「冷静な観察者」

吐く息が白く着色される様子を見つめていると

今年も終わりの足音が聞こえてきそうな気がする。

クリスマスやら年末年始やらで騒がしく

浮足立っているようにすら感じてしまう街並みは

眩しくて、鮮やかで、目障りで、鬱陶しい。

そして自分が持っていないものを突き付けられる。

ボクは寒いのが苦手だ。そして冬も苦手だ。

言い訳を呟き、本質から目を背ける。常套手段だ。

寒いから嫌いではなくて、多分後遺症の様なものだ。

総じて冬に思い出したくなるような記憶は

正直、持ち合わせていない。

だからなんだろうけれど、冬の寒さは

カラッポなボクには一段と厳しくて、堪える。

春が始まりと終わりの季節と表現されるけど

ボクにとっては冬は終わりの季節。

タバコの煙、ため息、呼吸も白い。

真っ白なキャンバスでも見ているように

いつもあっさりと消えてしまう白を眺めて

これからのことを漠然と考え込んでしまう。

センチメンタルで脆く何も手に入れていない

何者かすら分からない自分と言う存在をについて

波状的に広がっていく自己嫌悪と自己防衛。

その先、ボクは何かになりたかったことに気付く。


最近、同世代の卑屈な人間を主人公に据えた

物語を組み立てて、画面に落とし込んでいる。

一人称で進めていく物語は、会話よりも

地の文(会話文以外の文)が

圧倒的な割合を持つ構成に敢えて取り組んでいる。

会話が多い小説はテンポが良くて

フットワークも軽いので読みやすさが抜群だと

心得ているから読む分には楽しいし、好みではある。

でも『書く』となると、表情が変わってくるから

不思議であり、面白いな、とすら思う。

正直言えば、会話が多い物語を書くことは得意じゃない。

幾つか書いた小説も比較的地の文が多い。

むしろ苦手だ。避けるなら避けたいと思っている。

だけど、地の文ばかりの小説はフットワークが重く

読むのですら労力と根気を求められることが多い。

でも『書く』となれば、やっぱり話は変わってきて

どうやら人間の心に視点を置く方が性に合う。

かれこれ、高校時代から続けているブログは

形を変えて、骨や血になっていることを実感する。

今回は、唯一と言っていい継ぎ接ぎだらけで

ボロボロの武器だけで勝負をすることにした。

それもまた経験だと言い聞かせながら。



今回紹介するのは

「何者」 著 朝井リョウ

佐藤健主演で映画化もされた話題作だ。

平成生まれ唯一の直木賞作家である彼とは

同い年であり、大学時代には同じような場所を

拠点にしていたと思われる人物。

処女作「桐島、部活やめるってよ」を読んでから

最新作「何様」まで単行本で読んでいて

朝井リョウ、加藤千恵のオールナイトニッポンを

聴きながら残業をすることすらある。

不必要な親近感を抱いているんだけど

それは「何者」が契機になっている。

「桐島……」を読んで、真逆の人間だな、と

本気で思ってしまった印象は今でも鮮明だ。

直木賞受賞と言うことで手に取った「何者」が

もう五年くらい経過しているのにも関わらず

主人公である二宮拓人を投影している節がある。


就職活動とツイッターを軸にして物語は進行していく。

三年生になってキャンパスが変わることをきっかけに

絵に書いたような大学生活を満喫している光太郎と

ルームシェアをしながらも、迫りくる就職活動と

向き合っていく中で、片思いをしていた瑞月や

偶然、二人が借りている部屋の下の階に住む

瑞月の友人理香、その彼氏である隆良と出会い

切磋琢磨して、それぞれの方法で答えの無い

戦いに挑んでいく青春群青劇。

主人公の拓人はのめり込んでいた

演劇を諦めたことを心のわだかまりにしていた。

だからこそ大学を辞め、演劇の道に進んだ

友人というかよきライバルだと思われるギンジに対して

そして就職活動の準備で集まる仲間との時間で

冷たく醒めた目で状況を分析する脚本家としての才を

これでもかというほどに、いかんなく発揮しながら

ちっぽけな自己肯定をツイッター上で積み上げていく。

よくいる斜に構えた奴だ、多分いたら鼻に付く。

(周りにいないのはボクが彼だからだろう、恐らく)

ES、グループワーク、OB訪問、企業説明会……と

就職活動をしたことのある大学生ならば聞いたことのある

ワードやツイッターを中心に据える辺り

過去の就職活動をメインに据えた小説とは一線を画す。

あるあるネタ、大学生らしいイベント、就職活動の実際を

描きながらも拓人が隠す裏の顔が少しずつ出始めていく。

全てが見透かされ、宣告されるシーンは今読んでも

背筋に冷たいものが走るほどの衝撃がありました。

(そのシーンを読むのに躊躇いがあったのは事実です)

薄々気づいていたことも、文章として目の前に現れると

その破壊力ったら、言葉にできません。絶句です。

(今は映画のCMが流れているからあれほどの

破壊力は無いのかもしれませんが、当時は震えました)

そのことを上手に隠している表現というか進行させる力に

時より入るヒントもあちこちに散らばっていて

客観、主観的に二宮拓人の性格の悪さと臆病さ

何もないことに怯え、必死に抗おうとする様子は

引き込まれてしまいますし、共感を呼ぶでしょう。

この小説はボクの姿を投影しているような気がして

(同じ部屋を借りている弾き語り屋にも言われましたが

自覚症状はしっかりありますよ、勿論。じゃなきゃ震えません)

寒気を感じてしまいました。

直木賞、映画化で広い年代に読まれているとは思いますが

クリーンヒットするのは10代から30代くらいの人でしょう。

特に同世代なら、その破壊力は増すと思われます。

全体的に読みやすい感じに仕上がっており

光太郎との友情、瑞月との恋の行方など

就職活動を切り取ってしまっても面白味はあると思います。

イマドキの若者を知りたい大人の方も参考になると思います。

(ここに登場している人間=イマドキの若者という

クソみたいな視野狭窄にならないことを祈りますが)


そしてこの物語がボクらの人生を変える第一歩目になり

ピーターパンスタジオの始まりになった。

(部屋を借りる会話の導入が何者のやりとりである)

少しだけ世界が変わった気がするのは間違いないだろう。


これで紹介になっているのかは

正直、定かではありません。

でもエッセイってことなのでいいでしょう?


朝比奈ケイスケ

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