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嗣人
2021年10月21日 00:29
私の元へ一枚の葉書が届いたのは、年が変わって久しい一月末日のことだった。 文面には新年の挨拶と共に、去年の暮から入院していたという旨の内容が毛筆で記されていた。葉書の宛名には妻の名があり、差出人には『木山』とだけある。 身内や親戚、知り合いに木山という苗字の者は思い当たらない。 文面を読む限り、まだ妻が鬼籍に入ったことを知らないようだった。 妻が亡くなったのは昨年の夏のことだ。春に体を
2020年5月17日 13:58
亡くなった祖父は戦後の動乱期に財産を成した人で、田舎とはいえ屋敷もかなり大きく、私が幼い頃には住み込みのお手伝いさんが何人もいたりした。当然、遺産も多いので、父たちは相当に揉めるものだと考えていたが、祖父はきちんと遺産を均等に息子たちに分配し、膨大な量の蒐集品も亡くなる前に売却してしまっていたという。抜け目がないというか、流石の采配に親族一同驚いたものだ。 その為、通夜も穏やかに進み、久しぶり
2020年5月19日 13:58
急に降り出した天気雨から逃れるように、私はとにかく軒先へと飛び込んだ。 路地裏へ入り込んだのが間違いだったのか、古い武家屋敷が建ち並ぶこの町は、裏路地があちこちで入り組んでいて思った方向へ進むことが中々できない。こんなことなら近道など無理にしようとせずに、大通りを歩いていくべきだった。 若い頃ならいざ知らず、還暦を翌年に迎えた今の齢となっては自らの体力に過信すると痛い目に合う。「しか