ウイルス学から未来を明るく!〜研究者として、教育者として、将来を見据える〜
今回は、感染症未来疫学研究センターの水谷哲也先生にお話を伺いました。学生を育てる現場の様子から、次世代の第一線を走る研究の内容まで、先生自身の体験を交えて語っていただきました。ぜひご覧ください!
次世代の研究者育成の第一歩
―はじめに、先生が受け持っている授業について教えてください。
私が受け持っている授業の一つに、国際感染症防疫学があります。これは、博士課程の共同獣医学専攻の一年生を対象にした授業です。国内の第一線で活躍されている大学の先生や研究所の先生に、自分の研究の面白さを伝えてもらうというものです。
授業を通して、学生には到達点が想像できるようにしてもらうことを大事にしています。というのも、自分が 10 年後20 年後にある姿を、仕事、私生活にわたってイメージを持っていたほうが良いからです。 20 年後にこれほどのレベルに達していれば、このポジションでこれくらいの影響力がある研究ができる、ということを想像することが重要です。
―大学院の授業ということで、学部生との違いを意識している点はありますか。
少人数であることを活かして、学生に書かせたり、考えさせたりするように心がけています。また、海外から留学に来ている学生もいるので、授業は基本的に全て英語です。
学部の授業では、教科書の解説や暗記が目的になると思いますが、大学院では、教科書に載っていることは各自で読めばいいと思っているので、授業では教科書に載っていないことを教えたいと思っています。
歴史的瞬間をリアルタイムで研究する
―次に、先生の研内容についてお伺いしてもいいですか。
はい、時代に即したもので言えば、コロナウイルスですね。変異株と言われていますが、ウイルスが変わるというのは点変異というよりもゲノム同士の組換えです。
そこで、私たちは今、コロナウイルス科のウイルスとピコロナウイルス科のウイルスが、豚の体内で組換えを起こし新たな機能を獲得したのではないかということを研究しています。対象としている豚の農場では、組換わったウイルスとそうでないウイルスが混在しています。つまり、今は組換えの真最中で、我々はウイルスの進化の歴史の中の1ページ目をみているのです。ウイルスが科を超えて組換えを起こすというのは、かなり珍しいことです。どうして組換えが起こったのか、組換わるとどうなるのか、組換わるアドバンテージとは何か、組換えにより捨てた遺伝子は本当に必要なかったのか、などについて調べています。
農工大では「未来疫学」が登録商標にされています。未来疫学とは、未来にどのような感染症が起こるか予測して、予防するということです。これからどのようなウイルスが流行るかが分かれば、コロナウイルスのようにあたふたしなくても済みます。最終的には、天気予報のように、近未来に起こる感染症を知らせる感染症予報が行えるようにすることを目標としています。
役に立つウイルスも存在しているかもしれない、というポジティブな要素に結びつく感染症の研究も進めています。普通、ウイルスは、人間が食べると消化されます。例えばC型肝炎ウイルスは、注射の回し打ちや輸血などで感染していくので、飲んでも理論的には感染しません。しかし、ある種の植物ウイルスはなぜか消化されず、便に出てきます。このウイルスが悪いことをしているのなら、下痢や体調不良になるはずですが、実際には何も病気を起こしていません。おそらく、植物ウイルスのタンパク質が抗原となり免疫をマイルドに活性化していて、毎日植物を食べることによって免疫を維持しているのではないでしょうか。その効果は、風邪をひきそうなときにひかないとか、胃腸炎になりそうなときにならないとか、そんな風に現れると考えています。ウイルスが役に立っているという研究は継続していきたいですね。
「評価される真面目であれ。」
―先生の視点から今の学生をみて感じることはありますか。
評価者を常に意識しましょう。人間は、絶えず評価されています。学生のうちはそれが分かりやすく点数という形で現れます。社会に出ても、結局周囲に評価されなければなりません。だから、評価されるポイントは確実に掴んでおけということです。
例えば、頑張っているのに全然出世できない人は、頑張るポイントを間違えています。評価されるポイントを満たしていたら、上司はその人を蔑ろにしておきません。みんなわかっていることだけれど、そこから目を逸らしている。真面目に考えるのも大事ですが、自分だけの考えに従った真面目ではなくて、評価される真面目が重要だと思います。
タフさの原点である大学時代
―続いて、先生の大学生活についてお話していただけますか。
研究は一生懸命やりましたね。でも、それ以外のこともたくさんやりました。夕方からカラオケに行って、その後研究室に泊まったり、徹夜で麻雀したり、授業の後にスキーに行ったり、湖で友人たちと素っ裸になって1日中過ごしたり、と楽しんでいました。
―かなりタフな学生生活を送ってらっしゃったんですね。
はい、体力はある程度必要です。特に、僕らの時代は、大学に泊まって研究することが流行っていたので、教授に事前許可をもらって、教授室のソファで寝させてもらっていました。先ほどの評価の話につながりますが、教授からも「こいつはこれから徹夜で研究するんだな」と思われますよね。朝、研究室に来た先生に、新聞紙をかぶって寝ているところを起こされたら、それこそ1番の良い評価ですよ笑
―最後に高校生へメッセージをお願いします。
社会情勢が厳しければ厳しいほど、未来の自分の姿をしっかりと思い描いて行動してほしいです。思い描いていた道から外れてしまってもダメだと思わず、そこからまた新しく 10 年後 20 年後を見据え、短期・長期目標を作って進んでください。
もしかしたら、努力することがかっこ悪いと思っている学生さんがいるかもしれません。しかし、努力をしないと生き残っていけないんじゃないかと思います。僕が博士課程に進んだとき、同級生の多くは職を得て給料をもらい、楽しそうにしていました。それを横目に、私はいつかそれなりの研究者になれると信じ、歯を食いしばって頑張ったからこそ今があります。苦しくてもそれに向きあって努力を続けると、かならず道は開けます。
注釈
(注1)共進化…複数種の生物が相互作用を通じて、互いに進化していくこと。
(注2)点変異…変異の一種。DNAを構成する塩基が、欠損したり、別の塩基に変わったりするような、小さな変化のこと。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!
文章:あき
インタビュー日時: 2020 年 11 月 26 日
インタビュアー:こぶじめ
記事再編集日時: 2023 年7月 11 日
※授業の形式はインタビュー当時と変わっている場合があります。何卒ご了承ください。
※インタビューは感染症に配慮して行っております。
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