決めたんだ、その入り口に立つ前に日和ってどうする。恋鐘の手を空いた左手で強く握り返し、おれたちは長崎行きの飛行機に搭乗した。

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P「お義父さん、今日は大事な話をしに参りました」

父「………ウチにこげな娘はおらんち、言うたばってんが」

母「お父ちゃん!!……すみませんねぇ。この人ったら昔っから強情で…恋鐘もよう来たね。お茶淹れてくるから、そこ座りんしゃい」

P「恐れ入ります」

父「……」

恋「……お父ちゃん!プロデューサーの話ば聞いてくれんね!?ウチが勝手に東京に行ったことは謝るけん!」

父「………。」

P「お義父さん、恋鐘さんは、誰もが認める日本一のアイドルになりました。たくさんのファンを、仕事で出会う様々なスタッフを、そして私を、いつも笑顔にしてくれる、暖かい存在でした。

 恋鐘さんと一緒にスターダムを登りつめていく日々は、毎日が楽しかった。辛いこともありましたが、恋鐘さんの笑顔と料理に救われて、なんとかここまでやってこれました。恋鐘さんやアンティーカをプロデュースしていたことは、僕のプロデューサー人生の中でも一番の誇りです。

 そんな苦楽を共にしていく中で、いつしか恋鐘さんに惹かれていました。アイドルとプロデューサーという立場上、もちろん許されないことです。これはいけないことなんだと、ずっと自分に言い聞かせながら、仕事に打ち込んでいました。アイドルとしての『月岡恋鐘』を応援しようって、そのためならどんなことでもやろうって決めて、気づけば彼女たちはアイドルの頂点に立っていました。

 ……彼女たちからアイドルを引退したいという申し出を聞いたときは、悩みました。このタイミングで引退することが正しいのか、アイドルでなくなるのなら、恋鐘さんとは一緒にいられなくなるんじゃないかって。何度も話し合いました。初めて衝突もしました。僕が未熟だったばっかりに、アンティーカを、恋鐘さんを手放すのが、怖かったんです。

 その時、僕の背中を押してくれたのも、恋鐘さんでした。『ウチは、アンティーカのみんながやりたいことを応援したい。プロデューサーの気持ちにも応えたい。だから、本音で話してくれんね?』って。その時初めて、彼女に気持ちを伝えました」

父「………。」

P「私は、アイドルプロデューサー失格です。だから私はその肩書を捨て、ただの一般人として、もういちど恋鐘さんと向き合い、今日この日を迎えました。……勝手なお願いとは承知しております。お義父さんの大事な娘さんを二度も奪うような真似をして、自分がそうされたらどうなるだろうって、考えもしました。それでも、恋鐘さんと夫婦になりたいんです。どうか、娘さんをぼくにください!!」

父「……○○さん、やったけね。申し訳ないばってん、ウチには嫁に出す娘もおらんで、なんもなかとですよ」

恋鐘「……!!お父ちゃん!!」

父「すまんが、帰ってくれんかね。私は明日の仕込みがありますけん」

恋鐘「そんな…とぉちゃん……」

P「恋鐘……」

母「すみませんねぇ。ずっと昔からあん人で、意地っ張りなところは娘とそっくりでしょう?お父ちゃんのことはなんとかしますけん、どうぞ泊っていってください。客間もありますし、夜はめっぽう寒かとですよ、長崎は」

P「お気遣い、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

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P「はぁ……」

 勝算の無い賭けだと、わかっていた。一体どのツラ下げて、自慢の娘を芸能界に引き込んだ自分が、あまつさえ結婚までさせろとのたまうのか。おれは自分のエゴを通してしまったばかりに、恋鐘とお義父さんの仲が修復不可能になってしまったことを悟り、恐怖した。お母さんの言う通り長崎の夜は寒い。だがそれ以上に、自分のしでかしたことの恐ろしさに、身体の震えが止まらなかった。

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 長崎は、夜景が美しいことでも有名だ。なんでも「世界新三大夜景」とやらに選ばれたらしいが、他の二大巨頭がどこなのかは全くわからない。月岡家からは長崎の街が一望できて、眠らない街の電灯とネオンが漁港の海に反射して、それは確かに美しい光景だった。こうして見渡すと、「坂が多い」というのも本当なのだな。ロケ番組で訪れたこともあったが、こうして仕事と離れて眺める長崎の夜、東京のビル街にはなかった風情に、少しだけ心が安らぐ。

 小さく、床が軋む音がした。高速道路を走るトラックの音に入り混じった、ギシッという小さな音。気づけば、恋鐘のお義父さんがそこにいた。身体は緊張と焦りを取り戻し、ひんやりとした汗を一線、頬に伝う。ダメだ、おれはどうしようもなく、この親父さんが怖い。

父「まだ、おったとね」

P「…はい。奥様のご厚意で、一泊お邪魔させていただきました。すみません、私らがいると休めないでしょうに」

父「別によかです。……よければ、一杯」

 恋鐘のお義父さんは、背も大きく年齢に似つかわしいガッシリしたお身体で、とても存在感があった。さすがに頭髪には白いものが混じっていれど、その若々しさには頭が下がる。10数年間フライパンを振るい続けるには、これくらいの屈強な身体が必要なのだろう。ただ、最近腰を痛めておられるとのことで、少し庇うように歩くお義父さんの手には、焼酎のボトルが握られていた。芋だ。

P「……頂戴します」

 まばらな形をしたロックアイスの上に、焼酎が注がれる。いい香りだ。お酌をしようとしたが、「手酌で」と断られてしまった。まだ警戒されているのだろう。

 ちなみに、焼酎も好きだ。こちとら、夜のお付き合いで仕事をもぎ取るのも本業、酒付き合いには多少の自信があった。飲み干したグラスからは、少し甘い香りが立ち込めた。

父「おぉ。都会の人はカタカナのお酒しか飲まれんと思っとったわ」

P「父の趣味なんです。若い頃に九州で暮らしてたことがあったらしくて、自分がお酒を覚え始めたころにたくさん飲まされましたから」

父「……。」

 沈黙。男二人、夜景を眺めながら酒を交わすとなれば、何を話せばよいのだろうか。これなら、TV局の嫌味っぽいディレクターの方がまだ御しやすい。ヘンに機嫌をとったり、太鼓持ちされて喜ぶようなタイプではないだろう。いっそのこと、昼間のことを誤るべきなのだろうか。弱気になった心が口を開かせようとしたそのわずか先に、沈黙を破ったのは月岡氏のほうだった。

父「さっきは、すみませんでした。私も案外幼いもので、恋鐘がアイドルになって出ていっちゅうてから数年、どがん話したらよかかが、もうわからんとです」

P「…中々、休みを取らせてあげられませんでしたから」

父「恋鐘は、昔からそそっかしくて、危なっかしくて、でも目が離せんくて、よう可愛がっとったです。初めての娘で、なんばしてやったら喜ぶか考えながら、毎日厨房に立ち続けました。……でも、歳には勝てんですね。お医者さんからも言われました。そろそろ後継ぎを育てんしゃいって」

P「……」

父「本当は、期待しちょったんです。あん娘が継いでくれれば、うちは大丈夫やって。飯の作り方も、私が教えました。月岡家の味は、あの娘が覚えてくれちょる。そん時に『アイドルになりたか』っち言われて、大人げないことしてしもうたとですよ。それから恋鐘に会ったのは、今日が初めてです」

P「そうだったん…ですね」

父「恋鐘が帰ってくるなんて、奇跡やち思うとります。縁を切ったって思われてもおかしくなかし……お父ちゃんって呼ばれても、私にはそんな資格なんてなかち思うとった…」

P「そんなこと…ないです」

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P「恋鐘は、お義父さんの教えを今でも大切にしてます。『誰かとご飯って、胸がなんか温かくなって幸せ~って感じするやろ?』って。これはお義父さんの言葉なんだって、言っていました」

P「私が恋鐘に惹かれたのは、そういうところなんです。ユニットのメンバーや事務所のスタッフ、それから私も、恋鐘の笑顔と料理に救われてきました。恋鐘は、人を元気に、笑顔にする秘訣を知っています。暖かくて、美味しい料理をみんなで囲むこと。それはお義父さんから受け継いだものだって、話してくれました」

P「恋鐘は、お義父さんのことを忘れてなんかいませんよ。今でも大切に想っているはずです。それだけは、本当ですから」

父「っ……」

P「……!!すみません、出来すぎた物言いで!それに『恋鐘』だなんてー」

父「……○○さん、長崎で暮らすとやったら、方言はもう少し勉強せにゃいかんね。ウチに来る客は、みんな地元の漁師じゃけん」

P「っ…それって……!!」







父「○○さん、娘を、この家を、どうぞ、よろしくお願いします」







 飯屋の朝は早い。とくに今日は、漁から帰ってきた漁師たちで実質貸し切り状態になる予定だ。冷えた身体を暖めたくてウチを訪ねてくれるのは、信頼を勝ち取った証なのかな?と思うくらいには、街に溶け込んだ自身もついてきた。

 先日油をさしたばかりのシャッターはそれでもぎこちなく、上げ下げにはややコツがいる。暖簾を出すのはもう少し、鍋が十分に温まってからだ。店の裏口では、愛しの料理長が魚介の卸業者と何やら交渉に大忙しだ。当店の金勘定は、彼女の値引き術によって助けられていると言っても過言ではない。本当、頭が上がらない。

恋鐘「ぷろでゅーさ~!!今日は大きかブリが入ったばい!刺身にして出したらそれはもう絶品たい!」

 とのことで、嫁が魚を持ってぴょんぴょん跳ねている。元アイドルで、マイクを片手に数えきれないほどのファンを魅了していた月岡恋鐘は、今では包丁片手にどんな魚でも捌いてしまう、どこに出しても恥ずかしくない料理人になっていた。

 そのブリ、賄いに取っておいてくれよ、とだけ伝えて、自分も仕込みに戻る。彼女には内緒にしているが、今日は午後からイルミネーションスターズの三人が遊びに来てくれることになっていた。酒を酌み交わすことができる年齢になった三人に、獲れたての旨いもんを食わせてあげたい。もちろん、なるべく遅くまでならないようにするつもりだが、ウチの酒豪がどうなることやら。

 そんなことを考えていると、船が港に戻る汽笛の音がした。しまった、いつもより早い。味噌汁とちゃんぽんスープの状態を見なければ。少し寝ぼけた頭をリセットして、店に戻る。見習いとはいえ、自分は店を預かる主人だ。半端なものをお出しして、“月岡さんとこの味”を汚すわけにはいかないだろう。さぁ、今日も忙しくなるぞ。


おれ「定食屋つきおか、今日も開店ばい!!」





(おつかれさまでした)
(本稿は、 #第3回シャニマス投稿祭 応募作品になります)

(投稿者は、長崎県を応援しています)
(Gotoトラベルとは一切関係ございません)
(主催のハバネロP様、全投稿者のプロデューサー各位、ここまでお読みいただいた全ての皆様に感謝申し上げます)
(前回の応募作品はコチラからどうぞ)


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