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理系だけど好きな「言葉」で生きていく

今回は知能情報システム工学科の古宮嘉那子先生にインタビューしました。
高校時代から自然言語処理研究の将来まで、盛り沢山な内容となっています。ぜひ最後までご覧ください!

〈プロフィール〉
お名前:古宮嘉那子先生
所属学科:工学部知能情報システム工学科
研究室:古宮研究室
趣味:読書・ミュージカル観劇

文系が得意だからこそできること


—どうして研究の道に進もうと思ったのですか?

そもそも大学に進学したのは親の意向でした。文系科目の方が得意でしたが、親が研究者だったので小さいころから理系の研究者になるよう教育を受けてきました。

—でも誰かに言われて大学へ行く人も多い気がします。

なんのために大学受験しているかが分かる人はそんなにいないと思います。でもやったことが後で役立つことはあるし、今つまらなかったとしてもそんなに絶望する必要はないと思います。高校生の時にこれといってやりたいことがなくても、突き進んでいったら実になることはある。私も大学には消極的な理由で入って、やっていけるか不安でした。だからその分たくさん勉強したら学年で1番になっちゃって、そのまま研究者になって、今は周りに支えてもらいながら楽しく仕事ができてます。

—実は僕自身も文系寄りの人間なので、情報の分野でやっていけるか不安に思っていました。

情報系の研究者になるには「数学、コーディング、英語、文章力」の4つが重要だと思っています。そのうちいくつかが得意であればさらに良いですが、全部が得意でなくても何とかなります。文章を書くのが得意でなくても説明が上手とか、コミュニケーション能力が高いとかそれぞれ活かせる事があると思います。人によって得意な部分が違うので私も共同研究者とはよく助け合っています。

アウトプットしていく重要性


—研究者として大切にしていることはなんですか?

進んで評価される側に立つ姿勢です。

—具体的にはどういうことでしょうか?

勉強することは大事だけど、何かを勉強すればするほど、なんかまだ足りない、まだ足りない、と思いますよね。何か学べば学ぶほど周りの人の凄さがわかる。完璧になってからアウトプットしようとすると、それはいつまでもできない。ここまでわかった、こんなことできましたよっていう、自分から見たらちょっとしょぼいぐらいのことでも、外に出してくっていうことは大切だと思います。

—「知識を蓄えるだけでなく意識的に表現をする」ことは大切ですけどなかなかできないですね。
農工大の学生さんは皆おとなしめで、自己評価もそんなに高くない。他の大学のポスドク(注1)もやっていましたが、他大学の学生と比べて足りないのはどこまで Greedy かだと思います。私もいつもホームランが打てるわけじゃない。そういうときに、「今できるのはこれです。これが今の私の力だけど、足りないことがあれば教えてください。」というふうに外に出せるかどうかの差はすごく大きいですね。ベテランの先生が年下からでも吸収してやろうというバイタリティを持って、若手の先生からでも学ぼうとしている姿を見ると頭が下がります。

好きを追い続ける


—研究の好きなところを教えてください。

勉強とか研究とか、義務でもあるものは大変なことでもあって、趣味に比べるとただ楽しいだけではないと思います。でも、達成感やら興味やらの観点から見ると、研究はやっぱり楽しいです。あと、論文を書くのも楽しいですね。国際会議も好きです。旅行が好きなので。

—昔から研究が好きでしたか?

データを分析するのは昔から好きで、何か表を書いて、いろいろ分析するのが好きな小学生でした。考えてみるとそれって研究の原点で、データ分析をすることは確かに昔から好きでしたね。

—これからの研究の展望について教えてください。

転移学習(注2)と意味処理(注3)はずっとやってきた研究で、長くやるほど興味を惹かれるので、ずっと続けていきたいなと思っています。あと、昔から漠然と思っていた研究へのモチベーションを言語化してみると、私が興味があるのはいわゆる電脳を作ることで人類を理解したいということなのだと思います。自然言語処理は人工知能の研究の一分野です。人間の知能を研究することで、人間を研究しているわけです。人間がどのように言葉を理解しているのか、という興味が根底にあるので、その視点は今後もずっと残ると思います。

—人間と今ある電脳はどのくらい乖離があるのでしょうか?

思った以上に離れています。言語の分野で機械が人間を超えた例はまだないですが、対話している相手がロボットか人間か判断できないレベルまで実現できているものもあります。でも、現在のシステムはただ統計的にそれらしい答えを出しているだけです。これは昔から中国語の部屋(注4)という実験で指摘されている問題で、コンピュータに理解させるためには正しい答えを返せるようにするだけではダメなのです。理解とは何か、というところから考えていかないと、「言葉を理解するコンピュータ」が作れるか、という議論もできません。まだまだ研究が必要なところです。

—最後に学生に向けてメッセージをお願いします。

私は高校のときに不安障害が強くて、保健室の住人でした。だから大学でやっていけるか心配でした。仲のいい姉とは別の大学だし、理数系は得意じゃないので。それもあってガリ勉な大学生でした。成人している学生さんでもまだ子どもなところもありますし、精神的に自立できなくて迷うこともあると思います。人生は一度きりということに気づいて自分は何者なのかと悩む人もいると思います。私は体力がなかったからこそ、裁量労働制で自分のことは自分で決められる研究者になりました。色々悩むときだと思いますが、その時答えが出なくてもそのうち答えに出会うこともあると思います。悩みすぎて苦しくなる人は、視点を長くもって、自分に優しくしてほしいと思います。


注釈

(注1)博士号取得後に任期付きで大学や研究機関で活動する研究員のこと。
(注2)既に学習したモデルを他のタスクに活用する機械学習の手法。学習済みモデルの特徴を新しいタスクに適用することで、データ量が少なくても高い性能を実現可能。迅速な学習や予測精度の向上に役立つ手法。
(注3)自然言語処理の一部で、文章の意味を理解する技術。文脈や推論を考慮し、単語の関係や類似性を解析して文章の意味を把握する。機械翻訳や質問応答などで活用され、より自然なコミュニケーションを実現する。
(注4)中国語の会話のマニュアルを持った人に、中国語の質問をして正しいものが返ってきたとしても、中国語を理解していることの証明にはならない。意味は分かっていないけれども、マニュアルにある通りに返している場合にも会話は成り立つためである。チューリングテスト(対話している相手が人間かロボットかを当てるテスト)に合格したからといって、それは、「本質を理解している知能を持った機械である」という意味にはならないというたとえ。


文章:ほき
インタビュー日時:2022年6月22日
インタビュアー:ほき
記事再編集日時:2023年 07 月 11 日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。



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