呪縛
この地に生まれて良かった。天と地に四季がある。内なる者と対峙するには、天に救いを求め自身の内に大きな四季を起こすしかないだろう。そこに時の経過は関係ない。強風に大粒の雨、海を荒立て渦潮の中を回転し大地に放り出され焼け付く日差しを浴びる。天を舞い地を這う者達は優しく、ぼくの思いを察しロープをついばみ食い噛みちぎってゆく。
固いロープは朽ち果てバラバラと体から剥がれ落ちてゆく。心は傷跡だらけだった。涙がこぼれた。まだコトリコトリと動いている。ぼくはうれしかった。
最初の傷は深く、ひどく痛んだ。どう対処すればよいのか分からない、ただそれが怖かった。度重なる傷のすべてが古傷に刺さり、心は血を流し始めた。ぼくは死を理解出来なかった。絆創膏はすぐに血にまみれた。大きなテープを貼り包帯を巻く。板を貼り付けロープを巻く。それでもどんどん不安な気持ちに圧倒されていった。ぼくはもうどこにも傷がつかないように手や足の小指の先から体内の隅々までロープを巻き固めていった。服を着た。平気なフリをした。必死で大丈夫だと思い込んだ。
何十年もぼくは失敗ばかりを繰り返す。ぼくは臭うロープのすべてを剥がして捨てる事にした。ぼくが生み出したすべての間違いと勘違いを、ぼくが捨てるのだ。多分ぼくの手当てなど必要なかったんだと思う。ぼくが不安に負けただけだった。肉体が消える前にすべてを元に戻そう。
裸になった。ぼくのすべてはこれだけで、今だけのもの。
とても寒かった。季節は冬か。また服を着る。ぼくは人間だからね。
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