現実を受け入れよう
山田ゆり
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「なんかおかしい。」
のり子は少し前から軽い咳が出るようになっていた。
言葉を発すると同時に咳が出る。
久しぶりに風邪をひいたのかもしれない。
仕事中も軽い咳は続いた。
マスク着用が必須の職場だからのり子が咳をしていても特に気にもされない。
「まいど様ですー」
お客様が玄関の戸を開ける。
両手をグーのカタチで握って、胸を張って社内を飛びまわるちびっ子のような爽やかな風だ。
部屋の奥にあるのり子の席にもその風が向かってきてのり子の後ろのキャビネットに跳ねかえり向こうへ行った。
今まで淀んでいた空気が一瞬にして爽やかになった。
途端にのり子はくしゃみをし出す。目がかゆくなり涙目になる。
今日は花粉が強いようだ。
すぐに机の引き出しを開け、ティッシュボックスに手が行く。2枚引っ張り上げて下を向いて鼻をかむ。
一通り鼻をかみ終えたところで社内の電話が鳴る。
「のり子さん、お電話です」と言われ、のり子が受話器をあげて声を発しようとしたらまた軽い咳がでた。
最近、咳が出る。
咳は3回くらい続けて出るようになった。
家で娘たちに「お母さん、一度、お医者さんに診てもらったら?」と言われた。
そうだな。
もしかしてただの風邪ではなく百日咳などの症状かもしれないから診てもらおうか。
のり子は内科医院を訪れた。
待合室はテレビに向かって椅子が並べられていた。待合室の中はほぼ満員だった。
受付に「軽い咳が出ている」と告げたら「それではこちらでお待ちください」と言われ、のり子は診察室の奥の方に促された。
「えっ!私、もしかしてあの疫病と思われている?」
看護師さんの後ろについていって入った「待合室」は狭い部屋だった。それぞれカーテンで仕切られた場所で、細いベッドとパイプ椅子と空気清浄機があるだけ。
そして看護師さんに問診票を渡され、「少ししたら取りに来ますのでそれまでに書いておいてくださいね」と言われ、看護師さんはシャーっとカーテンを引いて出ていった。
その時、看護師さんは部屋に鍵を掛けていったのをのり子の耳は見逃さなかった。
そうか!私は風邪ではなくあの症状だと思われているのか。
ショックだった。タダの風邪だと思っていたから。
問診票を書いていて気が付いた。
この部屋には自分だけしかいないと思っていたが、かすかに人が動く衣類の擦れる音がした。
先客がいたのだった。
少しして部屋の鍵がカチャリと音を立て、看護師さんが入ってきた。
そしてのり子の名前を読んでカーテンを開けて入ってきた。
その看護師さんの姿を見て、のり子は現実を受け止めようと決意した。
先ほどはしていなかったのだが、今は透明なフェイスガードをしていた。
マスクをして、その上に、バイクのフルフェイスのようなあのフェイスガードである。
そして、使い捨ての手袋を履いていた。
そうか、私はその疑いを掛けられているのか。
のり子はがっかりした。
この疫病が世界を駆け巡ってから数年が経っている。
幸いなことにのり子は一度もそれにかかったことはなく、その為に病院へ行くこともなかった。
だから全世界の人が苦しんでいる疫病でありながら自分には関係のないことのように過ごしてきた。
しかし、今、自分はその疑いをかけられているのだ。
現実を受け入れようとのり子は自分に言い聞かせた。
問診票を看護師さんにお返ししたら、「もう少しこちらでお待ちください」と言われ、看護師さんは部屋を出ていかれた。
そして、部屋に鍵を掛けられた。
なぜ鍵を?
私たちが逃げ出すと思っている?
いや、関係ない人が間違って入ってきてはいけないからか。
ベッドと空気清浄機とパイプ椅子だけの空間でのり子はじっと看護師さんが来るのを待った。
長くなりましたので続きは次回にいたします。
※note毎日連続投稿1900日をコミット中!
1812日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。
どちらでも数分で楽しめます。#ad
現実を受け入れよう
のり子は少し前から軽い咳が出るようになっていた。
言葉を発すると同時に咳が出る。
久しぶりに風邪をひいたのかもしれない。
仕事中も軽い咳は続いた。
マスク着用が必須の職場だからのり子が咳をしていても特に気にもされない。
「まいど様ですー」
お客様が玄関の戸を開ける。
両手をグーのカタチで握って、胸を張って社内を飛びまわるちびっ子のような爽やかな風だ。
部屋の奥にあるのり子の席にもその風が向かってきてのり子の後ろのキャビネットに跳ねかえり向こうへ行った。
今まで淀んでいた空気が一瞬にして爽やかになった。
途端にのり子はくしゃみをし出す。目がかゆくなり涙目になる。
今日は花粉が強いようだ。
すぐに机の引き出しを開け、ティッシュボックスに手が行く。2枚引っ張り上げて下を向いて鼻をかむ。
一通り鼻をかみ終えたところで社内の電話が鳴る。
「のり子さん、お電話です」と言われ、のり子が受話器をあげて声を発しようとしたらまた軽い咳がでた。
最近、咳が出る。
咳は3回くらい続けて出るようになった。
家で娘たちに「お母さん、一度、お医者さんに診てもらったら?」と言われた。
そうだな。
もしかしてただの風邪ではなく百日咳などの症状かもしれないから診てもらおうか。
のり子は内科医院を訪れた。
待合室はテレビに向かって椅子が並べられていた。待合室の中はほぼ満員だった。
受付に「軽い咳が出ている」と告げたら「それではこちらでお待ちください」と言われ、のり子は診察室の奥の方に促された。
「えっ!私、もしかしてあの疫病と思われている?」
看護師さんの後ろについていって入った「待合室」は狭い部屋だった。それぞれカーテンで仕切られた場所で、細いベッドとパイプ椅子と空気清浄機があるだけ。
そして看護師さんに問診票を渡され、「少ししたら取りに来ますのでそれまでに書いておいてくださいね」と言われ、看護師さんはシャーっとカーテンを引いて出ていった。
その時、看護師さんは部屋に鍵を掛けていったのをのり子の耳は見逃さなかった。
そうか!私は風邪ではなくあの症状だと思われているのか。
ショックだった。タダの風邪だと思っていたから。
問診票を書いていて気が付いた。
この部屋には自分だけしかいないと思っていたが、かすかに人が動く衣類の擦れる音がした。
先客がいたのだった。
少しして部屋の鍵がカチャリと音を立て、看護師さんが入ってきた。
そしてのり子の名前を読んでカーテンを開けて入ってきた。
その看護師さんの姿を見て、のり子は現実を受け止めようと決意した。
先ほどはしていなかったのだが、今は透明なフェイスガードをしていた。
マスクをして、その上に、バイクのフルフェイスのようなあのフェイスガードである。
そして、使い捨ての手袋を履いていた。
そうか、私はその疑いを掛けられているのか。
のり子はがっかりした。
この疫病が世界を駆け巡ってから数年が経っている。
幸いなことにのり子は一度もそれにかかったことはなく、その為に病院へ行くこともなかった。
だから全世界の人が苦しんでいる疫病でありながら自分には関係のないことのように過ごしてきた。
しかし、今、自分はその疑いをかけられているのだ。
現実を受け入れようとのり子は自分に言い聞かせた。
問診票を看護師さんにお返ししたら、「もう少しこちらでお待ちください」と言われ、看護師さんは部屋を出ていかれた。
そして、部屋に鍵を掛けられた。
なぜ鍵を?
私たちが逃げ出すと思っている?
いや、関係ない人が間違って入ってきてはいけないからか。
ベッドと空気清浄機とパイプ椅子だけの空間でのり子はじっと看護師さんが来るのを待った。
長くなりましたので続きは次回にいたします。
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