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読書感想文『先生の白い嘘』2

Tone.さんが呟いていた『先生の白い嘘』読了しましたので、課題の感想文を一つ。
いやぁイイ漫画を教えてもらった!
性をどう見つめるか、という一助になるような内容でした。
なお、感想文の課題元のTone.さんは読み終わったらしいのでネタバレも気にしません。
高等テクはもういらないぞ!

その2

ざっくりあらすじ

主人公の先生は高校教師。大学時代に友達の彼氏にレイプされてからずっと関係を続けさせられており、心身は人知れず不安定な状態となっていた。
やがてその友達の彼氏は友達の夫となるが、以前関係を強いられている。
ある時、クラスを受け持つ男子生徒が不倫していると噂が立つ。
男子生徒もまた逆レイプを受けた被害者だった。
しかし先生は自身の経験から男子生徒に男への怒りをぶつけてしまった。
その後男子生徒は先生が怯えながら男と会っている姿を目にしてしまい、先生が気になって仕方がない。
男子生徒との関わりの中で先生は自身のトラウマや恐怖と向き合い、似た傷を持つお互いと触れ合っていく。
彼らを取り巻く周囲もまた数々の傷に溢れている。
それぞれが絡まり合って展開していくそれぞれの性、そして性の格差とは-

というようなストーリーです。
これはかなり触れづらい話題ですね。。
まず性的な描写がかなり多いです。 

では、ネタバレを気にせず書いていきます。

感想

私は女なもので、どうにもフェミ寄りになりがちなのがアレですね。。
つむは息子がいるためにリベラル推進派です。
さて、以下はまたあくまでもつむの感想です。

お前に男を許せるはずがない

前回は悪役についてさらりと書いたのですが、今回は言い足りないので鬼畜・早藤の記憶より。

この人リアルで居たら本当に最悪なのですが行動に不整合が多く、人間味がないほど凶悪なのにかなり敏感で歪みを感じさせる魅力のある悪役です。
一体どんな風に育てばこんな悪魔になり得るのでしょうか。

早藤の回想で、母親がひどく殴られ倒れており、心配した5歳くらいの小さな早藤が声をかけるシーンがあります。

「ねえお母さん、どうしてお父さんはお母さんを殴るの?
殴られたらやめてって
なんで怒らないの?
僕が 僕がかわりに怒ろうか…?」

「やめて
お母さんが悪いのよ
言い返したりしたお母さんが悪いのよ」

そして高校生になった早藤は父に進路を勝手に決められても口答え一つしない男の子です。

さて、以下からはつむの私見と徒然です。

これぞ悪しき記憶、古き日本のスタンダード・DV亭主関白。
大抵DV亭主は帰るとすぐに酒を飲み始め、家事が行き届いてないと妻に文句をつけ、飯が不味いとちゃぶ台をひっくり返し、妻が反抗すれば殴り、子が反抗すれば母諸共殴ります。
そして家事も育児も妻に押し付け仕事だと言っては酒を飲み、仕事終わりだと言っては飲み、休みだと言っては飲みます。
もう1年365日酒盛りパーティーです。他所に女を作ることや暴れることすらあります。

ドラマとかでよく見るじゃないですか。
あれって別に作り話でもなんでもないんですよね。
程度や雰囲気の差こそあれ昔の日本ではザラにある話ですよね。

現代ではDVとして警察の介入もありますし、離婚する女性も増えてきました。
しかし何十年か昔は「夫の望むようにしなかったお前が悪い」と実家に帰ってまで妻は怒られていたなんて時代もあるわけですし、そんな書籍も家系に受け継がれる記憶もあります。
しかも不倫に至っては「お前に魅力がないから」「妻なら浮気の一つも黙認すべきだ」などと、言われもします。
妻が同じことをすれば普通に悪妻とされます。
劣悪な環境だ…意味がわからない…

実際つむが大好きな亡くなった母方の祖父も若い頃にはそんなDV亭主の片鱗があったようです。
なのでこのつむもまた、「女は大人しく、父や夫に逆らってはいけない」と言われ育っています。
祖父が祖母に手を上げたかどうかは知りませんが、
口の立つ叔母が口答えをすると祖父は怒って叔母に皿を投げつけ、
すると運動神経が良い叔母はそれをヒョイッと避け、
更には飛んでくる皿を上手くキャッチして見せる軽技を披露したそうです。
より怒った祖父は祖母に怒鳴ったため叔母は口答えをやめた、という話を聞いて育ちました。
ちなみに皿は頭に血が昇りやすかった若い祖父により虚しくも全て壊されてしまったようです。
そして皿がない上に怒鳴られて苛ついた祖母から延々とブチブチブチブチ文句を言われ、ポケットマネーで皿を新調させられた祖父は2度と皿を投げることはなかったそうです。
なんだこの話。
当然さほど教育効果はありませんでした。

なんていうか、叔母のスペックと祖母のメンタルが強いのでコントみたいになっていますが一応これもDV行為ですね。
避けゲーではなく。

話は戻りますが、人間も所詮動物なんですよね。
先日の感想文1で書いた通り、群れを作る動物にはマウンティングの習性があります。
本当に大人しく逆らわず、相手を図に載せすぎるとやはり攻撃してくるものです。
そして自分自身が得るのは健全ではない精神。
いい事ないやな。。

この私が見た事がない幻の「大人しい古き良妻の姿」は作中でもコアなところなんじゃないかと思います。
女が男の承認を受けなければ生きていけない、といったような教育をしてきた国において、
素直に「良妻」として振る舞い弱者とされてしまった女性。
それにより増長してしまった男性の悪には、同じ男性すらもやがて踏み潰されていきます。
潜在的に女は無力感を抱え、男は罪悪感を抱えることとなってしまったために、
その中でも更に弱い子供たちや消極的なタイプの人はつけ込まれて搾取を受けることになってしまったのではないでしょうか。

実際今では妻からDVを受ける男性も少なくないようです。
これは弱さを傘に来たもので罪悪感に訴えるために、男性はなす術なく一方的に暴力を受け続けるという逆の支配です。
逆レイプされた新妻くんはこの立場ですね。
若く未熟で罪悪感につけ込まれている。
男の悪の部分、そして女の弱者意識を改善していかなければ性の格差の是正は成らないのだろうなぁ。

さて後の鬼畜、早藤少年も父親によるDVの被害者です。
殴られた描写はありませんが、母のアザを見るだけでも心が痛み怖かったでしょうね。
父親の暴力が子に及ぶことを恐れた母から父に提言することすら止められています。

父は昔のスタイルの父のようなので、子には殆ど関わらなかったのではないでしょうか。
すると当然唯一の心の拠り所は母となります。
早藤少年は幼い頃から母が自分のせいで殴られることを回避しようと、とても良い子にしていたのではないでしょうか。
そのスタイルを続けていきますが、体が大きくなり男になり始めると日頃父から殴られていた母が息子にまで怯え始めます。

ただ母は早藤の気持ちを利用し、彼の意思を無視して自分の安全を優先しようとする。
傷つき続けると人間は自分を守るために変質していきますもんね。
その裏切りの態度に気づいた時の悲しみは次第に苛立ちや嫌悪へと変化して愛憎が入り混じった状態になったのでは。

そして根底にある「悪である男(父)は許されない」という感情と「俺は男なんだ」という意識が結びついてしまった時、
自らを「鬼畜の男」へと変貌させてしまったのではないでしょうか。

美鈴先生を殴りながら叫んだ「お前が男を許せるわけない」
これは抑圧された長年の自身の怒りをなかったことにしないでほしいといったように見えます。
母と同じ非力な女に憎まれ続けることで己の感情をを満足させていたのでしょうか。
代理を求めるというのは、男が許せないのに男である自分というものを罰してほしいかのようです。
やるせないですね。

きっと母に父と自分は違うと示してもらえていたら、母がもっと違う方法を取れていたら違っていたのだろうな…

母とは真逆で苦手な、強かかつ己の目的に忠実な女である妻・美奈子を振り払えなかったのは
あながち出世目的だけでない、ある可能性を持っていたからのようにも見えますね。

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