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【短編小説】面接

朝日は、私の瞼を容赦なく突き刺す。私は、嫌々

目を開けた。

8:50

「あぁ、50分か……50分!?」

私の普段の出発時間は9:00だ。時計を見て、最初

は動じなかったが、段々とことの重大性に気が付

いた。いや、気付きたくなかったのか。今日は、

私が人生初めての『面接』なのだ。両親が会社の

重役だったこともあり、面接なんかせずに入社す

ることが出来ていた。しかし、まぁ、色々あり、

初めて“面接会場”なるところに行く。そんな大事

な日に、遅れたら……。そんな恐怖に駆られ、私

は急いで顔を洗い、実験に失敗した博士のような

髪に目もくれず、急いでスーツに着替えた。そし

て、パンを咥えながら、マンションの一室から飛

び出した。バス停に着いたが、着いたと同時に、

バスの扉は閉まった。「ちょっと待って!」と言

おうとしたが、そんなことを言うほど、体力は残

っていなかった。無情にも、バスはどんどん遠の

いていく。次のバスの時間を確認したが、もうこ

の際、走った方が早い。私は、再び駆けた。しか

し、私にまた試練が起きた。歩道橋の階段に、重

い荷物を持つ男性が、ハァハァと息を荒げて辛そ

うに登っている。悔しいほどに、私は良心を優先

してしまった。時間が無いのに、自分自身でも分

っているほど疲れ切っているのに。

「大丈夫ですか?持ちましょうか?」

「え、いいんですか?」

言ってしまった。さらに、男性から帰ってきた答

えは、ほぼ「お願いします」と同じようなもの。

さらに言えば、男性は足に傷を負っていた。私は

面接のことなんか考えられず、道路の向こう側ま

で、男性の荷物を持った。

「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」

男性は、何度も頭を下げた。なんだか、私も嬉し

くなった。

「もう、大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫です。」

良かったと思う私は、面接のことを思い出した。

「あ!」

私は、大急ぎで会社に向かった。

–−−会社

走って走って、ギリギリで間に合った。

「おい!遅いぞ!時間ギリギリじゃないか!」

かつてからの親友で、同じく面接会場に来ていた

コウタは、疲れ切っている私の耳に、容赦なく叫

び声をあげた。

「ごめんって。」

少し意識して謝ると、コウタは少し照れた。

「と、とりあえず、会場行くぞ。」

コウタと数人は、会場へと入っていった。

しばらくして、1人の男性が会場に入ってきた。

私はハッとした。

「あなたは、あの時の……!!」

「どうも、その節はありがとうございます。」

なんと、その男性は私が会社に来る途中に遭った

男性だったのだ。

「あの時は、アナタのことを分かってのこと。この会社が相応しいか、試していました。」

コウタは、渋々嫌な顔をして、私の耳に小声で囁

いた。

「おい、こいつ、どういうつもりだ?相応しいって、誰目線だよ。」

コウタの小声に気付かず、男性は続ける。

「自分は、そちらの方の勇気ある真摯な対応に胸打たれました。そして、この会社は、自分が入るべき素晴らしい会社だと、改めて実感致した次第でございます。」

「……やっぱり君、何言ってるの?」

結局、男性は不採用だった。少々高飛車なところ

が、致命傷だったらしい。全く、散々だったな。

こうして、面接官である私の、最初の面接は、幕

を閉じた。

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