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【短編小説】完全犯罪

「おら!おら!いっつもいっつも俺を苔にしやがって!里田め!おら!殺してやる!」

気付くと俺は、同期の里田を殴り殺していた。

この部屋は、かつて里田とルームシェアしていた

ときと同じだ。

同じ会社に入社した俺と里田は、同期として、友

として、互いに競い合い、高め合っていた。

本当に、良いバディのような感じだったと思う。

しかし、里田と俺との間に軋轢が入ったのは、

つい1ヶ月前くらいからだ。

里田が一任された大プロジェクトが、大成功に

終わったのだ。社内じゃ、「里田さんすごい!」

「里田さん憧れる!」と言う声も多く聞く。

俺だって初めはそうだった。特に妬み嫉みも無く

「さすが里田だ」と思っていた。しかし、里田へ

の賞賛があると同時に、「ねぇ、あの木下さんっ

て、里田さんと同期なんでしょ?まぁ確かに、違

いは一目瞭然だわ」だとか、上司からは「君はい

つになったら出来るんだ!もう少し同期の里田君

を見習いなさい!」なんて罵声も掛けられる。

その頃から、俺の里田への感情は、尊敬から、

憎しみへと変わっていった。もちろん、給料もUP

した里田は、俺の部屋を出て、まぁまぁ良いマン

ションに住んだ。夜、テレビを見ながら上司を

愚痴ったり、2人で分けあって食べた柿の種も、

消えて失くなり、寧ろ憎悪へと変わっていった俺

の憩いは、飼っているインコとの会話だけになっ

てしまった。段々と、俺の精神は荒んでいった。

そして今晩、部屋に呼び出した里田を、俺は容赦

無く殴り殺した。部屋には、里田が持って来た、

オレンジのチューリップが散らばった。

「はぁ、はぁ、お前が、周りが悪いんだ。お前らのせいだ……!」

もう、怒りの矛先を何処に向ければ良いのか、分

からなくなっていた。しかし、何がどうあれ、

この遺体が見つかってしまえば終わりだ。

「どうする……。あ、あの山なら……。」

ふと思い浮かんだのは、この部屋からそう遠くは

無い山だ。かなり広く、夜は真っ暗、かつ足場も

悪いため、遺体を隠すにはうってつけだ。それに

俺はかなり幼い頃からここら辺に住んでいる。

山を進むのは慣れたものだ。出来るだけ上の方に

隠すとしよう……。

ーーーー

1週間後、無断欠勤が続いていた里田の捜索が始ま

った。警察も動き、会社、自宅、その次に、俺の

部屋にやってきた。

「えー、木下春也さん。里田さんとは、少し前までルームシェアしていたと?」

「ええ、この部屋です。」

と言っても、証拠が残っているはずは無い。

血痕が飛び散ったカーペットは、丸々捨てたし、

遺体も、無事山の山頂付近に遺棄した。

「なるほど……木下さんにとって、里田さんはどのような方でしたか?」

「そうですね……真面目で、ユーモアもあって。この前、あいつのプロジェクトが成功して、同期として、俺も頑張らなきゃと、思ってたんですが、まさかこんな事になるとは……。」

涙ぐんだ演技も完璧だ。最早、私を犯人とする道

は残っていないだろう。完全犯罪だ!

「では、我々はこれにて。もし、犯人に繋がる様な情報があれば、ご連絡ください。」

「はい、出来ることなら何でもします!」

警察が扉を閉めようとした、その瞬間、

「オラ!オラ!イッツモイッツモオレヲコケニシヤガッテ!サトダメ!オラ!コロシテヤル!」

警察と俺のキョトンとした目の先には、俺の唯一

の癒しとなっていた、インコがいた。

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