【短編小説】叶えられない願い
私は神だ。どんな願いでも叶えてやれる。
最下位に沈んでいた球団を、逆転サヨナラホーム
ランを皮切りにトップにまで押し上げた。
大物になりたいという俳優を目指す青年を、
今やハリウッドの世界で活躍するほどビッグに
してやった。
今日は、とある2人組がやってくる。なんでも、
他の神々をお得意の頓知で困らせた曲者らしい。
決して叶えられない願いというやつだ。しかし、
神の中でもトップクラスの私にとって、そんな物
など無い。彼奴らを「ぎゃふん」と言わせて
やろう。私は、武者震いが止まらなかった。
そして、運命の日だ。あの2人組が、私を祀る
神社にやって来る。
木々が掴み損ねた陽が気持ちの良い昼頃。
あの2人組が来た。一人はキャップを被り、
もう一人はメガネをしていた。私は、二人が
参拝を始めた頃を見計らい、二人の目の前に
現れた。
「ふっ、ふははは!よく参ったなぁ。」
慣れない挨拶をしたが、二人は至って冷静だ。
今までも、多くの神の面目を壊してきたのだ。
肝は鍛えられていた。
「今日は貴様らに勝負を持ってきたのだ。」
「勝負ですか?」
「ああ、もしも私が、二人の願いを叶えられたら、お前らは一生私の僕となるのだ。逆に、お前らが勝ったら、一生遊んで暮らせる程の財をくれてやろう。」
私は自信満々になった。そもそも、叶えられない
願いなどない私にとって、こんな勝負、勝ったも
同然だ。しかし、二人は少し話し合ったあと、
すぐに勝負に乗った。
「ではまず、そこの帽子を被っている者。願いを言うてみよ。」
帽子男の願いは、至って簡単だった。
「隣にいるやつの、願いを叶えてください。」
あまりの予想外な願いに、私はきょとんとした。
もっと、龍を召喚しろとか、ここにすぐ家を
建てろとかかと思っていた。全く、こんな簡単な
願いも叶えられないとは、他の神々には呆れた。
「まぁ良い。では、そこのメガネ男。願いを申してみよ。」
既に私は、勝った気分だった。なにしろ、本来
叶えるべき二つの願いが、一つに減ったのだから
な。私は満面の笑みで質問した。しかし、メガネ
男もまた、笑みを浮かべていたのだ。
メガネ男は願いを言った。
「隣のやつの願いを、絶対に叶えないでくれ。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?