美しい景色

11月の下旬に12年通っているダンススクールの発表会があった。芸事をやっている上で、発表の機会があることはすごく有難い。それも客席は千人規模。音響に照明、楽屋も新しく綺麗な箱でやらせて頂けている。ときどき吉本の芸人さんが公演に来ることもあるらしい。

毎年改めて驚くのだが、案外舞台上からは客席がよく見える。マスクをしていると、白いから尚更よく見える。やっぱ端の方はあんまり座らないんだな、とか、前の方は人が多いな、とか、あのドセンターの空席は何だ?とか…。
1階席の半分より前は性別も、大体の年齢もわかる。

しかしここ数年は疫病のこともあり、一席おきなど空席が目立つ景色であった。6、7歳の時に感じた「すごくたくさんの人に見られている」感覚は、もう私の中に残っていないかもしれない。

だが今年、初めて満席を見た。約千人の人に見て頂けた。空席が見えない。すごい。
俳優さんが舞台挨拶やSNSのコメントで言う「美しい景色」とは、これのことだったのか。これは確かに、とても美しい。

なるべく客席一人一人の顔を見ようと、バレない程度で曲中に客席を見回した。するとふと気づいたことがある。
「私はどうすれば、この人達の記憶に残れるんだろう」

私は人の記憶に残れるような表現がしたい。「一生忘れない」程の物はまだ難しいが、「帰り道に感想を言い合っていたら思い出した」くらいのことはできたいと思っている。

母数が多ければ、より可能性が上がるように感じるかもしれない。でも彼らのほとんどは、私目当てで来て下さった人ではないのだ。つまり彼らはそもそも私を見てすらいないのかもしれない。

私自身を見に来てくれる人は親族3人だけ、私が出演する曲目当てだと50人くらいはいるだろうか?そうすると9.5割、千人の内、950人くらいの人にとって、私はおろか、私の曲だってたくさんの内の1つでしかないのだ。

それでどうして、人の記憶に残れるだろうか。
いやぁ…むずい…。

改めてプロはすごいなと感じた。お金を払っても見に来てくださるファンで、ドームやスタジアムが埋まるのだから。その上彼らは演者についての感想を帰り道に言い合い、大切な記憶として残してくれるだろう。きっと、一生。

ここ2、3年、すごく上手くなったように感じていたが、安心した。まだまだ伸び代しか無い。
よし、頑張ろう。

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