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町医者が出す美味しいお薬【音声と文章】

山田ゆり
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どうやら子どもにとって病院から処方されるお薬は一般的にまずいらしい。

のり子の家には小児科内科のかかりつけ医があった。


母とのり子はおじいちゃん先生に
娘たちはその息子さんに診ていただいた。


その小さな医院は地元では名医と言われていた。

先生は基本、注射をしない方だった。本当に必要な時以外はしない。
大人になったのり子が風邪をひいて診ていただいた時も注射はしなかった。


また、先生の処方する子どものお薬は美味しいらしい。


例えば娘が風邪気味になり、「じゃぁ、病院に行こうか」というと娘たちは喜んでその医院へ行く。誰も嫌がらない。


その医院はいつも患者さんでいっぱいだった。
小さな待合室から人はあふれ、玄関のすのこの部分にも行列ができていた。

看護師さんが「あら~、〇〇ちゃん、お顔、赤いねえ。お熱はかりましょうか~」と優しく声を掛けて下さる。一緒に連れてきた下の子にも「〇〇ちゃん、今日は元気でよかったねぇ~」と、姉弟にも声を掛けてくださる。名前もしっかり覚えていて、これには関心する。


名前を呼ばれ、先生の隣に子どもを抱っこしながらのり子が座る。

白衣を着た先生はまずは問診をする。
その内容をカルテに書き込み終えると丸い椅子をくるりとこちらに回して聴診器で胸と背中の音を聴く。

先生の額の上にはいつも丸いステンレス製のものがついていた。
そして喉をみて喉に赤いものをちょこっとつける。娘はちょっとオエッとする。

あごや頭に手を当てて様子を診る。
先生の太い親指がいろいろなところを押していく。そのしぐさに安心感を覚える。


万年筆でカルテにすらすらと外国語で書き終えてからこちらを向いて今の症状の説明をしてくださる。


のり子は忘れないように真剣に先生のお話を聞き、返事をする。
ひざに乗っている娘も先生の額の上の丸いものをじっと見ながら時々うなずく。

そして、お会計までの少しの時間、子どもと絵本を見ながら待つ。
あいかわらず患者さんはひっきりなしにやってくる。

やがて名前を呼ばれ、お会計をして医院を出て、お向かいの薬屋さんに向かう。


そこの薬局も良い人ばかりだ。
名前を覚えられていることは自己肯定感があがるものだとつくづく思う。

さっきよりも元気になった娘は待合室のおもちゃに夢中になる。

職員さん手作りのおもちゃがたくさんある。
その仕上がりは保育士さん並みだと感心する。

やがてお薬が出されのり子たちは車で帰宅する。

お薬の時間だと娘に言うと飛んでやってきて、大きな口をあけてのり子にねだる。
早く、早くという声が聞こえそうなくらいだ。
その、鳥のようなかわいい小さなお口の中にピンクの粉のお薬を入れてあげる。
娘はもみじのような手で持ったマグカップの中のぬるめのお水をゴクリと飲む。

飲み終えた子どもがニコッとする。
美味しかったんだね。よかったね。


いつも行っているかかりつけ医が処方して下さる子どものお薬はどうやら美味しいらしい。

病院に行っても注射はしない。美味しいお薬は飲める。だから娘たちはその医院に行くことに抵抗はない。
むしろ、楽しみにしているほどだ。



のり子の幼馴染が言っていた。
「病院って行きたくないよねぇ。うちの子は、風邪で病院に行くたびに点滴をされるし、苦い薬をだされるから、白衣を着た人を見ただけで泣きだすの。ほんと、困ったものだよね。」と言っていた。

彼女はいつも大きな病院に行っている。
そこは聴診器で胸の音を聴くこともなくすぐに注射をするそうだ。
お薬も大人並みにまずいそうだ。

いろんな方針をもつお医者さんがいる。




のり子たちが通っていたその小児科医院は後継者がいなくて数年前に廃業された。
建物はまだ壊されていない。

年に1~2回、そのあたりを通る。
あのような素晴らしい医師にその後のり子は会ったことがない。

かかりつけ医を早く見つけたいが、のり子が通っていた町医者のような人はまだ見つけられない。







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町医者が出す美味しいお薬

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