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戯曲 MARGINAL SHEEP

〈はじめに〉
初めてしっかり舞台脚本(戯曲)を一本仕上げる事が出来ました。僕が大好きな話してもなんの結論も出ないような会話も散りばめながら。本当になんの伏線にもならない超無駄な部分もあるのですが、取り扱うテーマがそこそこずっしりするので、雰囲気の緩和剤として入れたと言う意図もあります。僕自身が中学生や小学生の頃に感じた複雑な胸中を高校生となった今になって一旦「これかな」というアンサーっぽいものが分かってきたので、それを元に執筆した次第です。この作品が、何処かしらの誰かしらの心のダブルブルにぶっ刺さる事があれば、書いて良かったなと思います。また、これは忠告程度なのですが、この後に載せてある登場人物の説明に、読み進めて行く上で明らかになる設定があるキャラクターがいます。それらは最後に『謎の世界の人々』としてまとめているので、もしそれらを読まずストーリーに入りたいと言う方は、目次から【本編】を選択してください。長くなりましたが、脚本家としての私の一作目。どうか温かく暖かい目で読み進めて頂ければ幸いです。
               esora/ダイゴ

Marginal Man・・・境界人、周辺人


〈あらすじ〉


『青春は、自らの意思を棄ててまで守る価値のあるものか』

 羊ヶ崎高校の学生寮で暮らす喜瀬ハルヤは、ある日友人のユウタから人気バンド『Goat World』の極秘のサプライズライブに誘われ、とある問題を孕みながらも『青春』を求めて了承する。しかしその心境の裏には、中学時代の苦い経験が見え隠れしていた。そして、ライブ当夜。ハルヤは目の前に現れた謎の人物に誘われ、『謎の世界』に迷い込んでしまう。
 ハルヤが抱く苦い過去。謎の人物の正体。ハルヤが連れてこられた『謎の世界』。そして、最後にハルヤが下す決断。様々な苦悩が入り乱れる〈境界〉で必死に足掻いて生きる一人の青年の、とある週末の物語───。

〈登場人物〉

羊ヶ崎高校学生寮

喜瀬ハルヤ
 主人公。高校では寮生活を送る。知る人ぞ知るカリスマロックバンド、『Goat World』のファン。ドラマのような青春を夢見ている。中学時代のとある経験から、『友情』や『青春』に並々ならぬ執着がある。葬儀屋の息子。左手で首をさするのが癖。(劇中何度もこの癖をやる)

雪松ユウタ
 ハルヤと同じ寮で暮らす同級生。『Goat World』のファン。ハルヤたちを、夜に行われるライブに誘う。明るく優しい性格ではあるが、決まりに縛られるのが苦手。人を惹きつけるカリスマのような存在だが、本人に自覚は無い。

日下キズキ
 ハルヤと同じ寮で暮らす同級生。二人と同じく、『Goat Word』のファン。ユウタとは中学からの友達で、気が合う。ライブに行くための寮脱出計画に真っ先に乗る。モテたいがために軽音部に入ったお調子者。

福島サヤカ
 女子寮で暮らすハルヤの同級生。ユウタに好意を抱いており、それがキッカケで『Goat World』を聴くようになる。食堂でのユウタの話に興味を持つ。

坂巻スズネ
 女子寮で暮らすハルヤの同級生。サヤカの恋を応援しており二人の展開を見守るためにも、脱出計画に参加する。普段はサブスクで韓国ドラマを漁っている。

白河コノハ
 女子寮で暮らすハルヤの同級生。ジャズが好きで、いつもヘッドホンで聴いている。友達は多いが自分以外の人に興味が無く、基本的にノリが悪い。

葬儀のキセ従業員

喜瀬トモカ
 ハルヤの姉。実家の葬儀屋で働いている。

桐谷アズサ
 ハルヤの実家の葬儀屋で働いている。

杉野カオル
 ハルヤの実家の葬儀屋で働いている。

謎の世界の人々








◉サフォ
 謎の案内人。名前はエスペラント語で『羊』。正体は殺された『じぶん』の遺体を処理する清掃員。

◉アーミ
 サフォの同業者。陽気な性格。名前はエスペラント語で『愛する』。

◉ビゴート
 ハルヤに白い羊でいるよう唆す。名前はエスペラント語で『狂信者』。

◉清掃服の人物
 サフォの同業者。

◉同級生①②③④
 ハルヤの苦い思い出の原因となった中学時代の友人。

◉喜瀬はるや
 喜瀬ハルヤと同一人物であり、尚且つ他人でもある人物。

〈本編〉

⭐︎幕が開く。低音の不穏な音楽が流れており、上手からハルヤが登場。

中学時代のハルヤが上手から登場して彷徨っている。

ハルヤ「はぁ、はぁ……」

ビゴートが下手から登場。

ビゴート「裏切ったのは、どっちだ。
    アイツらか、自分か。
    自分ということにしておこうじゃ無い
    か。ずっと信じてた彼らを、責めずに済
    むじゃ無いか。
    裏切ったのは、己自身なんだよ。
    見捨てられるのは、仕方無いことじゃ無
    いか」
ハルヤ「誰だ……」
ビゴート「私は、ビゴート」
ハルヤ「ビゴート……?」
ビゴート「君は、黒い方だったんだよ」
ハルヤ「何しにきた……!」
ビゴート「白ければ、正しいと
    言ってくれるらしいじゃ無いか」
ハルヤ「だから誰なんだよ!」
ビゴート「白くなりたいよなぁ。
    別に白いことは悪く無いんだから。
    なりたいなら、なれば良い」
ハルヤ「……どうしようも、無いだろ」
ビゴート「黒いキャンパスを、白で隙間無く塗り潰す。ただそれだけだよ」
ハルヤ「……は?」
ビゴート「君がホントに白くなる必要は無い。白く見せれば済む話だ」
ハルヤ「白く、なれる……」
ビゴート「……家へ帰れ……。ひつじ」

暗転 

音楽もここで切れる

⭐︎食堂の六人掛けの机と椅子が縦向きに配置。サフォが上手から出てきて、スポットライトが当たる。

【第一場面】

───数年後

サフォ「ここは公立羊ヶ崎高校の学生寮です。入り口から向かって右側は女子寮。左側は男子寮となっており、真ん中には共有スペースである食堂があります。学校以外で男女が関わるのは食事時くらいなので、他愛も無い話に盛り上がりを見せています。あの六人掛けの机には(机周辺がスポットライト当たる)、いつも決まった六人が座っています」

ユウタとキズキがプレートを持ちながら上手から登場。椅子に腰掛ける。サフォが話してる間は、口パクでなんか喋ってる。

サフォ「(二人の方を見てから)彼らは、どんな色をしているのでしょう。白か黒か。もしくは……。いや、やめましょう。いくら考えても、側から見てるだけでは、どう足掻いたって分かりませんから。ああ、申し遅れました。私……」

ユウタ「ハルヤ!」

サフォ「おっと……では、また後で(小声)」

少し笑みを浮かべながら、サフォは下手へはける。

明転

ハルヤ「お疲れー。何やってんの?」
キズキ「ほら、ホームルームで配られたじゃん。図書館からのやつ」
ハルヤ「なんかあった?」
ユウタ「質問に答えてって、アナタに合う本はこれ!って分かるやつ」
ハルヤ「え?うちまだ配られてないわ。どんな感じ?」
ユウタ「えっとね、じゃあ……高校生活、勉強より青春を大切にしたいと思っている」
ハルヤ「あぁ、まぁ時期にもよるけど……青春かな」
ユウタ「独りでいるよりかは友達と話している方が好きだ」
ハルヤ「それは断然はいだわ。独りとか苦手だもん」
ユウタ「部活動には真剣に取り組みたいと思う」
ハルヤ「それもはいで」
キズキ「えーっと……じゃあこれか。青春群像小説」
ハルヤ「まぁそうだろうな」
ユウタ「俺コメディだったわ」
キズキ「俺恋愛小説」
ユウタ「なに?飢えてんの?」
キズキ「そりゃそうだよぉ。高校生になったら自動的に彼女出来るもんだと思ってたんだもん。軽音とか入ってバンドやったらモテるとかさ。上手いやつに限るんだよ」
ユウタ「上手くなりゃいいのに」
キズキ「いやホントにFが一向に押さえられない」
ハルヤ「あ、ユウタ。バンドで思い出したんだけどさ、あとでゴトワのインタビュー載ってる雑誌貸してくんね」
ユウタ「新しいやつ?」
ハルヤ「そう、先週とかに出たやつ」
ユウタ「あー、あれな。分かった分かった。あとで持ってくよ」
ハルヤ「ありがと」
ユウタ「あ、キズキも借りる?」
キズキ「……ん、え?何が?」
ユウタ「ゴトワのインタビュー載ってる雑誌」
キズキ「あー、多分俺それ持ってるからいいわ」
ユウタ「え?あの先週末とかに出たやつだよ?」
キズキ「うん。放課後買いに行った」
ハルヤ「まじ?金欠なんじゃないの?」
キズキ「この間じいちゃんから臨時収入入ったのよ」
ユウタ「あー、おじいちゃんっ子だっけ」
キズキ「違う違う、俺がおじいちゃんっ子なんじゃ無くて、おじいちゃんが孫っ子なの」
ハルヤ「なんだよ孫っ子って」
ユウタ「良いなーじいちゃんばあちゃんの家近くて。うちなんて九州だからな」
ハルヤ「福岡だっけ」
ユウタ「そうそう」
キズキ「あ、俺さ。つい最近まで福岡の県庁所在地博多だと思ってたんだよ」
ハルヤ「あれ、違うんだっけ」
ユウタ「福岡市な」
ハルヤ「あーれ、そうだっけ。受験の時丸々覚えたのにもう忘れてるわ」
キズキ「群馬の県庁所在地は?」
ハルヤ「えーっとね……前橋!」
キズキ「……そうなの?(ユウタに顔を向ける)」
ハルヤ「知らねえなら訊くなよ」
キズキ「悪い悪い」
ユウタ「前橋で合ってるよ」
キズキ「お、ハルヤ正解〜」
ハルヤ「ユウタ今日はうどんなんだ」
ユウタ「ん?そうだよ?」
キズキ「福岡生まれなら豚骨ラーメンだろ」
ユウタ「あのな、福岡の人がみーんな豚骨ラーメン好きなわけ無いだろ?宮城にだって牛タン食えない人はいるし大阪にだってたこ焼き食えない人はいるし神奈川にだって中華食えない人はいるだろ?」
ハルヤ「……神奈川って中華なの?」
ユウタ「え?」
ハルヤ「分かんないけど……中華は中国なんじゃ無いの?」
ユウタ「それは……まぁ、そうか」
キズキ「ま、香川にもうどん食えない人はいるしな」
ハルヤ「インドにもカレー食えない人はいるな」

キズキがハルヤのプレートを見る。

キズキ「ハルヤは……またカレー?」
ユウタ「あ、ほんとだ」
ハルヤ「別にいーじゃねぇかよ。美味いんだから」
ユウタ「何日連続だ?」
ハルヤ「何日って……ほとんどこれしか食わないから」
キズキ「だって昨日の今日だろ?」
ユウタ「ちげぇよ。こいつの場合は今日の明日だ」
ハルヤ「なんで未来入ってんだよ」
ユウタ「どーせ食うんじゃねぇか」
ハルヤ「まぁ食うけど」
ユウタ「俺辛いの無理だからな……万年うどんと牛丼繰り返してるわ」
ハルヤ「このカレーで辛かったらお前何食えんだよ」
ユウタ「んー、黒胡椒でギブアップだからなぁ」
キズキ「オリゴ糖掛ければ良いのに」
ユウタ「いや、掛けたら負けた気がするんだよ」
ハルヤ「お前の物差しはよくわかんねぇけど」
ユウタ「てか、女子組遅くね?」
ハルヤ「ああ、さっきすれ違ったタイミングでフマキラー持ってたから、ゴキでも出たんじゃね?」
ユウタ「うわー、最悪だね」

上手からスズネとコノハがトレイを持って合流。少し離れたところでサヤカが見てる。

スズネ「うぃーす」
ユウタ「あ、やっと来た。なに、G出たの?」
コノハ「ほんとに最悪。食前に見たく無い生物ナンバーワンだわ」
キズキ「いつでも見たく無いけどな」
スズネ「あ、でさ、聞いて聞いて。コノハがね、Gをフマキラーで潰しちゃったの」
ハルヤ「……そりゃ普通だろ」
スズネ「いや、ほんとに文字通り、潰したのよ」
ユウタ「……あ、ぶっ叩いたってこと!?」
コノハ「だって動き回んだもん」
キズキ「ハート強っ」
スズネ「初めてGを哀れだと思ったね」
ハルヤ「フマキラーの缶も哀れだわ。物理攻撃対応じゃ無いでしょアレ」
スズネ「……ユウタ、きつねうどん?」
ユウタ「ん?……ああ、そうそう。二日連続ー」
ハルヤ「お前も昨日の今日じゃねぇか」
ユウタ「明日は牛丼なんだよ」

スズネが奥のサヤカに指で狐作って合図を送ると、サヤカがグッドマーク出してきつねうどんを買いに行く。

キズキ「良いなー、俺もうどん食おうかな」
ハルヤ「え、今から?」
キズキ「流石に今からは無理。明日明日」
ハルヤ「明日土曜だからうどん無いよ」
キズキ「あ、そうだわ。じゃあまぁ月曜食うよ」
ユウタ「おすすめよ?ハルヤも食おうよ」
ハルヤ「カレーで十分だよ」
スズネ「カレーうどんにすれば良いじゃん」
キズキ「……スズネ天才か⁉︎」
スズネ「どぉぉぉも天才でーす!」
キズキ「……うん、前言撤回」
スズネ「おい何でだよー」
ハルヤ「でも、んな事したらカレーつゆでだっくだくになっちゃうじゃん」
キズキ「つゆは抜いてもらうんだよ」
ユウタ「それは却下だな。つゆを吸った油揚げが美味いんだから」

上手からサヤカがきつねうどん持って現れる。

サヤカ「お待たせー」
スズネ「おっ、来た来た」
ユウタ「あ、サヤカきつねうどん?」
サヤカ「あ、うん。気分で(隠してる風に)」
ユウタ「分かってんじゃーん。やっぱきつねよな」
スズネ「ねぇ、赤いきつねって何で赤なんだろ」
キズキ「元々赤かったんじゃないか?商品自体が」
スズネ「それは何、カプサイシン入りうどんみたいなことなの?」
ユウタ「カプサイシン!?無理無理無理無理」
キズキ「いや別にそこまでじゃないよ。まぁ良くて七味とかだよね」
ハルヤ「……うどんに七味掛けてもただのうどんじゃないの?」
キズキ「ああ、確かにそうか」
コノハ「そういうトッピングってさ、どんくらいのやつ入れたら名前に入るかな」
サヤカ「どういうこと?」
コノハ「今ので言ったらさ、普通のプレーンなうどんにカプサイシン入れたら、それは名前変わってカプサイシンうどんになるでしょ?けど、七味だったら普通にうどんじゃん」
サヤカ「あー、どっからだろうね、境目」
スズネ「ネギはまだつかないよね」
ハルヤ「マヨネーズとかじゃない?」
ユウタ「お前うどんにマヨネーズ入れんのかよ」
ハルヤ「入れねーよ。例えばの話だよ」
サヤカ「……かつお節とか?」
スズネ「あー、いいラインかもね」
コノハ「あ、かつお節って、世界一堅い食べ物らしいよ」
ハルヤ「え、そんなことある?」
キズキ「あ、あれじゃない?なんつーの、あのペラッペラの状態じゃ無くてさ、原木みたいなやつ」
ハルヤ「あー、あれってそんな堅いの?」
キズキ「ほぼ木みたいだしな」
ユウタ「じゃあ一番柔らかいのって何だろうな」
スズネ「マシュマロとかじゃない?」
コノハ「マシュマロより上はいるだろぉ」
スズネ「えぇ?じゃあ……水?」
キズキ「食べもんじゃねぇだろ、水は」
サヤカ「ねぇねぇ、なんで私たち今『水』の話してんの」
キズキ「……もう誰も覚えてないよ。そんなの」
ユウタ「あ、水で思い出した」
ハルヤ「まーた話が逸れ始めた」
ユウタ「あのさ、明後日ゴトワのライブあんだよ」
キズキ「え‼︎(うるさすぎて周りにごめんの会釈。他五人もうるさいよとか挟んでから小声で)それホント?」
ハルヤ「情報出てたか?」
コノハ「ゴトワって?」
サヤカ「Goat World。知らない?バンドなんだけどさ」
コノハ「あー、この前サヤカがスズネと目ときめかせながら話してた」

スズネがコノハの口を封じる。

スズネ「(咳払い)」
ユウタ「どうかしたか?」
スズネ「ううん、何でも無いよー」
ハルヤ「待て待て待て。ちょっと良い?ライブの話も気になるんだけどさ……水からどう跳んでGoat Worldになるの?」
ユウタ「水、泉、大泉、北海道、牛、乳製品、チーズ、シェーブルチーズ、ヤギ、ゴート、ゴートワールド」
スズネ「何シェーブルチーズって(キズキに静かに訊く)」
キズキ「ヤギ版のチーズ」
スズネ「あ〜」
ハルヤ「今のけっこう無理あるけどな」
ユウタ「どこがよ」
ハルヤ「まぁ特に大泉だね」
コノハ「そのゴトワが、ライブやるの?」
キズキ「どこでやるの?フェス出るとか言うんじゃ無いだろ?」
ハルヤ「そもそも、全然そんな情報とか出回って無くない?公式サイトも動いてないし」
ユウタ「いや実はな、駅からちょっと歩いたとこにライブハウスあるの分かる?」
ハルヤ「……あったっけ」
スズネ「あるある。駅出てすぐ右行ってちょっと歩く」
ユウタ「俺のお兄ちゃんがそこでバイトしてんだけどさ、今度の日曜の夜に、ゴトワがサプライズで出るんだって!」
キズキ「あ、そういこと?ただでさえライブ全然やんなくなったのに。寄りにも寄ってそんなキャパちっちゃいとこでやるの?」
ユウタ「なんでもそのライブハウスのオーナーがさ、タケオミの恩人?って言うか、レーベル所属したての頃に、世話になってたんだって」
コノハ「タケオミって言うのは?」
キズキ「ボーカルの平賀タケオミ。まーじで格好良い。声域広くて煽り性能高くてギタースキル高くて背高くて鼻高くて最強。ライブで気分乗ってくるとメンバーと組体操始めることでお馴染みの」
コノハ「お馴染んじゃってるのかそれ」
ユウタ「でもカッコいいよ?ザ・バンドマンって感じの」
コノハ「カリスマ……的な?」
キズキ「ま、そんな感じだね」
ハルヤ「でも、そんな近場であるなら行くしか無いだろ」
ユウタ「いやでもよ、問題があんだよ」
キズキ「何が」
ユウタ「お兄ちゃんが言ってたんだけど、ゴトワの出番が、十一時半なんだよ」
ハルヤ「……門限かよ」
ユウタ「日曜だから九時五十分までに寮に戻んなきゃだろ?流石に頼み込んで先に会わせてもらうのも無理だろうし」
サヤカ「行けなさそうなんだ」
キズキ「(な)っんだよ。折角のライブなのに……。こんな近くでゴトワがライブやるのに行けないとか軽く拷問だろ」

キズキが、背もたれに完全に体を任せてる。

ユウタ「でさ……一個提案なんだけど」
ハルヤ「提案?」
ユウタ「あのさ……脱出しない?」

キズキが体を上げる。

サヤカ「脱出?」
キズキ「何?不景気?」
ユウタ「アホか。なんでこの会話で不景気脱する流れになるんだよ」
スズネ「もしかして、夜中に寮抜け出すつもり?」
ユウタ「……そう」
ハルヤ「え、まじ?」
ユウタ「いや、突飛なこと言ってんのは分かってんだけどさ、考えてもみろよ。ゴトワが何年ライブやってないか知ってるか?」
キズキ「……六年」
スズネ「あ、そんなやってないんだ」
ハルヤ「それより前はけっこう色んなフェスとか出てたんだけど、超売れてから全然やんなくなっちゃったんだよ」
キズキ「ほんと、もっと早く知っときゃ良かったよ」
ユウタ「お前らなら分かるだろ?あのゴトワがライブやるってのは、もう何っっっっっっによりも価値のあることなんだよ」
ハルヤ「まぁ、それはそうだけど……」
ユウタ「規則ばっかのトコだけで青春やるんじゃなくてさ、もっと自由になって……な?」
ハルヤ「……俺は、行けないよ」
ユウタ「ハルヤ〜、何でだよー」
ハルヤ「何でって……途中でバレて引き戻されたらどうすんだよ。バレねぇって確証が無いじゃんか」
ユウタ「いや、まぁそうだけど……」
ハルヤ「流石に無茶し過ぎだよ。な、キズキ」
キズキ「……俺は、行きたい」
ハルヤ「な?ほらキズキも言うようにここはさ、今回は一旦我慢し……ちょっと待てお前今何つった」
キズキ「俺は行きたいよ。ライブ。いや、行く!絶っっっ対に行く!」
スズネ「お、二・一(にぃいち)だね」
ハルヤ「えー、まーじ?キズキもそっちなの?」
ユウタ「ハルヤ、一緒に行こ!バレても、それはそれで青春じゃんっ?ね、頼む!」
ハルヤ「え〜……。俺は……」

暗転し、ハルヤにはスポットライト。最初のような怪しげな音楽が鳴る。上手からビゴートが現れ、スポットライトで照らされてる。

ビゴート「白い羊と黒い羊。お前はどっちになりたいんだ」
ハルヤ「え?」
ビゴート「この二人は、白い羊だなぁ(ユウタとキズキの間に入って肩を組む)」
ハルヤ「……まぁ」
ビゴート「孤独な黒い羊がどうなるか、君は身を持って知っているはずだが」
ハルヤ「俺は……」
ビゴート「友達と寮を抜け出して好きなバンドのライブに行く。良いじゃ無いか。何ならついでに盗んだバイクで走ってくるってのも良いかもなぁ。あぁでも十五じゃねぇか」
ハルヤ「う、うるさいよ」
ビゴート「おおっとそいつぁすまない。けどよぉ、青春に取り残されるってのは、怖いもんだよなぁ。さぁ、お前はどうしたいんだ」
ハルヤ「俺は……」

ビゴートが笑いながら上手へいなくなり、時が戻る。

明転

(できればこの後の会話でマッコイ・タイナーの『Echoes of a Friend』の『Namia』を流したい)

ユウタ「……ダメか?」
ハルヤ「……分かった。行くよ」
ユウタ「まじ?ぃよっしゃぁ!じゃ、作戦決まったらまた集まろ」
キズキ「了解!」
スズネ「えーなんか良いなー。アオハル感やばくない?」
サヤカ「そう、だね」
ハルヤ「あ、ちょっと飲み物買ってくるわ」

ハルヤが離れる。

ユウタ「行ってらー」
キズキ「うぁぁ……!(伸びをする)」
サヤカ「……あ、キズキ七味取って」
キズキ「七味……はい」
サヤカ「ありがとっ」
キズキ「どういたしまして〜」
サヤカ「どういたされました〜」

暗転し(幕的なのを短時間で閉じられればそっちが良い)ハルヤがスポットライトで一人照らされてる。

五人がいた方を振り返り、俯く。

ハルヤ「独りじゃ、無い(言い聞かせるように)」

ハルヤは下手側に去ってゆく。

⭐︎舞台が二つに分かれていて、向かって右が女子寮のコノハとスズネの部屋。向かって左が男子寮のユウタとハルヤの部屋になっている。照明が女子寮に当てられる。それぞれの部屋のセットは回転出来るとめっちゃありがたい。難しければ演者のパントマイムと窓とか扉は枠だけでも用意して、音はSEつける。

【第二場面】

明転

───翌日

女子寮 コノハ・スズネの部屋

ヘッドホンつけたコノハが部屋の窓から顔を出しながら、ちょうど流れてる『Namia』を聴いてる。
そこへ後ろからスズネが迫って……

スズネ「(コノハのヘッドホンを取って)うぃ!」
コノハ「……?(軽く驚くくらい)」

ヘッドホン取ったタイミングで音楽止まる。

スズネ「地味ぃ〜」
コノハ「何がよ」
スズネ「なーんか違うんだよなぁ」
コノハ「んなこと言われたって」
スズネ「もっとさ、こう、豊かにいこうよ」
コノハ「ごめんだけど、うちにそう言うの期待しない方が良いよ」
スズネ「えー」

サヤカが部屋に入ってくる。

サヤカ「おはよー」
スズネ「おーはよーごさまいまーす!」
コノハ「なんだっけそれ」
スズネ「スッキリ」
サヤカ「山ちゃんね」
コノハ「もう懐かしいね」
サヤカ「今なんだっけ」
コノハ「あーっと、えー、DayDay.だ」
サヤカ「それそれ」
スズネ「ねぇ聞いてサヤマル〜。この人驚かしても全っ然リアクションしてくれないの」
コノハ「しょうがないでしょ?無理なものは無理なんだもん」
サヤカ「(ヘッドホンを見て)なんか聴いてたの?」
コノハ「ん?ああ、えっとね」
スズネ「待って、当てる」
コノハ「多分無理だよ」
スズネ「分かんないじゃん」
コノハ「じゃあ言ってみ?」
スズネ「……櫻坂とか?」
コノハ「ぶー」
スズネ「あー、無理なものは無理だわ」
サヤカ「諦めはやっ」
コノハ「櫻坂って、アイドルで合ってる?」
スズネ「そうそう。元々欅坂だったんだけどね」
コノハ「あ、そこが変わったんだ」
サヤカ「どうせジャズでしょ?」
コノハ「あ、流石だね」
サヤカ「だってコノハがジャズ以外聴いてるの見たこと無いもん」
スズネ「いやまぁそうだけどさ、こっちとしてはさ、コノハがポップス聴きまくる姿を期待したいじゃーん」
コノハ「それこそ無理なものは無理」
スズネ「そう言わずさ、ねぇ」
サヤカ「で、何聴いてたの」
コノハ「まぁメジャーどころになっちゃうけど」
スズネ「言ってみ」
コノハ「マッコイ・タイナー」
スズネ「うん、分かってた」
コノハ「え!分かる⁉︎」
スズネ「違うよ分からないってことが分かってたんだよ」
コノハ「聴いたら分かると思うけどなー」
スズネ「あ、ねぇサヤカ」
サヤカ「ん?」
スズネ「どうすんの、ライブ」
サヤカ「え?」
スズネ「ほれゴトワの!」
サヤカ「ああ、でも男子三人で行くのに私混じるとさ、色々面倒くさくならないかなって」
スズネ「もうこれだからサヤマルは。お前の恋心はHBの芯よりも脆いのか⁉︎」
サヤカ「でも、さすかに女子一人はきついって」
コノハ「まだ機会はあんだから、ここで急がなくてもいいんじゃない?」
スズネ「分かってないなコノハは。危険な橋渡ってる時の方が相手を落としやすいんだよ」
コノハ「そういうもんなの?」
スズネ「よし分かったサヤマル。私も一緒に行く」
サヤカ「え、ほんとに?」
スズネ「もちろん!友人の恋愛成就のためなら、どんなことだってする。だから、サヤカも腹括ろ!」
サヤカ「でも……」
スズネ「だいじょーぶ。別に告るわけじゃないんだから」
サヤカ「……分かった。スズネが行くなら、私も行く」
スズネ「よし!決戦は日曜日か〜うわぁぁぁぁゾクゾクしてきたぁぁ!」
コノハ「無理してないか?」
スズネ「サヤカは決めたんだから。尊重尊重(コノハ肩を『尊重』に合わせて叩く)」
サヤカ「私、ユウタのとこ行ってくる」
スズネ「了解。じゃあ私も行くって言っといて」
サヤカ「分かった」
スズネ「じゃ。自分で火蓋、切ってこい!(男勝りな声で)」
サヤカ「……うん!」

サヤカが部屋から出て、男子寮へ向かう。一旦上手へ。

コノハ「変わってるなぁ、スズネは」
スズネ「え?」
コノハ「友達とは言え、そこまでするなんて」
スズネ「コノハが他人に興味無さすぎなんだよ。別に私が普通だとは思わないよ?けど、私は自分より他人を応援する方がよっぽど性に合ってる」
コノハ「無いわけじゃ無いからな?興味」
スズネ「あれ、そう?」
コノハ「まぁ、人よりも無いことは認めるけど、興味はあるよ。けど、態々干渉してまで知ろうとは思わないし、何かの後押しをするつもりも無い」
スズネ「そういうマインドなんだね」
コノハ「ま、両方変わり者でしょ」
スズネ「なぁー」
コノハ「なぁー(顔を合わせて)」

スズネがコノハの机のデジタル時計を見る。

スズネ「え、待って。コノハ、この時計って合ってる?」
コノハ「え?合ってるはずだけど」
スズネ「やば、そろそろ出なきゃ」
コノハ「どこ行くの?」
スズネ「今観てる韓国ドラマに出てるイケメンが来日するの!なーのーでっ!空港までお迎えにあがりまーす!」
コノハ「あー、また観てんだ」
スズネ「まじイケメンだよ」
コノハ「どんなドラマよ」
スズネ「えっとね、正義の弁護士が愛する妻の殺人の罪を被って逃げながら、無実を信じて真相を探るって話」
コノハ「もう……『ザ』だね」
スズネ「『ザ』……?『ザ』ってなに?」
コノハ「THE(ティー エイチ イー)だよ」
スズネ「あー、まぁ観てみ。『ザ』でもハマるから。ってことで!안녕(アンニョン)」
コノハ「韓国語?」
スズネ「『さよなら』ね。マジで主人公超イケメンだから。『本当の正義なんて、誰が決めたんだい』(イケボ)。はぁホントに吹き替えも神!あ、(再び時計を見て)じゃ、拝んできます。パク様〜‼︎」

スズネが部屋を出る。

コノハ「私と同じくらい変わってるなぁ、スズネは」

コノハは再びヘッドホンをつけ、音楽を聴く。

⭐︎女子寮のスポットライトが消え、向かって左の男子寮の部屋にスポットライトが当たる。

男子寮 ハルヤ・ユウタの部屋

ユウタがテレビを観てる。うつ伏せで本を読んでたハルヤが顔を上げる。

ハルヤ「何観てんの」
ユウタ「え?DayDay.」
ハルヤ「ああ、スッキリの枠か。あれ無いの、おーはよーございまーすって」
ユウタ「どーだろ、途中から観てるから」
ハルヤ「(少しテレビを観て)新エリアねぇ」
ユウタ「最近行ってねーなー。去年の暮れくらいが最後か」
ハルヤ「俺行ったことないんだよね」
ユウタ「まじ?あんま映画とか観ないの?」
ハルヤ「んー、まぁどっちかっつーとジブr……」

電話が鳴る。

ユウタ「ん?」
ハルヤ「どっちだ?」
ユウタ「(スマホを取って)いや、俺じゃ無い」
ハルヤ「ああ、俺だわ。ごめんごめん」

ハルヤが電話に出る。

ハルヤ「もしもし……ああ、うん。え?今寮だけど。……いや、特に予定は……。今日……分かった。昼くらいに着くようにするわ」

電話を切る。

ユウタ「誰?」
ハルヤ「姉ちゃん」
ユウタ「へぇ、実家帰って来い的な?」
ハルヤ「うん」
ユウタ「お姉ちゃんは実家住まい?」
ハルヤ「いや、近いとこに住んでる。実家手伝ってんだよ」
ユウタ「あ、家族営業的な?」
ハルヤ「そうそう」
ユウタ「飲食店とか、コンビニとか?」
ハルヤ「葬儀屋」
ユウタ「葬儀屋?」
ハルヤ「うん。葬儀屋」
ユウタ「葬儀屋って……あの葬儀屋?」
ハルヤ「……うんまぁお前が考えてるのがどの葬儀屋かは知んないけど、多分、その葬儀屋だよ」
ユウタ「へぇ、葬儀屋って家族経営出来んだな。ねぇ、葬儀屋って、シフト制なの?」
ハルヤ「まぁ基本シフト制だけど、まぁいつ依頼が来るとか図れたもんじゃ無いから、けっこう崩れることあるけどね」
ユウタ「ふーん。バイトとかしないの?」
ハルヤ「いや、あんま働きたくはないかな」
ユウタ「やっぱり?葬儀屋って結構きつそうだよね」
ハルヤ「いや、葬儀屋が問題ってよりかは、実家ってのが嫌なんだよね」
ユウタ「へー、喧嘩でもした?」
ハルヤ「いや、喧嘩はしてないんだけどさ……」
ユウタ「なんだよ匂わせるだけ匂わせといて」
ハルヤ「いや、実は……」

どこからかキズキの鼻歌が。

キズキ「(ウルトラソウルのサビ。他二人は動揺。ウルトラソウル‼︎の後のヘイ‼︎のタイミングで目が覚めて)はっ!」
ユウタ「やっと起きたか。ったく人の部屋来て寝やがって」
キズキ「いーじゃん。眠かったんだもん」
ハルヤ「自分の部屋で寝れば良いじゃんね」
キズキ「ハヤテのやついびきデカいんだよ。二度寝したくても、アイツ休日は昼間まで寝てるから」
ハルヤ「ご苦労さーん」
キズキ「あ、ユウタ。明日どうすんだよ」
ユウタ「ああそうだ。お前が起きたら話そうと思ってたんだ」
ハルヤ「早く終わるか?」
ユウタ「実家戻んだもんな。大丈夫、すぐ終わらせる」
ハルヤ「おっけー、で?」
ユウタ「まず前提として、この寮の門限は何時だ」
キズキ「九時五十分だよ」
ユウタ「消灯は」
ハルヤ「十一時」
ユウタ「そう。で、ゴトワの出番は十一時半。クラブハウスまでは歩いて二十五分くらい。会場に入るのは五分前が良いから、消灯した直後に出発するのが理想形ね」
キズキ「で、どうやんの」 
ユウタ「消灯した後、〈ヒオカさん〉と〈ツジムラさん〉は見回りに来る。昨日寝ずに待ってたら、この部屋は十一時十分くらいだ。キズキの部屋は隣だから、そう大差無いだろ」
ハルヤ「それじゃ、間に合わないじゃん」
ユウタ「ああ。だけどな、見回りって言っても、電気が消えてることを確認するだけだ。暗闇じゃ顔は見えない」
キズキ「布団膨らんでなかったら怪しむんじゃ無いの」
ユウタ「そこは、長いぬいぐるみを入れて誤魔化す」
ハルヤ「あー、でも僕そんなぬいぐるみ持ってないよ?」
ユウタ「じゃあ……俺今日暇だから、買ってくるわ」
キズキ「えぇー、けっこう高く無い?」
ユウタ「え、そうなの?」
ハルヤ「物にも寄るけど……四千から一万とか?」
ユウタ「……え、物に寄りすぎじゃ無い?二倍以上差あんじゃん」
キズキ「誰か貸してくれる人いないか訊いてみるか」
ユウタ「ま、三つくらいは工面できるだろ」
キズキ「よしハルヤ!部屋回ってぬいぐるみ回収するぞ」
ハルヤ「あーいや、ちょっと」
キズキ「ん?」
ユウタ「ああ、こいつ実家に呼び出し喰らってんだよ」
ハルヤ「呼び出しって言うなよ」
キズキ「分かったよ、一人で回るから」
ユウタ「良いよ、俺も行くから」
キズキ「あれ、ユウタ朝飯食べたっけ」
ユウタ「まだ寝起きパワー続いて腹減ったとか思わねぇから大丈夫だよ」
キズキ「じゃ、行くか」
ハルヤ「じゃあ、二人に任せたわ」
ユウタ「了解〜」

ノックが鳴る。

ユウタ「ん?はーい」

ユウタが出ると、サヤカが立ってる。

ユウタ「おおサヤカじゃん。どした?」
サヤカ「あのさ……ライブ行くんでしょ?」
ユウタ「うん(onに近い)行くよ?」
サヤカ「私も、行っていい?」
キズキ「マジで?」
サヤカ「うん、スズネも来るって」
ハルヤ「まぁ、そっちが良いなら良いだろうけど」
ユウタ「全然大丈夫よ。あ、長めのぬいぐるみ持ってるかな。ちょっと身代わりで使いたいんだけど」
サヤカ「あ、何個か。スズネも持ってたと思うけど」
ユウタ「お、ナイス〜」
キズキ「じゃあ、俺のやることも無くなったか?」
ユウタ「いや、取り敢えず数確認してからだな」
ハルヤ「あ、サヤカとかスズネの部屋は?」
サヤカ「え?」
ハルヤ「いや、見回りが来る前に抜け出すから」
サヤカ「ああ、でもうちの部屋けっこう早いよ?最初から二番目くらい」
キズキ「スズネの部屋もどうか訊いてみるか」
ユウタ「ハルヤ、電車?時間あるの?」
ハルヤ「ああ、そろそろ準備するわ」
ユウタ「じゃあ、俺ら女子寮行ってくるわ。ぬいぐるみ足りなかったら安めの買ってくる」
ハルヤ「おっけー、チョイスは頼んだ」
キズキ「任せろ、もう『ザ・お前の権化』っての持ってきてやるから」
ハルヤ「嫌な予感しかしないなぁ」
ユウタ「じゃ、行ってくるわ」
ハルヤ「行ってらっしゃーい」

ユウタ、キズキ、サヤカが退室。

ハルヤは一度伸びてから、自然な感じで窓を開けて、眩しそうにしながら手を置く。ため息とか吐いても。

⭐︎女子部屋の方のスポットライト復活。

コノハがヘッドホンしたまま窓から顔を出す。ハルヤが横を見て、コノハに気付く。

ハルヤ「あ……。おはよー」

コノハ、ヘッドホンで聞こえてない。

ハルヤ「コノハ、コノハ!」

手を振って、コノハが気付く。コノハがヘッドホンを外す。

ハルヤ「おはよー」
コノハ「あ、おはよー。ごめん、何回か呼んでた?」
ハルヤ「いや、そんなじゃ無いよ」
コノハ「そっち、部屋一人なの?」
ハルヤ「うん。ほら、明日の計画の準備で」
コノハ「あー、ハルヤは行かなくていいの?」
ハルヤ「僕は、この後実家行かなきゃだから」
コノハ「……なら、もう荷物整えたほうがいいんじゃ無いの?」
ハルヤ「あーいや、すぐ出なきゃいけないわけじゃ」
コノハ「じゃあ、一緒に準備すればいいんじゃ無いの?」
ハルヤ「いやまぁ、それはそうなんだけど……」
コノハ「お前……サボった?」
ハルヤ「……すいません」

コノハに頭を下げる。

コノハ「いや別に、私に謝られても。部外者なんで」
ハルヤ「あ、でも、実家から呼ばれてんのはホントね」
コノハ「そこは疑ってないけどさ。……ハルヤさ、そのライブに行きたいって、本気で思ってるの?」
ハルヤ「え?」
コノハ「いやなんか、無理して合わせてない?」
ハルヤ「合わせてるって……俺が?無いよ、アイツら友達なんだし」
コノハ「友達だったら無理しないとか無いでしょ」
ハルヤ「まぁそうだけど……友達だったら、ちょっとは無理するのも大事じゃない?」
コノハ「ほら、無理してるじゃん」
ハルヤ「違う、これは例えばの話」
コノハ「でもさ、ハルヤは……そう言うんじゃ無いじゃん」
ハルヤ「……どう言うこと?」
コノハ「ハルヤは、友達だから無理してんじゃ無くて、友達でいたいから無理してんじゃん」
ハルヤ「……いや、そんなんじゃ無いって」
コノハ「ハルヤは、まだ主役になって無いんだよ。誰かの人生の脇役にしかなって無い」
ハルヤ「……台詞?」
コノハ「なんだっけね〜。忘れちゃった」
ハルヤ「……お前、他人に興味無いんだろ?」
コノハ「全く無いわけじゃ無いから」
ハルヤ「あ、そう」
コノハ「で、どうなのよ」
ハルヤ「どうって言われても」
コノハ「無理してるとして、どっちなの」
ハルヤ「……ダメなんだよ白じゃ無きゃ(小声)」
コノハ「……え、なんか言った?」
ハルヤ「……いや、別に。俺そろそろ支度するわ。じゃ」
コノハ「いやちょっと、今なんて言ったの⁉︎」

ハルヤが窓を閉める。

コノハ「ちょっと⁉︎……ホントに、変なやつばっかだな」

コノハも窓を閉める。

暗転

⭐︎寮のセットは無くし、机一つと椅子が二つ。葬儀屋の休憩スペース

【第三場面】

明転

アズサとカオルが椅子に座って話してる。

アズサ「……アリジゴクってさ、アリに取って地獄みたいな存在だからアリジゴクじゃん」
カオル「うん」
アズサ「……アリクイってさ、アリを食べるからアリクイじゃん」
カオル「うん」
アズサ「じゃあこの二匹ってさ、もしこの世界にアリが居なかったら、どんな名前になってたかな」
カオル「んー、まぁアリ以外のなんか食べるだろうし」
アズサ「アリ以外……ダンゴムシとか?」
カオル「んー、ダンゴムシでは無いね」
アズサ「なんで?」
カオル「語呂」
アズサ「語呂?」
カオル「いい?『ダンゴムシジゴク』『ダンゴムシクイ』。どう?」
アズサ「……気持ち悪いね」
カオル「でしょ?」
アズサ「じゃあさ、ダンゴムシの名前を変えるってのは?」
カオル「えぇ?わざわざアリジゴクとアリクイのために名前変えるの?」
アズサ「違うよ。ダンゴムシジゴクとダンゴムシクイのために名前変えるんだよ」
カオル「ああ、そうか。ん?でも、ダンゴムシって名前を変えるのなら、ダンゴムシジゴクのためでもダンゴムシクイのためでも無くない?」
アズサ「あぁ、確かに。……じゃあ、なんのため?」
カオル「それは……まぁ、『ホニャジゴク』と『ホニャクイ』のためになるんじゃない?」
アズサ「語呂的に言えば、まぁ二文字が良いよねぇ」
カオル「うーん(指で丸作って眺めて)マル?」
アズサ「ああ、マルジゴクとマルクイ?」
カオル「そうそう」
アズサ「なんか、可愛くなっちゃうね」
カオル「でもまぁ、良いでしょ。新境地よ新境地」
アズサ「ねぇ、て言うかさ、何で食べられる側にフォーカスされてんだろ」
カオル「え?」
アズサ「だから、アリクイ側って言うか、今あいつらの名前宙に浮いてるからどう言ったら良いかわかんないんだけど、捕食する側がされる側に合わせに行ってるじゃん」
カオル「あー、だから、日本人で言うと『コメクイ』とかになってるってことか」
アズサ「そうそう。だから、する側の名前……何が良い?」
カオル「捕食側の名前かぁ。じゃあ……まろ吉」
アズサ「可愛っ」
カオル「で、今度はそのまろ吉がメインになるんだから、えーっと」
アズサ「『マロキチクワレ』かな」
カオル「じゃあ、『マロキチテンゴク』とか?」
アズサ「待って」
カオル「どうした?」
アズサ「この会話ね、多分着地出来ないわ」
カオル「……やめるか」
アズサ「そうしよう」

ハルヤが上手からやって来て、戸を叩く。

ハルヤ「すいませーん」
アズサ「あ、はいはい今出まーす」

アズサが引き戸を開ける(ガラガラタイプ)

アズサ「お!ハルヤくんじゃーん!」
カオル「えー⁉︎久しぶりー。覚えてる?」
ハルヤ「お久しぶりです、流石に忘れませんよ。カオルさんと……えーっと」
アズサ「おい!」
ハルヤ「嘘ですよ。アズサさん」
アズサ「うわビビったぁー。ハルヤくん女子の扱い方慣れてきたんじゃ無い?」
ハルヤ「やめてくださいよ。そんなんじゃ無いですよ」
カオル「半年くらい帰ってなかったっけ」
ハルヤ「そーですね」
アズサ「夏は部活とか忙しいよね」
ハルヤ「まぁ結構」
カオル「で、なに?呼び戻された?」
ハルヤ「あ、はい。姉に。流石に顔出せーって」
アズサ「うわそっか、トモカちゃんもお姉ちゃんなんだもんね」
カオル「トモカちゃん社員の妹みたいだから、お姉ちゃんになってる感じ全然イメージ出来ないわ」
ハルヤ「今、何してたんですか?」
アズサ「ああ、アリの話」
ハルヤ「アリ?」
カオル「アリジゴクとアリクイは、アリがいなかったらどんな名前になってたかーっていう」
ハルヤ「相変わらず、楽しそうですね」
アズサ「もうね、それくらいしか取り柄が無いから」
ハルヤ「あ、でも、アリジゴクってアリ以外も襲うんですよ。地面を這ってる奴らはほぼ獲物らしいです」
カオル「なんか、また話が見えなくなりそう」
アズサ「良いんだよ。もう終わらないって事で終わったんだから」
カオル「そうね」
ハルヤ「それで良いと思います」
カオル「あ、ハルヤくんお姉ちゃん待ってるよね」
ハルヤ「え?あ、別にそう言う訳では……」
アズサ「良いから。待ってて。トモカちゃーん(上手に向かって呼ぶ)」
トモカ「はーい?」
アズサ「ハルヤくん来たよー」

上手からトモカが出てくる。

トモカ「はぁ、ハルやっと来た」

トモカは『ハル』呼び

トモカ「いつぶりよ。もうちょっと回数増やしてもらわなきゃ困るんだけど」
ハルヤ「そんな忙しいの?」
トモカ「違う。お父さんもお母さんも心配してたんだよ?ご飯のときもハルの心配事ばっかり言って。それずっと聞いてる私の身にもなってよ」
ハルヤ「えぇ……そんな事言われても」
アズサ「あ、じゃ、うちら戻りまーす」
トモカ「あ、すいません。気遣わせちゃって」
カオル「いえいえ。じゃ、ハルヤくんまたね」
アズサ「またねー」

カオルとアズサがハルヤに手を振る。

ハルヤ「あっ(手を振る)」

カオルとアズサが上手へ

トモカ「で?いつあっち戻んの」
ハルヤ「ああ、夕方には向こう着いときたいから……まぁ、明日の昼過ぎくらいには」
トモカ「そっ。あ、お昼食べた?」
ハルヤ「うん、まだ」
トモカ「何食べる?」
ハルヤ「あ……ねぇ、うどんある?」
トモカ「あると思うけど」
ハルヤ「ちょっと、カレーうどん食べたいんだけど」
トモカ「珍しっ。これまでカレーうどんなんて話題にも上がった事無かったじゃん」
ハルヤ「あ、まぁ、ちょっと直近で」
トモカ「ま、カレーもレトルトのやつあると思うけど」
ハルヤ「じゃあ、それで」
トモカ「お父さんとお母さんには連絡しとく。私仕事残ってるから、先行ってて」
ハルヤ「二人は今日出勤して無いの?」
トモカ「あんたのためにな」
ハルヤ「あぁ……」
トモカ「あ!ちゃんと手伝いなよ?」
ハルヤ「分かってるよ」
トモカ「じゃ、あとで家で」

トモカが上手へ移動しようとする。

ハルヤ「あ、お姉ちゃん!」
トモカ「なに?なんかあるなら早く言って」
ハルヤ「あの……四年前の」
トモカ「四年前……中二?何かあった?」
ハルヤ「……やっぱ、良いや」
トモカ「……そっ。じゃ」

トモカが上手へ。ハルヤは少し間を開けてから、戸から出て下手へ移動。舞台上からはけるあたりで、下手から出てくるサフォとすれ違う。

⭐︎サフォは大きめのショルダーバッグかなんか持ってる。

ハルヤは全く気にせず進むが、サフォは少し「おっ」となる感じ。戸を開けてサフォは中に入り、カオルかアズサどちらかが座っていた椅子に腰掛ける。

サフォは辺りを見渡してから、高らかに指パッチンをする。

⭐︎舞台の照明が青っぽい感じになる。セットは変わらないが場所が変わった。

サフォ「『孤独なとき、人間はまことの自分自身を知る』。ならば、自分は孤独では無いと信じる者は。孤独と思うのが堪らなく苦痛の人は……。では改めて。申し遅れました、私は……」

下手からアーミが登場。

アーミ「あ、サフォさんいたー。お疲れ様でーす」

⭐︎照明が明るめになる

サフォ「……アーミくんよ」
アーミ「はい?」
サフォ「今の私の一連の流れ聞いてなかった?」
アーミ「いや、聞いてましたよ?指パッチンしてカッコつけてた辺りから」
サフォ「だよね?」
アーミ「あれ、誰のでしたっけ。『孤独なとき』ってやつ」
サフォ「ああ、トルストイだよ」
アーミ「あー!『戦争と平和』?でしたっけ」
サフォ「え、ねぇねぇじゃあさ、明らかに私が、こう、名乗ろうとしたのも知ってるよね?」
アーミ「ええ見てましたよ。けど名乗るって、誰にですか。私とも今更自己紹介する程の仲じゃ無いし」
サフォ「まぁ、それは、色々だよ(含みある感じ)」
アーミ「色々?……色々ってなんですか」
サフォ「それは、まぁ色々だよ(チラッと客席見る)」
アーミ「疲れてるんじゃ無いですか?サフォさん最近休み全然取ってないし」
サフォ「いやね、休みたいのは山々なんだけど。最近アレの量が一向に減らないのよ」
アーミ「サフォさん、今担当誰でしたっけ」
サフォ「えーっとね、ハルヤ……何ハルヤだっけな。ちょっと待ってね」

バッグからがっしりしたファイルを取り出して開く。

サフォ「ああ、これこれ。喜瀬ハルヤ十六歳。公立羊ヶ崎高校の寮生。中学一年くらいまでは何の問題も無かったんだけどね。二年から急激に」
アーミ「中二ねぇ。まぁ、思春期だし?」
サフォ「んー、まぁそうなんだけど、なんか他とは違う感じがするんだよなぁ」
アーミ「時間が解決するって感じでも?」
サフォ「無さそうだね」
アーミ「……訊きますか。本人に」
サフォ「このまま俺らの仕事が増えてもキツいし。近々そうするわ」
アーミ「いいタイミングあるんですか?」
サフォ「実はね。明日の夜、その喜瀬ハルヤと友達何人かが寮を抜け出すらしいんだよ。ライブがあるらしくて」
アーミ「ほぉー。それはまた、青春というかエモーショナルというかイミテーションというか」
サフォ「……最後の違くないか?」
アーミ「良いんですよ!こういうのは響きですから。それっぽさですよ、それっぽさ」
サフォ「イミテーションって偽物だろ?違うものは違うじゃんか」
アーミ「あ、じゃあ分かりました。サフォさん、『敵側の無敵の要塞』っぽい名前の料理、一つ言ってください」
サフォ「はぁ?無敵の要塞……まぁ、『ヴォンゴレ』(強そうに)とかじゃない?」
アーミ「あー、ブーですね。正解は『マル・ゲリータ』」
サフォ「マルゲリータ?ピザじゃん」
アーミ「ただのマルゲリータじゃ無いですよ?マルとゲリータの間にあの黒いちょんってやつ入りますから。フハハハハ来たな勇者め。しかし、貴様にこの無敵の要塞『マル・ゲリータ』が攻略できるかな!ハーハッハッハ!……ほらね、それっぽいでしょ」
サフォ「お前、暇そうだな」
アーミ「はぁ⁉︎」
サフォ「とにかく、明日の夜、喜瀬ハルヤに会いに行くよ」 

立ち上がり、上手側へ歩く。

アーミ「そうですか。私も気が向いたら行きますよ」
サフォ「好きにしろ。じゃ、俺出るから」
アーミ「あ、私も行きまーす」

サフォとアーミが上手へはける。少し間を開けてから再びサフォが上手から現れる。

サフォ「あるところに、羊の群れがあった。皆美しい白い毛を持ち、羊同士も仲が良かった。ある日、一匹の元気な羊が生まれた。皆仲間の誕生を喜んだが、一つ、気がかりなことがあった。その羊の毛は、黒かった。白くない羊は群れの恥だと考えた群れの長の判断で、黒い羊は存在を隠された。やがて、黒い羊は大きくなり、賢くなった。これまで碌に群れの仲間と話したことが無い彼は、ある企てをする。それは、自分の毛を白く染めること。そうすれば、皆と話すことが出来る。遊ぶことが出来る。長年独りぼっちだった彼にとってそれは何よりも価値あることだった。思惑通り、白くなった彼を群れの仲間たちは快く受け入れた。これでいい。これが、自分が望み選んだ道。その後、黒い羊はどうなるのか。『孤独なとき、人間はまことの自分自身を知る』。レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ。僭越ながら、この言葉に少し付け足しをする。『孤独なとき、人間はまことの自分自身を知る。ただし、自分を孤独だと信じぬ者は、例え孤独でも自分自身を知ることは出来ない』」

⭐︎プロジェクターで大きい時計を舞台上の壁とかに映し出したい。

サフォ「喜瀬ハルヤ。君は、何色だ」

サフォが指パッチンをする。

⭐︎指パッチンと同時に暗転。机や椅子は無くす。

(こっからは作戦決行の夜十一時までダイジェスト形式でやるので、動きはあるが台詞は無く口パク演技。後ろで流れてる音楽だけ聴こえてる)

マッコイ・タイナーの『promise』が流れ、サフォは上手へはける。

15:00
 ハルヤとキズキが電話をしている。キズキは変な長いぬいぐるみを持っており、身代わりの数が足りたことを伝える。

20:50
 スズネがサヤカと話しながら応援してる。コノハは側でヘッドホンで音楽聴いてる。

9:00
 ユウタとキズキがインタビュー雑誌を読んでる。
 まだ寝ているスズネの枕元に長いぬいぐるみを叩きつけて強引に起こす。

15:30
 ハルヤが実家から出発するのをトモカが見てる。

18:00
 ハルヤが寮に帰り、ユウタとキズキが出迎える。

23:00

時計が消える。

【第四場面】

⭐︎幾つか柱のようなセット(建物の間を抜ける)を配置。

寮から抜け出した五人が建物の間を進んでゆく。最後は舞台中央に行き着く。

⭐︎『promise』止まる。

ユウタ「(息切れ)みんな、いる?」
キズキ「えーっと(周り見渡して)いるね」
スズネ「マジで、めっちゃ疲れた」
ハルヤ「(膝に手を付くサヤカを見て)大丈夫?」
サヤカ「ああ、うん。ありがと」
キズキ「で、次はどっち?」
スズネ「えーっとね(下手を指差し)あっち」
サヤカ「誰か時間分からない?」
ハルヤ「(腕時計を見て)えーっと、十八分」
ユウタ「あと七分か……」
スズネ「ねぇ、ちょっと飲み物買ってきていい?」
ハルヤ「ああ、ライブだしな」
キズキ「俺も行くわ」
ユウタ「んー、俺も買い行こっかな」
サヤカ「じゃ、じゃあ私も」
スズネ「あ、みんな行く感じ?」
ハルヤ「いや、俺いいや」
ユウタ「おっけ、じゃあちょっと行ってくるわ」

ハルヤ以外の四人が上手にはける。特に何もせずハルヤは待ってる。下手からアーミ登場。

アーミ「あの、すいません」
ハルヤ「……はい?」
アーミ「道を、お尋ねしたいんですけど」
ハルヤ「あ、構いませんよ」
アーミ「駅ってどっちですかね」
ハルヤ「ああ、ここを真っ直ぐ行ったところに(上手を指差して)信号があるので、そこを左に曲がったところにありますよ」
アーミ「そうですか、ありがとうございます」
ハルヤ「いえ、どういたしまして」

アーミが少し上手側に動いたところで立ち止まる。

アーミ「『青春は無理をしてでも守るべきだと思う』」
ハルヤ「……(アーミの方を向いて)はい?」
アーミ「……はい?(何事も無かった顔で)」
ハルヤ「今、何か……」
アーミ「いえ、特には……」
ハルヤ「あ、そうですか……」

ハルヤは向きを戻す。

アーミ「『自分は孤独ではないと思っている』」
ハルヤ「え?」
アーミ「……はい?何か」
ハルヤ「いえ……何でも(納得のいかない顔)」
アーミ「……」

アーミは上手へはける。それと入れ替わるように、四人が上手から帰ってくる。

まずはキズキ。

キズキ「ごめんちょっと遅れた!」
ハルヤ「あ、あぁ。おかえり」

ここからハルヤはずっと過ぎ去ってくるアーミの背中を目で追っていて、意識も囚われてる。

ユウタとスズネも到着。

ユウタ「ハァ、ここらへん自販機無さすぎな」
スズネ「あ、ちょっと、サヤカ〜!」

最後にサヤカ。

サヤカ「みんな速いよ、普通に追いつけない」
キズキ「みんないるね?」
ユウタ「よし、じゃあ行くか!」
サヤカ「ねぇ、今更なんだけどさ」
キズキ「どうした?」
サヤカ「こんな夜遅くに、高校生ってライブハウス入れるのかな?分かんないけど、補導みたいなのされるとか」
ユウタ「大人ぶって誤魔化すしか無いだろ。それに、いざとなったらお兄ちゃんに何とか頼むし」
スズネ「あ、時間やばっ。みんな急ご!」

ハルヤ以外の四人が下手側へ走る。呆然と上手側を見るハルヤに気が付いたキズキが立ち止まる。

キズキ「……ハルヤ?」
ハルヤ「……」
キズキ「ハルヤ!」
ハルヤ「ん?(振り向く)」
キズキ「なんかあった?」
ハルヤ「いや……何でも無い」
キズキ「そう……あ、行くぞ」
ハルヤ「ああ、分かった」

先にキズキがはけてから、ハルヤはもう一度上手側を見てから、下手に走ってく。

⭐︎暗めのBGM

少し間を開けて、上手からユウタ、スズネ、サヤカ、キズキが走ってきて、やや遅れてハルヤも着いてくる。下手側からはサフォが歩いてきていて、ハルヤと肩がぶつかる。

ハルヤ「あ、すいません!」
サフォ「いえ、こちらこそ」

何も気にせず、ハルヤは四人を追って下手へ。

⭐︎舞台照明を替え、別の場所に。 

再び四人が上手から走ってくる。四人に遅れてハルヤがやってくる。すると、再びサフォが下手からやって来てハルヤとぶつかる。四人は下手へ。

ハルヤ「あ、すいませ……」
サフォ「いえ、こちらこそ」

少し不審に思いながら、四人の後を追って下手へ。

⭐︎舞台照明を替え、別の場所に。

今度は四人はおらず、ハルヤのみが上手から登場。

⭐︎BGM止まる

ハルヤ「あれ……。ユウター?キズキー?」

辺りを見渡すハルヤのもとに、またサフォが下手から登場。おかしく思ったハルヤは、サフォに話しかける。

ハルヤ「……あの、すいません」
サフォ「はい、何でしょう」
ハルヤ「ここ、四人くらい若い人が走って行きませんでしたか?」
サフォ「四人……いえ、見ていませんね」
ハルヤ「そう、ですか」
サフォ「では」
ハルヤ「ああ、あと!さっき、向こうでぶつかりましたよね。それも二回ほど」
サフォ「ああ、それはそれは。申し訳ありません。今、急いでるんですよねぇ喜瀬ハルヤさん」
ハルヤ「あぁ、そうなんですよ急いで……あれ僕名前言いましたっけ」
サフォ「いいえ。まだ」
ハルヤ「どこかで……お会いしたことありましたか?」
サフォ「いいえ。初めまして、です」
ハルヤ「……すいません、失礼します(危機感を感じて)」

ハルヤが下手側へ向かおうとする。

サフォ「四年前!」

ハルヤは立ち止まる。

サフォ「アナタに、何があったのですか」
ハルヤ「……は?」
サフォ「申し遅れました。私は、サフォと申します」
ハルヤ「サフォ……さん。……あのすいません、ホント何者なんですか」
サフォ「何者……まぁ、時折『清掃係』なんて呼ばれていますが」
ハルヤ「『清掃係』……」
サフォ「ハルヤさん。今から、お時間頂けますか。一緒に来て頂きたいところがあります」
ハルヤ「え?いや、ですから今急いでて」
サフォ「良い時計(食い気味に)。されてますね」
ハルヤ「は?あぁ、そりゃどうも」

ハルヤがふと腕時計を見る。

ハルヤ「……あれ」
サフォ「どうか、なさいましたか?」
ハルヤ「止まってる……え、故障?いやいや、さっき見た時は……」
サフォ「そう言えば、街の姦しさもだいぶ止みましたね」
ハルヤ「え?……(周りを見渡して)どうなってんだ?」
サフォ「さぁ、時間は取らせませんから。そのまんまの意味で」
ハルヤ「……これ、ドッキリ?」
サフォ「さぁてね。それが良いなら、そう信じて頂いても一向に構いませんよ。言い聞かせるのはお得意ですもんね」
ハルヤ「いやいやいや、有り得ないでしょ!こんなの、SFとかでしか……」
サフォ「これが街全体がアナタに仕掛けた演出だと、説明がつけられれば良いですね。それとも、出来るんですか?」
ハルヤ「それは……」
サフォ「なに、時間は止まるんですから。ライブには行けますよ」
ハルヤ「……アナタに着いて行ったら、時間は戻りますか」
サフォ「えぇ、お約束しますよ。喜瀬ハルヤさん」
ハルヤ「……行きたいところって」
サフォ「(少し笑って)では、こちらへ」

ハルヤはもう一度考えるが、顔を上げてサフォに着いていく。ハルヤとサフォが上手へはける。

暗転&不穏なBGM

⭐︎柱の向きを変えて、ファイルをしまう棚に変える。

【第五場面】

暗転のまま、サフォとハルヤが上手から登場。サフォは真っ先に舞台中央へ。ハルヤはファイルが入った棚の間を抜けながらサフォと合流。イメージとしては上の方まで棚が並んでるので、上を見て驚くなどの素振りも欲しい。

⭐︎BGM消える

明転

ハルヤ「なんですか……ここ」
サフォ「ここは、そうですね……資料室とでもしておきましょう」
ハルヤ「上までびっしり……何冊あるんですか」
サフォ「そうですね……まぁ、ざっと一億二千万ほど」
ハルヤ「一億?……日本の人口くらいありますね」
サフォ「おお、まさにですよ」
ハルヤ「え?」
サフォ「ここには、日本の人口分のファイルがあります。このような資料室は各国にあって、私はその日本支部の管理を担っています」
ハルヤ「……人口分?何が、書いてあるんですか」
サフォ「データですよ。一週間ごとの『あるものの量』について、長い間記録しています」
ハルヤ「あるもの?なんですかそれ」
サフォ「例えば……これとか」

サフォは一冊のファイルを棚から取る。

サフォ「日本支部データファイル16253-ユ-13番。雪松ユウタ」
ハルヤ「ユウタの?」
サフォ「彼は……ああ、やはり少ない。一週間に五、六ほどが普通だ。平均よりも少ないが、特別問題は無い」
ハルヤ「あの、だからなんの量なんですか?」
サフォ「さて、そろそろ本題ですかね。アーミ!」

アーミが下手から登場。

アーミ「はーい。あ、どもども。お疲れ様でーす」
ハルヤ「あなた、さっきの!」
アーミ「ああ、はーい、さっきの人です。ごめんね、何気に怖かったでしょ」
サフォ「彼女は、まぁ、私の助手のようなものです」
ハルヤ「ホントに、何者なんですかアナタ方」
サフォ「さ、アーミ。彼をご案内して」
アーミ「がってん承知の助〜。ささ、あちらまで」
ハルヤ「いや、ですから何者」
アーミ「良いから!ほらっ!」

アーミが手招きし、ハルヤは下手へはける。サフォはハルヤの方に一度礼をしてから上手へ。

暗転

棚として機能していた柱の向きを変えて、上手側に円を作る。囲った中は見えない。

明転

下手からアーミがハルヤを先導して登場。

アーミ「はい、こちらでーす」
ハルヤ「ここは……?」
アーミ「『処理場』です」
ハルヤ「処理場?……ああ、清掃係さん、なんでしたっけ」
アーミ「清掃係?あ、サフォさんそう名乗ったんですね」
ハルヤ「え?あの人は、そう言われてるって」
アーミ「まぁ、間違いでは無いんですが。なんせ色々言われてますから」
ハルヤ「はぁ」

下手から清掃服を来た人物が来る。カートを押していて、その中身は見えないようになっている。

清掃服「お疲れ様でーす」
アーミ「あ、お疲れ様でーす」
ハルヤ「がっつり清掃の人じゃ無いですか」
清掃服「今、誰か処理されてますか?」
アーミ「あーいや、空いてると思いますよ」
清掃服「そうですか。ありがとうございます」

清掃服の人物は上手側の円の側に行き、ゴム手袋したり色々何かの支度に取り掛かる。

ハルヤ「誰か?誰かって……え、人⁉︎」
アーミ「ま、そんなとこです」
ハルヤ「こ、殺し屋とか、そう言うことですか⁉︎よく漫画とかである、殺し屋を直接的に言わないで掃除屋とか言うタイプの⁉︎」
アーミ「いや、違う違う。殺してない。寧ろ、殺してるのはそっち」
ハルヤ「……は?」
アーミ「お、タイミング良いかな」
清掃服「では(アーミの方を見て)始めます」
アーミ「はーい。お願いしまーす」

清掃服の人物はカートの中から『遺体』を取り出し、柱で囲われた円の中に放り込む。

ハルヤ「うわっ!(思わず目を背ける)」
アーミ「担当どなたでしたっけ」
清掃服「男性で、三十代のサラリーマンの方です。週に何度かしか殺していないようで、こちらとしてもありがたい限りです。なんせ仕事が少ない」
アーミ「そうですか、良いですねぇ」
清掃服「ええ。今の時代組織はホワイトでなんぼですから」
アーミ「では、お勤めご苦労様です」
清掃服「また近々お会いしますよ。掛け持ちしてるんで」

軽い会釈をしてから、清掃服の人物は上手へはける。

ハルヤ「……今のって、死体ですよね」
アーミ「まぁ、そうだね」
ハルヤ「その……あの清掃服の方が言ってた三十代の男性って言うのは、やっぱり殺し屋で、サラリーマンってのは世を忍ぶ仮の姿とか言われるやつですか?ここはその処理を担っていて……」
アーミ「喜瀬ハルヤ。勝手に話を膨らませない」
ハルヤ「は、はい!すいません!殺さないでください!」
アーミ「はぁ……あのね、もっかい言うけど、私たちは殺さないの。殺すのはそっち」
ハルヤ「ああ……いや、その……。それはつまり、僕が人を殺すってことですか?」
アーミ「そうだよ?」
ハルヤ「いやいやいや、僕誰も殺してませんて」
アーミ「それが案外殺してるんだよなぁ」
ハルヤ「はぁ?」
アーミ「良い?あんたが殺してんのは」
サフォ「己自身!」

サフォが下手から登場。

ハルヤ「え?」
サフォ「己自身だよ。君が、幾度も幾度も鋭く尖ったナイフを突き立てて亡き者にしてきたのは」
アーミ「も〜うサフォさん私の美味しいところしれっと奪わないでくださいよ」
サフォ「君だってさっき私の雰囲気ありありの自己紹介を横から遮ったじゃ無いか」
アーミ「だからそれ誰に向けて」
ハルヤ「ちょ、ちょっと待ってください!」
サフォ「どうした?」
ハルヤ「いや、どうしたじゃ無いですよ!もう何が何だか」

清掃服の人物が上手から登場。またカートを引いてる。

清掃服「すいません、ちょっと追加のご遺体が入ってたみたいで。今からいけますか」
アーミ「ええ。まだ他に誰も使ってませんよ」
清掃服「はぁ。それは良かった。よいしょっ」

カートから遺体を取り出す。

ハルヤ「あれって……俺?」
サフォ「君が殺したのは、己自身だ」
ハルヤ「……俺が、俺を?」
アーミ「人は誰しも、自分を殺す時があるんですよ。相手をおだてる時、嫌われまいと嘘を吐いた時、他人の意見を尊重することにした時。そうして殺された『本当の自分』の死体はこの処理場に送られてくる。そして、我々清掃係が処理する。そういう仕組みになってるんですよ」
ハルヤ「そんな……」
清掃服「では、お疲れ様です」
サフォ「ご苦労様」

清掃服の人物は上手へはける。

サフォ「先程運ばれてきたアナタは『規則を破ってまでライブに行きたい訳では無い自分』の死体、と言うことです」
ハルヤ「……いや、そうだとして!どうして、俺をわざわざ連れてきたんだよ!」
サフォ「(バッグからファイルを取り出し)これは、喜瀬ハルヤさん。アナタのファイルです」
ハルヤ「……俺の?」
サフォ「ええ。小学校卒業までは、平均値周辺を保っています。中学校入学からしばらくはやや増えていますが、この傾向も他の方に見られますので、なんら問題はありません」
ハルヤ「だから、ならどうして」
サフォ「さっき言ったでしょう」
ハルヤ「は?」
サフォ「四年前ですよ。アナタが、中学二年生のとき。もっと正確に言えば、七月の二十日」
ハルヤ「七月……二十日」
サフォ「この日を境に、アナタのご遺体が増え続けた。高校入学後は少しマシになりましたが、またすぐ増え始めた。我々は、幾らアナタに関する情報を得られても、その心の内側まで覗くことは出来ません。このままでは、ご遺体の量は減らず、我々の重労働が果てないものと約束されてしまう。これは、アナタだけでなく、我々の中でも最優先すべき懸案事項なんですよ」
アーミ「組織は、ホワイトでなんぼですからね」
サフォ「教えて頂けませんか」
ハルヤ「……言いたくありません」
アーミ「えぇ〜。ちょっと喜瀬〜」
サフォ「ハルヤさん。これは、アナタのためでもあるんですよ。自分を殺すのは決していけない事では無い。社会で生きる上で必ずしも強いられるようになる。しかし、例え自分でも、殺す事に慣れては元も子もない」
アーミ「そうですよ!ね?」
ハルヤ「アナタのためって……俺は、今の生活で、環境で、もう十分なんだよ!折角、手に入れ直したんだよ……!頼むからもう、俺から何も奪わないでくれ!」

ハルヤが下手に走ってはける。

アーミ「あ、ちょっと!ハルヤさーん!」
サフォ「待てアーミ。追わなくてもいい」
アーミ「え、けど……。はぁ、分かりましたよ」
サフォ「んー、やっぱり、そう簡単に教えてくれるわけ無いもんねぇ」
アーミ「どうします?」
サフォ「少し、強硬手段に出よう。『レプリカ』って今用意できる?」
アーミ「え、アレですか?あれ結構作るの大変なの、知ってます?」
サフォ「今後の重労働回避と……彼の、未来のためだ。致し方無いと思え」
アーミ「はいはい、じゃ、準備してきます」
サフォ「私も、行こう」

サフォとアーミは上手へはける。

暗転

⭐︎柱のセットは無くし、下手側に学校の机と椅子。

上手からハルヤが走ってきて、舞台中央で疲れて座り込む。上手から中学の同級生が四人やって来て、客先側に背を向けて直線上に並ぶ。

同級①「なぁ、窓開けたところに、太めの配管あるの分かる?」

ハルヤが座り込んだまま同級生の方を見る。

同級②「ああ、あるね」
同級①「あそこさ、結構頑丈だし、三階の出っ張りみたいなところが屋根になって、雨とかでも濡れないんだよ」
同級③「それが、どうかした?」
同級①「あそこならさ、教科書、置けそうじゃ無い?」
同級④「えー?そんなに安定感あるか?」
同級①「いや、さっき試しに置いてみたんだけど、意外と上手く乗るぞあそこ」
同級②「マジか‼︎」
同級③「え、ちょっと一回置きに行ってみよ」
同級④「明日使うテキストめっちゃ多いから超助かる」
同級①「ハルヤ、お前も来る?」
ハルヤ「……え」
同級②「何だよ話聞いとけよぉ。置き勉スポット。コイツが良いとこ見つけんだよ」
ハルヤ「ああ……俺、いいや」
同級③「そう?じゃ、行こーぜ」

同級生たちは下手へはける。

⭐︎暗転し、ハルヤと机椅子にスポットライトが当たる。

少し間を空けて立ち上がると、下手側の机と椅子が照らされる。ハルヤはゆっくりと机に近付き、椅子を引いて中からメモ帳と筆箱を取り出す。ペンを出し、メモ帳に何かを書こうとするが、寸前で止まる。

⭐︎↑の段階で下手側に食堂セットを用意しておく。

ハルヤ「(ペンを持つ手が震え)うぅ……」

ペンを机に置く。

ハルヤ「なんで……(机を強く叩く)なんで……(机を強く叩く。椅子を蹴り飛ばし)うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎(嗚咽)」

嗚咽してる間に崩れ落ちて地面に座り込む。

暗転のうちにユウタ、キズキ、スズネ、サヤカ、コノハが定位置に座ってる。

明転

キズキ「うぁぁ……!(伸びをする)」

キズキの伸びの「うぁぁ……!」がハルヤの嗚咽の終わりと重なる。

サヤカ「……キズキ七味取って」
キズキ「七味……はい」

ハルヤ、思わず振り返り、食堂セットの方を見る。

サヤカ「ありがとっ」
キズキ「どういたしまして〜」
サヤカ「どういたされました〜」
キズキ「あのさ、やっぱサプライズライブだったらグッズとか出ないのかな」
ユウタ「あー。まぁ、そうでしょ。ドームとかアリーナでやるのとは訳が違うんだから」
スズネ「じゃあさ、このタイミングでライブやります!的な発表するとか?」
キズキ「うわ、それ最高」
コノハ「でも、無くは無いでしょ。その人たち、六年もやってなかったんでしょ?これが皮切りになるってことも全然あると思うし」
サヤカ「え、コノハ、興味出てきた⁉︎」
コノハ「別にそう言うわけじゃ」
キズキ「……あれ、ハルヤどこ行ったの?」
スズネ「お前ホント人の話聞かないなー?さっき自販機行ったよ」
ハルヤ「おい……いるよ、俺。なぁ……ここ、にいるよ⁉︎」

訴えかけるように五人に話しかけるが反応は無い。

サヤカ「あ、私ハルヤにシャーペン貸してるんだった」
ユウタ「なにアイツ忘れたの?」
ハルヤ「おい……ここに、いるってば」
ユウタ「(下手を見て)あ、ハルヤ〜」
ハルヤ「ハァ、良かったぁ。俺さっきからここに」
はるや「なに、どうかした?」

ハルヤと同じ格好をした『はるや』が下手から現れる

ハルヤ「……え」
ユウタ「お前、サヤカからシャーペン借りっぱだろ?」
はるや「あ!ごめんごめん、完全に忘れてた」
ハルヤ「おい……俺はここだよ⁉︎」
サヤカ「今ある?」
はるや「ごめん、部屋にある」
スズネ「おいハルヤ〜」
ハルヤ「もう何者だよコイツ‼︎(首を左手でさする)」
はるや「いやごめんって(首を左手でさする)」
キズキ「ハルヤよくそれやるよな」
コノハ「ああ、首に左手持ってくやつね」

ハルヤは思わず動きを止める。

はるや「良いじゃんか癖なんだから」
ユウタ「お前がどんな怖い仮装してもそれやったらすぐ分かって怖さ無くなるわ」
はるや「なんの仮装だよ」
キズキ「数学の田辺とか」
スズネ「ああ〜やだわ」
はるや「それ怖いの意味違うでしょ」
ハルヤ「お前は……俺なのか」
はるや「けど俺仮装とかしねーもん」
ハルヤ「してたんだろ……いっつもいっつも」
サヤカ「でもさ、田辺とか結構特徴ある先生なら動きで真似出来そうじゃない?」
コノハ「あ〜。あの先生いっつもおでこ撫でてるよね」
ユウタ「ああやってるやってる!なんだろね、しわが可愛いのかな」
はるや「かもな」
キズキ「でもダメだよ、コイツ、演技めっちゃ下手だもん」
はるや「言うなよマジで!」
ハルヤ「ずっと化けの皮被ってきたくせに」
キズキ「嘘とかめっちゃ下手なの」
はるや「言うなって!」
ハルヤ「それこそ嘘だろ‼︎嘘の塊じゃんか」
スズネ「でもまぁ良いじゃん。ハルヤらしくて」
ハルヤ「……どこがだよ」
はるや「嘘下手って結構キツイよ?」
ハルヤ「ハリボテの自分がそんなに愛おしいのかよ‼︎……なぁ、俺」
ユウタ「え、時間やばくね?」
サヤカ「ホントだ!行こう!」

ユウタ、キズキ、サヤカ、スズネ、コノハが上手へ退場。

ハルヤ「おい、待って!みんな!」
はるや「……ねぇ」
ハルヤ「え?」
はるや「君、『俺』だよね」
ハルヤ「お前こそ……『俺』だろ」
はるや「君は、黒い羊?それとも、白い羊?」
ハルヤ「俺は……必死に白く見せてる、黒い羊だ」
はるや「黒か……残念だね。黒い羊は、処分されちゃうんだよ?」
ハルヤ「……殺されて堪るか」
はるや「えぇ?自分から黒って言っといて、それは身勝手でしょ。そう言う時は、嘘でも白って言わなくちゃ」
ハルヤ「身勝手になって何が悪いんだよ‼︎話すのも食べるのもテレビ観るのもライブ行くのも、生きてなきゃ何も出来ないんだよ‼︎生きたいように生きて、その他全部そっからの話でしょ⁉︎どう生きるかくらい、身勝手に決めさせろよ」
はるや「なーんか熱く語ってるけどさ、そんくらいの心意気がある癖に、お前は白く見せることを選んだんだな」
ハルヤ「……そうするしか無いって。本気で思ってたし、何なら今でも思ってる」
はるや「……やっぱり、四年前に狂わされたか」
ハルヤ「狂ってんのかなぁ。俺」
はるや「十分、狂わされてるでしょ」
ハルヤ「ハァ……お前、どうせ清掃係だろ」
はるや「ほぉ、それまた何故」
ハルヤ「靴。サフォって人もアーミって人も、処理場で会った人も。みんな同じ靴だった」
はるや「へぇ……案外見てるんだね」
ハルヤ「そうだな……ホントに」
はるや「何があった?」
ハルヤ「……サフォって人、いる?」
はるや「その人に言われてやってるからね。待ってな。喜瀬ハルヤ」

『はるや』が下手に退場。少ししてサフォが下手から登場。

サフォ「……お待たせ致しました」
ハルヤ「ユウタたちは、アナタが用意した偽物ですか」
サフォ「ええ、レプリカです。アーミくんが毎回用意してくれるんです。凄い技術なんですよ?」
ハルヤ「良いですね。いない時に褒めれる関係って」
サフォ「そうですか?」
ハルヤ「僕なんか……独りの時は泣くだけですし」
サフォ「変わりましたね」
ハルヤ「やめてください、そう言われるのは」
サフォ「ああいえ、雰囲気も変わったみたいですけど、そっちでは無くて」
ハルヤ「え?」
サフォ「一人称ですよ」
ハルヤ「……え」
サフォ「ずっと『俺』と言っていたのに」
ハルヤ「あぁ……何でですかね。さっきの偽物が、俺って言ってたからですかね」
サフォ「まぁ、偽物であり本物なんですけどね」
ハルヤ「そう、ですね」
サフォ「で?」
ハルヤ「はい?」
サフォ「どうして私を呼んだんですか。お話し頂かなくては困りますよ」
ハルヤ「ああ、そうでしたね」
サフォ「話したくなったんでしょ。四年前のこと」
ハルヤ「随分、嵌められた感じですけど」
サフォ「すいませんね、これも仕事の一環なので」
ハルヤ「ハァ……うちの中学は、指定されてない教科書とかワークは、持って帰らなきゃいけなかったんですよ。だけどある日、友達が『いい隠し場所がある』って、教えて」
サフォ「ああ、置き勉ってやつですか」
ハルヤ「知ってるんですね。違う世界の人なのに」
サフォ「まぁ、ある程度は」
ハルヤ「窓開けたところに配管があって。結構太くて、フィットすれば落ちる心配は無いし、上の階が屋根になって雨にも濡れないって」
サフォ「随分荒っぽい作戦ですね」
ハルヤ「まぁ中学生の思い付きですし。友達は皆んな、そこに教科書とかを置いて、帰っていきました。けど……僕は、何か凄い引っ掛かってて。皆んなが帰った後、メモ帳に書いて、教卓の中に置いちゃったんです」
サフォ「書いた、と言うのは」
ハルヤ「大袈裟に言えば……告発文?って言うんですかね。配管のところに教科書置いてってる人がいるって」
サフォ「それで?」
ハルヤ「次の日の放課後、ホームルームで先生がそれについて話して。置き勉してた友達は、クラスの子の前で先生に怒られて」
サフォ「そのメモに、名前は書いてたんですか?」
ハルヤ「いや、一応匿名で。まぁ先生は筆跡とか見てるからすぐ僕だって分かったでしょうけど。でも、名前があっても無くても一緒でした。その話を知ってた中で、唯一教科書を置いてなかったのが僕だったので。すぐに友達にバレて」
サフォ「それが……七月の二十日」
ハルヤ「それ以来、その友達とは話してなくて。三年の時は先生が察してくれたのか、四人とは別々のクラスになりました。けど、そん時の皆んなの目が、もう怖くて」
サフォ「トラウマ、ですか」
ハルヤ「……けど、本当に一番辛かったのは、その後です」
サフォ「後?」
ハルヤ「七月二十日の後、死体の量がまた一段と多くなり始めた日がありませんか」
サフォ「あぁ……八月の三日」
ハルヤ「そのくらいだったと思います。学校がとにかく辛くなった時、姉に相談したんです。あくまで『もしも』の話として」
サフォ「それで?」
ハルヤ「姉は、『私なら秘密のままにする』って」
サフォ「……」
ハルヤ「今なら分かるんです。ここで口を噤んでおけば、アイツらと今でも遊べる仲のままだったって。けど、あの時は一刻も早く味方が欲しかったんです。だから、裏切られたって思いました。家族でさえ、『正しい事』をした僕を褒めてくれないのかって。もうなんか、馬鹿正直に生きるのがくだらなく感じてきて」
サフォ「ご両親は?」
ハルヤ「葬儀屋ですからね、身も心も疲れ切って帰ってきたのに、そんな話出来ませんよ」
サフォ「八月三日は、その日ですか」
ハルヤ「……翌日です。人生で最初で最後の、家出。朝から晩までコンビニで食い繋いで。結局九時に帰りましたけど、僕に取って見れば、人生すら懸けた抵抗でした」
サフォ「で、どうなったんですか?」
ハルヤ「……姉は、何事も無かったかのように接しました。夕飯何時にするー?とか、明日の支度したー?とか、いつも通りの姉が、いつも通り僕に話しかけて来たんです。触れすぎるのもダメだと考えたのかもしれないけど、確実に、僕はここで狂わされた。僕は至っていつも通りなんかじゃ無い!いつも通りじゃ無いってハッキリ分かって貰う、最後のチャンスだったのに……」
サフォ「……もしかして、寮の学校を選んだのは、それが原因ですか」
ハルヤ「……勿論、それだけじゃ無いですけどね。けど、家出の一件以来、居場所だと思ってた家が、薄暗く見えてくるんですよ。常に誰かに狙われてるみたいで、生きた心地すらしなかった。とにかく、あの地獄みたいな家から抜け出したい一心で勉強して、寮がある高校を志望しました。出来るだけ遠くの、羊ヶ崎に。僕の事を知ってる人が、誰一人としていないところじゃなきゃ、安心出来なくて。実家にも、ほとんど帰らず……」
サフォ「それが、四年前から今までの全て、ですか」
ハルヤ「ホントに、よく生きてましたよ」
サフォ「さてと……これから、どうして頂きましょう」
ハルヤ「……え?」
サフォ「え?って、アナタがアナタを殺す回数を減らして頂くのが我々の最終目標ですから」
ハルヤ「……けど、僕はホントに今の環境で十分なんです。ダメってのは分かってるつもりなんですけど、もう、捨てたく無いんです」
サフォ「んー。では、こうしましょう。アナタ、お忘れかもしれませんが、今ライブに行く途中なんですよね」
ハルヤ「あぁ……すっかり忘れてた」
サフォ「そのライブに行かず、寮に戻ると言うのは」
ハルヤ「え?」
サフォ「そのライブだって、自分を殺して破りたくも無い規則破って行ってるんでしょう?まずは、目先の物から片付けましょう」
ハルヤ「けど……」
サフォ「ご安心ください。先程もお見せしたように、我々は時間を操れますので、もし何かあれば巻き戻して差し上げましょう」
ハルヤ「巻き戻す……まぁ、それなら?」
サフォ「えーでは……巻き戻したくなったら、このフリスクをさすって私を呼んでください」

サフォがポケットからフリスクを出す。

ハルヤ「あ、こう言うのって案外何使ってもいけるもんなんですね」
サフォ「ですが、一つだけ注意点が」
ハルヤ「注意点?」
サフォ「時間を巻き戻せるのは一回切り。本っ当に巻き戻したくなったときだけ、呼んでください」
ハルヤ「……はい」
サフォ「では、また」
ハルヤ「……出来れば、二度と会いたくは無いんですけど」
サフォ「(少し笑って)同感です」

サフォが指パッチンをする。

⭐︎指パッチンと同時に暗転

マッコイ・タイナー『Folks』が流れる。

【第六場面】

明転

⭐︎明転と同時に音楽止まる。

ハルヤが上手から登場。頻りに腕時計を確認している。そこへユウタとキズキが下手から現れる。

キズキ「てかマジ何で動画なんだよー」
ユウタ「仕方ねーだろタケオミ骨折しちゃってんだから」
キズキ「んーもう、組体操の練習なんかやるから」
ユウタ「おい(ハルヤに気付いてキズキの肩を叩く)」
キズキ「あっ」
ハルヤ「……お帰り」
キズキ「……お、おう」
ユウタ「……ただいま」
ハルヤ「その……どう、だった?」
ユウタ「……」
キズキ「あ〜、いや実はさ、タケオミが足骨折して出れなくなってさ、動画だけだったんだよ。マジでついてねーよな。折角俺らだけ先に情報ゲットしてたのにさ。な?」
ユウタ「……どこ、行ってたの」
ハルヤ「……ごめん。先に帰ってた」
ユウタ「サヤカとスズネも心配してたんだぞ?寮戻ってもいなかったらどうしようとか。なんか事故に遭ったんじゃないかとか」
ハルヤ「ホントに、ごめん」
キズキ「あの……」
ハルヤ「なに?」
キズキ「あのさ……どうして帰ったのかなぁって。いや、急に体調悪くなっちゃったとかだったら、ね?」
ハルヤ「……そんなんじゃ無い」
ユウタ「じゃあ、なに……?」
ハルヤ「……馬鹿らしくなっちゃったんだ。いちいちリスク抱えてまで皆んなと関わるのが」
キズキ「……なんか、重いな!あ、そうだハルヤ。お前俺の身代わりになったぬいぐるみ知らないだろ、ちょっと持ってくるわ!これがマジでさww……(真顔になって)ちょっと待ってて……」

キズキが上手へ退場。

ユウタ「……馬鹿らしくって?」
ハルヤ「ホント、意味不明な事言うかもしれないんだけど」
ユウタ「お前からしたら真っ当な事なんでしょ?それなら別に俺が分からなくても気にしない」
ハルヤ「……お前、どこまで主人公なんだよ」
ユウタ「ん?」
ハルヤ「あぁいや、忘れて」
ユウタ「そう?……で、何があったの」
ハルヤ「あのね……『青春』とか『友情』みたいなさ、綺麗で、カッコよくて、皆んな大切にして当たり前になってるやつに囚われるのが、もう、堪らなく嫌なんだよ。自由になるのが、苦手なの。何かに縛られてても良い。理不尽に制限されてても良い。ただそう言うのをさ、お前と、キズキと、サヤカとスズネとコノハと、変だよなぁとか、もっとこうなら良いのにとか愚痴言い合うくらいで良いんだよ。変えたいなら変えたいってデカい声で言うくらいで……。頭固いとか面倒だとか思われても構わないけど……もう、自分を虚仮にしてまで無茶して青春を追いかけるのに、疲れたんだよ」
ユウタ「……ずっと、隠してた?」
ハルヤ「(静かに頷く)」
ユウタ「……嘘って、案外簡単に吐けちゃうんだな」
ハルヤ「ホント、ごめん」
ユウタ「俺らと話してた時のは、作り笑顔?」
ハルヤ「いや、違う。それはホントに、ホントに心から笑ってた。友達として誰かと喋るなんて久しぶりだったから……楽しくて、もう、どうっしようもないくらい好きで……。もう誰かとこんな仲良くなれる事一生無いって思ったから。僕の独り善がりなんかで、壊したくなかったんだよ……」
ユウタ「なんかでって(小声)……。なんかでって何だよ」
ハルヤ「……え?」
ユウタ「独り善がりなんかとかじゃ無いだろ。俺たち六人だって、運命共同体で誰かいなくなったら『はい、解散』ってなる訳じゃ無いし。所詮一人の集合体。他人。そりゃ、何事も身勝手過ぎる奴は心の底から大っ嫌いになるけどさ、お前はそう言うラインにすら立ってないんだろ?普通皆んなが身勝手かどうかなんて考えもしないちっさい段差を越えるか越えないかで、ずーっと燻ってるじゃん」
ハルヤ「燻ってるって……」
ユウタ「そこでお前が身勝手になろうがならまいが、少なくとも俺は気にもしない。正直、無理してまで友情守ろうとするのも意味分かんないし、無理しなかったら友情が破綻するって考えてるのも意味分かんない」
ハルヤ「……うざったい人間に、ならないかな」
ユウタ「ならないよ。それでうざったいとか思う奴は多分、自由を履き違えてるだけ。解放こそ自由とか狂った事信じ切ってる奴なんだよ。自分が何やりたいかどうしたいか選べるのが自由なんだったら、ルールきっちり守るのも自由じゃんか」
ハルヤ「……凄いなぁ、ユウタは」
ユウタ「は?」
ハルヤ「めっちゃ唐突に重くて臭い台詞言ってる俺に……すぐそう言えるのが。ホントに、主人公だよ、ユウタは」
ユウタ「実はさ、俺中学んとき……」
ハルヤ「え?」
ユウタ「いや、止めとくわ」
ハルヤ「えぇ?(笑いながら)」
ユウタ「言うも言わないも自由だしさ」
ハルヤ「まぁ、ね」

キズキが上手から変なぬいぐるみ持って登場。

キズキ「ほら見てこれ!ヤバくない?……もう、終わった感じ?」
ハルヤ「お前も居て良かったのに」
ユウタ「止めとけ。コイツは堅苦しい事は何も考えずに生きてるから」
キズキ「はぁ⁉︎俺くらい考える時は考えますー」
ユウタ「軽音入ったら自動的にモテると思ってた奴が何言ってんだよ」
キズキ「それは、偶々考えなかった時だっただけで‼︎」
ハルヤ「分かった!分かったから!静かに!……まだ日昇って無いから」
ユウタ「部屋、戻るか」
ハルヤ「明日も早いし」
キズキ「俺はもう諦めてオールします。寝たら絶対寝坊するし」
ハルヤ「ハヤテ起こさないようになー」
キズキ「大丈夫、アイツ目覚まし以外で起きないから」
ユウタ「便利な身体してんなぁアイツ」

キズキとユウタが上手側へ歩く。

ハルヤ「あ、ちょっと俺外出てくる」
ユウタ「え?何しに」
ハルヤ「そろそろ、日の出だから」
キズキ「お前そんなに日の出とか興味あったっけ」
ハルヤ「いやなんか……見たくなって」
ユウタ「……そっ。じゃ、バレないように帰ってこいよ」
ハルヤ「分かってるよ」
ユウタ「ああ、ハルヤ!」
ハルヤ「ん?」
ユウタ「あと二つ、言いたいことがある。まず、俺は、お前と……お前たちと、簡単に千切れるくらいの脆い友情を作ってきたつもりは無い。お前は心配しなきゃ気が済まないのかもしんないけど、ただの絵空事だと思え」
ハルヤ「……分かった」
ユウタ「それともう一つ。来年の二月からな……ゴトワ、ドームツアーだ」
ハルヤ「えっ、マジで⁉︎」
キズキ「ハルヤ、静かに」
ハルヤ「うわぁ……やっぱタケオミやべぇわ」
ユウタ「……当たったら、一緒に行こ」
ハルヤ「……勿論、行こう!」

⭐︎奇妙礼太郎『ピアノメン』が流れる。

キズキ「……ぃ良ぉし!今度こそぜってーグッズ買うから、金貯め込むぞぉ‼︎」
ユウタ「うるさいって!」
ハルヤ「うるさいって!(ユウタと同時)」

暗転

⭐︎ベンチが舞台中央に置かれる。

コノハがベンチに座る。

⭐︎若干の照明の変化はあっても暗いまま。

下手からハルヤが登場。

ハルヤ「あ……」
コノハ「……珍しいね。ハルヤがここ来るなんて」
ハルヤ「急に見たくなったんだよね、日の出」
コノハ「……ライブ、行かなかったんでしょ」
ハルヤ「え?」
コノハ「うちの部屋さ、アンタらが出入りしてた裏口見えるんだよ。十二時過ぎくらいに何の気無しに窓見たら、一人だけ帰ってきてたから」
ハルヤ「あぁ、見られてたんだ」
コノハ「なんか、あった?」
ハルヤ「……まぁ、色々と」
コノハ「ふーん。ま、興味無いから良いけど」
ハルヤ「……コノハさ、前に俺に言った事、覚えてる?」
コノハ「私なんか言った?」
ハルヤ「俺は、まだ主役になって無くて、誰かの人生の脇役にしかなって無いって」
コノハ「……そんな事言った?」
ハルヤ「え?覚えてないの?」
コノハ「いつ言った?」
ハルヤ「昨日の朝」
コノハ「え?ハルヤそんとき実家いたんじゃ無いの?」
ハルヤ「あれ?……あ、今日月曜日か」
コノハ「そうだよ。そろそろ日の出。で、私が言ったのが、どうかした?」
ハルヤ「いや……何でもない。ちょっとだけ、主人公になった気がしただけ」
コノハ「(軽く笑って)なんか、覚えてないところでハルヤ救ってた感じ?」
ハルヤ「まぁ……そうね」
コノハ「他人の視線気にしたり無理したりしなくても、案外やってけるでしょ?」
ハルヤ「うん……コノハ見てたらなんかそんな気してきた」
コノハ「……あ、ほら。昇ってくる」

段々と明転

ここからユウタ、キズキ、スズネ、サヤカが上手から登場する。まずスズネが先頭切ってコノハの後ろに回る。

スズネ「(コノハの肩を叩いて)わっ!」
コノハ「(少し驚き)あ……うわー!(棒)」
スズネ「はぁ……道のりは長そうだなぁ」
ハルヤ「スズネ……なんで」

サヤカも登場。

サヤカ「おっ、いたー」
ハルヤ「サヤカも……え?」

ユウタとキズキも登場。

ユウタ「キズキが呼んだ。偶にはみんなで日の出見よって」
スズネ「大丈夫?」
ハルヤ「え?ああ、体調が悪いわけじゃ」
サヤカ「そうじゃない。ユウタと話してたんでしょ?」
ハルヤ「あ……聞いたんだ」
スズネ「なんか、ごめんね〜。振り回しすぎたでしょ」
サヤカ「スズネ逆らったらなんかされそうだもん」
スズネ「なんかってなに?」
サヤカ「え?耳にちくわ詰められるみたいな」
スズネ「こっわ。怖いし地っ味」
ユウタ「あ、コノハ聞いてないっけ」
コノハ「え?ああ、別に聞かなくても」
サヤカ「ホントに他人に興味無いよね」
コノハ「完全に無いわけじゃ無いんだってば」
ハルヤ「なんか……凄いね、皆んな」
キズキ「当たり前だろ。皆んな人生の主役張ってんだから」
スズネ「……何のドラマ」
キズキ「すいません、月9です」
スズネ「やっぱりな」
ハルヤ「でも、キズキが日の出見ようなんて珍しいね」
キズキ「やっぱさ、こうドゥワッ!って言う景色みると、心が丸洗いされる感じするじゃん?」
サヤカ「流石、下心原動力にして軽音入った奴の言葉は重みが違うね」
キズキ「ち、違う!いや、違うわけじゃ無いけど、ホントにギターは弾いてみたかったんだよ」
コノハ「この前のアンタの弾き語り、弾いてなかったもんな」
ハルヤ「ああ、持ち語りだった」
ユウタ「ねぇ、弾き語りってさ、何で『語り』なんだろうね。歌ってんのに」
スズネ「知らないよそんなの」
コノハ「ねぇ、こんな素敵っぽーいムードでうちら何話してんの」
サヤカ「まぁ、考えるだけ無駄でしょ」
ハルヤ「こんくらいが、好きなんだけどね」
スズネ「あー、それ分かるわ」
ユウタ「……ふぅ、じゃ、そろそろ戻るか」
キズキ「よし!寝よう!」
ハルヤ「さっきオール覚悟って」
キズキ「いや無理無理無理。めっちゃ眠い」
スズネ「さ、戻ろう!」
サヤカ「睡眠時間確保ォー‼︎」
コノハ「全然明け方のテンションじゃ無いなお前ら」

ハルヤ以外の五人が上手に退場。ハルヤはベンチに残り、舞台中央に歩いていく。

⭐︎間の幕が閉じる。その裏でベンチ撤退。

ハルヤ「その後僕は、昨晩起きた『学生寮脱走計画』の顛末を先生に……告げなかった。勿論、無理をしているわけじゃ無い。ただ、初めて『そのままでも良いかな』と思った。四年前のあの時と違うのは、僕自身もまた、計画を齧っていた事。ずるい考えではあるけど、何年か後に、皆んなとまた集まって、皆んなしか知らないこの週末での出来事を思い返したかった。更に正確に言うとするなら、また皆んなと出会う、口実作りがしたかった。サフォさんも許してくれると思う。多分だけど」

ビゴートが上手から登場。

ビゴート「喜瀬ハルヤ……」
ハルヤ「(振り向いて)なんだ、ビゴートか……」
ビゴート「なんだとはなんだぁ?未だに覚えてるぞ。四年前の八月三日だ。お前に初めて姿を見せたあの日から、一体どれだけ私がお前に啓示を授けたと思っている。これまでも、私の言いつけを従順に守ってきたと言うのに。ははぁーん、恩を仇で返すとはこの事だな?全く、お前は碌な人間じゃないな。十八年しか無い青春を、有終の美で飾ろうと何故思わない⁉︎今ここで友に刃向かえば、また、あの時のようになるだけじゃ無いか」
ハルヤ「確かに……子供でいられんのは十八年だ。けど……だからこそ俺は、その後戻りも出来ない青春の中で、自分を殺しまくるなんて事は絶対にしたくない。それに、大人になってからも青春は出来るじゃないか」
ビゴート「ふっ、見事に掌返しやがって……。どうせまた耐えられなくなって、私に縋るに決まってる!」
ハルヤ「……」

無言で下手側に歩く。

ビゴート「おい待て!何処へ行く!」
ハルヤ「どうしても、行かなきゃならないところがあるんだよ」
ビゴート「はぁ?礼も無しにいちびりな」
ハルヤ「礼か……。確かにアナタには世話になったと思う。アナタがいなきゃ、ここまでアイツらと仲良くなれなかったかもしれない。けど、これまでもこれからも、最後に決めるのはアナタじゃ無くて僕だ」
ビゴート「ふんっ……貴様など、知ったものか。行くならさっさと行け。最早目障りだ」
ハルヤ「どうも、ありがとう」

ハルヤは下手へ退場。

上手からサフォが登場。

サフォ「随分とお疲れですか、ビゴートさん」
ビゴート「サフォ……はぁ。お前だろ、あの小僧に阿保みたいなこと吹き込んだのは」
サフォ「阿保みたいかは分かりませんが」
ビゴート「ああ、とんだ大馬鹿者だよ。いつか必ず躓く時が来る。悔いても時間など戻らぬと言うのに」
サフォ「……ビゴートさん。アナタに一つ、良い事を教えて差し上げましょう」
ビゴート「あぁ?」
サフォ「偽りの自分が作ってきた友情はね、青春の材料になんか、なりゃしないんですよ。これは、私が長年の職務の末導いた結論です」
ビゴート「随分と偉そうに……」
サフォ「けれど私……アナタにも興味がある」
ビゴート「……はぁ?」
サフォ「友情やら青春に固執する。それがハリボテだとしても。私ね、未知の事を知り尽くすのが好きなんですよ」
ビゴート「無理にしなくとも……私は、独りで十分だ」
サフォ「人は、孤独な時に己を知りますからね。アナタが理解しているアナタを、聞かせてください。なんせ、アナタのファイルが無いもので」
ビゴート「(少し笑い)清掃係は何か、可笑しな輩しかいないらしいな」
サフォ「清掃係と呼ぶのも、アナタだけですよ」
ビゴート「……知るってのは、面白いか」
サフォ「ええ、とても」
ビゴート「……そうか。だが断る!」
サフォ「えぇ⁉︎今なんか凄い悪役が更生してみたいな感じだったじゃん」
ビゴート「うるせぇな!俺はいつから悪役なんだよ!」
サフォ「(下手側のビゴートに近付きながら)良いじゃ無いですかー」
ビゴート「馬鹿近付くな!」

二人が下手から退場。

⭐︎中の幕が上がり、葬儀屋の休憩スペースのセット。机一つとアズサ・カオルが座る椅子。

カオルとアズサがまた何か話してる。

アズサ「やっぱりさ、漫画肉とか思いっきり食べてたら絶対歯に挟まると思うんだよね」
カオル「まぁ結構勢いよく食べてるしね」
アズサ「戦闘中とか気にならないのかな」

ハルヤが扉を開け入ってくる。

ハルヤ「こんにちは」
アズサ「あ、ハルヤくんじゃん」
カオル「やけにスパン短いね」
ハルヤ「あ、ちょっと用があって」
アズサ「お姉ちゃん?」
ハルヤ「まぁ……」
アズサ「今トモカちゃん外出てるから、ちょっと待ってね」
ハルヤ「あ、ありがとうございます」
カオル「そうだ、ハルヤくん。今日何の日か覚えてる?」
ハルヤ「え?今日って……」
アズサ「八月の……三日だね。なんかあったっけ」
ハルヤ「三日……あぁ、勿論」
カオル「そっ。八月三日は、家出記念日」
ハルヤ「嫌なオマージュですね」
カオル「お、分かる?」
ハルヤ「サラダ記念日ですよね、流石に知ってます」
アズサ「家出ねぇ。あったねそういや」
ハルヤ「けど、なんでカオルさん覚えてるんですか?」
カオル「昨日トモカちゃんが言ってたのよ。明日ハルが家出した日なんですーって」
ハルヤ「姉が……」
トモカ「私が何?」

トモカが扉から入ってくる。

ハルヤ「あ、おかえり」
トモカ「ただいま」
カオル「じゃ、事務室戻りまーす」
アズサ「(ハルヤに)ごゆっくり〜」

アズサとカオルが退場。

トモカ「何?電話も入れないで。こっちも忙しいんだから」

机に資料を置いて書き込みしながら。

ハルヤ「うん、ごめん……。けど、話しときたくて」
トモカ「何を?」
ハルヤ「四年前のさ……家出の時なんだけど」
トモカ「今更どうしたの?」
ハルヤ「……僕はやっぱり、あの時メモを書いたのは、間違いじゃ無かったと思う」

トモカの動きが止まる。

ハルヤ「別に、お姉ちゃんが間違ってるとか言いたいんじゃ無くて……」
トモカ「やっぱりか」
ハルヤ「え?」
トモカ「やっぱり『もしも』の話じゃ無かったんだね」
ハルヤ「ああ、うん」
トモカ「……私、あれからずっと後悔してんの」
ハルヤ「え?」
トモカ「ハルの理想を肯定すれば良かったとか、そう言うんじゃ無くて。家に帰ってきた時、もっと話してれば良かったって。ハルが寮のある学校を選んだ時から、ずっと」
ハルヤ「……そう、なの」
トモカ「多分、私がハルの何かしらの引き金を引いたんだと思う。私、ハルと真逆だから」

トモカ、しっかりハルヤの方を見る。

トモカ「……申し訳無いって、思ってる」
ハルヤ「……やめてよ。それに、寮に行ったから、めっちゃ良い友達にも会えたし、日の出めっちゃ綺麗に見えるところあるし、ゴトワの聖地も近いし。僕は、何も後悔して無いから」
トモカ「……あの時、私高校生だったから、何でも悪いと思った事チクっちゃうハルが、正直理解出来なかった。けど、大人になって分かる。ハルのそんくらいの生真面目さもね、無きゃ無いで結構大変なんだよね」
ハルヤ「……あのさ、姉ちゃん」
トモカ「ん?」
ハルヤ「……大人でも、青春出来る?」
トモカ「出来ない年齢探す方が難しいよ。それ」
ハルヤ「そっか……。ちょっと、安心した」
トモカ「……そう」
ハルヤ「じゃあ、もう行くわ」
トモカ「うん。気をつけてね」

ハルヤが下手側の扉から出ようとする。

トモカ「ハル!」
ハルヤ「ん?」
トモカ「マージナル・マンって、知ってる?」
ハルヤ「まーじなる・まん?」
トモカ「この前テレビでやってたの。ハルくらいの年齢の人の事らしいんだけどさ。日本語に訳したら、『境界人』なんだって」
ハルヤ「境界人?」
トモカ「そう。『境目の世界にいる人』」
ハルヤ「境目……」
トモカ「(思いっきり息を吸って)目一杯悩んでこい!周りにもバカみたいに沢山いるから!ちっさくてくだらない境目の段差なんかに躓かないで一歩一歩大袈裟に行っちゃえ!」
ハルヤ「(少し笑い)躓いても、どうにかなるかな」
トモカ「ハルなら行ける!だってお前、家出とか出来んじゃんか!」
ハルヤ「……そうだよ!僕は、羊ヶ崎高校二年で、十七歳で、Goat Worldが好きで、ユウタとキズキとスズネとサヤカとコノハって言う最強の友達がいて、くだらない事で馬鹿みたいに笑うのが好きで、この『喜瀬ハルヤ』とか言う人生の主役の!」

暗転しハルヤにスポットライト

ハルヤ「白でも黒でも無い、自分色の……
MARGINAL SHEEPだ!」

⭐︎サカナクション『フレンドリー』が流れる。

間の幕が閉じる。

⭐︎カーテンコール

出演者(ハルヤとサフォを除く)

一礼後、一旦出演者には袖にはけてもらう。

⭐︎間の幕が開く。ベンチが置いてある。

ベンチにハルヤが座ってる。サフォが上手から登場。

サフォ「喜瀬ハルヤ、だな」
ハルヤ「(振り向いて)……サフォさん!」
サフォ「お久しぶりですね」
ハルヤ「一年ぶりくらいですか」
サフォ「御卒業、おめでとございます」
ハルヤ「ああ、どうも。式来週ですけど」
サフォ「随分、凛々しい顔になりましたね」
ハルヤ「そう、ですかね。……あ、そうだ。僕、次サフォさんに会ったら、訊きたい事があったんですよ」
サフォ「おや、なんでしょう」
ハルヤ「あの時、僕がユウタたちに全部話したのが失敗するって言う可能性は、無かったんですか?」
サフォ「え?」
ハルヤ「いやまぁ、あの時サフォさんが時間を戻せると言ってくれたから決心出来たのもあるんですけど」
サフォ「ハルヤさん、もしかして、私に時間を戻す能力があると、まだ信じてらっしゃる?」
ハルヤ「は?」
サフォ「あれ、出任せですよ?」
ハルヤ「……えぇぇぇぇ⁉︎」
サフォ「いやぁ純粋そのものですねアナタ」
ハルヤ「いやいや、じゃあ尚更ですよ!失敗してアイツらとの関係が切れてたらどうしてくれるんですか!」
サフォ「ああ、その心配はありませんでした」
ハルヤ「なんで?」
サフォ「私は、資料室の日本支部のトップですよ?無論アナタのファイルだけじゃ無く、雪松ユウタ、日下キズキ、坂巻スズネ、福島サヤカ、白河コノハのデータも持っています。彼らのデータを拝見したところ、人生の何処かで、アナタと同じようにご遺体の量が平均値を大きく上回っている時がありました」
ハルヤ「それって……」
サフォ「彼らも、時期は違えど、アナタと同じ悩みを抱えていたと言う事です。そんな彼らが、アナタだけを置き去りにするなんて、思えませんよ」
ハルヤ「……僕は、恵まれてますね」
サフォ「ええ、本当に」
ハルヤ「類は友を呼びますね」
サフォ「羊はね、群れでの行動が常なんですよ」
ハルヤ「ホントに何処まで見越して……サフォさんは、怖いなぁ」
サフォ「それ、怖いの意味違うでしょ」

二人が笑い合い、幕が閉じる。

⭐︎二人も含めた全出演者が出て、本当のカーテンコールが終わる。

『MARGINAL SHEEP』
                                        【完】

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