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挫折を乗り越えて、想像できない未来を探る

今回は応用生物科学科の福原敏行先生にインタビューしました。高校時代に挫折を経験した福原先生。研究の道でなら世界のトップレベルの人と対等に話せることを知り、研究者の道を志すようになったとのこと。動物には不可能なこともできてしまう植物の可能性や、特に楽しかった研究の内容についても教えてもらいました。

〈プロフィール〉
お名前:福原敏行先生
所属学科:農学部応用生物科学科
研究室:細胞分子生物学研究室
趣味: ブルースとクラシックロック
音楽を散歩しながら聞くこと
熱帯魚(クラウンローチ)を飼っています

「こりゃいいな。」挫折の経験から、学問の面白さに気付く


―研究者になったきっかけを教えてください。

学生時代は生命の起源に関する研究をしていたのですが、博士課程の 1 年生の時に研究者を志すようになりました。

スタンリー・ミラーって知っていますか? 「ミラーの実験」で有名な人で、教科書に載っています。

ミラーも生命の起源を研究していて、学会で直接お会いする機会がありました。その時にこんなことを思いました。

僕は高校生の時、野球部でした。陸上や他の運動も割と得意でした。でも、例えば陸上では、「いくら自分が努力しても、 100 mを 10 秒では走れないや」と分かってしまって。野球でも、けっこう努力しました。それでも、大谷投手みたいに時速 160 kmで投げることはできない。スポーツって残酷ですよね。いくら努力しても届かないことがあります。「スポーツで食べていけるプロにはなれない」と思い知らされました。一生懸命努力して、挫折した経験でした。

一方で、ミラーにお会いした時、「研究なら、割とすぐ世界でトップの人と対等に話せるんだな。これはすごくいい道だな。」と、その時直観的に思ったのです。「こりゃいいな」と研究の面白さを感じました。これが研究者の道を志すきっかけとなりました。

教科書の話は遠い世界のことではないのです。努力したら教科書に載るような研究ができるかもしれない。もちろん、それは簡単なことでは全くないですが。

学生さんも、学問を身近に感じてもらうと勉強に身が入るかなと思います。

大学院では生命の起原の研究をしていましたが、就職するときに農工大で植物の遺伝子を研究している教授に助手として雇ってもらったので、研究テーマを植物生理学に変えました。

動物では不可能でも、植物なら簡単!植物の面白さ


―先生から見た植物生理学の面白さについて教えてください。

動物では不可能でそれ自体がノーベル賞ものになるような発見が、植物ではかなり普通にみられます。

分かりやすい例では、植物には「分化全能性」という、自分のクローンを作れる能力があります。つまり、 1 つの個体の体の一部を使って、新たな個体を作ることができます。これは動物にはできないことです。最近になって科学技術の進歩によりクローン羊の誕生が成功して大きな話題になりました。しかし、植物では、クローンはありふれた存在なのです。

例えば、全てのソメイヨシノはたった一つの木から作られたクローンです。枝を挿し木することによって、簡単にクローンを作ることができます。

乙女椿

これは農学部の学内にたくさんある花ですが、普通のお花と違っておしべとめしべがなく、花びらに変わっています。このような変異は「ホメオティック突然変異」といって、ショウジョウバエの事例が有名です。受粉できず種子を作れないのにこうして存在しているのは、この枝を土に挿すだけで根っこが出て、殖やすことができるからです。クローンのお花なのです。

このように、植物は、動物と違って、受精しなくても生殖できる方法があります。良い品種は全部クローンで増やしています。

動物だと難しいことや不可能なことでも、植物だと簡単にできることがあるのです。

―これまでに特に楽しいと思えた研究はなんですか?

僕は、RNAによる遺伝子発現の抑制をテーマに研究をしています。この分野はノーベル賞を受賞した研究もあり、医薬の分野とも関わりがあるので非常に競争が激しい分野です。

そのなかで、ダイサーという酵素を検出する実験が成功した時はとても嬉しかったです。正直、うまくできると思っていなかったのですが、思わぬ結果が出ました。しかも、学生が担当していた実験だったので、嬉しさもひとしおでした。

―どんな実験だったのでしょうか? 詳しくお聞きしたいです!

はい。今日のために、実験に使っているお花を持ってきました。こちらです。

ペチュニア星咲品種(左)ダリア結納品種(右)

この花には白い部分と赤い部分がありますね。赤い部分では、アントシアニンという色素を合成する特定の遺伝子が働いています。一方で、白い部分はその遺伝子が働いていないため色素がないのです。

なぜ、白い部分では遺伝子が働かないのか。それは、ダイサーという酵素がその部分の遺伝子を不活性化してしまうからだと解明されています。実験ではこのダイサーの検出に成功しました。

ダリア結納品種の花弁。全体が赤い花びらと、赤い部分と白い部分が混在した花びらがある

でも、実はまだ分からないことがたくさんあります。例えば、この花は写真のように一部が白くなることがあっても、全体が真っ白にはならないのです。必ず赤いままの部分が残る。さらに、赤と白の中間の、ピンクの部分はできません。なぜ、同じ花の中に赤い部分と白い部分ができるのか。そんなことを調べていきたいと思っています。

―研究者として大事にしていることはありますか?

自分で実験することを大切にしています。教授になると、実験は学生に任せて自分では実験しない場合も多いのですが、僕は研究が好きなので。最新の研究成果を勉強したり、実験に使う植物の水やりをしたり、学生だけに任せずなんでも自分でやります。

一生懸命やったけど、結果がついてこなかった。その経験が今の自分を作った


―高校生に向けてメッセージをお願いします

僕は皆さんと同じくらいの年齢で、非常に一生懸命やったけれども結果がついてこない、という経験をしました。トラウマとまでは言わないけれど、今でも夢に出てくることがあります。それに比べたら、大学生以降はかなり楽ですね。高校時代に今までで一番大変な経験をしたから、ちょっとやそっとではへこたれなくなりました。

皆さんには、たとえ失敗したとしても、何かを一生懸命やってみてほしいです。なんの努力もせずに失敗したって、挫折とは言いませんよね。もちろんうまくいくに越したことはないですが、努力してたとえ失敗したとしても、その挫折は一生懸命がんばった証です。

年齢が上がれば上がるほど、失敗が許されなくなります。安全策を取らざるを得ないことも増えます。だからこそ、若いうちにうまくいかないことを経験すること、失敗を恐れず一生懸命やってみることがその先に生きてくるのではないかと強く思います。

是非、何か一生懸命やってみてほしい。



文章:わらび
インタビュー日時:2021 年 12月 9日
インタビュアー:わらび
記事再編集日時:2024年 1月 25日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。


https://tuatdaizukan.net/


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