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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第6話

その日も朝から、万次郎親子が
米村邸で手入れをしていた。
しかし、急な夕立で一旦手を休める事になった。
縁側で雨宿りして様子を見ていたが、途中で万次郎が居眠りをしてしまう。

そこにお茶を運んできた小春は
恐縮する千登勢に
「お疲れなのでしょうからそのままで」
と言い一人前のお茶をいれた。

「お嬢さん……。良ければ一緒に一服しませんか?」と千登勢が言った。

縁側に並んで座り
「……どうぞ」
菓子も差し出す小春は
目が合わせられずにいた。
「お嬢さん。いえ小春さん。親父から聞きました。来春には婿を取ると」
「はい。……父の決めた方です」
「その話を聞いたせいでしょうか?
俺、昨日夢を見たんです。小春さんの花嫁姿の」
「まぁ」

千登勢は少し息を吐き
大きく吸った。


「俺の……俺の嫁さんになっている夢でした」
「え?」思わず千登勢の顔を見た小春。

「親父と、ここの庭のゴミ拾いしかできない幼い頃から、ずっと俺は小春さんを見てきました」

雨音だけの一瞬の静謐な時。

「俺、心寄せていました。嫁さんに出来たらなんて、夢見てました。でもこの夢はきっと生まれ変わらないと叶いませんね」

千登勢は目を閉じたまま続けた。

「でもきっと生まれ変わっても、俺は小春さんを忘れません。その時は小春さんを嫁さんにする為、必ず迎えに参ります。約束させてください」

小春は、はらはらと涙をこぼした。

その時、空が光りすぐに雷が鳴った。
雷が大の苦手で大きな音に驚き
小春は千登勢に抱きついてしまった。

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