![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/38155447/rectangle_large_type_2_785b0f3e9d5f181a262077df270dabe8.jpg?width=1200)
【小説】私の明日はどっちだ?9-②
ちょっとぐらいは認めてほしい
子どもたちを招いた新聞づくりイベントでは、少し早いクリスマス会も企画されていた。ちょっとしたケーキを食べ、その日の感想を言い合ったりするぐらいのものだったが、ふだんあまり交流のない世代同士。それだけでもなかなか貴重だったな、と私は思った。一部の人たちを除いて。
次郎さんは泣き崩れた後、イベントの場には戻ってこなかった。娘さんとお孫さんは応援するつもりで来てくれたのだろうが、思いがけない展開に早々と引き上げてしまった。…帰るんだ。取材の成果は冬休みの間に書き上げられ、1月半ばに持ってきてくれる段取りとなっている。次郎さんの記事は、はたして形になるのかどうか。なし、というのも居心地が悪い。まったく、何をするにもうまくいかないものだな、とため息をつくと、ハルカくんが大丈夫ですか?と私の顔を覗きこんだ。
そういえば、このところハルカくんは休みがちだった。ニワカさんに聞いても結局はぐらかされて、事情は分からずじまいだった。でも具合が悪そうには見えないし。体調の問題ではなかったのだろうか。
「ハルカくんこそ、大丈夫なの?」
「ぼくですか?全然大丈夫ですよ。むしろパワーアップした感じです」
「休み多かったから心配してたんだよ。実際、ハルカくんいなくて心細かったし」
「すいません。ご迷惑かけて」
「調子悪かったんじゃないなら安心したよ」
「え?違いますよ。ニワカさんから聞いてませんか?」
「…いくら聞いても何も教えてくれなかったから心配したんじゃない。何だ、私は知らなくていいのか。ふーん」
「そんな。いじけないでくださいよ。まあ、確かに大したことじゃないですけど」
「いいよ。慰めてくれなくても。あーあ、自分じゃ頑張ってるつもりなのに、やっぱり認めてもらえてないのかあ」
「そんなことはないでしょう。気にしすぎですよ」
「そうかな。新聞のことだって、年明けのこと考えたら夜も眠れない。こんなの引きずったまんま年越すなんて辛すぎる…」
「何とかなりますって。きちんとやろうとするから気になるんですよ。テストじゃないんだから」
「そんなこと言ったって無理だよ。ちゃんとやる以外に何があるっていうの。子どもたちまで巻き込んでるのに」
日も暮れて冷え込んでくると、今年もあとわずかで終わるよ、その前にやり残したことはないか、とせかされているような気分になる。自分の能力のなさをハルカくんにぶつけても仕方ないが、聞いてくれると思うとつい愚痴をこぼしてしまうのだった。
外に出るのが面倒で後回しにしていたが、ハウスの入口にかけたクリスマスリースを片付けなくちゃ。重い腰を上げてごそごそ作業をしていたら、背中をちょこん、とつつかれた。
「ボンちゃん!どうしたの」
「あのさ。これ、次郎さんに渡してくれない?」
小さく折りたたまれた紙を渡された。何だろう。開こうとすると、それ次郎さんにだからね、とくぎを刺された。
「ごめんごめん、確かに受け取ったよ。次郎さんに渡しておくね」と約束すると、ボンちゃんはあわてて帰っていった。気にしてたんだな、と申し訳ない気持ちになった。
さっそく次郎さんの部屋に行き、トントン、とドアをノックする。中から誰だ?と声がした。
「薮田です。次郎さんにお届け物があって」
ドアが少しだけ開いて、その隙間から次郎さんの顔がちらりと見えた。
「届け物って?」と不愛想な声で次郎さんに聞かれ、内心こんな素晴らしい贈り物を…とイラッとしたが、つとめて明るく答えた。
「ボンちゃんからお手紙です。今、持ってきてくれたんですよ」
開いたドアの隙間から手紙を差し出すと、少し間があって中から手が伸び、さっと手紙を取った。そして、もう用は済んだだろう、と言ってドアをバタンと閉めてしまった。とにかくこの人は、なんかこう温かみとか感情(激怒以外の)というものが苦手なんだろうか。それとも単に、私への信用が足りていないのか。どちらにしても、あのイベント以来、以前にもまして接しにくくなったのは確かだった。はあーっとまた,、ため息が出る。
さて、夕食の時間になっても次郎さんが出てこない。いつもまだかまだかと言われるので、おかしいなと思いながら呼びに行った。ドアをノックしようと部屋の前に立つと、なにやらすすり泣きのような声が聞こえる。私は、びっくりして次郎さん、次郎さんどうしたんですか!と思わずさけんだ。
しばらくしてドアが開くと、真っ赤に目をはらした次郎さんが立っていた。
「メシか。…今、行くから」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?