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治療家は患者様に育てられる

 朝、治療院に着くと、窓を開けて新鮮な空気を入れる。室内の温度と湿度をチェックし、寒ければ暖房を入れ、乾燥していれば加湿器をONにする。

 今日ご予約のある患者様の体調を想像し、どうしたら快適に過ごしてもらえるか考えながら準備を進める。
 スリッパをきれいに揃えなおすのもその一つ。ささいなことだけれど、室内が整っていると、院内に入っただけで治るプロセスが始まるように思う。

 会社勤めの頃は、仕事とは売り上げをあげることだった。
 あまりに忙しくて、心の底からお客様のことを考えられていたかというと少しあやしい。上司の顔色を伺ったり、お客様の都合はちょっと後回しになっていたかも知れない。
 会社員時代の後悔のひとつだ。遅まきながら、もっとお客様のことを考えれば良かったと思う。

 いま、患者様のことを考えながら仕事をするのは楽しい。
 人に喜んでもらうことが、これほどやりがいを感じるものだとは知らなかった。
 個人経営の鍼灸院など、経営的には吹けばとぶような存在だ。それでも、鍼灸師の資格をとり開業して良かったと思う。

 コロナ喎の最中は、じっさい危なかった。もう廃業かと思った。
 しかし、そんな中でもポツポツと来てくださる患者様たちがいた。そういった患者様たちには、全力で対応させていただいた。
 少しずつ患者様が戻ってきてくださり、あまつさえ新規の患者様までだんだんと増えてきた。

 色々な症状の患者様がいるので、治療が及ばずに新しい課題をもらうこともある。
 自分の治療に何が足りないのか? 専門書を読み、講習会に参加して少しずつ治療の引出しを増やしてきた。
 鍼灸師として、治療院として、本当に患者様に育ててもらっている。日々ありがたい、ありがたいと思いながら仕事をさせてもらっている。

 神仏のことなど難しいことはよく分からない。それでも、早朝に治療院のまわりを掃除しながら見上げる朝日は美しい。
 今日も精一杯働きます。どうか今日も良い一日でありますように。患者様が少しでも元気になれますように。自分も家族も、今日一日を無事に過ごせますように。皆が幸せでありますように。

 そんな想いを糧にして、今日も治療院を開けている。

木々が一本だけではないように治療家も患者様がいてこそ

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