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機密天使タリム 第九話後半「千年の想い、伝えたかった」

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襲撃


 僕たちが振り向くと、後ろにアハトがいた。
 それも、武装した状態で……凄まじい殺気を放ちながら。

「八戸……なんのつもりだ」
「今日一日、遠くから見させてもらったよ」

 小さな銀色の蝶がエーリュシオンの髪から離れていった。

「いつの間に……。
お前またストーキング……」
「これが神そのものであれば誓ってしないさ。
神の身体を乗っ取る不届きな悪霊め……」
『ならばなんとする?』
「殺す!!」
『従者!!』

 僕は持っていた武装ケースをエーリュシオンに放り投げた。
 エーリュシオンは制服を脱ぎ捨て、瞬時にバトルスーツが変異したヒラヒラの服と鎌を身に着けた。


 アハトはエーリュシオンに長刀で斬りかかる。

 エーリュシオンはそれを鎌で受け流してから顔面に掌底を叩きこんだ。
 アハトは突き飛ばされ、倒れ込んだ。

「このおっ!!」
『ふふん、この身体の娘に執着か?
片思いはつらいのぉ』
「わかったような口を!!!」
『……わかるぞ』

 アハトが再びエーリュシオンに接近。殴りかかったかと思いきや、素早く僕の方へ向かってきて、僕を蹴り飛ばした。

「うぐぅっ?!」

 僕は軽々とボールのように蹴り飛ばされた。
 派手に飛ばされた見かけよりダメージは少ない。痣は出来たが骨は折れていない程度……これでも手加減されたのだろう。

「お前……何易々とタリムちゃんの身体を奪われておいて。
のうのうと悪霊と楽しく会話してんだテメーはよお?」
 しかしキレ方はガチだ。

「違う、これはタリムの意思だ」
「ふざけるなよ……。
例え神の意思でも危険から守るのがお前の役目!!」

 完全に頭に血が上ってるなコイツ。
 話が通じそうにない。

「とにかくやめろ。
戦ってタリムの身体を傷つけるつもりか?」
「察しはついている。その金色の目を破壊すればそいつだけ殺せる」
「お前、どこから情報を……。あっ」

 先ほどエーリュシオンから離れた小さな蝶を、僕は目で追った。

「ふん、お察しの通り、蝶を使って盗聴も出来る。
精神操作を使えば痕跡を残さす機関に侵入して情報を得ることだって難しくないさ」
「セキュリティガバガバかよ……」
「君はどいてろ。用があるのはそこの悪霊だけなんだから!!」

 アハトは長刀をエーリュシオンの額に向けた。

『せっかちじゃのう。
我は用事が片付くまでの短い間、身体を借りているだけじゃぞ。
こやつの人生を奪ったりするわけがない。
この娘にはまだ果たさねばならぬ想いがあるからな』
「今すぐ身体を返せ!!」
『話しが通じんか……。
お主、何か策を練ろ。
今はまだ身体を返すわけにはいかぬ』

 僕はエーリュシオンに言った。

「一時的に返してもらえばアハトも納得するのでは……」
『ならぬ!!
もともと身体を借りるは無理のある術。
了承を得るために一度こやつに身体を返したが……
次に返せば二度と我は身体を借りれはすまい。
まだ、それだけは……
王に再会するまでは……』
「王って、千年前の……?」
『……?
お主、知らなかったのか?
我が王は……!!』

”ギィン!!”
 アハトの斬撃をエーリュシオンが必死に防ぎ、大鎌で素早い反撃。
 アハトは素早く後ろにそれを避け、鎌が額の前髪だけ切り裂く。

『うむ……そうか、お主も四騎士か』
 アハトの片目を覆っていた前髪がなくなり、左目に埋め込まれた紫の結晶が露出した。

「見るな……っ!!」
「アハトが……四騎士……」

 特別な能力を持ち、王への鍵を持つ変異体、それが四騎士。
 そういえば、カーティスの手に結晶があった。
 アハトの目がそうなら、エーリュシオンも四騎士なのか……?
 あの結晶こそ鍵なのか……?
 
”ピピピ”
 PHSが鳴った。

「博士!今エーリュシオンがアハトに襲われて……!!」
「丁度いいですねー。今すぐ二人を機関まで誘導してください」
「……丁度いい?」

 何か、ひっかかる。
 しかし、今は問答している余裕は……。

『お主!聞えたぞ。この間のえれべーたーなるもののある場所まで行けばいいんじゃな!!』
「そうだ!……博士、なにか準備があるんですよね?」
「もちろんそうです!!待っていましたとも!!とても長く長く!!」

 ……待っていた?長く長く?

「博士、一体何を……あっ」
 アハトの斬撃がPHSを切り裂いてしまった。

「小細工はいらない……
早くタリムちゃんを返せ……」

 エーリュシオンはこちらに気を取られたアハトを投げ飛ばし、空中で掌底を当てた。
「?!」
 さらにアハトに大鎌の石突で突きを放った。

「ガハっ……」
 腹部を強く突かれたアハトが苦悶の表情のまま、止まった。

『今じゃ、走るぞ!!』

 エーリュシオンは僕を抱きかかえて走り出した。
「あー?!お姫様抱っこやめて?!」
『気にしとる場合か?!』

 出会った時と違って、エーリュシオンは疾風のような早さで僕を抱きかかえたまま走り出した。

「アハトに何を?」
『我はこの手で術を撃ち込んだ相手の力の流れを制することが出来る。
それでヤツの動きを止めたまでよ。
まあ、僅かな時間だがな。
数日この身体を慣らしたお陰で、それなりに動けたわ。カッカッカ』

 エーリュシオンは僕を抱えて走りながら、何かを考え込んでいる。

『なあ、お主よ。聴いてくれ』
「この状態で?!」
『ああ。我がこうしていられる時間も残り少しのようじゃなからな』

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絶望の未来


 王宮での日々が五年ほど続いたある日、王は私に声をかけてくれなかった。
 王宮にいる日は今まで毎日声をかけてくれたのに。
 私は風呂に入りながら、世話をしてくれる侍女にそれとなく王の様子を訊いてみた。

「ああ、陛下は本日外交の席があると……」
『そうか。……ん?』

 湯の中に、ある光景が見えた。
 見知らぬ女が、赤ん坊を抱いている。
 その横に立つのは、今より少し歳を取った王……。
 そして赤ん坊が大きくなり……王と剣を交える姿が見えた。 

『……あっ?!』
「どうなさいました、巫女様?」
『……少し湯あたりしただけだ。
それより、急いで身支度を手伝え』
「……はい?」
 

 私は、他国の要人を招いた宴の席に強引に入った。
「巫女様?!どうなさったのです?!」
「ここは外交の場、お引き取りを……!!!」

 この国の儀式を司る巫女となった私を、衛兵たちに止める権利はない。
 宴の席には、我が王と、異国の王、そして異国の姫がいた。

「あなたのような傑物になら娘を喜んで任せられる……ん?」

 あの娘、やはり赤ん坊の母親……こいつの産む子は将来王に刃を向ける……!!!

『王よ、おやめください!!
将来この娘が産む子はあなたに剣を向けましょう!!!』
「だ、誰だこの女……!!!」
 異国の王は戸惑った。

 我が王は静かに、しかし力強い声を出した。
「巫女よ。
……それは本当か?」
『はい、我が瞳にかけて真実でございます』

 ああ、これで破滅の未来を防げる。
 そして私が……。

 異国の姫が口をはさんだ。
「ならば、将来その子に父をなにより尊敬するようにしっかり教えましょう」

 異国の王が言った。
「その通りだ。
未来がわかるなら、それを避ける道を通ればよい。
なにより、今まで争ってきた両国が占いなどがきっかけに婚姻の約束を破棄するなど……
それこそ破滅の道だ」

 我が王は杯を持って立ち上がった。
「巫女よ、案ずるな。
我はこの者を娶る。
我と刃を交えられるほどに強い男を育て、
その者が安心して国を治められるよう、死力を尽くす。
両国の繁栄と平和に!!乾杯!!!」

 周りは歓声を上げた。
 王は笑って葡萄酒の入った杯を私に手渡した。

 私は呆然と立ち尽くしながら、杯の水面にある光景が見えた。


 空から星が落ちる。
 どこからか現われた異能を振るう悪魔たち。
 悪魔を討つために赤き邪剣と青き霊剣を作る自分。
 その剣を振るい、悪鬼羅刹の如き力で悪魔たちに立ち向かう王。
 王はその力で周辺国に圧倒的な影響力を持つ覇王となる。
 しかし、周辺国はそれを疎み、王子を謀略で味方に引き入れる。
 霊剣を奪った王子と王は戦い、王子が破れ……。
 その戦いの果てに国が滅びていく……。
 そして、王は……。

 そんな未来が見えた。

『こ、このままでは……。
国が……滅びる……。
誰か王を……我が王を救ってくれ!!!』


 歓声に、私の叫びはかき消された。

 ……ああ。
 それが出来るのは……
 私だけだ。
 例え王が誰と契りを交わそうと。
 誰が王の子を産もうと。
 私が女と見られずとも。
 私だけが王を救えるんだ……!!!

 そうだ、私は王の運命を変える。それが、この呪われた……望まぬ形で未来を見る目を持って生まれた理由なんだ!!!
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裏切り

 
 機関の近くまで来た。
「やあ、お待ちしていました!!!」

 アズニャル博士が路上にいた。
 両手につけた手袋……いや、小手のような装置に、左右一つずつの結晶をはめている。

「その宝玉は?!」
「んん?これはカーティスの鍵と、私の鍵ですよ!!」
「私の鍵……?」

 後ろから、アハトが必死の形相で追いかけてくるのが見えた。

「カーティスは”守護者”、アハトは”誘惑者”、そしてエーリュシオンは”反逆者”と言ったところでしょうね。
そして私は四人目の騎士”探究者”」
『博士が……最後の四騎士?!』

 博士は白衣を脱いだ。
 タリムのスーツに近い質感のスーツをまとっている。


 博士の両手、エーリュシオンとアハトの結晶が輝き始めた。
 そして。


”ぐにゃり”
 
 眩暈……?
 いや、目の前の全てが……世界が歪んでいく……?
 
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 王は、夜更けに一人、城のテラスから街並みを眺めていた。
 ……私が以前見た未来の通りに、王が王子を殺した後のことだ。

『王よ、眠れませんか?
少しはお休みになりませんと、身体に毒です」
「……眠れると思うか?
守るために戦い、諸国から恐れられ、裏切った息子を殺し、挙句国を破滅させたこの身でありながら……」

 私は王の震える手を握った。

 私は、この結末を知っていた。
 この道に至らぬために、あらゆる知恵を絞った。
 その結果……曲げたはずの運命は当たり前のように元通りになった。
 "最善を尽くしたからこそこうなった"としか言えなかった。

『まだ僅かながら民も兵士も残っておりますよ!!
そしてなにより、我がいるではありませんか!!!
我は、王の安寧のためならなんでも致します!!』

 王は空虚そのもののような目で私を見た。

「ならば、手伝え。これから世界を滅ぼす」
『……』
「人は、争い、悲劇を生むだけの生き物だ。
ならば、滅ぼすしかあるまい。
滅びは、救いだ。
これから苦しむ者が生まれないために……」
『そんな……』
「我が邪剣とお前の霊剣なら、それが出来る」

 王は剣を抜いて、前へと歩き出した。
 王城から出た王は闇雲に剣を振るい、その衝撃で街並みが破壊されていった。

『やめて……。
あなた様の追い求めてきた理想が…………っ!!!
王自らそれを壊すというのですかっ!!!!』

 王はこちらを振り向いた。

『王よ……いえ、あなた様。
もう全てを忘れて、どこか遠くでただ平穏に二人で余生を暮らしましょう!!!』
「そんなことで全てを失った我が傷が癒えると思ったか、痴(し)れ者めがっ!!!!」

 王は今まで聞いたことのないような大きな怒鳴り声をあげた。
 私は、泣き崩れた。
 王はそれを見て、剣を大きく振り上げた。

「涙の理由が皆目見当もつかぬ。
だが、その悲しみを終わらせてやることは出来る」

 私は、そのまま俯いたまま、さりげなく腰の霊剣を手に取った。
 私が創り、一度は謀略により王子に奪われた運命の剣。
 王が剣を振り下ろした瞬間、剣を大鎌に変形させ、王の放った剣圧を受け止め、跳ね返した。


 跳ね返した一撃が王の身体を切り裂いた。

『この時を、待っていた……』
 私の目から涙が溢れ、流れ落ちた。

「なぜ、裏切った……?」
『あなたに、涙の理由がわからないからです』
「我が、この程度で止まるとでも……」

 王の胴体には身体が裂けそうなほどの傷が出来ていたが、それがみるみる塞がっていった。
 私はひとつの鏡を取り出した。

『この日のために手に入れておいた封魔の神器……末法鏡。
おそらく、我々のように悪魔たちに対抗するために古代の人間が作り出したものなのでしょうね。
これで、あなたの力を封印します』
「やめろ……!!!」
『無力な私でも、この命を捧げれば、あなたを止められる』
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 鏡から眩しい光が放たれた。
 王と半ば融合していた赤い邪剣が手から離れ、地面に突き刺さった。
 王の体が、崩れていく。
 私は大鎌を地面に投げ捨て、王の身体を抱きしめた。
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

終焉の復活

 ……今のは夢……?
 ……気絶したのか?
 ……どれくらい?
 どうなった。
 視界がはっきりしない中、僕は状況を整理しようとした。

 タリムがエーリュシオンに身体を貸して……。
 アハトが襲ってきて、博士に連絡して、機関へ逃げて……。
 エーリュシオン、アハト、アズニャル博士、カーティスの四つの鍵が揃って……。
 空間が歪んで……。

 視界がはっきりしてくる。
 石製の円形の暗い部屋……?
 部屋というより……ここは円形の巨大な石板の上なのか?
 石板の周囲は地獄のように炎の壁が燃え盛っている。

「どこだ……ここは?」

 円の中心に赤く禍々しい大剣が刺さっている。

 その前に頭を伏せているタリム……いや、エーリュシオン。

『おお、王よ……。
ようやく……』

 アハトの姿は見えないが、博士はいる。
 博士は赤い大剣に近づいた。

「博士……ここはどこなんですか?!」
「終焉の王が眠る玉室です。
機関中枢は終焉の王の魂が眠るこの邪剣をずっとここに隠してきました。
まあ、機関でも知っている人間はごく僅かですが」
「なぜ、それを破壊せず隠してきたんです?!」

 博士は笑った。

「変異体は人類の進化した姿だと、考えたことはありませんか?
終焉の王は、その中でも究極的に進化した存在……
私はそれを研究したいんです!!!」
 博士はかつてないほどキラキラした目で語った。

「世界を破滅させてもいいと?」
「ええ。進化に犠牲はつきものです」

 僕は博士に殴りかかった。
 博士はそれを軽々と避け、僕を蹴り飛ばした。

「がはっ?!」
「私は肉体労働と喧嘩は苦手なんですよ。
少しは鍛えていますが」

 博士が大剣を掴み、引き抜いた。
 禍々しい大剣の中央のくぼみに目玉が現われ、ぎょろりとこちらを睨んだ。

「こうなると……自分で自分を観察出来なくなるのが……ざ……ん……ね……」
 博士の髪の毛は白くなり、炎のように奔放に伸び、まとっているスーツの形状は鎧のように変形した。

 博士だった存在は静かに威厳のある声を出した。


≪我は……終焉をもたらす王である。
千年前に滅ぼすこと叶わなかったが、
今こそ世界に滅びをもたらそう≫

 頭の中に響くような不思議な声……日本語で話しているというより、そういった思念を直接頭に響かせているかのようだ。

『ようやく目覚められた……。
おひさしぶりでございます……。
おお、王よ……。
千年……
我は千年この日を夢に見ておりました……終焉の王よ』

 エーリュシオンは頭を伏せながら泣いた。

「終焉の王……
お前が会いたかったというのは、こいつのことなのか?!
博士の身体を乗っ取って、千年前の王が復活したのか?!」
『ああ、その通りじゃ。ようやく会えたのじゃ……』
 
 終焉の王は深くため息をついた。
≪王の前で、煩わしい≫

 終焉の王と目が合った。
 それだけで全身から怖気が走り、震えと冷や汗が止まらなくなった。

≪我は今度こそ世界を滅ぼす。人類に安寧を≫

 王は大剣を手にしたまま、円形の石板を取り巻く炎の壁に近づいた。
 王は歩みを止めて片手を前に出すと、透明な壁が現われて王の手を阻んだ。

≪霊剣による結界か……。
なぜ、再び我の悲願を阻む……裏切りの巫女≫
『我は……
あなたに失意と絶望のままでいてほしくなかった!!!』
≪我は失意でも絶望でもない!!
人類は悲劇と苦しみしか生まぬ!!!
未来永劫争い殺し合う定めなのだ!!!
死こそ唯一の救いだ!!!≫
『違う!!
この時代のひとたちは、争うことも奪うこともなく、我にも優しかった!!!』
≪違うな。
それは限られた一面に過ぎぬ。
我は感じるぞ、今の時代の、遠い場所から争い、悲劇、憎悪の気配を≫
『それだって人の一部でしかないでしょう!!!
この者たちがそれを教えてくれた!!!』

 エーリュシオンは自分の胸に手を当てて叫んだ。

≪貴様の言うことは先ほどから……≫

 王は大剣を両手で振り上げた。

『この時を……!!』
 あれは、相手の攻撃を跳ね返す技か!

≪欺瞞に過ぎぬ≫

 王の大剣は炎をまとった。
 周囲の地面を熱と衝撃で広く深く抉るほどの一撃。
 エーリュシオンはその攻撃を受け止め……
 防ぎきれず、吹き飛ばされて倒れた。

≪防げないほどの力で斬れば問題あるまい≫
『王……!!!』

 エーリュシオンがふらりと倒れ、僕は走ってそれを抱き留めた。
 大鎌が地面に転がり落ちる。
 王が力を込めた腕で大鎌を掴むと、ひび割れて一つの欠片が地面に落ちた。
 ひび割れた大鎌は剣の形になり、王が霊剣を掴んだ。
 
≪力が、少し戻ったな≫

 王が前方に軽く霊剣を振るうと、行く手を拒んでいた透明の壁はガラスのように砕けて消えた。
 王はその先の炎の壁を潜り抜けて姿を消した。
 
「エーリュシオン、しっかりしろ!!」
『すま……ん……我では……。
千年後の……お前たちに……厄介ごとを、押し付けて……しまった……な』
「しゃべるな!!……すぐ茨先生に……」

 魂を宿した目の結晶にヒビが……医者がどうにか出来るものではない……。

『この……身体だけは……守った。
王は……封印……鏡を……破壊しに行った。
……我が目覚めた神社に……
鏡が壊れれば……王は世界を滅ぼす力を……得る……。
……頼む、王を眠らせてくれ』
「エーリュシオン……お前の願いはそれなのか?」

 エーリュシオンは苦し気ながらも笑い、僕の顔に向けてゆっくり手招きをして。
 何か小声で言った。

「うん?」
 僕がエーリュシオンに顔を近づけると、彼女は僕の頬にそっと口づけして、離れた。

「えっ……?!」
『これは、感謝の気持ちじゃ。
ありがたーく、受け取れよ?
半分はこの身体の気持ち……』

 さっきまで息も絶え絶えだったエーリュシオンが急に身体を起こして普段通りに流暢に話し出した。
 口づけの件もあって僕は驚いて反応すら出来ない。

『だいたいじゃなあ……。
お主たちは、お互いに大事な気持ちを言い合ってないじゃろ?
出来るときにしておかんと後悔する!!
我が……
私がそうじゃったから間違いないわ!!!』

 エーリュシオンと目が合うと、彼女はにっこり笑った。

『それが、お前たちの望む……未来の……鍵。
後……頼む。
出来れば、千年の……この気持ち、伝えたかった……』

 エーリュシオンは涙を流しながら、王が落としていった霊剣の欠片を僕に手渡した。
 そして、目からひび割れた金色の結晶が落ちて全身の力が抜けたようになった。

「エーリュシオン!!!」

 そのとき、僕の脳内にある光景が浮かんだ。
 身体が崩れていく王を抱きしめる、エーリュシオン……これは千年前の……。

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 力を失った王の身体は朽ちていき、命を力に換えた私の身体も朽ちていく。
 力が抜けていく腕で、私は王を抱きしめている。

『せめて最期だけは、私の傍で、一緒に逝きましょう。
息を引き取るまで、安寧の時を共に……』

 王が叫ぶ。

「巫女貴様よくも我を裏切ったなぁーーーーーーーーーーーっ!!!
我は千年後、再び現われる!!!
運命に復讐を!!人類に安寧と破滅を!!!
この魂の火を、我が剣に!!!」

 王は崩れかけの腕で、私を押しのけた。
 私の腕から地面に転げ落ちた王は邪剣に手を伸ばし……灰になった。
 私の腕に、顔に、次々と亀裂が走った。

『……ああ。
わかっていた。
こうなることは……』

 私は大鎌を手に取って、祈った。
 大鎌は剣の姿に変わった。

『私の想いを……この剣に……。
あの方が千年先に蘇るなら、私も千年先に蘇る。
この想いが届くことはなくとも……
ただ、あの方にひとかけらの……安寧と、眠りを』

 私の身体が、崩れて灰になっていった。

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想いを受け取る

 そして、彼女は霊剣の欠片を力強く握って立ち上がった。
 両目は元に戻っている。

『あなたの想い、確かに預かった!!!』

 彼女の力強い瞳は、流れ出る涙など構わないかのように、何一つ揺らいでいなかった。

”ぐにゃり”

 ここへ来たときと同じように、空間が歪む。

 気が付くと、僕とタリムは機関の建物の外にいた。
 近くの建物の一部は、強大な竜巻が通った後のように瓦礫の道になっていた。

「この方向は神社……。
文字通り一直線に向かったのか……進路上にあるものを全て薙ぎ払いながら」

 瓦礫の近くに、アハトが膝をついていた。

「やあ……久しぶりタリムちゃん」
『大丈夫?!』
「なんともない……」

 全身血を流しているのにそれはないだろう。

「あいつ強いね……。このボクが十秒ともたないなんて。
ボクはせっかく生き甲斐を見つけたのに、世界を滅ぼそうとかふざけた野郎だよ。
……君たちはもう逃げたほうがいいんじゃないかな?
まともな手段で勝てる相手とは思えない。
あれは本物の化け物だよ」

 タリムは首を横に振った。

『伝えなきゃいけないことがあるから。
それに、一発喰らわせてやらないと気が済まない』
「相変わらずだなあ……いてて」
『無理に話さないで……
今機関の治療班を……』
「ボクは見た目ほどのダメージじゃない。
それより、ボクの武器はまだ無事だ。
普段のトンファーほどじゃなくても、素手よりマシだろう?」

 タリムはアハトの長刀を受け取った。

『うん、ありがとう。
行ってくる』
「よし、僕も……」
「ダメだ」

 アハトが僕の腕を掴んだ。
「おいっ?!」

 タリムの服がいつものバトルスーツに変わり、ヘルメットを被った。

『ねえ、君。後で話したいことがあるから!!
戻ってくるまで家で待っててね』

 銀の機械翼が背中から生じ、タリムは瓦礫が続く痕跡を一直線に飛んでいった。

「なぜ止めた……」
「わかってるだろう?
今度の敵は君がサポート出来る範囲の相手じゃない。
少し離れた場所にいても、台風みたいな剣圧に巻き込まれて死ぬ」
「多少の危険があったって、出来ることが……!!」
「ないね。
無事なまま出来ることを見つけるより、君が何も出来ずに死ぬ可能性のほうが遥かに高い。
その場合、タリムちゃんは動揺してまともに戦えなくなるだろう。
……君ならわかっているだろう?」
「……くそっ!!」

 僕は地面を殴りつけた。

「信じよう、ボクたちの天使を」

 まだ昼間だったはずの空は、急速に暗くなっていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

終焉の王


 タリムは神社に辿り着いた。
 終焉の王は、奉納されている鏡を前に剣を振り上げていた。

≪何故我が使命を妨げるのだッ!!!≫

 タリムは長刀を全力で振るった。

≪……愚かな≫

 王の腹部の装甲に当たった長刀が半分に折れた。

『そんな……?!』
≪我が力の前では全てが無力≫

 王は霊剣と邪剣から、タリム砲を遥かに超える禍々しいエネルギーの嵐を生み出し……

 タリムへと容赦なく叩きつけた。

『うぐぁっ……
……強すぎる……』

 王は倒れたタリムを無視して、鏡に二本の剣を突き刺した。
 鏡は粉々になり……王の肩や背中、腹から牙や骨を思わせる突起が次々と出始めた。

≪ようやく封印を全て破壊し、”終焉の王”の真の姿になった。
これで、全てを終わらせる……≫

 ひとつ、ふたつ、みっつ……光条が空から地上へと落ちていった。

(たぶん、今のは世界を壊す前触れ……。
……これから世界が終わるんだ。
今終焉の王を倒せれば止められるかもしれない……。
でも、さっき手も足も出なかった。
その上、さらに変形して……。
こっちはたぶんアバラが折れてて、激痛でまともに動けない……。
……。
ひとりじゃ何も出来ない。
こんなときに君がいたら……なんて言うかなあ。
今までの君なら、こういうとき……)

『なにを……しているの……?』
 タリムは倒れたまま言った。

≪この時代の巫女よ。
見届けよ、終焉の始まりを。

第一のラッパ。地上の三分の一、木々の三分の一、すべての青草が焼ける。
第二のラッパ。海の三分の一が血になり、海の生物の三分の一が死ぬ 。
第三のラッパ。ニガヨモギという星が落ちて、川の三分の一が苦くなり、人が死ぬ。 
第四のラッパ。太陽、月、星の三分の一が暗くなる。
第五のラッパ。いなごが額に神の刻印がない人を5ヶ月苦しめる。
第六のラッパ。四人の天使が人間の三分の一を殺した。生き残った人間は相変わらず悪霊、金、銀、銅、石の偶像を拝んだ。
第七のラッパ。この世の国はわれらの主、メシアのものとなった。天の神殿が開かれ、契約の箱が見える。

人類は愚かにも地球を汚すことで第一、第二、第三の予言を自ら成就させた。
第四は、魂の双剣を鍵として破滅の星を招く。
第五は、終わりの始まり。落ちた星に宿る虫けらどもが人々を悪魔に変える。
第六は、断罪の天使の目覚め。
そして、第七は……≫
『あなたは、世界を破壊して、全部を無にするつもり……?』

 王は天を見上げて言った。

(相手は勝った気でいる。
なら少しでも情報を集めてチャンスを探す!!
会話は……地下の施設が生きていれば機関が傍受しているはず!)

≪少し違うな。
世界を穢し壊す人間たちさえいなければ、
木々も海も川も空も光も全ては再び目覚め……世界は蘇る。
我が望むのは、それだ≫
『あなたが戦乱に巻き込まれて人間を憎んでいるのは聞いた。
だからって、平和に生きている人々の命を奪う権利があるの?』

 王は静かに語った。

≪ああ。
その平和に生きている恵まれた連中は、無自覚に世界を汚し、貧しい者たちから富を得ている。労働力、金属、布、食糧といった形でな。
人間がいる限り、悲劇は無くならない≫

(こいつのこと……少しわかってきた。
ただの冷酷非道なヤツじゃない。
優しいから……
悲しくて、どうしようもないから、全部終わらせたいの?)

『それでも人間はちょっとずつ間違ってることを正そうとしている一面もあるよ』
≪人類が過ちを正す者より、過ちを認めない者のほうが遥かに多い。
そんな者たちを命を懸けて守る価値があるのか?≫
『それでも、私はたくさんのひとたちの優しさを見てきたから、今日まで頑張ってきたんだ!!』
≪この時代の巫女よ。
もし、お前のような者たちばかりなら、人間は滅びる必要はなかっただろう。
だが、多くの人々は冷酷で、愚かで、度し難い≫

(この分からず屋……
なんでこう、独りよがりで、極端なんだ……)

『私だってそういう身勝手な人間のひとりですよ。
うっかり人を傷つけてしまったこともあります。
あなたは違うんですか?』
≪……違わない。
最も罪深い我が……罪を償うのだ。
その先にしか安寧はない≫
『あなたは、自分のことが許せないんですね』

 王はゆっくりと頷いた。

≪巫女よ、世界が終わるまでしばらくの間、愛するものと過ごすがよい。
せめて、我には出来なかった束の間の安寧を……≫

『”我には出来なかった”……?
エーリュシオンがなんのために千年前にあなたを止めて、
なんのために千年間待ち続けたと……。
自分はそれを拒絶して、私にそれを言うの……?』

 タリムはしばらく顔を伏せて、無言のままでいた。
 それから、両手を握り、震わせた。

≪……あの巫女のことなど、些末なこと。
我はこれから世界に破滅をもたらしに行く≫

 王はタリムに背中を向けて歩き出した。

『ふ・ざ・け・る・な!!!!』

 タリムは唐突に立ち上がって、振り向いた王の顔面に渾身のパンチを放った。
≪……?!≫

 タリムの拳の外と内側、そして王の口から血が流れた。

『カッコつけてんじゃねーよ、バーーーーカ!!!』
≪我を、愚弄するか……!!≫
『今のはなあ……
あんたに一生見向きもされずに尽くしてきた女の子のぶんだ!!!』

≪それがどうした?!≫
『あんたは結局、自分の罪の意識から耐えられなくて、自分の罪を人類全部の罪にすり替えているだけなんだ!!!
このカッコつけの小心者がっ!!!』

 タリムは、”ぷつん”と音が鳴った気がした。

 王の身体から怒気とも物理的な圧力とも言い切れない異様なプレッシャーが放たれ、タリムの身体は動けなくなった。

(まるで……重力が何倍にもなったみたいだ……!!)

≪今すぐ殺す!!!≫
『お前なんかに……悲劇の王様気取りの馬鹿に負けるもんかぁーーーーー!!!』
≪ふざけるな!!!≫

 圧倒的な圧力と共に剣で襲い掛かってくる王。

(王は怒りで我を忘れて単純な動きしか出来ない……!!
だったら!!!
私は怒っていても冷静だ!!
君みたいに、どんなときも最善手を選んでみせる!!
大逆転の一撃を叩きこむ……たぶん最後のチャンス!!!)

 タリムはそれをひらりと後方へ宙返りで避けて、右腕を前に構えた。
『適合率90%……ロックオン、タリム砲発射!!!』
 タリムの右腕から激しいエネルギーの嵐が放たれ、終焉の王を捉えた。

(撃てた?!
……十二月の戦いから撃てなくなったのに……?!)

≪こんなもの……効くかーーーーー!!!≫
 王の装甲や飛び出た骨状の突起はあちこちヒビが入るも、倒れることはなかった。

(ビームブレードトンファーのエネルギー増幅機能がないと、本来の威力が……。
いや、本来の威力でもあいつを一撃では……。
今の一撃で適合率が……72%まで低下?!
決定打がない!!!
他になにか、決定打になるもの……!!
君なら、決して最後まで諦めない!!!)

 タリムの耳あての通信機から茨の声が聞こえた。
「タリム……タリム……ようやく通信が……
座標判明。ようやく切り札をそっちに発射出来るわ。
受け取りなさい……ただし身体的な負荷が……」
『オッケー!!!』

 後方の空を見ると、何かが空に打ち上げられたのが見えた。

(君がいたら、きっとこうしろって言う!!)

 タリムは王から距離を取った。

≪ウガァーーーーーーーーーー!!!!≫

 怒りのあまり荒れ狂う王を、タリムはひらりひらりと避け続けた。
 しかし、暴風のような威力の攻撃は避けても、衝撃波だけでタリムに傷を負わせ、徐々に態勢を崩させた。

≪これで終わりだぁーーーーーーー!!!≫
 よろけて跪いたタリムに、王は巨大なエネルギーの嵐を放った。


(避けられない!!
だけど、私は最後まで……!!!)
 
 タリムはその一撃を受け止めた。
≪……何?!≫

 タリムの全身は白く厚い装甲に覆われていた。


 その背中にはいつもの銀色の機械翼に加え、さらに大きな翼の四枚翼に。
 機関から打ち上げられたタリムの新装備……強化装甲が、自動的にタリムの身体に纏われたのだ。

『適合率……85……89……95……まだ上昇する……?!
これならいける!!』

 タリムは折れた長刀を拾い上げ、霊剣の欠片をくっつけた。

『お願い、力を貸して』
≪次こそ殺す!!!≫

 王は再び巨大なエネルギーの嵐を生み出した。

『この時を……待っていた!!』
 長刀が大鎌に変化し、エネルギーの嵐を受け止め……

≪愚かな!!!
その技は圧倒的な力の前では無力!!!≫

(あちこちの出血が止まってる……装甲の機能?
でも、身体が……痺れる!!
受け止めている衝撃だけじゃない、この適合率を上げる装甲は命を削っている……。
だけど、私は……エーリュシオンのために、待っている君のために!!!)

『適合率……99%!!最大出力!!
決して負けられないんだーーーーーーーーーーっ!!!』

 エネルギーの嵐をまとった斬撃を王に放った。

≪おのれ!!!だが、魂の双剣なら防げ……≫

 王は霊剣と邪剣の二本で防御の構えを取った……
 しかし跳ね返された攻撃が当たる直前、霊剣は王の手からするりと落ちた。

『エーリュシオン……あなたの意思はまだそこに!!』
≪うおおおおおおおのれーーーーーーー!!!!≫

 攻撃を受けきれない邪剣がひび割れ……
 王は自身の最大の攻撃を喰らい、跪いた。

 長刀と一体化した欠片が離れ、霊剣と再びひとつになった。
 タリムが霊剣を拾うと、トンファーの形になった。
 そして、タリム砲の構えを取った。

 

『エーリュシオン……あなたの想いを込めるから。
適合率……99%!!ロックオン!!!
届けーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』


 タリム砲が王に直撃する。

≪……!!!
こ、この力は……?≫

 タリムと王の脳裏に、エーリュシオンの姿が見えた。
 どんなときも王の安寧を願い、王の背中を追い続けた姿が。

≪これは、お前の想い……?!
違う……これは巫女の……っ≫

 王の全身の装甲や、骨や牙状の突起が全て吹き飛ばされ……王は仰向けに倒れた。

≪わかっていた……。
誰かに許され、
愛してほしかった……。
そんな身勝手な望みを誰が……認めてくれよう……≫

 トンファーから、霊剣の欠片が離れた。
 タリムはその欠片を、そっと王の腕の中に押し込んだ。

≪……すまぬ。
我は何も……
わかっていなかった。
すまぬ……
すまぬ……
エーリュシオン……≫

 王の両目から涙があふれ……指先が、顔が、灰になっていく。
 小手に埋め込まれていた四騎士の結晶ふたつと、邪剣は地面に落ちたまま残った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

告白

 僕が神社に息を切らせながら辿り着いたときには、王が灰になって消えていくところだった。

「全部……終わったのか」

 気が付けば、暗くなっていた空は青く晴れていた。
 タリムはくるりと振り向いた。

『そうだよー』

 タリムは明るい口調でそう言って、ヘルメットを脱いでこちらにポンと投げた。
 そして腕を組んで頷きながら話し出した。

『全く、意固地になった男はほんっと、めんどくさいよねー。
なんでも一人で出来るつもりになって、結局周りに支えてもらってないとなーーーんにも出来ないって気づかないのかな~~』
「ははは、世界が滅びかけたのに軽いな~。
他人の夫婦の痴話喧嘩を仲裁したみたいなこと言って」
『うん?
だいたいそんなもんだよ。
最後はわかってくれたんじゃないかなー、って。
エーリュシオンもさあ、ちょっとは嬉しかったんじゃ……あっ』

 タリムの両目からはらはらと涙が流れてきた。

『嬉しかった……よね……。
千年片想いして、ようやく気づいてもらえたんだよ。
たぶん、最後だけは、受け取ってもらえたんだよ……』
「ああ、よかったな……」

 僕はタリムの肩にそっと手を置いた。

「ほら、ハンカチ」
『ありがと、もうだいじょぶだから』

 タリムはハンカチで涙を拭いた。

「そういえば、終わったら話しがあるとか……」
『そそそ、そうだった!!
うん、この機を逃しちゃいけないよね……。
エーリュシオンの忠告だもん。
ってか!!!
家で待っててって言ったのにさー!!
なんでこっち来ちゃったの?!』

 タリムは僕の顔面にずいっと人差し指を向けた。

「え?!
だってそりゃ待ってられるかよ。
心配して居てもたってもいられるわけが……」
『余計なお世話ですー!!
今回は一人でやれましたーーー!!』

 タリムはあっかんべーをした。
 あのなぁ……。

「おまっ!!
王のことはあれだけ言っといてなぁ……」
『あははーー。
まあ、そうですねー……。
感謝はしてるんだけど、言いたいことはちょっと違うと言いますか……』
「うん?」

 なんか急にしおらしくというか、モジモジしはじめたな?

『その……
あのさ?
とっても大事なこと言うから。
ちゃんと聴いてて』
「うん?」

 タリムは息を吸い込んで、吐き出してから、こちらをじっと見た。
 そして、囁くように言った。
『ーーーき』

 ……小声で言うなよ、聞こえない。

「今なんて?」
『だから……』

 タリムがそっと手招きしたので僕は顔を近づけた。
 彼女は目を瞑って言った。

『だいす……』

 そして、顔が近づいて……
「……?!」

 気が付くと、タリムの額や腹部から急に血が流れ出した。


 

 タリムはぐったりと倒れた。

「タリム……?」
 タリムは僕の腕の中でぴくりとも動かなくなった。


あとがき

 
 次回から終盤突入です。(全十二話予定)
 なるべく短く読みやすいように頑張ります。


次回


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