見出し画像

【roots】青年期 《16章》私のもの

「ただいま」僕が帰るとルビーはもう家に帰って夕食の準備をしていた。
「おかえり」この笑顔を疑っている自分が申し訳なく感じた。

ただ、僕はルビーを知らない。
最初は白い花で。次に会った時は妖精のような美しい女の子で。数時間後にはココにいた。
あの短時間で、正直、本物か偽物かなんてわかるわけないし。知る由もない。
自信が持てない…。
「デイブ、どうかしたの?疲れてる?」
「いや、何でもないよ。今日のご飯はなに?」
たわいもない会話で誤魔化した。
食事を始めると電話が鳴った。オーウェンだった。
「もしもし、デイブ。今大丈夫?
「うん。何?」普通を装った。
「声を出さずに聞けよ」「うん。わかった」
「ドラゴンはミアって名前の女だ。写真があって、確かに顔がルビーによく似てる。背中に翼の跡みたいな傷があるって、どうだ?」
「いや…どうだろう」
「いつから入れ替わっていたかわからないけど、2回目の花園からか…」
「定説はないの?」
「50年位前かな、俺たちの仲間に入ろうとしてきて…お前に執拗な感じでルビーが嫌がっていたみたい…書いてある。日記に」
「そう」
「チェイスの差し金かもしれないな」
「そう…ありがとう、参考にする。また書けたら連絡するよ。調べてくれてありがとう」
とルビーに悟られないように誤魔化して電話を切った。
ルビーの背中なんて見た事が無かった。
今まで肌に触れるような事もしていない。
そんな僕に背中を見るなんて出来るのかな

夕食後、ルビーがお風呂に入った。勇気を出してドアから声を掛けてみた。
「ル、ルビー」
「え?何?」ルビーは明らかに驚いている。無理もない。
「あのーえっとさ。」
「ドアを開けたら?」
「え?」ルビーからの意外な返事で僕も驚いてしまった。
でも、このチャンスを逃したらもう確認は出来ない。意を決してドアを開けた。
浴槽に入っていたルビーが恥ずかしそうにこちらを振り返った。
本当にごめん。僕は何をやってるんだろうルビーの首に両腕を回して抱きしめる様にして背中を見た。
大きな翼の形の赤い傷が背中1面に刻まれていた。
「どうしたの?デイブ、濡れちゃうわ」
僕はギュッと一度強く抱きしめて「ごめん」と言って逃げるように浴室を出た。
濡れたシャツのままベッドの端に座り頭を抱えた。
ルビー…ミアはタオルを巻いた姿で寝室に入ってきた。
僕は少し頭を上げてミアを見てまた頭を抱えた。
「知ったのね」とかすれた涙声で言った。
「ごめんよ。すぐに気づいてやれなくて。君はミアだね…」と僕が言うと。ミアは勢いよく抱きつき「デイブは私のものよ!私たち結婚したのよ⁉︎愛しているの!」と声を荒げた。
「ありがとうミア…僕も君が好きだよ。でも嘘だと知ってしまったから…。風邪を引くよ。着替えてから話そう。」僕は布団をミアの背中に掛けて立ち上がった。
「どうして?会った事もないルビーより、私の事が好きなはずよ!私を選んだのはデイブじゃない!!」僕は布団の上からミアを抱きしめて
「いつからミアだったの?」と精一杯落ち着いた声で聞いた。
「一緒に空を飛んで街を見たでしょ。」
「あのドラゴン、君だったんだね。あの日本当に世界が…世界が輝いて見えたよ。」僕は涙が堪えられなかった。
「それにキツネの所へ迎えに行ったのよ。あなたが先に進む気にならないから」
「そうか、そうだったね。ありがとう」
「それで…ルビーに…私ルビーに。あなたはルビーに会った事がないから…私の方が好きだと思って。あなたが一緒に行こうって言ったのよ」
涙をポロポロとこぼして僕を見た。
「そうだったね。僕が勝手に君をルビーだと思ったんだ…」
「だったら!」ミアが物凄い力で僕を押し倒した。ミアは僕をなんとか自分のものにしようと必死だった。この必死さが愛なのか、影に支配された使命感なのか。僕は疑ってしまう。
僕はミアの様子に冷え冷えとした感情しか湧かなかった。
「これは違うよミア。僕はミアに感謝してる。でもルビーを探して迎えに行ってあげなければいけない。きっと、今も。ずっと待ってる」
天井を見上げたままそう言う僕に
「私の方がずっと、ずっと待ったわ!この日が来るのを何百年もね!!ずっとずっとよ…わかる?」ミアの涙が僕の頬に落ちた。
「ミア。ありがとう。僕を想ってくれて。でも僕はルビーに出会わなくちゃいけない。今まで君と結ばれていなかったのはきっとルビーじゃなかったからだ…。触れようと思えなかった。」
それがどんなにミアを傷つける言葉かは10歳の僕にはわからなかった。恋する気持ちを理解するには子ども過ぎる。ミアは悔しそうに
「違うわ。あなたが私に手を…触れずにいたのは、優しいからよ。純粋で清らかだから…。」
ミアから僕を掴む力が遠ざかり。ただポロポロと泣き布団にうずくまった。
僕は布団の上から泣きじゃくるミアをさすって、
「リビングで待ってる。落ち着いたら出て来て」と言って部屋を出た。

自分が連れてきてしまったのに、拒絶しか出来ない。僕は優しくなんかない。
どうしてもやれない自分が情けなかった。

数時間後、ミアは着替えて落ち着いた様子でリビングへ来た。
「落ち着いた?」僕が聞くと
「何が聞きたいか…わかるわ」と言って僕が入れたコーヒーを一口飲むと
「ルビーの居場所は知らない」と言った。
「そう」
「湖の水は花園全体を飲み込んだはずだから…ココには来てると思う…」
「ありがとう」
「もう一緒にはいられない…?」
ミアは望みを繋げたい、そんな瞳で僕を見た。
「ごめん。ルビーを探したい」僕も本当の気持ちを真っ直ぐ伝えた。
「わかった。明日、出て行くわ。デイブを愛してるから…これ以上嫌われたくない」
翌朝早く。ミアはソファーで寝る僕の髪を何度か撫でて出て行った。
カチャリと閉まるドアの音を聞いて「さよなら」
と心の中で呟いた。
ミアと過ごした日々は戸惑うことばかりの毎日の癒しだった。それは間違いない。
愛情は育つものだと実感して。失ってしまったと心が急に冷たくなるのを感じた。
孤独が連れてくる寂しさと自分が犯した間違いの重さに不安で眠れそうもなかった。

数時間前の僕より、少し変わった気がする。悲しい別れは初めてだった。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?