さくら
#8
高校の卒業式の日は、講堂の傍に早咲き桜が濃い色をつけて咲いていた。
友だちと写真を撮る子たちを横目に、柊子と今夜の約束をする。
そこに紫郎も顔を出してくる。
「思い出だよね…」
柊子が感傷的な事を言うなんて珍しい。
「あの中で、今後も続いていくモノなんてどのくらいあるのかな」
たくさんの塊の中には、今まで特に仲良くもなかったはずなのに、抱き合って泣いてる子たちがいて、あぁ…と私も紫郎も思った。
状況に応じて変わっていく事は当たり前で、長く続く事もあれば、続かない事もある。
「でも、それでいい」
「何、柊子のくせに、寂しがってんの」
と揶揄う紫郎を睨んで
「帰れ」
と言って私の腕を掴んで歩き出す。
空港近くのホテル前、紫郎に連絡を入れる。
シングルの割に広めの部屋に驚くが、『最後の贅沢』とか言って私を招き入れる。
私たちは何度こんなふうに過ごして、何度別れたか。
いつも日本を離れる時は、帰れないかもしれないと別れの言葉を伝える。
私に伝えているようで、柊子に向けて伝えているのがわかる。
私たちの事、柊子に内緒なのに。
「俺、浮気してる」
「はぁ?」
(唐突に何言い出したの?そんな事言われなくても知っている)
「別れている時期だから、別にいいんじゃない」
「そっか」
何で安心した様な顔するんだろう。
「隠しているってわけじゃないけど、さくらの事気に入ってるんだ」
「俺は罪悪感を持つし、さくらは倫理観に縛られて…だから、柊子の事は前に進めなくていいと思う」
「でも、さくらとは対等でいたいから、柊子の事も、俺のやりたい事も、浮気の事も、憐れみとか、呆れとか、感情をさくらとは分け合いたい」
一方的に言ってくる紫郎に、私も同じ気持ちでいる事を隠して、仕方ないという顔で合意のキスをする。
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