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【短編小説】いつもの

歌舞伎町の路地、ボサボサの猫が懐くマスターが

営むバー『皐月』。「いつもの」と言える隠れ家

的な穴場スポットが欲しかった私にとって、これ

ほど良い店は無いと思う。外観は、敷き詰められ

たレンガを、蔦がまとうレトロな感じ。内観は、

オシャレな絵画が少し錆びた額縁に収められてい

る。常連客に聞けば、売れない画家の玉子の作品

を、マスターが買い取っているのだとか。まるで

ドラマやアニメに出てきそうなバーだった。バー

と言うよりかは、喫茶店よりな気がした。

私は、いつも通りの道を辿って、バー『皐月』に

向かう。そして、いつもの席に座り、いつもの様

に仕事用のPCを取り出し、仕事を進める。そして

仕事に一段落がつくと、私はいつもの言葉をマス

ターに掛けた。

「マスター、いつもので頼むよ。」

マスターの返しは、いつも決まってこうだ。

「だから、お客さん。“いつもの”って?」

ほら、またいつもの答えだ。

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