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大発見は突然に!「2019年農業技術10大ニュース」に選ばれた技術確立のウラ側

今回は生物生産学科の金勝一樹先生にインタビューしました。
先生の授業での工夫から、研究への思いを詰め込んだ内容になっています。ぜひ最後までご覧ください!

<プロフィール>
お名前:金勝一樹先生
所属学科:農学部 生物生産学科
研究室:植物育種学研究室
趣味:昔は子育て、今は日本映画を見ることと美味しいものを食べること

授業を受けた学生を植物生理学のエキスパートに!


―金勝先生は、「植物生理学」(注1)を教えられていますよね。
―「植物生理学」どは、どのような授業なのでしょうか?

1年生向けの授業なので、高校を出たばっかりの人が初めて受ける専門科目という位置づけになっています。農学というよりは理学系の内容で、前半は植物ホルモンの話、後半は光合成のしくみの話をしていきます。

―先生は研究もされながら、授業もされていますよね。

先生によっては、“研究をメインにしているから私は教えることのプロではない”みたいなことをいう方がいます。ですが、間違いなく私たちは教えることによってお金をいただいているので、教えることのプロだと思うのですよ。
 
研究はもちろん大事だとは思うのですけど、教育の方もすごく重視しています。私のモットーのようなもので、学生には全員Sをとってもらえる、そのつもりで授業をしています(注2)。
私の授業を受けた農工大の学生が全員、植物生理学のエキスパートになってくれたら良いなと思っています。

授業内で配られるプリント
(穴埋め式の補足やまとめの問題など、様々な工夫をされているそうです!)

アイデアと発見で世界と勝負する


―ここからは、先生の研究についてお聞きしていきます!……といっても、高校生は研究がどういうものか全然イメージできないと思います。先生にとって、研究のこだわりは何でしょうか?

今は色々な植物でゲノムを読める時代になってきています。ゲノムを分析するときには手順が決まっていることも結構あって、そうした研究だと、お金・機械・人がいるところには敵いません。それでも世界と勝負しないといけないのです。そういうときに世界と戦えるのは、アイデアや発見です。これから若い人たちには、人と同じことじゃなくて、アイデアと発見を大事にしてほしいなと思います。
 
―そういったアイデアや発見はどのように生まれるのでしょうか?

種子を扱う研究室では、種子を乾燥させて冷蔵庫で保存しておくことが一般的です。ただ、冷蔵庫から出してすぐに使おうとすると、ふたを開けた途端にどんどん種子が湿気を吸ってしまいます。なので、乾燥している部屋に1-2時間おいてから実験をします。ところが、その1-2時間を待つのを苦痛に感じる学生がいて、前の日に乾燥している部屋に種子を出しておいて、朝来たらすぐに実験できるようにしていたのですよ。そのように長時間部屋に置いていた種子は、水分含量が通常より低くなっていました。その種子を調べると、すごく高温に対して強くなっていることがわかったのです。
 
イネを栽培するときは、通常、病気を防除するため農薬を使って種子を消毒します。一方で、戦前からある技術として、お湯で種子を消毒する「温湯消毒」という方法があります。60℃くらいのお湯で消毒するのですけど、高温耐性が低いもち米やインド型品種だと、発芽しなくなってしまうという難点がありました。さらに、60℃くらいだと完全に防除できない病気もあります。現場の農家は温湯消毒を使いたいのだけど、完全に防除するために消毒の温度をあげると、種子が発芽しなくなるという悩みを抱えていました。
 
そんななかで、「種子を乾燥させれば(事前乾燥処理)高温耐性が高くなる」という先ほどの学生の発見を活かせば、高温耐性のないもち米でも65℃で消毒して大丈夫だということがわかってきました。

事前乾燥処理した種籾(※お米の種)を
65℃と68℃・10分間で温湯処理した時の出芽

この技術を発表したところ、農林水産省の「2019年農業技術10大ニュース」のトップに選ばれました。今は企業や試験場の人を巻き込みながらこの技術の普及活動をしています。
学生が種子を長時間乾燥した部屋に入れておいたのを見逃さなかったのが技術の確立につながったのです。

農学だからこそ人の役に立つ研究を


研究者に必要な素養としては、人に勝とうというような強い意思がある人の方が研究者として大成するかもしれません。でも、私自身は人と争って勝とうとするのは、あんまり好きではありません。現場で役に立つものが見つかれば、こちらも研究をやっていてよかったなと思うので、のんびりと研究したい人はそれでもいいのではないかなと思います。

-ご自身が確立された技術が、実際に利用されるのはやはり嬉しいですか?

そうだね。かつて私はラボにこもって、タンパク質や遺伝子について自己満足的に研究していたことがありました。農業に役立とうが役立つまいが、あまり気にしていなかったのです。けれども、農学という農業を支える学問分野にいるからこそ、現場で役に立つことはすごく大事だと、今回の温湯消毒の研究を通して学びました。
 
―農学だからこそ、農業農村の現場に貢献する研究ができる。金勝先生のお話をお聞きして、農学の魅力を実感することができました。ありがとうございました!


金勝先生の「先生大図鑑」はここまで!
最後まで読んでいただきありがとうございました。


注釈

(注1)生物生産学科1年生向けの授業
(注2)農工大では成績評価として、高い順にS、A、B、C、Dの5段階評価を用いている。

 
文章:TM
インタビュー日時:2020年11月5日
インタビュアー:すだち
記事再編集日時:2023年7月6日
 
 
※授業の形式はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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