マガジンのカバー画像

短編小説✳︎名前の由来

4
あなたの名前の由来は なんですか?
運営しているクリエイター

記事一覧

短編小説✳︎名前の由来①

短編小説✳︎名前の由来①

雨音

アマオトと書いて
『あまね』と読む。

僕の名前だ。

母が産気づいた時は
さわやかな夏空の晴れ日だった。
支度をしているうちに
みるみる雨雲が現れ
ポツポツと雨が降り出した。

おしるしがあったからと
仕事中の父に電話を入れて
母はタクシーを呼んで産院に
向かった。

タクシーのワイパーは
忙しなく、右に左に雨粒を吹き飛ばす。
雨の日は、普段車に乗らない人も
利用するからか、道は混み

もっとみる
短編小説✳︎名前の由来②

短編小説✳︎名前の由来②

運転手は聞いた。
「初めてのお産ですか?」
「はい。おしるしがあったものですから」
「だったら大丈夫ですよ。
うちは、5人子供いますが
初産は、おしるしあってからも
すぐ産まれませんから」
「5人もいらっしゃるの?」
「毎回立ち会ってますしね」
「そうなんですね」

ベテランパパさんの言葉に
母は少しホッとした。

少しずつ道を進みながらも
車を打ち続ける雨音。

「雨音がショパンのなんとかって

もっとみる
短編小説✳︎名前の由来③

短編小説✳︎名前の由来③

するとまさに
その曲がラジオから流れた。
「あ、これこれ!
これですよ。
そうだ。
雨音はショパンの調べ
ってタイトルでした」
「あら、偶然ですね」
母の心は少し和んだ。

不安を煽るザーザーと降る雨音も
ラジオから流れる
透明感のある歌声が重なると
心地良くなるのが不思議だ。

それから直ぐに、車は動き出し
曲が終わる頃には
無事病院に到着した。

料金を受け取りながら
運転手は
「きっと大丈夫

もっとみる
短編小説✳︎名前の由来④

短編小説✳︎名前の由来④

運転手の言葉通り
母は、初産の割には
安産だったと聞く。

「雨音は安産の調べ……よ」
母は笑いながらいつも言う。

当然のように
僕の名前は「雨音」となった。
父は「雨」が着くのは
なんか陰気臭くないか?と
ちょっと不満を漏らしたらしいが
母は、譲らなかった。
新婚の頃の可愛いお嫁さんが
僕を産んだ直後から
母は強し……になったようだ。

「あまねくーん!」
今、僕の傍で可愛い声で
名前を呼ぶ妻

もっとみる