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机上詩片③「蜘蛛」

おれは こどくな くもだった

寂びれた 空き家に いとをはり

迷った 羽虫を 捕まえて

その日を しのぐ ろくでなし


あるとき 蝶が 舞い込んだ

ぼろけた 空き家に 不似合いな

色鮮やかな アゲハ蝶

世間知らずの アゲハ蝶

そいつは ふらふら飛んできて

空き家の まどに 羽おろし

ものめずらしそうに おれをみて

目を 輝かせて こう言った

「そっちへ いっても いいかしら」


色鮮やかな アゲハ蝶

世間知らずの アゲハ蝶


しばらくぶりの ごちそうだ

自慢の足で 手招きし

笑顔を作って 返事した


そんなところに とまってないで

こっちへおいで 話をしよう

おれは ずっと 独りでね

話し相手が 欲しかった

ちょうちょは まんまと 引っかかり

おれの 巣へと 飛んできた


色鮮やかな アゲハ蝶

世間知らずの アゲハ蝶


なにも知らない そいつの肩に

糸の 毛布を 羽織らせて

なに食わぬ顔で もてなした


そいつはとても よろこんで

おれの はなしを きいていた

どうでもいいおれの どうでもいいはなし

まっすぐ おれの 目だけ みて

しゃがれた おれの 声だけ きいた


おれは くもで ちょうちょは えもの

おれは それを 知っている

こいつは それに 気づかない

おれが 敵だと 気づかない


おれは なにを おもったか

おろかな ちょうちょに こういった

「おれは くもだ みにくい くもだ  

おまえは くもの ごちそうで  

これから おまえは たべられる」

ちょうちょは えがおで こういった

「こんなわたしで いいのなら  

どうぞ たべて くださいな  

あなたの たのしい おはなしに  

かえせるものが みつからないの」


おれは ちょうちょを ばりばりたべた

色鮮やかな アゲハ蝶

世間知らずの アゲハ蝶

そいつは なみだの あじがした

あかくて しょっぱい 

なみだのあじが

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