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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第13話

その晩
進路カードを母親の千草に
渡しながら昼間の出来事を
報告した。

「ねえ。お母さんは小春さんの初恋の話、知ってた?」
「あ、千登勢さんの話?」
「そう、私初めて聞いたから」
「お母さんもね、千鳥が生まれる少し前かなぁ?赤ちゃんの名前を決めるのに、小春さんに私の“千草“って名前は誰が付けたの?って聞いたのよ」
「うん」
「そうしたら、千登勢さんの話をしてくれたの」
「へえ。で、どうしてなの?」
「千登勢さんの『千』の字を使いたくて、小春さん。生まれた私に『千草』って名付けたんだって」
「え〜!おじいちゃん何にも言わなかったの?」
「そりゃ、おじいちゃんには内緒よ。たまたまおじいちゃんのお母さんが【セン】って言うから、そこから貰いましたって言ったらしいわよ」
「やるなぁ、小春さん」

「え?じゃあ、お母さんはなんで私まで『千』を付けたの?」
「うーん。小春さんの情熱にほだされて?」
「なんか分かる」
「それだけじゃないのよ。お父さんにプロポーズされたのは、千鳥ヶ淵でお花見ボートに乗っていた時だったのもあるよ」
「え。その話も初めて聞いた」
「お母さんの恋バナ聞く?」
「長くなりそうだから、今度でお願いします」
「ははは」

初恋の人の名前を、娘につけちゃう
小春さんに、千鳥もそんな恋が出来るのだろうか?思った時に浮かんだのは
桜井の顔だった。

「で、千鳥、カードはどうするの?」
「そこなんだよね。小春さんに相談したら、花嫁修行する?って言われちゃった。そしてそのまま恋バナ」
「そう、千鳥は今、部活やってるじゃない?そこには興味無いの?」
「別にやりたくて入ったわけでも無いし。まぁ照明係は面白いっちゃ面白いけど」
「千鳥が好きなものってなんだろね」

また振り出しに戻ってしまった。

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