実らなかった者たちへ
そっとすぎる夏 生暖かい台所からかけた内線電話
楽器を弾く君に 恋い焦がれていましたなんて
驚くだろうな そう思ってかけた電話
今でも思い出す生ぬるさ ごめんねを繰り返す電話の向こう
実らなかった者たちへ
お風呂場でかけた こもった電話
いつしか泣いていた いいやつでいて欲しいんだの言葉
きっと都合のいい相手 されどそれ以上にはなれぬ
それでもいいと思ってしまった だけど苦しかった
実らなかった者たちへ
芝生で寝転ぶ君を そっと眺めてはふと考えた
喋ること 話題 得体の知れない気持ち
きっと届くことがないだろう 高校生の時
久しぶりにあった電車の中 君は大人びていた
声をかけないで そう願った胸の内届かず
”久しぶりですね” 相変わらず敬語
声が聞けて嬉しかった 一人になると胸の奥がぎゅっとした
夏も過ぎ行く 10月の明け方
あの頃は飲めなかった お酒を片手に カラスの声を聴く
もう実らない者たちよ どうか
どうか 遠く遠く離れた場所で 元気でいて
もう会うことはない きっと会うことはない
ふと あの生ぬるさや 芝生 こもった声を聴いた時
なんだったっけなと頭を書きながら
消えゆくスポットライトを眺めるように
そっと思い出してくれたら 嬉しいなんて贅沢を願う
実らなかった者たちへ
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