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[困惑] 「ジャズっぽい」という難しさ

芸能の現場に出ていると、とくにジャズに特化したわけではない方々と仕事をすることも少なくないのです。
ロック出身だったり、クラシック出身だったり、本当にさまざま。
そうすると音名がドイツ語だったり、使い慣れた用語が通じなかったり、
ふだんあんまり言わない言い回しに出会ったり(あ、そこの『ゾクシチ』ね、ちょっと音替えようか~とか)で本当に勉強になるのですが、
たまに「そこはもっと『ジャズっぽく』いこうよ」なんてリクエストがあったりするんですね。

この言葉を聞いて具体的にどうしたらいいのかよくわからない人たちはおそらくジャズを専門的にやってきた人たちでしょう。
ジャズという音楽は1900年くらい(実ははっきりしていない)に出来てきて、それから120年の間わたしたちを楽しませてきました。

バッハやハイドンの生きた120年ではなく、ライト兄弟が初めて空を飛び、2度の世界大戦を経て、月へ進出し、紙のお金が要らないところまで進んだ120年ですからそれはもう目まぐるしい変化です。
当然音楽にもとてつもない変遷があり、無数のジャンルが産まれたのです。

そのなかでもジャズという音楽は「ほかの音楽の要素を取り入れる」ことが得意なジャンルで、実に目覚ましい変化がありました。
始まりはアメリカ南部、ニューオーリンズで南軍の払い下げの管楽器を使って始まった音楽。
南部は農業中心で黒人が多く住む地域です。
この黒人たちがはじめたブラスバンドがジャズの発端。
ここから、いろいろなジャズが始まりますがこのあたりの初めのころのジャズは混とんとしているのでちょっと先へ進みましょう。
1920年代ごろからスイングジャズというものが始まり、いわゆる「ビッグバンド」という編成が出てきます。
黒人たちが始めたジャズですが、カネになりそうだとすぐに白人どもがマネを始めます。
マネなんですが、白人は教育を受けられたので頭はいい。
なのですぐにそのジャズを洗練させた形にしていきます。
ダンスホールでゆったりと流れるスイングジャズ、それに合わせて踊る紳士淑女。
おおむね、この時代の白人のバンドには白人奏者のみ、黒人のバンドには黒人奏者しかいませんでした。
もうすこしするとこの垣根は低くなります。

1930~40年代に入ると、ジャズの歴史の中でもっとも強烈で革新的な出来事が起こります。
(主に)黒人奏者の中からスイングジャズに飽きてもっと刺激的な演奏がしたいゴキゲンな奴らが深夜のクラブに集まりだしたのです。
普段演奏している曲を倍ほどのテンポで、もっと複雑なコードを付けて演奏します。
その超絶な技巧と熱量で、人気を得てきます。
これが「ビバップ」と呼ばれるジャズの始まりです。
この革命をやってのけたのがチャーリー・パーカー(as)とその一味。
そのかわりジャズは「踊るもの」から「座って聴くもの」に変わりました。
この出来事を「ビバップ革命」と呼んでいます。
それまでのジャズと区別して「モダンジャズ」という呼び方も出てきました。
この言葉はチャーリー・パーカー以降のジャズを指します。

1950年~60年はこのビバップがもっと洗練され「ハード・バップ」と呼ばれるものになります。
非常にたくさんのジャズマンが現れます。ブルーノートレーベルというシリーズのレコードがたくさん録音され、のちの世から「ジャズの黄金期」と呼ばれます。
結論から言うと現在、世間一般的に「ジャズ」と呼ばれるのはこのあたりの音楽を指すことが多いですね。

録音技術が上がってきて、レコードという芸術が確立されてきたというのも付け足しておいたほうがいいかもしれません。

またこれと同時期にハードバップと並行して、「クール」というスタイルが出てきます。
熱狂的なアドリブの応酬による手に汗握る演奏とは違い、終始理知的に平たんに演奏されるスタイルです。
こういういい方は嫌いですが、おしゃれなバーでかけるのならこういうレコードがいいでしょうね。
さらに「モード」とよばれるものも出てきますね。
この時代は本当にたくさんの名演・名盤が生み出された時代でした。

さてこのあと、1970年代に入りますと電子楽器が取り入れられます。
またリズムにも「ファンク」というものが取り入れられたりと、実験的な試みがなされてきます。
世の中一般的には、(もう少し前の60年代から)ビートルズなどのバンドが活躍しロックが売れる時代となります。
ベトナム反戦運動と相まって、メッセージ性の強い音楽が好まれ、インストであるジャズは規模が縮小されていきます。
70年代半ばから80年代に入るとジャズはそのロックの要素も取り入れ、「クロスオーバー」ほかにもジャズロックとかフュージョンと呼ばれるものも台頭してきます。
また80年代には「新主流派」と呼ばれる世代が活躍します。
わたしは個人的にこの新主流派の台頭を「ジャズのルネサンス」だと考えていますが、その話はまた別のところで。

ジャズはこのあとも実にいろいろなものを取り入れて、もう最近ではなんだかわからないものまでジャズを名乗るようになってきました。
でも、やっている本人が「これはジャズです」というからにはそれは「ジャズ」なのです。

上の説明には省いたものがたくさんあります。たとえば1965年くらいからは「フリージャズ」なんてのがありまして、どんどんアバンギャルドなものを生み出していました。
人によっては90年代に出てきたラップをジャズに含める人もいます。
80年代にはヒップホップが出てきますが、これもジャズに取り入れてしまう人もたくさんいました。

ざっと簡単に見てきたようにとても目まぐるしく変遷を遂げてきましたが、たとえば1980年代に昔のスイングジャズをやる人はゼロだったかというと決してそんなことはありません。
生物の進化樹のように派生が産まれていきますがだいたいにおいて絶滅はしないので、その数は加速度を伴って増える一方です。

あと余談ですが、これはアメリカ文化圏での話。現代はインターネッツのおかげでN.Y.の流行を京都に居ながら知ることができますが
昔は流行の伝達にそれなりの時間がかかったようで、例えばジャズの黄金期であるところの1950~60年というのは日本ではまだまだ「スイングジャズ」が盛んだったそうで、大学のジャズ研で盛んにモダンジャズに取り組むという時代はもう少し後の時代ただったそうですね。

こういう歴史を知っていると冒頭の『ジャズっぽく』やってみようか、というのが我々にとってどれほど悩ましい言葉かお分かりいただけるかも知れません。

京都在住のサックス/フルートプレイヤーです。 思ったことを自分勝手に書いていきます。 基本、内容はえらそうです。