【つながる旅行記#52】修験の極みへ 西日本最高峰『石鎚山』登山記録 Part.2
Part.1はこちら↓
さあ、神門を通り、いよいよ山頂を目指そう。
看板によると3時間30分で山頂に行けるようだ。
往復すると6時間。
休憩も入れたら、16時くらいには帰ってこられるだろうか。
登山道を見るに、もう既に先をゆく人が居るようだ。
先程乗ったロープウェイは自分ひとりだけだったので、山小屋で泊まっていた人なのか、自分より前にロープウェイに来た人が居たのか。
なんにせよ、他の人間が居るというのは安心だ。
周囲の木から明らかに浮いている木があった。
ヒメシャラというらしい。
めっちゃ触りたくなる表面をしている。
歩いていくと鳥居があった。
まさに修験者のための山という感じがしてくる。
このリョウブという木は若芽が食用になるらしい。
木の若芽が食べられるなんてタラの芽くらいしか自分は思い浮かばないが、リョウブは木の模様も面白くてつい視線が向いてしまった。
調べてみると日本のかなりの地域に生えている木で、飢饉対策として利用されていたらしい。しかも若芽はアクがないので茹でずにそのまま食べても甘いとか。(普通は茹でて乾燥させ、ご飯のかさ増しにする)
昔の人の苦労が忍ばれる情報だ。
道端に登山者心得が置いてあった。
どうやら石鎚山では特殊な挨拶があるらしい。
「おのぼりさん」「おくだりさん」と声を掛け合うらしい。
……マジか。
そして大体の警告に存在する「一人登山は危険なのでやめよう」。
確かにその通りではあるのだが、ソロ登山が好きだから……。
階段が現れた。
先に行った人のおかげで雪は多少どけられているが、踏み固められているので逆に変な着地感で落ち着かない感じもする。
いやしかし……
ちょっとこれ……
まずいな……。
階段を自分の足で除雪しながら登り、ようやく地図にあるスポットに到着。
道案内によると左は迂回路、右は石鎚山の特徴である鎖場のうちの一つ、「試しの鎖」のようだ。
石鎚山の鎖場はこの他に3つ存在する。
そしていま目の前にある「試しの鎖」は、これから先に待ち受けるそれら3つの鎖を越えられるかどうかの能力チェックの鎖なのだ。
「試しの鎖を登り下り出来たのなら、この先の鎖場も大丈夫」
という感じらしい。
……とはいえ今は冬。
明らかに鎖場の状態は雪のない季節より悪い。
なんかもう鎖も埋まってる始末。
この状態で鎖場を試すのはただの命知らずである。
やはりここは迂回ルートか……?
そして実はこの地点で先行していたおじさんに追いついていた。
しっかりとした装備に身を包んだおじさんも、迂回ルートを選ぶとのこと。
そしておじさんは話し出す。
おじさん「前にここで滑落者が出てね……」
おじさんが指し示しているのは、迂回路の左手側の崖。
実際に安全登山マップを見ても滑落しまくりなようだ。
これは一旦途切れかけた集中力を研ぎ澄ませて進む必要がありそうだ。
しかし正直なところ、更に足場の状況は悪くなってきた。
う~む……。
前社ヶ森小屋に到着。
当然だが、今は冬なので売店もやっていない。
「力あめゆ」というものがどんなものかは不明なままだ。
とりあえず休憩する。
小屋からの景色は素晴らしい。
そしてよく考える。
……この先に進むかどうかを。
時刻は11時ちょっと前。
神門から90分でここまで来たことになるが、頂上まで3時間半かかると地図にはあった。まだ道のりは遠い。
3つの鎖場は迂回路を選ぶのが確定とはいえ、
1の鎖すらまだたどり着いていない。
正直ここまで歩いてきて、この先へ進むことには不安があるのだ。
そう、装備は万全ではなかった。
アイゼンが、ない。
ここまで歩いてきて、もう靴のグリップだけでは限界を感じている。
登りはよくても、果たして下りはどうなるのか?
山というのは雪がなかろうが、下りでは滑るもの。
それに自分の雪山経験なんて函館山だけである。
この先の登山道の積雪状況はわからないが、
地図を見るに、滑落して下まで落ちる危険性は上がる予感もする。
……ロープウェイ乗り場に貼ってあったポスターが思い出される。
山岳隊員の木村さん「アイゼンは必須アイテムです!!」
……必須アイテム、持ってなかった。
このままでは山岳隊員の木村さんにガチで迷惑をかける可能性がある。
それに「登山者滑落死!!アイゼンすら持たない無計画さ!!」
なんてタイトルのニュースにでもなったら最悪にも程がある。
これはやはり……。
帰るか……。
神門の看板にあった6つ目、「山は逃げない」。
そう、今回の登山は明らかに無謀だった。
ロープウェイから降りた道で、この雪はまずいかもと思ってはいたのだ。
来た以上は登ってみようとここまで来てしまったが、ここが限界だろう。
……ふと、試しの鎖の頂上を見た。
お地蔵様……?
いや、修験道の山だし違うか。
神道関係の像なのかもしれない。
「帰ったほうがええで」
そんな風に、謎の像が背中で語っている気がした。
帰ろう、帰ればまた来られるから……。
この旅を開始してからの初めての百名山は、敗北に終わった――
…次回へ続く。
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