マガジンのカバー画像

ショートショート

67
「こうだったらいいな」「ああなりたいなぁ」「もしもこうだったら怖いなぁ」たくさんの「もしも」の世界です。
運営しているクリエイター

#毎日文章を書く人

自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1661日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート) をお伝えいたします。 彼がトイレに立った。 彼がいないそこは、椅子の背もたれが左に45度くらい傾いている。 彼はいつも会社で居眠りをしていた。 その重そうな体全体を安っぽい事務用の椅子の背もたれに全体重を掛けて居眠りをするのだ。 その背もたれはそのたびに崩れるように傾いた彼の身体を支えていたから、そのうち、背もたれは少しずつ左側に傾くようになった。 背もたれの悲鳴が聞こえてきそうである。 どうしてそんなに曲がってしまったの?と聞きたくなるほど背もたれは異様に曲がってしまった。 彼が戻ってきてPCに向かう。 しかし、壁掛けの丸い時計が午後2時を指す頃、彼は恒例の居眠りを始めた。 周りの従業員はその姿を苦々しく思いながら、なるべく見ないようにしていた。 すると、代表取締役が彼の後ろに立ち、左の胸ポケットから平たい櫛を出し、居眠りをしている彼のボサボサの髪をすいた。 そして、彼の肩のほこりを手で払いながら特に誰に向けるともなく 「今飲んでいる薬は眠くなると言ってたなぁ」とぼそりと言った。 一日の内で彼が仕事らしきことをしているのは半分くらいで、残りの半分は居眠りをしている。 居眠りをしていても給料はもらえる。 しかも彼は大卒だから、彼よりも何年も前に入った女性社員よりもお給料が高い。 男性で、大卒だというだけで初任給が自分の給料よりも毎日居眠りしている人の方が高いなんて馬鹿げている。 その状態に耐えかねたベテランの女性社員は、一人また一人とその会社から去っていった。 外に厳しく内に甘い。 その体質が業績に影響しないことを願う。 代表者の身内を社内にいれる場合 普通の人以上にその人を見る周りの目は厳しいもの。 代表者の身内が社内にいることで、本来、言うべきことも言いづらくなり、それは企業の衰退につながる。 だから、縁故入社は好ましくない。 縁故入社に対して、本人は勿論 代表者自ら、自分の行いを律する必要がある。 今回は 自らを律することを求められる身内の入社(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

希望の光(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1660日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 希望の光(ショートショート) をお伝えいたします。 203X年11月。 俺はむしゃくしゃしていた。 なんだ、あの店長は。 俺が高卒だからって人を馬鹿にしている。 出来立てのクロワッサンがはいった箱を移動する時にちょっと足元が滑った。 俺はとっさにクロワッサンが落ちないように足を開いて踏ん張った。 するとそのまましりもちをつく形になった。 クロワッサンは無事だった。 それを見ていた店長が 「なんだお前、そんなものも持てないのか!」と眉間にしわを寄せてニヤリとした。 俺は必至でクロワッサンを守ったんだ。そのお陰で尾てい骨を打ってしまいそのあたりが痛い。 この場合、商品よりも俺の身体を心配するのが普通だろう? あぁ、明日も明後日も、あいつの顔を見ないといけないのかと思うと、嫌になっちまう。 俺は尾てい骨とお尻を撫でながら帰宅の途についた。 くっそー。なんか面白いことねぇかなぁ。 周りに家がないところを歩いていた。 すると、少し前に若い女性が歩いていた。 その女性は黒っぽいコートに黒の靴、黒のカバンを持っていて黒づくめだったこともあり、街灯が少ないこの道を歩いていてその存在に俺は気が付かなかった。 その恰好から、お通夜の帰りだと分かる。 真っ暗と言えば俺もそうだ。 この間の休日に買ったばかりのフード付きのトレーナーとジーンズ。 シューズも買ったばかりのものだ。 歩調は俺と同じくらいだった。 彼女の後ろを歩いていてさっきのイライラがモヤモヤしてきて、今度はムラムラしてきた。 頭の中で勝手に妄想が始まる。 その妄想がどんどん広がり、俺は自分を抑えきれなくなってきた。 あの店長がいけないんだ。 もっと優しくしてくれさえすれば。 俺はポケットから出した手を顔のあたりまで上げて彼女に近づこうとした。 すると一台の車が後ろからやってきた。 そのライトの向きがこちらに向かってきているのを光の当たり具合ですぐに分かった。 このままでは車が突っ込んでくる! 俺はとっさに彼女を後ろから抱き、彼女と一緒に左側の草むらへ転げ落ちた。 小中高と野球部だったから、とっさの行動ができたのかもしれない。 車は電柱に激突して止まった。 「大丈夫ですか?」 俺は彼女から離れ、具合を聞いた。 「ありがとうございます。大丈夫です。」 何でもなさそうな彼女を確認してから俺は車の方に向かった。 車の前が電柱にめり込んではいるが、運転手はエアバックに守られ、大事には至っていないようだった。 すぐに俺は救急車を呼んだ。 まもなく2台の救急車とパトカーがやってきた。 事情聴取をされ、彼女と運転手は救急車で運ばれた。 その日のことは翌朝の地方紙の地域欄に割と大きく掲載された。 俺が人を助けたということが大きく報道された。 彼女をとっさに守った行動と、 迅速に運転手の安全を確認して救急車を呼んだこと。 そして、俺が着ていた服に着眼した報道がされた。 街灯が少ない薄暗い夜道を、黒っぽい服装で歩くことはとても危険である。 事件・事故に巻き込まれる可能性が高くなる。 政府は、今後の服は、普段は分からないが暗いところに行くと光る素材を服のどこかに入れなければいけないという決まりを作った。 それは今年の10月から始まったそうだが、俺はそんなこと全然知らなかった。 そして、俺がその日着ていた服は先日購入したばかりのもので、後で気が付いたのだが、あのトレーナーもジーンズもシューズも、暗いところに行くと、星空のようにキラキラ光っていた。 あの時、居眠り運転していた運転手が、キラキラ光る俺に気が付いたそうだ。 つまり、政府が決めたその制度で事故を小さくすることができたということだった。 内容としてはどこにでもある、人命救助の話。普通だったらそれほど大きく報道されない。 しかし、政府が決めたことが人を助けたという良いアピール材料になったということである。 そして、その事故のお陰で、俺は翌日から店長からは一目を置かれ、仕事がとてもしやすくなった。 おかしなものである。 あんなに嫌々でやっていた仕事だったのに、人間関係がうまくいくようになると会社に行くのが楽しみになった。 アルバイトだった俺はその後、正社員に登用され、チーフ、マネージャー、と昇格していった。 前向きになった俺はジョギングや筋トレに励むようになった。 関わる人もプラス思考の人間が多くなった。 ある程度のお金を得られるようになり、服装にも関心が行くようになった。 自分を大切にすることを体感し、自信がついてきた。 あんなに根暗だった俺が、女性に積極的に話ができるようになり、結婚もできた。 そして俺は新しいお店の店長になった。 俺はあの時、一歩間違えれば犯罪者だった。 本当は人助けをするはずじゃなかった。 ちょっとした運が俺に味方してくれた。 あの時着ていたトレーナーは、今見るとダサくて着れないが、俺の運命を大きく変えたものだから、もう少しクローゼットの隅に掛けておくことにした。 暗がりで光るそのトレーナーはどん底の俺を救ってくれた希望の光だ。 今回は 希望の光(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

愛する人とともに生きていく(ショートショート)【音声と文章】

※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 愛する人とともに生きていく(ショートショート) をお伝えいたします。 「若い僕たちは長い人生、これからいろんなことが起こるだろう。 子どもの誕生や成長を楽しんだり、誰かが病気になったり、それ以上の悲しいことが起こらないとは限らない。 どんなに辛いことがあってもそれでも人は生きていかなければいけない。 僕は大切な人のために頑張って生きていきたい。」 「僕はこんな家庭がいいなと思う。」 彼はコーヒーを一口飲んで言った。 「その人はご主人が突然亡くなり、3人のお嬢様と生きていく様を描いている方で、年齢的には数年前に亡くなった僕の母親くらいの人なんだ。 だから時々、その人が母とイメージが重なる。 読んでいて希望をいただいたり 時には落ち込んでいて、助けてあげたいと思う時もある。 いろいろありながら それでも前を向いて歩いている。 そんなけなげな親子の話を読み 僕も大事な人を守って生きていきたいと思うようになった。 僕はこれまで自分の為にだけ生きてきた。 でも、守っていきたい人を見つけた。 これからは自分のため、愛する家族のために生きていきたいと思っている。」 彼は両手の指と指の間を広げて、胸の前で全ての指先をつけるような動作をしながらエリを優しく見つめる。 二人だけの世界がしばらく続いた。 静かな音楽が流れる場所から、クラクションや信号機の音が交錯する外に出て、おとぎの国から日常に戻ってきたような感覚がした。 頬にあたる夜風は酔い冷ましには丁度良かった。 ぶるっと身震いしたエリはすぐに手袋を履いた。 彼がエリのコートの襟を立ててくれた。 絨毯のように落ち葉が敷き詰められている道を二人で歩く。 お互い、ポケットに手を入れて歩いているエリ達が異常に見えるほど、週末の夜道は腕を組むカップルでいっぱいだった。 エリは感情に任せて彼の腕にしがみつきたい衝動に駆られながら、でも、それは違うというもう一人の自分の気持ちに正直になった。 そのエリの気持ちを尊重してくれる彼の心遣いがエリの感性と合っていた。 エリはそんな彼を尊敬していた。 彼と別れて先にタクシーに乗ったエリは ラインに届いたそのnoteを開いた。 エリは見慣れているその画面を見て微笑んだ。 今回は 愛する人とともに生きていく(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

休む理由(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1649日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 休む理由(ショートショート) をお伝えいたします。 「そっか~。今度は実のお父様の具合が悪いのか。A子さん、大変だなぁ。」 のり子は一人、PCに向かいながら心の中でつぶやいた。 従業員の休暇届を処理する関係上 皆さんの休む理由を知ることができる。 デザイン部門のA子さんは今年になって頻繁に有給休暇をとるようになった。 のり子の会社はとても古い体質で、 有給休暇は「とらないのがいい人」という暗黙の常識があった。 上層部の方々、特に社長がそういう考えの方だった。 そして、もしも有給休暇を申請する場合、理由を詳しく書かないといけないことになっている。 本来、有休の理由は「私用のため」だけでいいのに、この会社は、休ませたくないから理由をネチネチと聞くという体質だ。 だから、誰がどのような理由で休んでいるのかは、書類が最後に集まってくるのり子は全て知っていた。 数年前までは介護で休む人はのり子しかいなかった。 だからしょっちゅう休んでいたのり子は引け目を感じていて、周りの目がとても気になっていた。 それだけ周りの人は若く、親の介護なんて未知の世界だった。 周りの人の有給休暇を取る理由は冠婚葬祭と子どもの学校行事くらいだった。 友達と旅行に行く 結婚式 子どもが産まれた 子どもの〇か月健診 子どもの入学式 子どもの参観日 子どもの運動会 子どもの卒業式 休暇の理由はほとんどこんなものだ。 やがてのり子は親を看取り介護に終止符が打たれた。 その後、社内では親の介護を理由に休む人が出てきた。 そしてその人数は少しずつ増えていった。 親の病院の送り迎え 親の症状について医師からの説明を聞くため 親が入院するため 親が退院するため 施設の人の説明を聞くため 施設に入るため 親の葬儀のため 親の〇回忌のため 最近の休暇届は半数以上が親の介護になっている。 休暇届は人生の縮図のようなものである。 今回は 休む理由(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

血のりはたっぷりのケチャップで(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1645日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 血のりはたっぷりのケチャップで(ショートショート) をお伝えいたします。 ユミは肩に大きな重みを感じながら帰宅した。 今日のプレゼンはあまり良くなかった。 最後のあのタイミングで先方の責任者が難色を示した。 結局、「とりあえず上にあげてみます。」という終わり方になった。 つまりは今回の件は失敗に終わったのだ。 自分なりに頑張ったつもりだったからユミの落胆は大きかった。 こんな日は大好きな推しの動画を観て早く寝よう。 ユミは自宅の風除室に入った。 下は宅配便の荷物が入るようになっていて 上の段に郵便物を入れる、大きな白いポストがある。 その一番上にはかぼちゃとお化けの飾りが施された一角がある。 イベント好きな妹のカオリが季節ごとに飾っているのだ。 そういう事には無頓着なユミからすると、まめな妹だと思う。 来年の春からの就職先は内定済みで今が一番気楽な時期かもしれない。 ユミは鍵を挿し玄関のドアを開けた。 重厚なドアを開けた先の玄関は6畳くらいの広さがあり階段がすぐ目の前にあった。 そして階段のすぐ下に カオリがぐったりして倒れていた。 「カオリ!」 ユミは鞄を置いてすぐにカオリの肩をさすった。 顔は横を向いていて額に少し血がついていた。 お母さんはまだ仕事から帰ってこない時間だ。 お父さんは出張中で明後日帰ってくる。 と言うことは自分しかいない。 ええと、携帯、携帯。 ユミはハンドバックの中を荒々しく探った。 ところで救急車は何番だっけ? 一瞬でたくさんのことが頭の中で去来した。 するとカオリは笑い出した。 「あはははは~。お姉ちゃんおかえりー!」 なんだ、冗談だったのか。 もぉ! 額の血はケチャップだった。 お茶目でサプライズ好きの妹である。 ユミは怒りたい気持ち半分、安堵半分だった。 でも、さっきまでの落ち込みはこのドタバタにより無くなってしまったから、カオリに感謝してもいいかも。 でも、悪い冗談である。 こんなことは止めてほしい。 ** 10月の最終日、ユミはいつも通りの時間に帰宅した。 風除室のポストの上はまだハロウィンの飾りのままだった。 いつもだったら最終日にはすぐに次の飾りに変えているのに。 カオリにしては珍しいことだ。 内定先からいろいろとレポートの提出依頼が来ていると言っていたから、忙しいんだろうなぁ。 そう思いながら玄関に鍵を挿しドアを開けた。 目の前にカオリが倒れていた。 一瞬ドキッとしたがユミは落ち着いていた。 「もぉ!2日続いて同じことしたら効果ないんだから。」 「まー大変。カオリ、大丈夫(棒読みで)」 ユミはカオリを素通りしてトイレに入った。 トイレに座ってインスタを見始めた。 あっという間に5~6分すぎてしまった。 アブナイ、アブナイ。 こんなことで時間はあっという間に過ぎていくのよね。 ユミはキッチンで水を飲んだ。 はぁ~っと大きく息を吐きだした。 それは今日一日のたくさんの出来事を脳内から吐き出しているようだった。 ユミは仏間に入り、カネを3つたたいて合掌した。 そしてお供えのバナナを1本もぎ取り壁に飾られた数々の遺影を眺めながら食べた。 やっぱり家が一番安心する。 バナナを食べ終わって皮を捨てようとキッチンに行った。 ふと、カオリが玄関から戻って来ていないことに気が付いた。 想像していたリアクションをしてあげなかったから拗ねているのかな。 そう思い、階段のところにユミは戻った。 今回の血のりのケチャップは頭部につけていた。 これでは床にしみがついてしまうではないか。 早く拭かないといけない。 それにしても、頭部のケチャップはなんとなくさっき見た時よりも量が多くなっている気がした。 「カオリ~、そろそろご飯にしよう~」 ユミは倒れているカオリの肩をゆすった。 すると目を開いたままのカオリの顔がこちらに見えた。 目を大きく開け、上を向いていて、口が変なカタチで開いていた。 カオリはこんな顔をする子ではない。 えっ! そこで初めて事実が飲み込めた。 救急車は何番だったっけ? えーと、分からない。 「カオリ-!救急車は何番だっけー?」 あ、カオリはここにいるんだった。 ユミは混乱しながらやっと救急車を呼んだ。 今回は 血のりはたっぷりのケチャップで(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

天秤はどちらに傾くの?(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1643日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 天秤はどちらに傾くの?(ショートショート) をお伝えいたします。 「この場合の勘定科目は何になりますでしょうか。」 入社したてのA営業所のケイコから社内メールが届いた。 ユキコはすぐにあの科目だとは思ったが一応、これまでの総勘定元帳を調べて、同じものがあったかを調べた。 会社によって使う科目が違うから、すぐにはお答えできない。 最終的には、損金算入されるのだったら多少の科目の違いがあっても大丈夫なのだが しかし この時はこの科目 と、決めておかないと お小遣い帳とは違い、企業のものなのだから気を引き締めないといけない。 見た目以上に発想が自由なユキコは 自分事だったら、そのあたりは融通を利かせるのが本音だが。 「それは〇〇の科目になります。 会社によっては△△という科目を使用するところもありますよね。それでも間違いではありませんが、ウチの会社はこの科目で統一していますので、〇〇をご使用ください。」 ユキコは言葉を選んでメールをした。 まもなく、お礼のメールが届いた。 その中には、個人的な感情を書いている部分があった。 入社したてで何も分からない。A営業所は事務が一人で相談する人もいないなど。 「これはまずい」 ユキコはあたり障りのない文面を書いてメールを送り、トイレに立った。 そして、事務所から出て従業員出入口からこっそり外に出た。 すぅ~っと、ユキコの前髪が風に揺れた。 ザクッザクっと歩くたびに音がする。防犯の意味もあるその石たちを踏みながらユキコはお尻のポケットに忍ばせた個人の携帯電話を取り出し、A営業所へ電話をした。 ワンコールではきはきとした声のケイコが電話に出た。 ユキコからの電話だと知りケイコは驚いているようだった。 ユキコはそばに誰もいないかを確かめ、そしてメールをいただき嬉しかったことを伝えた。 そして次のことを伝えた。 「メールは送った人と送られた人の世界だから、つい、感情移入して自分の本心を書きたくなるよね。 自分がそうだから。 相手に感謝の気持ちを表すのはいいけれど、会社に対してとか誰かに対しての不満は社内メールには絶対書かないようにしてね。 なぜだと思う? それはね、私たちの使っている社内メールのやり取りを私たちの上司のB子さんが全て読んでいるかもしれないから。 それは確定ではないのだけれど、営業員のメールは全てB子さんが見られるように設定したと以前、社長がおっしゃっていたのよ。 これまでは社長がそれをされていて、社長がお忙しくなられて春からB子さんに委任したんだって。これは営業会議の議事録に書かれているから気になったらあとで読んでみてね。 でね、大事なのは、彼女、営業員のメールだけを見ていると思う? だから、嫌かもしれないけれど、社内メールは個人的なことや会社に対しての不満などは書かない方がいいから。 見られてもいいことしか書かない方がいいと思います。 なんか寂しい状況だけれど我慢するしかないかも。 それをお伝えしたくって、今、外に出て個人の携帯電話からかけているの。 ケイコさん、一人で大変ですよね。 歳が近いということもあり、私はケイコさんに親近感を勝手に抱いています。 そういうことで、社内メールにはビジネスライクな文面しか書けませんが本心はとってもあったかいつもりです。 これからもよろしくお願いします。応援しています。」 ユキコは少しだけ雑談をして電話を切った。 さぁ、仕事に戻ろう。 ユキコは今の仕事が好きだ。 やりたい仕事ができるのは幸せなこと。 だから、仕事以外のことで気に入らないことがあっても目をつぶることにしている。 ユキコだってたくさんの不満がある。 不満ではなく改善点を以前上司に申し上げたら 「そんなの、分かってるわよ。私に言わないで。」と言われた。 なんでも気が付いたことを言ってほしいと言われたから話したのに、逆にキレられてしまった。 やっている仕事が好きだから続けられる。 もし、会社や上司に我慢できなくなったらその時は辞めるしかない。 社長はある日おっしゃっていた。 「毎日、営業員のメールのやり取りを確認するだけで凄い時間がかかっているんだ。メールは毎日100通以上来ているから。」 そして、社長が多忙を極め、それを今度はB子がすることになった。 彼女の仕事がどんどん溜まって行っているのは、彼女のあの山積みにされた書類に埋もれている姿を見て想像がつく。 そのメールの確認、する必要があるのだろうか。 人の動きが分かるという利点はあるが、得るものと失うもの、天秤にかければどうなるのか。 世の中にはやるべきこと、やらなくてもそれほど差し障りが無いものがある。 その見極めは人それぞれ。 正しい目を持てるよう心掛けたい。 今回は 天秤はどちらに傾くの?(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

動く鞄の中を見られる時(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1639日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 動く鞄の中を見られる時(ショートショート) をお伝えいたします。 よし!終わった! のり子は書類の束を事務用保存箱へ入れ終えた。 今月の振替伝票のまとめが終わった。 各科目ごとの内訳書もできた。 あとは会計事務所へこれをお届けすればいいだけ。 会計事務所へ書類をお届けする仕事はなるべくのり子はしないことにしている。 仕事とはその人でなければいけないことはするが、誰でもできることは他の方にお任せする方がいい。 のり子はパートのA子さんに話しかけた。 「A子さん、会計事務所へ出かけてほしいんだけれど、今、大丈夫?」 A子さんは快く承諾してくれた。 あとは車をどうするかだ。 のり子の会社は勤務中に出かける時は社用車を使うことと決められている。個人の車を使うことは厳禁なのだ。 その決まりに慣れなかった頃は不便さも感じたが、もしも事故が起こった時の補償問題の関係で、そうせざるをえないのだ。 営業員にはそれぞれ専用の車があてがわれている。 事務係にも事務用の軽自動車が1台ある。 しかし、製造部門でどうしても車が足りず本社の事務用車両は昨日から少し離れた工場に貸し出し中なのだ。 これは良くあることだった。 と言うことは、本社に今いる営業の方で当分出かけない人を見つけて、その方の営業車をお借りするしかない。 誰がいらっしゃるかな。 のり子は営業室に入った。 所長とタケさんがいた。 どちらも話しやすい方でよかった。 これまで何度かのり子が車を借りていたので話しやすかったからのり子は同年代のタケさんに話しかけた。 「タケさん、40分位、お車をお借りしたいのですが、大丈夫でしょうか。」 「うん、大丈夫だよ。」とすぐ答えてくれ机の端に置いてあった車のキーに手を伸ばした。 ここまではいつものパターンだった。 のり子は一仕事が終わり解放感に浸っていた。だから、気持ちにも余裕があった。 のり子はタケさんをちょっと試したくなった。 「行先は会計事務所です。で、車を運転するのはA子さんです」 するとタケさんの手が止まった。 そして、素直なタケさんは 「5分位、ちょっと待ってくれないかな。車の中、散らかってるから」 少しはにかみながらおっしゃってタケさんは会社を出て車へ向かった。 やっぱり^^ どういう事かと言うと いつもなら、「車貸して」「はいよ!」とすぐに鍵を貸してくださる。 タケさんの車の中は、いつも食べたカラをスーパーの袋に入れて助手席の足元に置いてあった。袋に一応入れてあるから散乱はしていないのだが、それでも綺麗とはお世辞にも言えない状態である。 営業の方々の車は大体はそうである。 会社の車ではあるが、いつも乗る人は同じだから自分の動く鞄のようなものである。 その車を誰かに貸すということは、自分のカバンの中身を見せることと同等だ。 私が車を借りたいと言ったらすぐに鍵を貸してくださる。それだけ気が置けないということだと良い方に解釈する。 だが、社内で一番清楚で若くて美しいA子さんが車に乗ると聞いたタケさんは、自分の車の中を片付けに行った。 5分はとうに過ぎている。 でも、まだ戻って来ない。 それを見た同僚のB子さんは 「私たちが車を借りる時は何でもないのに、A子さんが乗るって言ったら片付けるんだから。これってどうよ(笑)」 すると 「私が車を借りた時、片付けられたこと一度もない。ジェラシーだわぁ(笑)」 とC子さんが追随した。 「私も」「私も」 事務所内は笑いで温かくなった。 結局、10分位してタケさんが戻ってきた。 その後も一言二言、みんなにいじられながらタケさんは 「ちょっと散らかっているけど」とおっしゃって、A子さんに車のキーを渡した。 実は先日もそうだったのである。 今回と同じパターンで、営業のユウキさんに車を貸してほしいとのり子は頼んだ。 「うん、いいよ、いいよ」とふたつ返事ですぐにキーをのり子に渡そうとした。 のり子はキーを受け取る前に、運転するのはA子さんだと言った。 すると、ユウキさんは 「あ、僕の車の中、ちょっと散らかってるから片付けてくる」 そうおっしゃって片付けに行ったのだ。 その時のユウキさんの顔は少し赤らんでいた。 自分のカバンと同じくらい個人的な空間の車。 それを人に貸す時の男性陣の反応を見るのは楽しいのである。 今回は 動く鞄の中を見られる時(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

歩くダイヤモンド(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1630日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 歩くダイヤモンド(ショートショート) をお伝えいたします。 「すみません。仕事の関係で15分ほど遅れます。」 エリは相手にラインを送った。 「分かりました。大丈夫です。」 顧問先からの電話が長引き、エリは会社を10分位遅く出た。 今日は週末。 一緒にお食事をするだけの相手を見つけるアプリで 今日は初対面のその人とお食事をすることになっていた。 目的はあくまでも食事をするだけ。 それ以上のことはお互い求めないことを約束している。 信号機が青になった。エリは横断歩道を駆け足で渡ろうとした。 ふと、杖をついたおばあちゃんがのんびり歩いているのが見えた。 その歩き方だときっと信号は赤になってしまう。 白髪で背中が少し丸くなって歩くその姿は、2年前に亡くなった祖母を思い出させた。 「お荷物、お持ちしましょうか?」 エリはとっさにその方に近寄り声を掛けた。 「ありがとう。」 おばあちゃんは顔を上げ、しわ皺の顔を更にくしゃくしゃにして微笑んだ。 エリはおばあちゃんが手に持っていた荷物を右手で受け取り、左手をおばあちゃんの背中のあたりにあてて周りを見渡しながら一緒に歩いた。 おんぶしてあげたかったがエリはそこまで体力がない。 しかも今日はおめかしをしていて、ハイヒールだった。 信号機は青が点滅しだした。たぶん、間に合わないだろう。 でも、赤の横断歩道をおばあちゃんが一人で渡るよりは、大人の私が一緒なら少しは車を運転する人からは目立つかもしれない。 と、思っていたら、突然、後ろから声がした。 「お手伝いしますよ。」 そう言って、その人はおばあちゃんを軽々抱え上げ小走りに走り出した。 エリも彼につられて走り出した。 そして信号を渡りきった彼はおばあちゃんを静かに下ろした。 「良かったですね間に合って。」 歯並びの良い白い歯が、ニーッと笑った大きな口から見えた。 彼はそう言うと何事も無かったように去っていった。 引き締まった上向きのお尻が印象的だった。 一言二言、言葉を交わしたエリはおばあちゃんと別れ、待ち合わせの場所に着いた。 10分位遅れると予想して15分遅くなると相手に伝えていたが、 それより5分遅刻し、結局、最初の約束より20分遅れてしまった。 エリはあたりを見回したがそれらしき人はいなかった。 ラインを送ったら 「約束の時間に遅れるなんて、君、ほんとは僕と会う気がなかったんじゃない?期待させておきながらドタキャンするタイプか君は。そんな人はごめんだ。」 なんと断られてしまった。 エリは言い訳はせず、丁寧に謝り、ラインを閉じた。 「ふん、たかが20分遅れたからって何よ!そんな人、こちらから払い下げよ!」 足早にエリは歩いていった。 いつもなら時間通りに上がれるのに今日に限って、顧問先様の電話が長引いてしまった。 今日は美味しいお食事が食べられると思っていたのに。 今日は運が悪い。帰ろう。 でも、最初から会う気もなかったと勘違いされて、無性に腹が立った。 エリは怖い顔でさっそうと足早に歩いて行った。 するとエリを呼び止める声がした。 「何?ナンパなら他の人にして。私、今、とても腹が立っているんだから。」 その男性は 「どうしたの?何があったんだい?良かったら僕が話を聞いてあげるよ。」 「いえ、要らないです。今、虫の居所が悪いので、人に気を使っている余裕がありませんから。」 世の中の男と言う男どもとはおさらばしたい心境だった。 「僕で良かったら話を聞くよ」 30代中ごろのその男性はエリに歩調を合わせながら語った。 エリはお腹が空いてきた。 「私、お金払いませんよ。まずかったら食べません。それでもいいですか?」 相手はにっこり微笑み、すらりとしたその男性とエリは近くのレストランへ入った。 席に着き彼が聞いてきた。 「何をそんなに怒っているんだね?」 エリは今日のことを話し始めた。 彼は両手の指と指の間を広げて、胸の前で全ての指先をつけるような動作をし 時々大きく頷いてエリの話をじっと聞いていた。 なんて大きな指なんだろう。 エリは彼の指が気になりながら話を続けた。 エリは一通り話をしたら気が済んだ。 お腹もいっぱいになった。 「どうして私に声を掛けたんですか?」 「こんな寒空で、ダイヤモンドが歩いている!と感じたんだ」 何てへんな人なんだろう。 ま、私の美しさは今日始まったことではないから、分かるけど。 お腹もいっぱいになったことだし さぁ、帰ろう。 食事代は全部彼が払ってくれた。 そういう約束だったからとエリは自分に言い聞かせた。 一度築いた二人の距離は、そのままにしておきたかった。 ご馳走していただいたからといって、こちらから歩み寄りたくはなかったから。 女王様の気分でエリは分かれた。 別れ際、彼は「車代だから」と言って、小さく折りたたんだ紙幣をひと差し指と中指に忍ばせてエリにさりげなく渡した。 そして彼はタクシーを止め、エリひとり乗って走り出した。 彼はタクシーを見送っていた。 彼が見えなくなってエリは前を向いた。 不思議な人である。 怒って歩いている女性に声を掛け、食事をご馳走しながらただ話を聞いて そして車代まで出してくれた人。 エリはこれまでそんな人に会ったことが無かった。 不思議な一日だった。 *** その日はエリのプレゼンの日だった。 数週間かけて作った資料は部長にチェックしていただき その後、社内のミーティングで公開され、いくつか手直しをして 最善のものができた。 エリはお取引先のA社へ一人で向かった。 今日はくるぶしがちょっと見える丈のビジネススーツに身を包み 決め靴であるヒールの高いパンプスを履いていた。 カツカツと颯爽と歩くエリは、まさしく道を歩くダイヤモンドのようだった。 アポイントメントの5分前にA社の受付の方に名を名乗り エリは指定された12階のフロアへ上がった。 エレベーターのドアが開いた。廊下は厚い絨毯が敷かれていて この階が特別な階であることを証明していた。 エリは商談室1222のドアをノックした。 秘書の方が出迎え、奥の部屋へ通された。 数人の方が既に席についていた。 「株式会社〇〇の吉澤と申します。本日は△△のご提案にお伺いいたしました。」 エリは明るく挨拶をした。 一面ガラス張りの窓を見ていたその男性がこちらに振り向いた。 エリはハッとした。 あの時、エリを歩くダイヤモンドと言った人だった。 そして座っている方々を見てエリは更に驚いた。 あの時の横断歩道のおばあちゃんが白髪をきれいに束ね、上品な服装で着席していた。 その隣には、おばあちゃんを担いだあのお尻の美しい男性も座っていた。 「やぁ、またお会いしましたね。」 彼は椅子に座り、両手の指と指の間を広げて、胸の前で全ての指先をつけるような動作をしながらエリのプレゼンを静かに聞き始めた。 今回は 歩くダイヤモンド(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

僕らは加害者なのか?(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1627日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 僕らは加害者なのか?(ショートショート) をお伝えいたします。 「ふぅ~」 マサオは大きく息を吐いた。 今期の決算がやっと終わった。 経常利益と前期損益修正損の金額を見てひとり小さくつぶやく。 「前期損益修正損がなければ従業員の給与・賞与はもっと多いはずなのに」 かつての会社のトップと一部の上層部だけで行われたその件。 それが明らかになった時は、それに関与したトップ及び関係者は既に退職され、亡くなられた方も数名いた。 その金額は一度で精算できるものではなかったので、会社としては10年計画でその乖離を正すことに決めた。 そのため、毎期、前期損益修正損が計上されるようになった。 過去の人達が享受した利益。 そして、当時のことを何も知らない僕たちがその責任を負っているのだ。 昔の上層部だけで行われたその件について 当時関与していない現在の僕たちがその尻拭いをしているようなものだ。 決算上では営業利益も経常利益もたくさん出ているのに、莫大な特別損失の為に純利益が少し出ている状態で今期も終わった。 考えてみればおかしなことである。 なぜ、関係のない僕たちがその責任を負わなければいけないのか。 通常の利益活動から出る経常利益。 僕たちは本来、この経常利益に値する仕事をしているのだ。 もっと胸を張ってもいいのだ。 人によっては2年連続で昇給が無い人もいる。 それはその人が無能なのではなく その人より僅かに優秀な人を昇給したらそれ以上の余力が会社には無かったから、普通の人の昇給まで手が回らなかっただけだった。 バカげたことである。 今は亡き人が行ったことを正すために 当時のことに全く加担していない僕たちが その責任を負っている。 僕らは本来、もっと待遇が良くてもいいはずなのだ。 経常利益がそれを証明している。 最近、テレビなどの報道で賑わっているあの件も同等だ。 なぜ、加害者ではないのに、その責任の一端を今いる僕たちが負わなければいけないのか。 ある意味、僕たちも被害者なのだ。 だから 何も知らずに加害者を責めるのはキケンなことだと僕は思う。 加害者と一般的に言われている人たちの中に、実は被害者である、 そういう人が存在するかもしれないことを肝に銘ずる。 今回は 僕らは加害者なのか?(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

苦手意識は幼少期の出来事が起因している(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1623日目。 ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも数分で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 苦手意識は幼少期の出来事が起因している(ショートショート) をお伝えいたします。 「今、おじいちゃんからもらったお金、よこせ!」 その人は鬼のような顔でテツコをにらんだ。 保育園児のテツコは目に涙を溜めながら、右手に握りしめていた五円玉をその人に渡した。 開いた掌は五円玉の穴の模様がかすかに見えた。 テツコはつい今しがた、おじいちゃんから手招きされて木の陰で五円玉をもらったのだ。 おじいちゃんは厳格な人だったが孫にはいつも優しかった。 おじいちゃんはいつもあの人がいないところでお金をくれた。 テツコは嬉しそうに家に戻る。 おじいちゃんはそのまま田んぼに向かった。 するとその人は鬼のような形相でテツコの前に立ちはだかった。 そして、おじいちゃんからもらったお金はその人によってとりあげられ、その人の薄汚れたモンペのポケットに移った。 おじいちゃんはその人がそんなことをしているのは知っていたからこそ、その人に隠れて孫のテツコ達にお金を上げていたのだ。 食事中にテツコは悔しくなって泣きながら言った。 「おじいちゃんからもらったお金、おばあちゃんに盗られた~。えーん。」 一瞬、しーんとなる。 「そりゃぁ、おじいちゃんのお金は私のもんだからだよ!」 強気なその人は恥ずかしくもなく当たり前のように言った。 母も、お婿さんである父も、何も言わない。 ** テツコの本当のおばあちゃんは身体の弱い人だった。 何度も妊娠し、7~8人産んだが、おっぱいがうまく出ない人だった。 だから赤ちゃんはほとんど数日後に亡くなったそうだ。 ご近所でたまたま出産したばかりの人がいらして、「もらい乳」でテツコの母と伯母の二人は生き延びたのだそうだ。 そして、母が10代の頃に病弱なおばあちゃんは亡くなった。 その後、母と伯母が家のことをしながら家業の農作業も手伝っていた。 祖父は当時、何町(ちょう)もの田んぼを持っていた。 1町(ちょう)はおそよ100m×100mで、野球のグラウンド部分くらいの広さと考えてもいいかもしれない。 当時の我が家は大農家の部類に入っていた。 男手がいなかったから数人の人を雇って稲作を続けていた。 母と伯母は家事と農作業で明け暮れる毎日だった。 やがて跡取りの母が父をお婿さんに迎えることになった。 それと前後して祖父は「その人」と再婚した。 それはなぜかと言うと、母が今後、赤ちゃんを産み育てるようになれば、家のことをする人が必要だからと言う理由からだった。 その人は色白できれいな顔立ちで、微笑むと女優さんのようだった。 しかし、その人の心の中は、美しい顔とは全く逆で鬼のような性格だった。 人を疑い、ねたみ、相手を悪く思う人だった。 しかし、とても愛想がいい人で口から出てくる流暢な言葉は、その人の本性を知らない人を圧倒させるものがあった。 その人は離婚歴があった。 生まれた子は何歳になっていたのか何人いたのかは分からないが、実家の方に置いてきたとテツコは母から聞いたことがある。 その人は、顔は綺麗だが家事が全くダメな人だった。 家の片づけもできない人で、その人が来てから家の中はゴミ屋敷に変わっていった。 やがて母が妊娠し、テツコの姉が生まれた。 しかし、ここで番狂わせが起こった。 テツコの姉が産まれたあと、その人が妊娠し出産したのだ。 そしてその一年後にテツコが産まれ、更に二年後に弟が生まれた。 つまり、当時、立て続けに4人産まれたのだ。その人の子どもはテツコにとって一歳年上の叔父さんにあたることになる。 その人はもともと家事も片づけもほとんどしない人だったが、出産をして更にしなくなった。 嫌々で家事をする程度の人だった。 気にくわないことがあるとすぐに大声で叫ぶ人で、華奢な体つきなのに声は地獄の底から湧いてくるようなドスがきいていた。 そんな人の下で育った叔父もその人と同じようにすぐキレ、大声を出す人に育った。 叔父の出生で跡取りではなくなったテツコの父と母は家を出ることを決断した。 そしてテツコたちは同じ町内の借家で暮らし始めた。 やがて祖父が92歳で天寿を全うした。 祖父が持っていた田んぼの内、数枚を婿養子だった父に相続してくれた。 残りは全て祖父の子どもである叔父さんのモノになり、それらは一つ残らず売り払ってしまった。 その人は年をとり、どんどん痩せていった。 歳をとりながらも人様にご迷惑をかけ続ける人だった。 その人は全く片付けないようになり、家の中は足の踏み場もないほどになっていった。 「あの人の売掛をなかなか精算してくれない」と町内のお店から母に苦情が来た。 ・広い敷地内の草がボウボウで何とかしてほしい。 ・使わなくなったテレビやPC、ゲーム機を庭に山積みに放置していて、とても見苦しいので何とかしてほしい。 ・町会費を何年も滞納している。 それらは叔父さんがするべきことなのだが、町内の人が苦情をその人の家に言いに行くと逆に怒鳴られてしまう。 だから、テツコの母に苦情がいつも来ていた。 「あの人が死んだ。」 テツコの母が嬉しそうにテツコに話してきた。 ある年の8月、布団の中でその人は亡くなっていた。 暑い日が連日続いていた頃だった。 「熱中症」と言う言葉は当時なかったが、その人は今でいう熱中症で亡くなったのだ。 夜勤の息子と高齢の母親(その人)は、同じ屋根の下で暮らしているのに、顔を合わさない日もあり、息子が母親の死に気づいた時は既に亡くなっていた。 テツコは流暢に話をする人が苦手でそういう人からずっと避けてきた。 話しがうまい人には気を付けないといけない。 その観念がずっとあった。 その考えに囚われているのはなぜなのかずっと分からなかった。 しかし、その人との思い出からきているのだと、あの頃のことを振り返ってみてテツコは気づいた。 人の性格は幼少期の出来事が起因していることが多いと感じる。 今回は 苦手意識は幼少期の出来事が起因している(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

死角のポスト(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1616日目コミット達成!! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 死角のポスト(ショートショート) をお伝えいたします。 そこはなぜか事故の多い場所だった。 T字路になっていて少し上り坂になっている。 右側は駄菓屋さんで家の角には小さな郵便ポストが壁にあった。 そのポストが死角になり右側からの車を見逃すことが無きにしもあらずだった。 だから上り坂でアクセルを少しだけ踏んで、上体を前のめりにして左右の確認をしなければならない。 私は今朝も時間が差し迫っていてそのT字路で左右を確認していた。 T字路のぶつかったところにはミラーが二つ設置されている。 たかがミラーだが、その存在のありがたさは毎回感じている。 二つのミラーで車が来ないのを確認し、上体を前のめりにして車を静かに発進させハンドルを右に切ろうとした。 しかし、何と、右側から車が1台すぐ目の前まで来ていた。 おかしい。 確かにちゃんと確認したのに。 次の瞬間、視界は寸断され私は真っ白な世界へ入った。 一瞬、赤い靴が見えたような気がした。 *** コンビニやスーパーがない小さな街にヒロシは住んでいた。 ひとり娘のユイは今年、小学校にあがり、お友達も少しずつ増えてきて楽しいと話してくれていた。 そんな娘を妻と一緒に目を細めながら見ていた。 その日、郵便を出す用事があった。 それほど急ぎではないが、それでも気が付いた時に出さないとうっかり忘れてしまうからすぐに出そうと思った。 郵便を出しに行ってくると言ったら 「ユイがポストに入れたい!」と言った。 じゃぁ、一緒に行こうかということになりその街に一つしかないポストへ車で出かけた。 ポストは駄菓子屋さんのお店の角にあった。 車を角直前に止めるのは危ないから、角よりずっと手前で止めた。 そして、郵便物を持ったユイが車からでた。 「気を付けていってくるんだよ。」 「うん!分かった!」 ユイは嬉しそうに最近できるようになったスキップをしながらポストに向かった。 レースのついた靴下と赤い靴が小刻みに動いていた。 これまで何度も私たちは一緒にこのポストにやってきていた。 今までは郵便を持ったユイを抱え上げて、ユイがポストに入れていた。 ポストの真下には大きな岩があり、今はその岩に登ると楽々ポストの投入口に手が届くようになった。 我が子の成長が嬉しい。 来年の春にはユイもお姉ちゃんになる。 そんなことを考えていたら、ポストの視線の向こうに左から黒い乗用車が見えた。 そこはT字路になっている。 その車はあたりを見回しながら右折しようとしているのが分かった。 その瞬間、ヒロシの後ろから白い車がやってきてグゥ~ンとヒロシの車を追い越した。 その白い車は追い越した勢いのままでT字路に直進し、右折した黒の車と衝突した。 ぶつかったはずみで白い車が大きく飛ばされポストめがけてぶつかった。 ユイ! ヒロシは慌てて車から降りた。 ユイは白い車に飛ばされ壁にぶつかりぐったりしていた。 もう少しで入るところだった郵便物はポストの下に落ちていた。 右折しようとした車はポストが死角になっていた。 さらにポストのところに人がいたこと。 その向こうに車が止まっていた事も悪条件が重なっていた。 ポストがそこになければ事故は防げたかもしれない。 ヒロシはその後、その街をあとにした。 今でもそのT字路は事故多発地帯とされている。 今回は 死角のポスト(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

階段を上りきったら(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1615日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 階段を上りきったら(ショートショート) をお伝えいたします。 カチャリ 玄関のドアを控えめに開く音がし、私はその音で目覚めた。 スクロールカーテンを巻き上げた窓の外は真っ暗だった。 この暗さだと4時頃かもしれない。 多分、娘がごみを出してくれたのだと思う。 娘は週2回の燃やせるごみの日は必ず出してくれ、私はとても感謝している。 優しい娘である。 うとうとしながら私は娘の動きを耳で静かに感じていた。 私は基本、寝室のドアを開けて寝る。 そのドアは寝ている時間だけではなく一日中開けている。 すると家全体の家族の音が聞こえてきて安心するからだ。 足音は静かにキッチンに向かっていた。 冷蔵庫が開き少ししてバタンと閉じた。 我が家の炊飯器はつけている間、低温でビーっと連続音が鳴り響いている。 その音が一瞬止まり、カチャッと音がしてまたビーっと音が続いた。 ご飯を盛り付けたのだろう。 お腹が空いているのか。 娘はゴミ出しをしてすぐにご飯を食べることがよくある。 若い人は寝起きでもすぐにご飯を食べられる。数年前までは私もそうだったが、最近はある程度の時間が経過しないと食べたいとは思わなくなった。 歳を取ったなと思う。 昨夜の残り物は冷蔵庫にたくさん入っている。 おかずだけではなく、ガステーブルの上にあるお味噌汁も食べてほしいな。 お鍋のふたが鍋とこする音がした。 どうやら温めないでそのままお椀に注いだようだ。 温めた方が美味しいけど、冷や汁も美味しいからいいか。 私は娘の動く音を楽しんでいた。 娘がスーッと椅子を静かに引く。 4本の椅子の足には猫さんの模様のカバーを履かせていて消音にも一役かっている。 そして僅かの間、食べているのかほとんど音がしなかった 私は身体の中の耳の部分だけすっかり目覚めてしまった。 今、何時だろう。 4時頃なら起きようか。 私は枕もとの時計を見て、まだ寝ぼけているのかと思った。 1:55! 娘がこんな深夜にごみを出しにいくはずがない。 町内のゴミは当日の朝に出すというルールがあり、娘は必ず、朝と言える時間に出す律義な性格なのだ。 ぼんやりしていた脳が少しずつ動き出した。 そして、気が付いた! 今日は燃やせるごみの日ではない。 では、何のために娘は外へ出たのか? やがて静かにその足音は階段を上がってきた。 13段目を踏んで突き当りが娘の部屋で、右に曲がるとすぐに私の部屋がある。 何のために娘は外へ? 最近私は忘れっぽくなったと感じている。 昨日の夕飯さえすぐには思い出せないくらいだ。 昨日はどんなことがあったっけ? そして大事なことに気が付いた! 娘は今、旅行中だった。 昨夜もネズミの耳を頭につけてお友達と楽しそうにしている写真をラインで送ってきてくれていたのだ。 ということは・・・ 階段を上り切ったその足音は右に曲がって私の部屋の前に立った。 それは華奢な娘とは似ても似つかぬシルエットだった。 今回は 階段を上りきったら(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1605日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート) をお伝えいたします。 「あら~、マリさんお久しぶり~。」 銀行の2階にある融資コーナーでユミコにあった。 彼女は満面の笑みで私を見ていた。 覚えている。 彼女の笑顔は完璧なのを。 変わっていないな。 身長が150㎝ないマリからすると、バレーボールで鍛えられたユミコの体は大きくまっすぐ伸びた大木のように見えた。 「あ、ユミコさん、お久しぶりです。」 マリも彼女に負けないほどの笑顔を返した。 ユミコは最近事業を始め、その融資関係で訪れたと、聞きもしないのにペラペラと話し始めた。 地元の百貨店の中のテナントで彼女が働いているのは少し前から知っていた。 てっきりそこの従業員として働いていると思っていたが事業主だったのかと、マリは少し驚いた。 「それでマリさんはどんな用事で?」 やはりそうくるよね。 相手のことを聞きたいから自分のことを先に言う。 そういうものだよね。 マリは「住宅ローンのことでちょっと」としか言わなかった。 彼女の歯並びがよく、大きな口。 ずっと口角が上がっていて細い目が一段と細くなっている。 その笑顔で対面したら普通の人は「なんて素敵な人なんだ」と思うだろうね。 彼女は事業主で私は一従業員。勝ち誇ったような雰囲気を彼女から感じ、マリは居づらさを感じた。 少しして彼女が融資係から呼ばれ、マリはやっと解放された。 入り口に一番近い窓口の方に用件を申し上げたら担当の方が奥からやってきて、書類をお渡ししてマリは融資の出口の扉をあけた。 閉める時に向こうに座っているユミコを見た。 彼女も丁度こちらを見ていた。 マリは軽く会釈をしてドアを閉めた。 いつもは軽やかに階段を下りるのだがその時のマリは一段降りるごとに、高校生のあの頃のマリに戻っていった。 ユミコは絶対にあの事を忘れている。 忘れているのではなく、あの事を認識していなかったのかもしれない。 そうでなければ、今さら、あんな笑顔でマリに話しかけられるはずはない。 忘れられるほど「あの出来事」は彼女にとって些細な事だったのだ。 マリは地元の進学校に入学した。 創立100年以上のその女子高は、女学生の憧れの学校だった。マリはその学校に30番台で合格した。 同じ中学からはマリの他にもう一人入学しただけの難関校だった。 ひと学年が6クラスあり、勿論マリのクラスには知っている人がいなかった。 もともと人見知りが強いマリだ。 友達を作るのはうまくない。 中学の時も自分から話しかけることができずいつも独りぼっちだった。 高校では自分から話しかけるようにしようと思ったが、どうしても怖くてできない。 入学して3日過ぎ、自分と雰囲気が似ているケイコさんにだけは話ができるようになったくらいだ。 マリは曲がったことが大嫌いな性格だった。 前髪が眉毛にかからないショートヘア。 靴は市販されている靴でもよいとされていたが、マリは学校の校章が刻印された正規の学校指定の革靴を履いていた。 靴はいつもピカピカに磨いていた。 靴が汚れていると落ち着かなかったからいつも靴磨きは鞄の中に入っていた。 当時、専用のスティックのりを塗って履く靴下が流行していた。 しかし、靴下は三つ折りにする事という校則があり、マリはそれをきちんと守っていた。 彼女は校則通りの身なりをしていた。 恐らく、それが人によっては鼻についていたのかもしれない。 マリは自分からは話しかけられない弱虫だったが、いつもニコニコしていた。 いつ誰から話しかけられてもいいように、いつも笑顔を絶やさなかった。 あの日、クラス委員長を決めることになった。 マリは自分には関係のない事と思ってその時間が過ぎるのを静かに待つつもりだった。 誰もクラス委員長をするという人は現れなかった。 そりゃそうだ。 進学校のこの学校で雑用係のクラス委員長を進んでする人はいない。 すると、ユミコが突然手を挙げた。 「先生、マリさんがいいと思います!」 え! どうして私? ユミコは地元の有名中学卒の人。 このクラスの3分の1はその中学校卒の人で、ひとつのグループができていた。 ユミコはその中のリーダー的立場だった。 マリはすぐに立ち上がり 「無理です。私は無理です!」 それしか言えなかった。 とっさに気の利いたことが言えない自分が悔しかった。 しかし、多数決でマリが選ばれてしまった。 どういう基準でクラス委員長を決めたのか? 自分たちがやりたくないから他人に押し付けただけじゃない。 マリはそれから半年間クラス委員長という名目で様々なことをした。 しかし、マリが議長になり、何かを決めようとしても、もともと人様の上に立つことをしたことがなく、どのように話を進めたら良いのか分かっていなかったから、話し合いは全くうまく進行しなかった。 そんな時、クラス委員長に推薦したユミコが助け舟を出してくれたらなと思うが、彼女は薄ら笑いをしながら、マリを眺めているばかりだった。 やっと話し合いが決まり、マリが「では、皆さんで〇〇しましょう」と言っても彼女たちのグループの取り巻き達は知らんぷりするばかりだった。 マリはそのクラスにいることがだんだん辛くなった。 毎月、じっとしていられないような腹痛が起きるようになり、保健室で休むことが多くなった。 保健室にいる時間が多いクラス委員長だった。 やがて半年後、クラス委員長の改選の時期になった。 次のクラス委員長はユミコの取り巻きの一人に決まった。 後期のクラス委員長はユミコ達の多大なバックアップもあったお陰で、学園祭のクラス対抗の合唱も大盛り上がりで一致団結した雰囲気のクラスに様変わりした。 独りぼっちのクラス委員長だったマリはこの変わりように傷ついた。 いじめはされた側には大きな傷跡として残るが、いじめをした方は、それをいじめとは認識していない人が多い。 *** ユミコに会ってから数か月後、ユミコのお店は退店した。 その後どうなったのかは知る由もない。 *** 「うん、いいわね。これでOK!」 マリは自分のビジネスを立ち上げて10年目を迎えていた。 ユミコと出逢ったあの日は、副業として小さく始めたビジネスがうまく回り始め、住宅ローンの繰り上げ返済の相談をしに行った日だった。 ビジネスを立ち上げる時は最小限の元手で立ち上げたから、ユミコのように銀行から借り入れすることは無かった。 マリは身軽な状態でビジネスを小さく回していった。 そしてある時点で突然収益が増えだした。 一度軌道に乗ってしまったらあとは入ってきたお金を新しい知識を得るための投資に回し、新しいアイディアを事業に取り入れ、事業は更に大きくなっていった。 お陰で、残り20年返済の住宅ローンを完済することができた。 どんな逆境にもくじけない。 そんな強い精神を持つことができたのは 優しくしてくださった周りの方々のお陰だが、 その他にもユミコのような、傷口に塩を塗るような方々との出会いで、鍛えられたからだとマリは考えている。 どんなことがあっても、その体験から気づきを得ようと意識すればできるものだ。 悔しくて むなしくて 自分に自信がない。 自分なんて生きている価値、あるの? 死にたい。 でも、死んだら両親が悲しむ。 両親を悲しませたくない。 だから死ねない。 でも、苦しくて、死にたい。 そんな堂々巡りの毎日を過ごし、保健室にいる時間が多いクラス委員長だったマリに、こんな未来がやって来るとは、あの頃は思ってもみなかった。 今が辛く苦しくても、きっと答えが見つかる。 その答えは外ではなく自分の内にある。 真剣に求めればきっと見つかる。 今回は 保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+

6時間のカイバ(ショートショート)【音声と文章】

※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1604日目(4年余り) ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、 どちらでも短時間で楽しめます。 おはようございます。 山田ゆりです。 今回は 6時間のカイバ(ショートショート) をお伝えいたします。 ルーム名:カイバ それ:ジョウホウ そこはコンサート会場が行われるような大きな部屋。 人間の手のような大きなアームがそれをつかんで、大きく長いベルトコンベアーに乗せる。 日中、一時的に預かっていた「それ」は限られた時間の中で中身が確認され、「チョウキ」と「タンキ」に振り分けられる。 その振り分ける時間は「6時間」。 重要なものと判断された「ジョウホウ」は「チョウキ」とされ、重役室である「ソクトウヨウ」に移さて長期保存される。 一方、「タンキ」は「ゼントウヨウ」という部屋に一時的に預けられ、その「タンキ」に対して何もアクションが起こらなかったら順次、消去させられる運命になっている。 所用時間6時間のタイムカウンターがどんどん減ってゆく。 振り分け作業は佳境を迎えていた。 すると突然、キューンと音がして電源が落ちた。 まだ6時間経過していないが 今日はこれで終わりになった。 そのカイバの所有者が目覚めたのだ。 カイバはいつも「6時間」で振り分け作業をすると請け負っている。 その作業にはどうしても6時間かかるのだ。 だからカイバの所有者とはその契約を結んでいるが、相手はその時間を時々破る。 この振り分け作業はカイバの所有者が寝ている時間でなければできないことなのだ。 昨日の情報はまだ振り分けている途中だったが、今日はこれで終わりだ。 残ったジョウホウは、分別不能ということで消去させられる。 せっかくの貴重なジョウホウはあと少しというところで止まってしまった。 「6時間で作業を完結する」 これが私たちのプライドだ。 私たちはプライドを持って仕事をしている。 しかし、契約者は時々その時間を守ってくれない。契約はきちんと守ってほしいものだ。 カイバが情報の整理をする時間は6時間。 つまり人は最低6時間睡眠をとらなければいけないということ。 人間の記憶は 睡眠が重要なカギなのである。 ≪長い補足≫ 一日の中で得た情報は「海馬」という一時預かりの部屋に集められます。 そして、寝ている間に「海馬」がそれらの情報を「長期記憶」と「短期記憶」に振り分ける作業をしています。 大事な情報は「長期記憶」と成り「側頭葉」という部屋に送られて記憶として残り、 それ以外は「短期記憶」に振り分けられ、やがては消去させられます。 「海馬」が「長期記憶」と「短期記憶」に振り分ける作業時間が6時間なのです。 だから最低でも人は6時間睡眠をとらないと「海馬」に入っている情報は、未処理の情報を「分別できません」ということで消去してしまいます。 つまり、せっかく日中に貴重な時間をかけて勉強しても睡眠時間が少ないと勉強した内容の一部は生かしきれないということになるのですが、これはもったいないことです。 無理して夜遅くまで起きて勉強をしたのに、睡眠時間が6時間未満の人は、損な時間の使い方をしているということを自覚したいものです。 ***補足 おわり**** 今回は 6時間のカイバ(ショートショート) をお伝えいたしました。 本日も、最後までお聴きくださり ありがとうございました。  ちょっとした勇気が世界を変えます。 今日も素敵な一日をお過ごし下さい。 山田ゆりでした。 ◆◆ アファメーション ◆◆ .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。 私は愛されています 大きな愛で包まれています 失敗しても ご迷惑をおかけしても どんな時でも 愛されています .。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+