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いちょう祭、死ぬほど楽しかったくない?っていう話

私が初めてスティックを握ったのは大学1年生の新入生ライブ、ではなく
それよりちょっと前のスウェーデン留学時代のことである。

当時私はスウェーデン語も英語もろくに話せず、選択科目には言語を使わなくて良い体育とアンサンブルの授業をとった。

体育の授業に行ってみると、そこは身長180cm以上の大男たちが8割を占める、50mのタイムが2桁代の私には場違いも甚だしい場所だった。
それでもフレンドリーなイケオジ先生が毎種目私に特別ルールを設けてくれ、なんとかギリギリのところで1年間乗り切った。

肝心のアンサンブルの授業であるが、私以外の6人のメンバーはすでに複数の楽器のスキルを有しており、ピアノしか弾けなかった私は見事に数からあぶれ、タンバリン担当になった。

そんな波乱の幕開けとなった私の留学生活だが、ある日転機が訪れる。
クラスメートで同じアンサンブルクラスを取っているイケメンがこう話しかけてきたのだ。

「ともこ、ドラムやってみない???」

私は入門者が必ず口にする"あれ"で速攻断った。
「手と足別々に動かすなんて無理ぃぃぃぃぃいいいい」

しかしイケメンはなかなか折れてくれず、「君ならできる」だの「意外と簡単」だの甘い言葉で私を騙し、かつ実演と丁寧な説明をもって私に8ビートを教えてくれた。

そんなこんなで私はドラムを始め、スウェーデンの高校の全校生徒が見守る終業式で初舞台を踏み、大学の軽音サークルに入り、この楽器に苦しめられ続けて今に至る。


私の同期はカリスマが多い。
見ててうっとりするくらい楽器が上手だし、魅せ方もうまい。

そんな彼らと自分を比べ、コンプレックスに苛まれつつ3年を過ごした。

幹部をしていたころは仕事をこなしまくり、サークルに貢献をすることで自己を保っていた。
しかし、4回生になった瞬間思ってしまった。

死ぬほど顔出すくせに、楽器下手な4回って最悪やん、と。

時間に「初心者」というシールドをぶっ壊され、ステージ審査にも落選し、4月初旬、自分の中のネガティブモンスターは日に日に増幅していった。

でもある日、ふと気づいた。
生まれてこの方、体をうまく動かせた試しがない、と。

死ぬほど運動音痴だし、歩き方もなんかおかしい。滑舌も悪いからきっと口の動かし方も下手なのだろう。車の運転も危なっかしすぎるし、ゲームもできない。

そんな私が、たかが3年でドラムが上達すると思ったらいけないのだ。

そう考えると、なんだか急に気持ちが楽になった。

その日からいちょう祭の目標は「楽しむこと」になった。
4回にもなって本当に情けない目標だが、ただその1点のみを意識して日々練習に励んだ。

結論から言うと、いちょう祭は本当に楽しかった。
自分が組みたいメンバーを集めてマイペースに練習したオムニバスバンド。
かつてないスピード感に戸惑いながらもなんとか形になったボカロ。
過去一鍵盤と真摯に向き合ったaiko。

初めて組ませてもらう先輩や後輩も多く、その出会いの1つ1つが新たな気づきとなった。

そしてこの2日間、本当に「良い音」にたくさん触れることができた。
個々のスタイルやスキルの差はあれど、1人1人が全力で、できる限りの表現をしているその姿に何度も何度も心動かされた。

またこのライブを裏で支えてくれた部員にも本当に、本当に感謝している。
PAで音を調整してくれた人、写真を撮ってくれた人、転換をすすんで手伝ってくれた人、準備・片付けをしてくれた人、幹部のみんな。他にもたくさんの人が、色んなところで力を尽くしてくれた。
全部見えてるよ(多分)。本当にありがとう。

最高の演奏をたくさん受け取って、迎えた大トリのaiko。
1つ前のFINLANDSを聴いている時は、心臓が潰れそうなほど緊張していた。
でも、1曲目「ストロー」の落ちサビで、フットペダルが効いていないことを悟った時、まとっていた緊張が全てなくなった。

完璧な演奏ができないなら、楽しむしかない、と。

正直ぷつぷつに切れる和音はめちゃくちゃにダサかったけれど、ピアノに初めて触れて17年、今までで一番鍵盤を叩くのが楽しかった。
軽やかに踊るベースとドラム、自在に駆け回るキーボードとギター、安定的に音を刻むバッキングとボーカル。
尊敬するメンバーを横目に、音に乗って指を動かすのは、なんだか最強になれた気分だった。(撮ってもらった写真超猫背だったけど)

教室いっぱいの観客、あのステージから見た景色を、私はずっと忘れることはないのだと思う。

学部生としては残り1年。もし院に合格すれば残り3年。
課題はまだまだ多い。ドラムのフィルは下手くそだし、キーボードもリズムの取り方がまだまだ甘い。

でも、みんな懲りずにこの下手くそな4回生に付き合って欲しいなと、
愛想尽かさずにこれからも仲良くして欲しいなと、

とまあ、なんかそんなお話。




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