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社会人としての自覚が芽生えた【音声と文章】

山田ゆり
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※本日も口の中に脱脂綿を入れているため、サ行とタ行が特にできず、発音が変でお聞き苦しいと思います^^



のり子は高校の時に、生理痛が酷く、学校の保健室で寝ていることが多い生徒だった。


そんなのり子が社会人になったある日、生理痛が我慢できなくなり、会社の保健室的役割の部屋に向かった。

その会社には従業員の健康や福利厚生に関する仕事をする役職があった。
それを担当するサクラバさんはいつも笑顔で対応して下さる、優しいお姉さんのような方だった。

のり子はサクラバさんに事情を話したら、では少しベッドに横になっていましょうと言われ、硬いベッドに横たわった。

薄めの毛布を掛けていただきのり子は静かに目を閉じた。


「山田さん、気分はどう?」
サクラバさんの優しい声でのり子は目覚めた。丸い壁掛けの時計を見るとあれから30分位経っていた。

のり子はもう少し休んでいたいと感じていた。
すると、サクラバさんが

「まだ体調が優れないのなら今日は早退しなさい。
ここで寝ている間もお給料が払われているのよ。分かる?会社にいて寝ていてお給料をいただくことはできないの。自分の体調を整えることも大人としては当たり前のことなの。厳しいことを言うようだけれど、まだ体調が思わしくないのなら、帰りなさい。」


もっともなことだった。
学生時代は保健室の先生は何も言わなかったがそれは授業料を払っていた学生だったから許されたことであり、今はまだ19歳ではあるが、社会人なのだ。

自分が会社にいる時間帯は、その労働の対価として給料が支払われる。
会社の中にいて、寝ながら給料をいただくのは泥棒のようなものだ。
誠実をモットーにしているのり子にとって、給料泥棒は絶対に悪いことだと分かっている。


のり子は起き上がり、サクラバさんにお辞儀をしてその部屋を出た。
お腹はまだ痛いが、でも先ほどに比べたらだいぶ良くなった。

のり子は「もう子どもではないのだ。自分は大人としての振る舞いをしよう」と心に誓った。



あれから数十年経った今でも、あの時のサクラバさんのことは忘れない。彼女の慈愛に満ちていて、でも、言うべきことは言うという毅然とした態度をとられ、今でも彼女はのり子の理想の人物像である。




入社して一か月が経った頃に「新入生歓迎会」が行われた。


新入生が皆さんに自分のできる事を披露する。
それは出たい人だけがすること。
そして、それに出場した人には賞を与えられるものだった。

おとなしめののり子はどうしようかなと思った。周りの女子社員と同じに何もしないでいようかなと思っていた。


しかし、自分も出てみたいとも思っていた。
誰がどんな演目をするかは数日前までに実行委員に届けなければいけない。

のり子は迷った挙句に出場することにした。
内容はカラオケを歌うこと。


数日前からのり子は何を歌おうかと思案した。実は、高校3年間は合唱団に入っていた。全国大会に出場して銀賞もいただいたほどの学校の合唱部に所属していた。

それではさぞかし歌が上手いだろうと想像されるが、のり子は全く歌が下手だった。


人の音程はとても気になるのだが、自分が発する歌は、思うような音程にならず、声量も細い。だから、全国大会まで出場するような部活にいたが、それは「虎の威を借る狐」だったのだ。


のり子本人はそれを自覚していた。
それなのに新入生歓迎会の時に歌を歌おうと思ってしまった。
今思えば、あの時「大きな勘違い」をしていた。なぜか自分を表現したかった。

何とかなるだろうと思って参加を表明したが、前日まで何を歌うか決まらなかった。



テレビにジュディオングさんの「魅せられて」が入っていた。その頃、大ブームだった。


のり子は「これだ!」と感じた。
ええと、ジュディオングさんになり切るには何が必要かなぁ?

のり子は真っ白なノースリーブのロングドレスを洋服ダンスから取り出した。
そして押し入れの中にしまっていた真っ白なパンプスを取り出した。


なぜ、ノースリーブの床までくる白のロングドレスとそれに合わせた白のパンプスがあったのか?


それは高校の合唱団時代、定期演奏会ではノースリーブのロングドレスを着て合唱をしていたのである。当時、のり子の学校は普通の学校の演奏会とは一目置かれていた。


学校に仕立て屋さんがやってきて、新入生は採寸してもらい、自分にぴったりのロングドレスを仕立ててもらうのである。


これも虎の威を借る狐効果だったのかもしれない。



ジュディオングさんと言えば長髪。
のり子はショートカットだった。

えーと、長髪にするにはかつらがあればいいのだけれど、そんなのはない。
ジュディオングさんになり切るには・・・

そうだ!
黒い布で頭に縛り付ければいい!
家の中を探したら、丁度良い薄地の黒色の布があった。


あとは、ジュディオングさんの腕のしたにひらひらとした布があった。あれを真似するには・・?

のり子の頭の中はジュディオングさんになり切っていた。


再び、あまり布をしまってあった大きな紙袋の中をゴソゴソした。
そして、白い薄地の布を見つけた。
それを両肩に縫い付けて、布の端を両方の手で握って歌うことにした。


あ、肝心な歌はどうしよう?

弟に話したら、たまたま、そのレコードを持っていた。
よし、このレコードを掛けてジュディオングさんの振り付けで口パクをしよう。


世界の全てがのり子に味方していたのだと思う。



新入生歓迎会が市内の格式高いホテルで行なわれた。


皆さん、カラオケや漫才の物まね、ギターの弾き語りなどをされていた。


その中で、松山千春さんのギターの弾き語りをしたナガオ君がピカ一だった。

彼は、顔はイマイチだけれど、話が旨くて機転が利いて、のり子はその日からナガオ君のファンになった。


誰もがナガオ君の演奏に聞きほれていた。
大きな拍手とともにナガオ君の演奏が終わり、のり子の番になった。




長くなりましたので、続きは次回にいたします。




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~社会人としての自覚が芽生えた~
未来を知るためにネガティブな過去を洗い出す 



※今回は、こちらのnoteの続きです。

https://note.com/tukuda/n/n7d373027cad1?from=notice

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