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『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第107回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載107回 辻元よしふみ、辻元玲子
 
※本連載は、2008年刊行の書籍の改訂版です。無料公開中につき、出典や参考文献、索引などのサービスは一切、致しませんのでご了承ください。

②敬礼と脱帽の歴史

ネルソン提督のボーター帽

十九世紀の水兵帽としては、ネルソン提督が部下の英国海軍水兵の制帽として麦わら帽を採用した。水兵帽なのでボーター(船乗り用)と呼ばれた。いわゆるカンカン帽である。十九世紀末まで、日本海軍を始め、各国海軍の水兵は夏場に麦わら帽を着用していたが、前の項で紹介したプロイセン式の円形水兵帽に取って代わられる。
ボーター帽は、近年になって日本でも流行が再燃している。今も英国のパブリックスクールで制帽として採用している学校もある。また英国伝統の夏のレガッタ競技や、大学、スポーツクラブの制帽としても被られる。一九二〇年代に大活躍した米喜劇俳優ハロルド・ロイドが丸ぶちメガネと共にトレードマークにした。日本ではカンカン帽の名で知られてきたが。カンカンという名の理由は未詳。叩くとカンカンと音がするほど堅いから、という一説もある。
レジメンタル・タイの項で出てきた、オックスフォード大の学生がカレッジカラーの鉢巻きリボンを外してネクタイにした、という逸話にかかわるのも、この形の帽子である。

ルーズベルト大統領のパナマ帽

アメリカでは日本のような衣替えはなくとも、ストローハット・デー(麦わら帽子の日)というのが五月半ばにあり、そこから帽子を冬ものから夏の帽子に替え、それに合わせて服装も、麻やシアサッカーのものなどに替えた。紳士が常に帽子を被っていた一九五〇年代までは、そうして帽子で季節感を表した。
そんな夏の帽子の代名詞である麦わら帽子の中でも、ボーター帽と並んで、特に人気があるのがパナマ帽だ。
パナマ帽と呼ばれるのは中米エクアドル産のパナマ草で編んだ帽子で、エクアドルの名産品であり、実はパナマのものではないのが面白い。ではこの名はどこから来たかと言えば、パナマ共和国の独立とパナマ運河建設を後押ししたセオドア・ルーズベルト米大統領が、一九〇六年のパナマ訪問に際してこの帽子を被ってから、パナマ帽という名で広まったという。戦前の日本でも夏の帽子として非常に人気が高く、洋服でも和服でも、正装でもカジュアルでも似合うとされてきた。
一方、なお、基本的にこのような麦わら系の帽子は、夕方以後、夜間は被らない、というのが本来のマナーだ。


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