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あの失敗が分岐点(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1577日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。




おはようございます。
山田ゆりです。

今回は
あの失敗が分岐点(ショートショート)
をお伝えいたします。



あの日、俺は集金を終え、駐車場に停めてある車に近づいたところで携帯電話が鳴った。

俺はとっさに持っていた集金の封筒を車の上に置き、胸からメモ用紙とボールペンを出し携帯電話を開いた。

大手ゼネコンのA様からだった。
昨日の工程会議のあと、変更点が出たとのことで、詳しくは図面をメールに添付されたということだ。

電話はなかなか終わらなかった。
相手が相手だしこちらから切るわけにもいかない。

これは座って話した方がいい。
俺は車のドアを開け中に入った。

話は3日後のゴルフコンペの話に移った。
会費は既に経理課が振り込んでいるはずだ。
コンペの協賛品も先日お届けした。

一緒に回る他の3人のメンツはしっかり調査済みだった。
全ては抜かりがない。



やがて、先方の電話が終わり、俺は車のエンジンをかけ、お気に入りのCDを聴きながら会社に向かった。


会社に戻ったらA様からのメールを早速確認しなくては。
そう思いながら会社に近づいたその瞬間、思い出した!

集金のお金は!

助手席に置いたカバンの中を探った。
ない!

そうだ、あの時、車の上に封筒ごと置いたのだった。



サーッと全身が寒くなった。
俺はもう一度あの場所へ戻ってみた。
しかし、あの封筒はどこにも見当たらなかった。

封筒はATMコーナーによくある、一般的な封筒で、自分の勤務先名やそれが分かる何かは書いていなかった。

今日は集金の日で、それを集金してきたのだ。
金額は370,125円。

何度周りを見てもその封筒はなかった。
もしも誰かがそれを見つけて交番に届けても、それが自分のものであるという証拠がない。

俺はダメもとで先ほど通った道をゆっくり走って帰ったが、それらしい封筒は見当たらなかった。


会社に戻り、経理部長にそのことを話した。
部長は目を大きく見開き驚いていた。

やがて社長に呼ばれ事の経緯を聞かれた。
俺は嘘偽りなく答えた。



370,125円。

結局、その金額は、なんと、俺に対する【短期貸付金】ということになった。
つまり、俺が会社からお金を借りたという形で、それを会社へ返済しなければいけないということだった。

つまり、俺が「失くした」ということを信じてもらえなかったということだ。
俺が使い込んだとでも思ったのだろう。


俺は納得がいかなかった。
もちろん、集金してきたお金を失くした俺に全責任はある。
しかし、それを俺が全額負担するのはうまく説明できないが違うと感じた。



確かに俺は仕事中、時々さぼる癖がある。
ちょっとの休憩のつもりで車の中で寝たら、寝過ごして商談をすっぽかしたことがあった。

たまたま、メモ用紙がなくて、打ち合わせの日時を間違えたこともあった。

会社の駐車場でバックした時に後ろをへこませ、人から言われるまで数日間、「いつどこで凹んだのか気づかなかった」としらを切ったこともある。

それでも集金の370,125円は絶対に車の上に置いたのだ。




俺はその短期貸付金を払わずにいた。
その後、年利率3.000%、2.550%、2.6125%,
2.6100%と、毎年利率が変わりながら、短期貸付金に対する認定利息が計上され俺に対する短期貸付金は増えていった。

決算時に毎回、俺に催促が来たが俺は一切払わなかった。
数年後に370,125円は認定利息を含め430,000円を超えるようになった。


俺はその数年後に退職し会社から貸付金の催促が来た。
俺はそれを拒否し黙って都会へ出た。




田舎へはもう20年以上帰っていない。
430,000円の為に20年以上、身を隠していることになる。
その金額のために俺は田舎を捨てたのだ。


俺はあれから心を入れ替え今の会社に入った。
最初は社長のお抱え運転手だった。
俺の仕事は車の清掃と整備が主だった。
俺はどんな仕事でもいいと思っていた。とにかく与えられた仕事を一生懸命やると決めた。


社長の運転手の仕事は不定期だったが、空き時間がたくさんあり、それを俺は有効活用した。
空きの時間はもっぱら読書に費やした。
先人の教えを頭に叩き込んだ。


また、社長がお会いする方がどのような人物で会社とはどのような関係性なのかを手書きのノートに逐一記入していった。


そのノートが5冊目を迎えた頃に運転手としての任務を解かれ、俺は総務部の広告宣伝課に配属された。

既に関係会社の上位役員の名前やプロフィール、その会社の強みと弱みは頭の中に入っていたから交渉はうまく行った。
本来の口の上手さも幸いした。





高層ビルが立ち並ぶ窓を眺め、時々、あの頃のことを思い返す。
今の私の役員報酬は勿論、あの短期貸付金の額を遥かに超えている。



あのことがあったお陰で今の私がある。

あの失敗が私の人生の分岐点だったと思う。

だから困っている私に塩対応してくれた当時の会社に感謝している。



「専務、お車の準備ができました」
秘書からの内線電話で我に返り、私は鞄を持って部屋を出た。






今回は
あの失敗が分岐点(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。








◆◆ アファメーション ◆◆
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私は愛されています
大きな愛で包まれています

失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています

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