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高校の学びは、大学入試の手段なのか?~探究で、学びの「スイッチ」をどう入れるのか?~(ラーニング編)



Scene 01 多文化共生と地域産業の発展に寄与する「地域の学校」をめざす

大泉高校は国際色豊かな邑楽郡大泉町に位置し、外国にルーツをもつ生徒が多く在籍する学校です。また、生徒の大半が卒業後も大泉町から半径30キロ圏内で進学・就職するなど、創立以来変わらず、地元に根差した存在となっています。

そのため、本校では多様な価値観を受け止められる人間性を育むこと、地域づくりを担うリーダーシップを持った人材の育成を教育の柱としています。
多くの外国人労働者を抱える地元、大泉町周辺の地域で多文化共生を叶え、産業界を支えることのできる人づくりを進めています。


Scene 02 大学進学が前提ではない進路多様校の探究学習

主権者教育やジェンダーなどを通して多文化共生を考える授業や、地域のリーダーとして活躍できる人材を育成するための授業を行いたい。また、意欲がないのではなく、大学進学など、将来の学びをイメージできないでいる生徒が「憧れ」を持てるようにしたいと考えていました。

そこで、2015年から探究学習のカリキュラムを設計し、「総合的な学習の時間」(以下、総合学習)を開始。学年ごとに段階的に段階的な社会との関わりを深められるようにテーマを設定し、自治体と連携して町の長期計画を考えるほか、グループでの調査や発表にも積極的に取り組みました。


Scene 03 生徒たちの学びを「まちづくり"ごっこ"」で終わらせない

3年ほどたった頃、「総合学習」での学びを「町のことを話し合っておしまいにしては、もったいない」と思うようになりました。大泉高校が探究教育に取り組み始めたのは、進学希望か就職希望かに関係なくすべての生徒に学びに対する「憧れ」を持って欲しい、また何より地域課題を解決するリーダーに育ってほしいと考えたからです。

授業での取り組みを単なる"ごっこ"で終わらせず、生徒が社会で起こっていることを自分事としてとらえ、さらに学びをふかめるように導くにはどう展開したらいいかと思案しました。そこで、2019年から大学と連携した授業をスタートさせました。

Scene 04 生徒の積極性と探究心を引き出す工夫に溢れた連携授業

普通科1年生「総合探究*」の連携授業で行われた「ブレインストーミング・ワークショップ」と、数人ずつのグループを組んで挑戦した「SDGsカードゲーム」は、生徒の発想を豊かにすると同時に、積極的に意見を言えるように工夫されていて参考になりました。カードゲームで楽しみながらSDGsの17の目標を学んだことで、社会課題を自分事として考えるきっかけになった点や、2年生で取り組む大泉町の行政課題をテーマにした授業の準備として位置づけられる点でも、とても有意義な試みでした。

*2019年度入学性より「総合的な探究の時間」に移行


Scene 05 探究学習で「学びのプラットフォーム」を築く

教科書のない授業は、受ける生徒も進める教員も大変ですが、行政や大学との連携授業を経て、大きな手応えを感じています。授業アンケートに「普通の授業を大切にしないと、探究活動で言いたいことが言えないし、表現することもできない」という声が多く上がったように、グループでの調査や発表に取り組むうちに、生徒が各教科の授業で学ぶ知識や倫理的思考と表現力の重要性に気づいたことは、本校の探究学習が「学びのプラットフォーム」として機能している証であり、喜びとともに大きな収穫でもありました。

自分事として学習を深めさせるためにはより社会に近い存在である大学や企業との連携が有効であることが分かり、現在は普通科で月約4回ほど、外部との連携授業を実施。生徒は社会と関わる学びによって自信を育んでいます。

Scene 06 探究学習で学ぶ習慣を身につける

本校では、学ぶ楽しさを知ったことで、「もっと学びたい」という積極的な理由から進学する生徒が増加。カードゲームを通してSDGsに興味を持ち、「大学で学びたい」と目標を持った生徒は、3年生で「非正規雇用の働きがい」というレポートをまとめたり、粘り強く勉強を続けて一般選抜での合格を果たしたりと、嬉しい成果も出ています。入学当初は明確な希望進路がなかった生徒たちが「探究学習」によって視野を広げ、いまでは積極的に勉強し、専門的な学びへの興味を自ら育んでいます。

ただ、あくまでも大学進学は学びを深めるための延長線上のもの。今後も本校では、就職希望者も含め、探究的な学びを通して、生涯にわたって学ぶ習慣をつけられるような授業を提供していきたいと考えています。


まとめ  高校教育は、学びの連続性の起点になる

山頂で見る景色のように、大学へ進学し、一段高い視点で社会を見ることで初めて気づく問題があります。大学で勉強したからこそ身につく問題解決の力があることも事実です。ただ、生涯にわたって学び続けるというのは、単に上へ上へ進むことではなく、もちろん大学に進学することが必須条件でもありません。
むしろ大切なのは、高校時代に問題を発見する力をしっかりと身につけることです。闇雲に進学を考えるのではなく、「自分の発見した問題を解決するために専門的に学びたい」と感じたときに大学での学びに結びつくことが重要です。そして、大学で問題解決のための知識や手法を学び、社会に出てからも本格的に問題解決に取り組むという流れにつながる。今後の高校教育は、大学への通過点ではなく、生涯にわたる「学びの連続性の起点」となるものを生徒の中に気付くことこそが求められるだろうと考えています。


今回インタビューした教授


大津 幸信 先生
群馬県立大泉高等学校|教務主任

教職歴23年。同校に赴任して10年目。担当教科は、地理歴史・公民科。

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