皮鯨小皿

骨董店のショーウィンドウで見た手のひらサイズの小皿。プライスカードには「皮鯨小皿」とある。
「皮鯨ってなんのこと?」と店番の店員さんに聞いてみたけど、よくわからない。たまたま、そばにいらした陶芸家の先生にお聞きしたら、釉薬掛けの技法の名前と教えてくださった。
乳白色の皿の縁が黒っぽい釉薬でぐるりと縁取られている、その様が皮鯨(ころ)に似ているからそう呼ぶのだと言う。ああ、なるほどと合点がいった。

その小皿は、数カ所欠けが修復されていたが、ただの金継ぎではなく、漆で欠けを補ったところに、金の細かい線描きで繊細な青海波の文様が描かれている。こういう金継ぎは、普通の金継ぎの数倍の手間と費用がかかるんやで」と作家先生。
それだけの手間と費用をかけても修復して手元に留めたい作品だったのだから、たしかな値打ちの証でもあると考えられるなともおっしゃった。
 
平茶碗にするには小さすぎ、杯にするにも浅すぎる。
やはり組物の小皿のうちの一枚であっただろうこの一枚のお皿。
それにこれだけの緻密な修復を加えて愛用し続けたその人は、この器とどんなご縁をむすんだ人だったのだろう。
愛された器のほのぼのとした乳白が、ものづくりの幸せに改めて気付かせてくれた。


(2020.3.17)

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