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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第19話

佳太ー君の笑顔

-ー漠然と不安でいるよりも
思うこと話し合って二人で解決していけばーー

自分がアキ姉に言った言葉は
そのまま僕にも向けてた言葉だ。
この想いは、伝えるべきか。
リコはもう僕の想いには
気が付いているはずだ。
でも、紘太さんへの気持ちは
間違いなく消えることは無いし
僕がどんなに想っても
超えることは出来ないだろう。
僕の想いを、はっきり伝える事は
彼女を苦しめる事にはならないのか。
とにかく、これ以上
彼女を苦しめる事を増やしたく無い。

残業で夕飯の弁当を買いに
コンビニのレジに並んでいると
LINEの通知が鳴る。
リコからだ。なんだろう?
少し浮き足立った気持ちが
内容を見て、一気に変わった。
姉さんが乳がん検診に、引っかかったと言う。
早く検査に行って欲しいけど
なかなか言うこと聞かないらしい。
その事を間違って大地さんに
伝えてしまったと。
慌ててるリコに、電話をかけた。
「大丈夫だよ。僕からも言っておくから」
そう言ったけど、残業が長引いて
帰りが深夜になってしまい
姉の顔を見ることが出来ず
話せなかった。

翌朝、
アキ姉が、珍しく早起きをして
トーストを焼いてくれた。
「どうしたアキ姉」
「うふふん。ほら朝ごはんもちゃんと
作るために、起きられるようにならないとなぁって思って」
「どうゆう事?」
「大地さん」
「あ、そうだ。検査行きなよ。
リコも心配してくれて
大地さんにも言われたんだろ?」
「うん、大地さんにも言われた。
そして、もう一つ言われた」
「もう一つ?」
「プロポーズ」
「プロポーズがどうした?」
僕はパジャマのボタンを外しながら
あくびの後。
「ええ〜!」
思いもしない言葉に
起き抜けの頭では、すぐに
反応できなかった。
「うふふ、正確には大地さんから
結婚を前提にお付き合いしたいって
言われちゃったー!」
「おお!やったじゃんアキ姉!
マジかー!」
「マジだー!」
姉さんのエプロン姿は
ずいぶん久しぶりだったけど
とても似合っていた。
妻と同時に、母となる
決意のような潔さが、眩しく見えた。 

その朝、マンション入り口で
リコと会って駅までの時間
大地さんと姉さんの話をする。
昨晩のうちに、リコには姉さんから
直接聞いていたという。

「ケイ。びっくりしたでしょ?」
「もちろんだよ!
でも、めちゃ嬉しいね。良かったよ」
「うん、ほらやっぱりその笑顔だ。
想像してた」
「え?」
「大きく口開けて,真っ白な歯
見せて笑う笑顔」
「なんだよ。それ」
「釣られて笑っちゃうその笑顔。
すごく好きだよ」

『好きだよ』
の言葉に,少し焦りながら
「ありがとう」と言った。
ホームに電車が滑り込んできたから
その後の言葉は
かき消されてしまったけど。

「僕も、君の笑顔が一番好きだよ」

いつもの風景に戻ったけど
この先の大地さんと姉さんの事
僕らの事、色々頭の中で巡っていた。
先に降りる、リコに手を振り 
「君の笑顔が、君の事が一番好きだよ」
小さくつぶやいた。
♢♢♢♢♢
あれから、姉の精密検査の結果は
心配ないとわかった。
そして程なく姉達の交際が始まり
お互いたくさん
話をしたって言っていた。
すぐに大地さんからは
正式な結婚の申し込みがあった。

コロナのこともあるし
結婚式はしなくても良いと 
姉さんは言ったけれど
大地さん、そして陸くんまで
花嫁姿を見たいと言ってくれて
身内だけの結婚式を挙げることになった。

今時は、どこの式場も空きがあるので
話が出てから2ヶ月後には
予約が取れた。

急遽、両家の顔合わせとなり
挨拶に来た大地さんを
母も、いたく気に入った。
「娘はもう結婚もせず
孫の顔も見られないと思っていたのに
いっぺんに叶えてくれて
本当にありがとう。大地さん。
しかもこんなに素敵な方に
選んでもらえて、本当に良かったわ」

そして大地さんのお母さんも
「陸の母親にまで、なってくれると言う
アキコさんにはこちらこそ
本当にありがたいこと。主人が生きていたら
どんなに喜んだか」
嬉しそうに話された。

娘を嫁に出すうちの父はどうかなと思ったけど
陸くんと同じ鉄道マニアの父は
専ら陸くんと、鉄道話で盛り上がっては
大声で笑い合っていて両家の笑顔いっぱいの
顔合わせになった。

今まで、姉も僕も仕事が忙しくて
ほとんど実家にも寄らなかったが
式の準備で母親が、マンションに
来る機会も増えた。

時々,夕飯を作ってくれて
親子水入らずで、ゆっくり話を
する事もあった。

「アキコと一緒のこの部屋も、一人に
なっちゃうわね。勿体無いから
家賃の安い、もう少し小さい部屋に
引っ越したら?」と母
「まぁ、そうなんだけど
ここ、便利だし気に入ってるんだよね」
「ここのマンション、小さい部屋もあるわよね?空きがあればそこに移る事できたら
良いのにね」
「そうだね」

あいにく、小さめの部屋は満室だ。
いや、別に他の所でも良いんだが
やはりリコを残して移りたく無い。



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