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思い通りじゃないって楽しい!? ーものづくりから医療に貢献ー

今回は工学部機械システム工学科の倉科先生にインタビューしました。倉科先生の研究室は 2022 年発足の新設にして、学科の中でも人気の、医療工学の研究室です。医療も工学も分かるけど、医療工学ってどんなもの? 生体医用工学とは違うの? そんなあなたは是非ご一読を。

<プロフィール>
お名前:倉科佑太先生
所属学科:工学部 機械システム工学科
研究室:倉科研究室

トータルで設計したい!→医療の道へ


─医療工学って、工学部内でも目立っている感じがあります。はじめから医療工学を志望なさっていたんですか?
 
元々はガンダムを作りたいっていう気持ちで機械系学科に入りました。機械系のみんなが最初に夢に描く 3 分野(宇宙、車、ロボット)のうちの 1 つなんですけど。こういう王道オーソドックスな「やりたいこと」って、規模スケールが大きいから 1 人でその全てを完成させることができないんです。例えばロボットなら、歩行補助アシストみたいなシステムを作るとか、より強靭きょうじんにするために材料を研究するとか、そういう部分部分を担当することになる。対してもう少し小型のものミリサイズ・マイクロサイズであれば 1 人で全体の設計ができるんですよ。

―小型というと、どんなものがあるんでしょうか?
 
たとえば、細胞培養器とか。偶然の巡り合わせなんですけど、大学 4 年生のときに、細胞培養器と培養するための環境を僕 1 人で設計して作ることになって。自分の作ったものが、モノとして成るっていう明確な体験ができて、そこから医療系に興味が湧きました。医療系って、医学や生物学の視点からは研究が行われているんですけど、機械工学の側からは意外とされていない。新しいことがたくさんできるなあって思っていて、だからこそ、こういう研究をずっと続けています。

画面に映るマイクロサイズの装置の写真は、左手前の赤いフィルタを着けた黒い装置、共焦点レーザー顕微鏡を用いて3次元立体解析したもの。

機械工学と医療の狭間で


―機械システム工学科の中での「医療」のアピールポイントを教えてください。
 
医療の強みっていうのは、技術の発達が人を絶対にハッピーにしてくれるってことです。大学の 3 年生くらいになると、自分が何を成すべきなのか、社会に対して何ができるのかなって考え始める。医療工学って基本的に、何かを今まであるものよりも良くできたら、それは必ず最終的には人の健康を守ってくれる、たすけることができる、そんなわかりやすい出口がある。これが醍醐味だいごみです。
 
―確かに、時間と費用をかけて大がかりな物を作るなら、それが誰かの役に立つことを想定しないと、作っているうちから徒労感に襲われそうです。
―逆に、機械の側から医療に携わることの魅力はありますか?
 
僕が関わる研究室は機械系か生体バイオ系が多いんですけど、学生たちの着眼点って専門によって全然違うんです。医療工学の話を始めようとしたときに、例えば生体なら細胞とか遺伝子検査とか内側に着目する。化学なら薬がどういうふうに反応するから、っていう感じ。機械メカなら、「この装置デバイスをどう変えよう」とか。
 
僕自身はさっきもった通り、装置を作るところから医療にたどり着いたんで、同じような精神マインドを持った人の方が上手く一緒にやれるって考えています。「これこれこういう条件でこういうものを作ってよ」って言っても、機械以外の人だとなかなかできない。 4 力学(注 1 )を学んでいて、あと設計とか製図とかも知識があって、どの工作機械を使おうかとか、そういう視点を基礎で持っていてくれる学生だと、こっちも話がしやすいんです。
 
医療志望でも、装置を作りたいとか、そういう産業っぽいところに興味が湧いたら、是非うちに遊びに来てください(笑)。

細胞の性質を測定するための電極装置の一部。研究室の学生さん自身が制作したもの。
機械工学の知識があると設計への抵抗感なしで自由に創造できる。

「上手くいかない」 = 「おもしろい!」


─最後に、おもしろかった研究について教えてください。
 
僕が博士のときの研究で、最近製品化を目指して企業と開発している研究を紹介します。
細胞に刺激を与えると、例えば筋肉を鍛えるような感じで、細胞が活性化したり増殖性が上がったりする、と文献に書いてあって。機械刺激といって、農工大では生体医用工学科の吉野大輔先生(注 2 )などが研究されているんですが、じゃあ、細胞に超音波をかけたら、細胞が育つんじゃないかなって考えて、やってみたんですよ。そしたらね、細胞が全部がれたんです。シャーレにしがみついている細胞の足が、超音波の音圧と、超音波によって発生する水のせん断応力(注 3 )によって揺れて剥がれた。そこで、細胞を剥がすのに超音波が使えるんじゃないかって考えました。一般的には化学的ケミカルな酵素を使うところを、超音波を使って物理的に行うことで、化学的な損傷ダメージなしに細胞を剥がすことができる。そんな理想的な技術を具現化できたんです。(詳しくは注 4 、注 5
 
多分、本に書いてあった通りにことが進まなかったら、高校生とか、大学生でもまだ学生実験(注 6 )くらいの段階だと、失敗なんじゃないかって考えて終わりにしちゃうと思うんです。でもね、自分の思い通りじゃない結果が出たときが僕は一番楽しい。人間って、想像していたことができても面白くない。人為的なミスで失敗したのか、それとも新しい現象なのか、そこの切り分けがとても重要で、もう 1 回同じ実験をしたり冷静に考え直したりして、「これは自分のミスじゃない」ってなったら、それは新しい発見だっていうこと。人間が考えていないことが起きることが、科学のおもしろさだと思っています。

―なるほど、上手くいかない時にこそ、発見が待っている。そんな希望を胸に僕も研究室に戻ります。


注釈

(注 1 )4 力学:力学から派生した、材料力学、機械力学、熱力学、流体力学の 4 つの学問の総称。機械系学科、本学では機械システム工学科で学ぶことができる。また、製図とは、作りたい装置の部品の図を描くこと。

(注 2 )吉野大輔先生:細胞に刺激を与えたときの反応のメカニズムなどの研究が専門。先生大図鑑でも取材記事を掲載予定。

(注 3 )せん断応力:物体内部のある面と平行にかかる、力の成分のこと。ここでは、細胞の足にかかる2つの圧力の合力のうち、シャーレと平行な面のこと。ずれ応力ともいう。

(注 4 )接着細胞の剥離はくり:もともとの論文はこちら(リンク先英文)
Yuta Kurashina, Chikahiro Imashiro, Makoto Hirano, Taiki Kuribara, Kiichiro Totani, Kiyoshi Ohnuma, James Friend, Kenjiro Takemura, “Enzyme-free release of adhered cells from standard culture dishes using intermittent ultrasonic traveling waves,” Communications Biology, vol. 2, no. 393, pp. 1–11, 2019.

(注 5 )企業との研究:
Van Delft Julien,Chikahiro Imashiro,Yuta Kurashina,Kenjiro Takemura, Tsubaki Keiichiro, Spheroid cell aggregation enhanced by ultrasound-based enzyme-free detached cells, 第22回日本再生医療学会総会, O-06-4, 2023.3

(注 6 )学生実験:主に大学 2、3 年生が受講する、実験方法および実験結果のまとめ方を習得するための講義。多くの理系大学で必修である。


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文章:すざんぬ
インタビュー日時: 2023 年 12 月 20 日
インタビュアー:すざんぬ
※インタビューは感染症に配慮して行っております。

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