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『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』-プライベート要素盛り盛りな巨災対-

インドの火星探査計画「Mars Orbiter Mission:MOM(通称:Mangalyaan)」をモチーフにした作品。国産ロケット打ち上げ計画に失敗したチームリーダーと癖の強い科学者たちが低予算での火星探査機打ち上げミッションに挑む。

知り合いに面白いらしいから感想を聞きたい、と言われたので1月半ばくらいから観よう観ようと思っていたのだけれど、緊急事態宣言による8時以降の営業自粛の影響で実質平日の鑑賞が不可能な中、土日の上映予定も中々合わず、結局新宿ピカデリーで観賞(新宿ピカデリーは劇場までの導線が気に食わないのであまり使いたくないのだが。。吉祥寺アップリンクの上映スケジュールが不安定なせいだ。。)

実話に基づくことをアピールポイントとする映画作品は多いが、個人的にはどの程度実話に忠実なのか、という話は正直どうでもいい。その映画が面白ければどこまでが実話でどこまでが創作か、など些細な話だ。

本作は夢を実現する科学者たちのお仕事群像劇であり、不可能なミッションを可能にする冒険譚であり、女性等(女性だけではないのだが、適切な言葉が見当たらないので、やむを得ずこう表現する)をエンパワメントする啓発映画でもある。「夢は眠っているときに見るものではない。夢はあなたを眠れなくするものだ」というセリフはとてもimpressiveだし、最初はバラバラだったチームが次第に一致団結して困難を乗り越えていく様は勇気づけられる。NASAから招聘されたお偉いさんやモラハラ気味の旦那など、旧体制側の人間も登場するが、そこまで悪人でもないのでストレスのたまらないバランスも保たれており、とてもいい塩梅のドラマだ。とても良い映画だと思う。

ただし欲を言うと、色々とうーん。。となってしまう箇所も多かったのが残念なところだ。例えば、この映画の根幹・背景には「インド政府の自己アピール」が垣間見える。確かにアジア初の火星探査計画を成功させた実績は誇らしいことなのだが、映画冒頭にチームリーダーの口から不自然に発せられる「国内産の装置だけで宇宙を目指すべき」「科学者であれば自国に奉仕するべき」という内容のセリフはかなり違和感があった。モチーフとなった人物も同じ考えだったのかもしれないし、公務員としての矜持を示す意図があったのかもしれないが、科学の探求に国境は無いのでは?と思わざるを得ない。

また、登場人物の性格やバックボーンがあまりに出来すぎていて、エンパワメントされるべき、尊重されるべき女性像(働く母親、軍人の妻、アメリカ志向の若者)、マイノリティ像(未婚者、ムスリム)の圧がややうるさく感じた。チームに降りかかる困難の数々とその乗り越え展開も予定調和が過ぎ、実際のロケット開発が短いカットのラッシュで示される中盤以降まではかなりかったるい展開が続く。「科学者としての誕生日」を祝うことでチームの団結力を高めるシーンは、感動的な場面である一方でかなりこっぱずかしいシーンでもあった(あんな意識高い系なチームビルディングは嫌だなあと思ってしまった)。

このキャラクター造形と物語の展開が良く出来すぎていることへの違和感は、あらゆる要素を削ぎ落すことなく全部盛りにするインド映画の特性が良くも悪くも出てしまっている部分だと思う。映画の構成自体は『シン・ゴジラ』とそっくりで、本作の火星探査チームは『シン・ゴジラ』でゴジラを凍結させる矢口プランを推進する「巨災対」と重なる部分が大きい。ただし、『シン・ゴジラ』が登場人物のプライベート描写を徹底的に削ぎ落したことで、日本の官僚組織における冷たさ・堅苦しさと出来すぎたキャラクター造形がぴったりとはまり、リアリティこそ無いものの『シン・ゴジラ』という作品の中で魅力的な人間模様を描くことに成功した一方で、『ミッション・マンガル』ではキャラクターの全てを省略せずに描こうとすることで、ストーリー内でノイズになってしまっている部分が多いと感じた。作中最も魅力的な人物であろうチームリーダーのプライベートが全く描かれていない点からしても、もう少し焦点を絞った脚本とした方が、いい話を作った感がでなかったのではないだろうか。

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